―――――禁書目録と呼ばれる少年が救われた半年前から、学園都市では極秘で行われる実験が存在していた。
学園都市の違法実験の一つ、今回の事件である『
木原幻生が提唱し、学園都市が誇る世界最高のスーパーコンピュータ『
特定の戦場を用意しシナリオ通りに戦闘を進める事で成長の方向性を操作。「二万通りの戦場を用意し、二万体の『妹達』を殺害することで『
しかしこの実験は本来、あるいはあり得たかもしれない正史において第一〇〇三二次実験で無関係な一般人の妨害が入り、「最強の超能力者が最弱の無能力者に倒される」という完全なイレギュラーを切欠に、結果として計画は無期凍結された。
これが最終的に10031人もの違法誕生したクローンの犠牲を払いながら終結した実験の末路である。
しかし、これは
学園都市における超能力開発の究極の目的。「人間では世界の真理は理解できないが、人間を超越した存在となれば神様の答えに到達することができる」という考えに基づく『
そんな『
『人の身で在りながらその存在を、魔術の修得と儀式でもって神格へと昇華させた者』とも、 『魔術で世界の全てを操る者』とも表現される―――――『魔神』という、世界を容易く滅ぼし創る超越存在へと至った者の介入を以って変質する。
それを阻む者は居ない。
阻める可能性を持つ者は、場合によっては計画凍結を後押しするだろう。
元より自由に動かせる大量の能力者としての価値が既にある
『
何より『
第一話 実験を止める冴えた方法(脳筋)
御坂美琴は困惑していた。
噂から事実へと昇華した『自身のクローン』の存在。
超能力者を生み出す遺伝子配列のパターンを解明し、偶発的に生まれる超能力者を確実に発生させることが目的の計画。
交渉人を介して騙し、書庫に登録させた御坂美琴のDNAマップから彼女のクローンである量産軍用モデル『妹達』を誕生させ量産を目指した実験―――――『
しかし計画は未然に潰えた。
理論を確立し、量産体制を構築しようとした計画最終段階で、樹形図の設計者の予測演算により、『妹達』の能力は超電磁砲のスペックの1%にも満たない欠陥電気であることが判明。
遺伝子操作・後天的教育問わず、クローン体から超能力者を発生させることは不可能と判断され、すべての研究は即時停止、研究所は閉鎖し計画は凍結されたからだ。
そんな実験凍結報告書を、使われなくなった研究所に忍び込み、残された資料の中から見つけ盗み見ることで、安堵する事が出来た最中に、
造られる前に凍結されたはずの実験の産物と思しき、ミサカ9982号を名乗る『妹達』と遭遇してしまったからである。
なのに―――――――――
「ミサカの素体は名門常盤台中学の中で尚、他の学生達の見本とされる令嬢と聞いていましたが───」
「……なによ」
「ま、世の中こんなもんですよね」
「何だコラ」
能天気な無表情という奇妙な、自身と瓜二つの少女。
御丁寧に髪型や制服まで同一である。
頭部にある赤外線可視ゴーグルが無ければ、他人では本気で見分けが付かないだろう。
当初は『自身の立場を乗っ取る』や『オリジナルの抹殺』など、クローンものの創作物でありがちな展開を危惧したが、当の本人は今は
試しに万札崩してガチャして手に入れたゲコ太バッチを軽く着けてみれば、そのセンスの幼稚さを酷評された挙げ句バッチの所有権を主張し倒されたのだ。
(これが私のクローンかぁ……)
だが、美琴の頭を占めているのは唯一つの疑問。
何故、そんな存在が目の前に居るのか。
彼女は『絶対能力進化』計画をまだ知らない。
美琴が学園都市の闇を覗き込むのは、この後すぐである。
そんな学園都市を二人で歩きながら、夕暮れに夜の帳が下りてきた頃。
「あっ。居た居た、探すのに苦労したよ全く。この街は自分を迷わせるにも程があるって」
そんな彼女達に話し掛けてきた少年が居た。
男性にしては長い銀髪を束ね、神聖な雰囲気をガテン臭いTシャツと紺色のオーバーオールで台無しにした、13~14程度の年の少年である。
「やぁ、自分の名前はインデックス。君達はミサカ9982号君と御坂美琴嬢であってるかな?」
『―――――』
一瞬にして美琴の警戒度が跳ね上がる。
今の自分たちを見ても精々瓜二つの姉妹が普通だろう。
仮に美琴自身はそれなりに有名として、
「実験の関係者でしたか? とミサカは実験で何かあったのかと首を傾げます」
「いやいや、自分は実験の―――――」
美琴の行動は速かった。
なにかを少年が口にする前に、彼の腕と襟首を掴み、脅すように静電気程度の電気を流す。
「動かないで」
「おや、まぁ」
自身を御坂美琴だと知っているのなら、その脅威も理解している筈だろう。
その動きに容赦も躊躇もなかった。
実はこの行動は先程9982号に行っている。
しかし彼女は眉一つ動かさずに、曰く『
そんな彼女に美琴は電撃での尋問は出来なかったが、こんなタイミングで第三者が現れてくれるとは好都合だった。
「アンタ、この子の何を知ってるの? その様子じゃあ、実験とやらにも詳しいみたいじゃない」
「うーん、別に話するのはいいけど……感慨深いなぁ」
「……は?」
しみじみと頷く、インデックスと明らかな偽名を名乗った少年の態度を訝しむ。
「いやほら、普通
「……」
「それがこんな余裕ぶっこけるんだよ? そりゃあ感慨深いと言いたくもなるよ」
「……私を舐めてるの?」
「ただ、他人にイニシアチブを持っていかれるのは腹の据わりが悪いかな?」
「!?」
拘束し、加えて
「くッ……!?」
自身が過ごしている女子寮の寮監を彷彿とさせる異常事態に、しかし痛みはない。
すぐさま起き上がるも、少年と9982号とは十メートル以上も離れていた。
(
少年は彼女の服に付けられたゲコ太バッチを、文字を描くようになぞる。
「さてミサカ9982号ちゃん、君には……うん。取り敢えずこれをプレゼントだ」
「なにを――――?」
「おまじないだよ。知らない? 北欧のルーン」
ほんの僅か発光したその文字は、染み込むように消えていく。
「さて、これで準備OK。さ、いってらっしゃい。御勤めがあるんだろう?頑張ってきなさい」
「……言われるまでもありません、とミサカは実験への意気込みを露にします」
そういって美琴へ振り返り、別れの言葉を口にする。
「さようなら、お姉様」
「え?」
きっとそれは機械によって与えられた当たり前の知識としての行動だろう。
本来万感を込めるべき言葉に、感情の色はない。
それを指摘することを、何も知らない美琴はできない。
だが、
「いやいや、そこは『さようなら』ではないよ、妹ちゃん」
「?何故ですか────」
「そこは『またね』だ。大丈夫、自分が保証しよう」
「……しかし」
戸惑う9982号に、インデックスは無理矢理「いいのいいの」と頬っぺたをぐにぐに弄くる。
そんな彼に渋々従った。
「……では、また」
「ちょ───」
そう頭を下げ、足早にその場を彼女は後にする。
行先は二人の会話から彼女曰く実験とやらなのは明らかだ。
当然ソレを追おうとする美琴の前に、しかしオーバーオールのポケットに両腕を突っ込んだインデックスが道を塞ぐように彼女の前に立つ。
「……ッ。そこ、退きなさい」
「それは出来ない。意味がないからね。まぁそんな怖い顔をしなくても、説明するさ」
「? どういう―――――」
「オッティ、『骨船』お願い」
何を、と美琴が口にする前に、ぐるり、と世界が回る。
自身ではなく世界が回るという異常事態の中、美琴の意識が薄れゆく。
急激な眠気に抵抗しようと足搔くが、そんな美琴の意識を刈り取るようにインデックスの声が聞こえる。
『彼女たちは負の感情を感じにくいが、「彼女」の感性は人並みに成熟しているんだよ』
◇
その日、『
彼らは『妹達』を本気でラットやモルモットの様に考えている。
故に既に9981回、彼女たちが惨殺されている様子を見ても、積み重ねられた死体を見ても、パソコン画面の数字を見る目と同じ色で見る事が出来る。
しかし、そんな彼ら彼女達でも目に映る映像が信じられなかった。
画面に映る映像には、学園都市最強の超能力者が一方的に嬲られている姿が映っていた。
彼らは知っている。
一方通行がどれだけ強いか。
幾らクローンといえど様々な武装をした『妹達』を圧倒、惨殺したことを知っている。
にも拘らず、画面に映る一方通行がケンカ慣れしていない虚弱な少年にしか見えなかった。
『魔力というエネルギーを生命力から生成、消費し、異世界の法則を無理矢理現実世界に適用して様々な超自然現象を引き起こす技術が魔術だ。文化や伝承によってその様式は千差万別であり、突き詰めれば何でもありの異能力だが、基本的には上記の定義を満たす行為全般を指すんだけど、要はつまり別世界の物理法則ということなんだ。これについては前に話したかな?』
一方通行の能力で真っ先に挙げられるのが、『反射の壁』だろう。
あらゆるベクトルを操る、学園都市の能力者最高の頭脳を持つ彼は、無意識に───それこそ睡眠中でさえ『向かってくるベクトルを反対にする』設定を保持している。
故に例え核の爆炎でさえ、彼を殺すことは出来ない。
そんな絶対とも錯覚する能力を、まるで存在しないように突破し、そのイレギュラーは拳を叩き込む。
『がああああああああぁぁぁぁッ!!!!』
『つまり自分に反射を適用させるには、自分のベクトルを解析するのが正解だ。だけどお前さんは如何せん……聞えてるかなコレ。取り敢えずいろいろ端折るけれど、お前さんの能力はベクトル変換だが、その真価はそんなものなんかじゃあない。学園都市第一位と認められたチカラは、ベクトル変換を支えるその解析能力……あぁ、悪い。話はまた今度にしよう』
特別な能力を使用しているようには見えない。
態々対策を用意する必要など無いと言うように、とても自然に一方通行を圧倒する。
一方通行が地面を割り、大気を裂いて、自転すら手中に収めて拳を振るおうが、本来掠るだけで人体が染みに変わる一撃を、素人のテレフォンパンチというように捌いていく。
込められた運動量から考えて、明らかに不可能だというのに。
触れるだけで人体を粉砕する毒手を何の躊躇いもなく掴み、背負い投げる。
『ギっ!?』
元より、一方通行に『喧嘩』の経験など無い。
ここまで殴る蹴るの暴行を受ければ、立ち上がることさえ容易に困難になるだろう。
投げられ地面に叩き付けられた一方通行は、反射によって地面との衝撃こそ無くすが、止めと言うようにイレギュラーは彼の首を流れるような動きで締め上げた。
『なに、実験は後1万回以上あるんだろう? 今回は打たれ弱さを鍛えるということで。ボコられ損かと思うかもしれないけど、現実に無意味な事なんて無いと――――何見てんだクソ共』
瞬間、監視カメラがおぞましい轟音と共に消し飛ばされ、研究所の画面がノイズにまみれる。
─────ソレだけではない。
「かッ……!」
「かひゅ―――――――ッ!?」
「な、なんだ!?」
画面を観ていた研究者全員が、首を押さえて倒れ込む。
その喉元は、鋭利な刃物で切り裂かれた様に削ぎ落とされていた。
まるで、画面越しに彼らを攻撃した様に。
恐怖が、研究室を席巻した。
「が、画面を観る人間を害するだと……!? そんな能力聞いたことがないぞ!」
「救急車を呼べ!!」
「そんなことより、実験はどうなるんだ!?」
「今回実験予定のクローンは何処へ行った!」
「上へ連絡しろ!!」
「一方通行の確保を! 今動ける他のクローンを向かわせるんだッ!」
斯くして第9982実験は行われなかった。
その前に一方通行が実験不可能となり、そもそも今回の実験用に調整した9982号クローンが行方不明となった。
一方通行は第七学区のとある病院に搬送され、傷も軽傷なため翌日直ぐ様退院したが、実験を再開しようとすればイレギュラーは再度現れた。
その事は伝えてあったようで、一方通行もこれに全力戦闘を即時開始。
しかし、これをイレギュラーは再び退ける。
『絶対能力進化』の研究者達の混乱と、一方通行の短くも濃い通院生活の始まりだった。
Question:
つまりどういうことだってばよ!?
Answer:
実験に向かう一方通行を襲撃。病院送りし続け実験を停滞させることで時間稼ぎし、布束ちゃんの感情プログラムのインストールイベント待ち。
同じく実験に向かった妹達も見送っておいて安全確保のため拉致。随時カエル顔の医者が調整中。
そして祝! アニメ三期放送開始!
祝! とある科学の一方通行アニメ化・放送決定!!
祝! とある科学の超電磁砲3期制作決定!!!
そして本日原作新約21巻発売!!!!
正直作画というかキャラデザに前期との比較でなんとなく「ん?」と感じ、スケジュール大丈夫かと心配に。
予算と人員あっても時間がなければ作画崩壊は免れないからね。
まぁ禁書は2クール目のOPの方が作画いいジンクスがあるけども。
アニメプロジェクトの走り始め故、アニメスタッフには是非とも頑張ってほしいです。
視聴者は大人しく座して、作中屈指の低APPのテッラさんの活躍に期待だァ!