ぼくの名前はインなんとか   作:たけのこの里派

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お気に入り数が昨日と今日で二倍になっていて驚きました。感謝感激です。
評価して頂いた方々に心から感謝を。

ちなみにミコっちゃん、何気に初登場回だったり。


第四話 葛藤

「……不幸だ」

 

 夏休みの補習を称しておきながら、完全下校時間までガッチリ拘束された上条は、夕焼けの光を反射したギラギラ輝く風力発電の三枚プロペラを視界に入れながら呟いた。

 

「助けて、か……」

 

 朝、ベランダに干されていた少年を思い浮かべながら、上条は右手を一瞥する。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

 あらゆる異能による奇跡のみを殺し尽くす、生まれながらに身に付けていた正体不明の摩訶不思議な力。

 そしてインデックスが求めた唯一の希望。

 ちっぽけな自分の、異能の事象以外何の役にも立たない右手が、一人の人間の人生を救う手段と告げられて、上条は戸惑うしかなかった。

 何時もの不幸のように、イキナリ巻き込まれるよりかはインデックスは良心的であり、キチンと考えられる選択肢と時間をくれた。

 

 インデックス曰く、その右手は爆弾の解除(キー)だという。

 しかしその爆弾は自衛装置が付いていて、右手(解除鍵)だけでは上条自身が危険に晒される可能性が高いらしい。

 取り返しのつかない怪我を負ってしまうかもしれない。

 自宅の学生寮。そこにもうインデックスは、上条の助けを求めて居るのだろう。

 

「―――――――あっ、いたいた。ちょっと待ちなさ……ちょっ、アンタよアンタ! 止まりなさい……止まれこの野郎!!」

 

 魔術に詳しくない処か、数時間前まで存在自体知らなかった上条に、その自衛装置とやらを想像することは出来なかった。

 話によれば学園都市の超能力者すら単体で相手するのも難しいという話だ。

 それにしてもドラム缶式清掃ロボが多い。

 ウィンウインと音を立てながら清掃活動に勤しんでいるロボ偉い、と夏の熱気で茹だっている上条の頭は見事に現実からの逃避を行っていた。

 相手が暴力に訴えるまでは。

 

「ちょっ……無視すんなやコラァアアアアアアアアア!!!!」

 

 バチバチバチッ!! と、上条が最早慣れ親しんでしまった学園都市第三位の超能力者の電撃が飛んでくる音を耳にしながら、振り返り様に右手を振るう事で全て打ち消した。

 本来ならば10億ボルトの雷速の槍など、一般高校生の域をでない身体能力の上条が、右手を振るうだけで防ぐことなど出来ない筈なのだが。

 インデックスに言わせれば『前兆の予知』なんて物で音速の三倍の速度で発射される、この雷撃の槍をブッ放してきたビリビリ中学生の代名詞である超電磁砲(レールガン)を『怖かった』で済ませる奴の、一体何処が一般高校生だ、なのだが。

 

 そして漸く、先程からヤンヤヤンヤしていた御坂美琴を見て、

 

「……不幸だ」

「ちょっ、人の顔見て言うに事欠いてそれか!?」

「うるせぇよビリビリ中学生。お前が昨日落とした雷のせいで、俺の学生寮の電子機器は全滅だ。これ以上喧嘩吹っ掛けてくるなら、お前の学校に訴えるぞ」

「ッッ……!?!?!?」

 

 正史とは違う意味で、御坂美琴は呼吸が出来なくなりかけた。

 実は落雷の件はインデックスという部外者に客観的意見を聞き、やはり上条でもキレて良いのでは? と考えていたのだ。

 だからと言って女子中学生をボコボコにするのは上条さん的にはアウトであり、そこで解決法、というか対処法を某青狸ロボに頼む眼鏡少年の様にインデックスに相談したところ、

 

『普通にやっこさんの学校か風紀委員(ジャッジメント)にチクれば?』

 

 という極めて有り難いお言葉を頂戴したのだ。

 幾ら上条が不幸慣れしているとはいえ、喧嘩吹っ掛けてくる度に上条にとって高額な電子機器を全滅させられては堪ったものではない。

 

 そしてもしそんな事が美琴の通う常盤台中学に知られればどうなるか。

 幾ら能力を無効化する力を持っていようが、書庫(バンク)無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)が一方的に攻撃をし続けていた等、非常に面倒な事態になるのは必至。

 何より、そんな深夜極まりない時間帯に寮外に居たなど、あの寮長にどんな罰を受けるか。

 想像しただけでも美琴は青褪める。

 

 そんな美琴の姿に満足しながら、何だか女子中学生を虐めているような罪悪感が襲い、同時に心の中でインデックスに多大な感謝をする上条だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話 葛藤

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂美琴は、この真夏の夕焼けの太陽光の熱に苛まれながら、しかし目の前のツンツン頭の高校生に苛立っていた。

 学園都市に7人しか居ない超能力者という自負。

 更にその第三位という地位による自信と誇り(プライド)

 その全てが悉く叩き潰されたのだ。しかもつい最近まで、無意識に見下してしまっていた無能力者(落ちこぼれ)の烙印を自称する者に。

 

 断じて認められる話ではない。

 しかし、その事実が『まぐれ』や『奇跡』などの領域を超えていた。

 

 雷撃の槍も、砂鉄による振動剣も、そして自身の代名詞と呼べる切り札である『超電磁砲(レールガン)』すら。

 まるで鬱陶しい蝿を振り払う様に、その右手で打ち消された。

 初めは戸惑い、次第に怒り、果ては恐怖すらした。

 能力者の街で、その能力を無効化する能力など理不尽のソレだ。

 だというのに、当の本人はまるで唯の無能力者の様に、涙目で美琴の攻撃を無効化し続けている。

 そして遂に昨晩、落雷などという自重の欠片もない全力をブチ込み、例外なく打ち消された。

 そのせいで、落雷した付近の電子機器の破壊という、あくまで美琴に攻撃をしなかった高校生が被害届を出すという脅しにより、美琴は手を出すことが出来なくなってしまった。

 やり場の無い鬱憤と、好ましくすら感じていた交戦の終りに、内心消沈していた。

 

「……なぁ、ビリビリ中学生」

「ビリビリ言うな!」

「なら自分の行動には責任を持ちなさいと、上条さんは言いたいのですよ。ていうかお前、ホントに俺以外にんなことヤってないだろうな」

「昨日も言ったでしょ。下手したら死んじゃうのに、アンタ以外にする訳ないじゃない」

「ねえ、俺は死んでもいいと言ってるの判ってる? 上条さんは死にたくないんですけども」

 

 不幸だ……と、最早達観に至ってしまっているソレを呟きながら、ふと頭に浮かんだIFを口にする。

 

「ってかそうじゃねぇ。……もしお前のその力を持ってなくて、だけど誰かを救うことができて、その誰かが助けを求めてきた。でも、それには死の危険がある……そんな時――――」

 

 上条は既にインデックスを助けるのを決めている。ただ、漠然とした不安があった。

 何故かインデックスは上条に絶大な信頼を寄せているが、果たして自分はインデックスを助けられるのだろうか、と。

 

「お前はどうする?」

 

 上条が学園都市に訪れる原因となった、そのどうしようもない不運。

 不運故に、他人から疫病神と侮蔑され、果てに包丁で刺されすらした心的外傷(トラウマ)

 科学で塗り固められた、超能力すら生み出す街ならば、そんな不運も科学的に解明出来るのではないか。

 上条の父、刀夜の切なる願いは、しかし学園都市の中ですら上条は『不幸』だった。

 だからこそ、そんな『不幸』がインデックスに影響を与えてしまうのではないか――――という、隠しきれない不安が。

 

 だから聴いてみたくなった。無能力者(落ちこぼれ)よりも遥かに優秀な超能力者(優等生)は、どうするのだろうかと。

 

 

「助けるに決まってるじゃない。で? その質問の意味は?」

 

 

 即答だった。

 考えるまでもないと。まるで勉強を教える様な雰囲気で、さも当たり前の様に美琴は答えた。

 そんな美琴に上条は頬が緩むのを感じ、堪えきれず小さく笑った。

 

「は……ハハハ、そうだよな。助けを求めてるんだ、助けないと嘘だな……有り難うなビリビリ」

「なっ、べ、別に礼を言われる様な……って、ビリビリ言うなって言ってんで――――って、何処行くのよ!?」

 

 上条は学生寮に向かって、高まる高揚を抑えきれず駆け出し。

 周りから見たら不幸? だったらそれらを帳消しに出来るような幸運を掴めば良い。

 

 人が土下座までして助けを求めている。

 インデックスから聴いた過去は壮絶な物だった。

 記憶を消されロンドンの街に倒れて、頭の中には気味の悪い知識。

 そしてその知識を狙って襲い掛かってくる連中。

 満足に寝ることすら出来なかった時も有ったそうだ。

 そんな生活を、インデックスはもう一年も続けている。

 そんな状況を――――しかし上条ならば、一撃で何もかも一切合切決着するという。

 

 もしそれが実現できたとなれば、どれほどの『幸運』だろうか。

 次第に学生寮が見えてくる。

 上条は迷わず階段を駆け上がり、そして自宅の階まで辿り着いて、そこに座っている銀髪の少年を呼ぼうとした。

 助けると、自分にも手を貸させてくれと。

 

「インデ――――」

 

 だが、インデックスは今朝と様子が違った。

 例の祭服を着ておらず、オシャレなファッションに身を包んでいる。

 ソレだけなら良い。この季節に祭服は暑いだろう。まだ解る。

 

 だが、インデックスはどうして肩で激しい息をしているのだろう。

 どうしてそんな顔を覆う様な量の汗を流しているのだろう。

 どうしてインデックスは右肩からあんなにも赤いのだろう。

 

「ッ! 当麻、か?」

「イン、デックス?」

 

 インデックスに名前を呼ばれ、上条は漸く彼の現状を把握した。

 

 上条の部屋の扉を背に座り込んでおり、肩で息をしている。

 そして何より、左肩から右手まで伝う赤い鮮血。

 まるで鋭い刃物で切り裂かれた様な傷が、彼の肩にはあった。

 

「お前――――どうしたんだよソレ!」

「ハハッ、当麻が帰ってくるまで見付からない為に、『歩く教会』を脱いだのは失敗だったよ。お蔭でこの様だ。つか、どうやって見付けたんだあの聖人サマ」

「そんな……一体誰にやられたんだ!?」

 

 

「――――うん? 僕達『魔術師』だけど?」

 

 

 こうして、日常の裏側が鎌首を擡げ始めた。

 

 

 




出る所出たら勝る(確信)

というわけで、今回は上条さんの視点回でした。
ちょっと蛇足気味に感じるかもですが、必要だと思い書きました。
ちなみにちょっと短め。

修正点は気付き次第修正します。
感想お待ちしてまーす。

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