ぼくの名前はインなんとか   作:たけのこの里派

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そろそろストックの底が見えてきた、そんな中での今回。
「もっと続けて」という声があることに感謝の極みです。

でも無責任なことが言えんのです。申し訳ない。


第六話 ヒーローとは

 最近の火災報知器というのは極めて便利だ。

 なんせ作動すれば消防隊を速攻で連れてくるのだから。

 消防隊、と称したが、学園都市に消防署が無い。しかし警備員(アンチスキル)がその役割を兼ねている。

 つまり何が言いたいかと言うと、魔女狩りの王(イノケンティウス)を封じる為に火災報知器鳴らしまくったので、警備員が飛んできたのだ。

 幸い学生寮には住民が居なかったので被害は無いし、警備員が来る前にインデックスは当麻の肩を借りて学生寮から離れた場所に居る。

 

「はッ……はッ……」

 

 ただ問題は、インデックスの肩の傷である。

 

 (ヤベェぞ……これ)

 

 上条は、思わず血の気が引く。

 幾ら致命傷ではない傷でも、切り裂かれた傷口は独りでに塞がりはしない。

 肩の傷は時間と共に確実にインデックスから血と熱を奪っていった。

 インデックスの中性的で整った顔は蒼白で汗ばみ、左半身は殆ど血で染め上げられている。

 

「傷自体は、そんなに深くない。問題は血を流しすぎた……事かな……。せめて、傷を塞げればどうとでも、なるんだけど……」

 

 学園都市の医療技術のレベルは、得たいが知れない領域に達している。

 インデックスが知る病院のとあるカエル顔の医者まで辿り着くことが出来れば、彼は政治問題すら度外視にインデックスを守ってくれるだろう。

 しかしそれは叶わない。

 インデックスには学園都市に居る人間全てが持つIDを持たない侵入者だ。

 救急車に担ぎ込まれた時点で終わる。彼へ辿り着くことが出来ない。

 インデックスを乗せた救急車は、病院とは違う場所に向かう可能性だってある。

 

「お前の持ってる一〇万三〇〇〇冊の中に、傷を治す魔術は無いのか?」

 

 科学で駄目なら魔術だ。

 確かに、インデックスの記憶している魔導書の中には腕だろうが半身だろうが、仮に()()()()()()()()()()完治させることが出来る程の魔術がある。

 

「……自分が手順を教えればそう難しくない。成功すれば脳味噌がミンチでも治せるよ」

「なら俺がやる!」

「無理だ」

 

 が、能力者に魔術は使えない。

 

「えっ?」

「学園都市の能力者は一人残らず魔術が使えない。二十年程前かな、ウチの教会と学園都市の合同で行われた実験で、魔術師に超能力開発をしたところ、被験者は魔術を使用した際拒絶反応が起きて血達磨になったそうだ。能力開発を受けた時点で、もうソイツは一般人とは違う」

 

 そして魔術とは、本来原石(才人)に対する強烈なコンプレックスから生まれた、才能の無い人間の為の技術。

 脳の機能を拡張し、言うなれば新しい回路を作った超能力者は魔術を使ったら、それだけで回路が焼き切れ重傷を負う。下手をすればそれで死んでしまう可能性すらある。

 

「というか当麻、特にお前さんは右手があるでしょうよ」

「あっ───」

 

 それ以前に、上条には幻想殺し(イマジンブレイカー)があるせいで、魔術が使える訳がない。

 

「でも、それじゃあ……学園都市の学生は全員ダメじゃねぇか! 学園都市の人口の80%は学生だぞ!? ――――80%……?」

「ハッ。残り、20%は?」

「あ」

 

 つまり、教師や研究者達。

 彼等は開発を受けるのではなく受けさせる側の人間。能力開発を受けることは無いし、本来出来ない。

 学園都市の闇と形容すべき部分を兼ねている、あの学園都市第一位の一方通行(アクセラレータ)が白衣の悪魔と称した研究者など、学生達能力者を実験動物(モルモット)と思っている者も居るが、そんな連中は選択の埒外だ。

 見繕うとなれば、学生の身近な教師だろう。

 ただし、そこら辺の教師を見繕うだけではいけない。

 教師達は、警察が存在しない学園都市に於ける警務組織『警備員(アンチスキル)』に所属している者もいるのだ。

 唯でさえ魔術という胡散臭いこと極まりないのに、IDを持たないインデックスは鬼門。

 つまり条件として、上条の知り合いでどれだけ胡散臭かろうと生徒の事を真摯に想っている教師が必要なのだ。

 

 そんな高難易度な条件に、しかし上条の頭の中に浮かんだ人物は、自身の知る中で心身共に子供みたいにお人好しで、最も優しい身長135センチの、ランドセルが似合う担任教師の顔だった。

 

「……インデックス、ここから少し掛かるけど歩けるか?」

「肩貸してくれるんなら、いけるさ」

「――――よし。この時間で、寝てるってことないよなあの教師……!」

 

 

 

 

 

 

 第六話 ヒーローとは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、インデックスの傷は完治した。

 

 途中コインランドリーに放り込んでいた『歩く教会』を回収しながら、第二次大戦の空襲を乗り切ったかのようなボロアパートの、山のように煙草が乗っている灰皿が複数存在しビールの空き缶で構成されている、まるで飲んだくれのオッサンの様な部屋に住んでいた学園都市の都市伝説の一つである子供先生、月詠小萌(自己申告年齢二十代半ば)の手を借りる事によって、インデックスの知識を用い傷の治癒に成功したのだ。

 その間上条は幻想殺しの存在のせいで小萌宅を離れる事になったのだが、折角なのでインデックスの寝間着を買いに行ってもらったり、意外と余裕あったりする。

 

 しかも原作と違い傷が浅かったという事もあり、『自動書記(ヨハネノペン)』を発動させることが無かった。

 勿論、浅かったと言っても傷は傷。致死レベル寸前の出血をしたのは変わり無く、傷口が塞がっても、体力を取り戻す為に原作同様風邪に似た症状がインデックスに出た。

 

 

 

「――――で、この子は一体上条ちゃんの何なのですか!?」

「弟です」

「嘘ですぜ先生」

「ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 俺の精一杯の嘘を何速攻でブチ壊しにしてくれるんでせうかインデックスさァん!!!?」

「その幻想をブチコロww」

「殴りたいその笑顔!!」

 

 布団で横になったインデックスは熱と頭痛に苛まれ、頭に冷たい濡れタオルを乗せながら、しかしそれでも精一杯人をおちょくる爽やかなキメ顔で、上条の嘘をブチ壊した。

 

「だって当麻。幾らお前の信頼してる小萌センセがお人好しの生徒想いのスバラシイ教師だっていっても、そんな一瞬でバレる嘘つかれたら苛つくモンだよ? 信用してるなら嘘はいかんよ嘘は」

「神父ちゃんの言う通りです! 上条ちゃんもう少し先生を信用してください!!」

「むぅ……」

 

 上条としては、これ以上小萌を巻き込みたくなかったというのが本音なのだが、インデックスの言い分も間違っていない。

 

「だからコツは嘘はつかずに、肝心なことを隠すのが肝要な訳でね」

「聖職者にあるまじき黒さ!」

 

 インデックスとしては、昔は聖職者らしい人格だったのかもしれない。が、一〇万三〇〇〇冊と一般常識以外の記憶を根刮ぎ消された上、■■■■■としての記憶が加わった状態で形成された今の人格は、聖職者などやる気が無いしやる義理も無いのだ。

 全責任は、こんなシステム作り上げたイギリス清教のトップ共に言えと言いたい。

 

「上条ちゃん」

 

 小萌が先生モードに移行し、上条も黙り込む。

 

 普通考えてみよう。

 自分が教師で、自分が担任の生徒(愛すべき馬鹿)が、見知らぬ銀髪碧眼外国人を連れてきたらどうする?

 しかもその外国人には鋭利な刃物で付けられた傷。しかもその外国人の指示で自分が行った魔術でその傷が治って、それを全部見逃せと言われ、ハイそうですかと言う訳がない。

 

 小萌は、必要とあらばインデックスの事を統括理事会に報告するつもりだ。

 そして上条に、必要とあらば生徒を売ると告げもした。

 

 叱るように、諭すように小萌は語る。

 小萌には上条がどんな問題に巻き込まれているか知らないし判らない。

 しかしソレを解決するのは本来大人である教師達の役目だと。

 

「子供の責任を取るのが、大人の仕事なのです」

 

 そんなものを自力で解決しようとしている上条が、小萌は心配なのだ。

 

 (耳が痛いな……)

 

 インデックスにはそう考えずにいられない。

 偶然が重なった原作と違い、インデックスは上条に自ら助けを求めた。

 小萌が心配する原因を作った元凶としては、今は顔を布団に埋める他無かった。

 

「インデックス」

「……ん、あぁ。どうした当麻?」

「執行猶予だってさ。小萌先生、買い物に出掛けたよ」

「そっか……、にしても当麻の口から統括理事会の名前がでるとは思わなかったな」

 

 学園統括理事会。

 実質的な学園都市の運営者達。

 

「俺だって学園都市の学生だぞ。それぐらい当たり前だ」

「名前だけ? 役員のやってる事とかは?」

「ぐぬぅ……」

 

 上条は見事に名前だけ知ってるだけであった。

 もし上条が統括理事会の内情を知ったらどうなるか、インデックスは戦々恐々だったりする。

 

 学園統括理事会。

 それはインデックスにとって最悪に等しい結末だ。

 インデックスは知っている。統括理事会は二種類の人間がいることを。

 

 真っ先に死ぬべき屑と、真っ当に働いているにも拘わらず、屑と同列視されている善人だ。

 後者なら兎も角、前者にインデックスの報告が行けば、死んだ方が救いと思える様な状況に陥る可能性がある。

 まぁ、その時はイギリス清教が介入するだろうが、もれなくロンドン行きは免れない。

 

「さて、どうする当麻?」

「あ、あぁ。これ以上小萌先生に迷惑は掛けられないしな」

「違うよ」

 

 へっ? と、上条の口から気の抜けた声が洩れるが、そんなことは些事だと言うように、インデックスは真剣な目を向ける。

 

 

「――――返答を聞こうかな、上条当麻。これでも尚、俺と関わるか否か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小萌宅のマンションから六〇〇〇メートル離れた雑貨ビルの屋上に、インデックスと上条を、双眼鏡で覗き観る者がいた。

 

禁書目録(かれ)は?」

「生きてるよ」

 

 ステイル=マグヌスと神裂火織。

 

 片や先日、インデックスの左肩を切り裂いた者と、学生寮の一部を蒸発させた者。

 共通点は、同じ組織に属し、同時に魔術師であることだ。

 

 ステイルは双眼鏡を使っているのと対照的に、肉眼で六〇〇〇メートルほど離れたインデックス達を視認出来る時点で、ステイルより実力が上なのが容易に感じられる。

 

「だが生きているとなると、向こうにも魔術の使い手がいるはずだ」

 

 もしかしたら能力者かもね、と付け足すステイルに、神裂は無言で返す。

 その無表情からは、しかし誰も死ななかった事に安堵すらしている様子だ。

 

「――――で、神裂。アレは一体何だ」

「あの少年の情報としては、少なくとも魔術師や異能者といった類いではない事になるのでしょうか」

「ハッ! オイオイ、まさかアレがただの高校生とでも言うつもりかい?」

 

 神裂の報告に、ステイルは鼻で笑う。先日受けた拳を思い出しながら顔を顰め、

 

「悪い冗談だ。裁きの炎(イノケンティウス)を退け、何より禁書目録(かれ)鬼札(ジョーカー)と呼んだ者が、何の力も無い素人な訳がない」

「……」

 

 インデックスは過去数人の例外を除き、本気で他人を頼った事は無い。それは同時に、神裂とステイルにとって脅威になり得る存在ならば迷わず頼っている事になる。

 

 最初の一人目は、ステイルや神裂にとって思い出したくもない程出鱈目な旅の中国人。

 ステイルは炎剣を生み出す前に、撃ち出された羅漢銭に意識を刈り取られ、音速挙動の神裂を軽くあしらう中国拳法の使い手。

 動きがあまりにも気持ち悪い程の変態挙動なのと、その容姿と言動がとある英霊と酷似していたため、ついたあだ名がアサシン師匠。

 しかも最悪な事に、インデックスがその変態に弟子入り。一ヶ月でインデックスを変態曰く『そこそこ』まで鍛え上げられてしまい、追跡の難易度が上がった。

 

 尤も、その変態が『彼女』とインデックスの降霊術と幻覚で偽られた姿なのは、言うまでもない。

 

 そして二人目は、ブリュンヒルド=エイクトベル。

 ワルキューレと聖人の二重属性という極めて稀少な特性を持ち、五年程前まで、20〜30人程度の『伝統的な暮らしを続ける事』を目的とする魔術結社を運営していた。

 しかし『北欧神話系の術式にも、聖人のフォーマットが無意識に混ざり合う』という彼女の性質が原因で北欧五大魔術結社に理不尽に蔑まれ、結果強襲を受けた魔術結社は彼女以外が壊滅。

 彼女だけがなんとか生き延び、しかしその後も五大結社の執拗な追撃から逃げ続けて、果てにインデックスと出会った。

 

 その後、話を聞いてプッツンしたインデックスの助力で『主神の槍(グングニル)』とか造っちゃってしまい、五大結社を壊滅、蹂躙する。

 これにはイギリス清教も出張り、一思いに殺してやった方が良い状態の五大結社下位メンバーをしょっぴき、実行犯と指示した上層部はとても愉快な肉片になった。

 しかもブリュンヒルドが蹂躙している隙にインデックスが五大結社の有り金を全て奪ってしまい、更にはその後ブリュンヒルドと共に行動する様になり、追跡の難易度が跳ね上がった。

 

 極めつけはシルビアとオッレルスだ。

 片や聖人に近衛侍女の二つの力を扱う、魔神になり損ねた男の恐るべき相方。

 片や一万年に一度あるかないかの魔神になれるチャンスを、子猫を救うために棒に振った、シルビア曰く大馬鹿野郎。

 しかしその実力は魔神に準じる程強大で、泣いている見知らぬ子供を助けるために100万の軍勢を皆殺しにする、と称されたほどだ。

 

 これには流石にステイル達も頭を抱えた。

 そんな、最低基準が基本聖人クラスの怪物の枠組みにただの少年が入れる訳がない。

 

 だが、学園都市の上層部と話をつけているステイル達に対し、意図的に少年の情報が伏せられているとも思えない。

 それに少年の戦いぶりと、その身に纏う雰囲気が裏の人間のソレと符合しないのだ。

 

「……楽しそうだね」

 

 不意に、ステイルが呟いた。

 その言葉に、神裂がボロアパートの方を見る。

 そこには、インデックスの腹黒発言に上条がツッコミを入れている姿だった。

 

「僕達は、一体何を知らない? 彼は、一体何を希望にこの街に来たんだ?」

「……それは」

 

 

 ―――――何も知らない道化風情が――――

 

 

 ブリュンヒルドに言われた言葉が、神裂の頭から離れない。

 インデックスは一体何を知っているのか? 自分達は何か重大な事を知らないのではないか?

 自分達は、何か取り返しのつかない事をしたのではないか?

 

 そんな不安がして堪らないのだ。

 

「あぁ、そうだ。彼から君に伝言があったんだった」

「私に、ですか……?」

 

 そんな不安を取り払う様に、ステイルはふと思い出した事を告げる。

 自分の肩を切り裂いた相手に伝言とはと、神裂は驚きながら、恐らく恨み辛みだというなら納得出来ると、無表情な顔を僅かに辛そうに俯けた。

 

「今度会ったらセクハラしてやる、だとさ」

「へっ?」

 

 直後、ポカンと惚け即座に顔を真っ赤にする同僚を見て、ニヤニヤするであろう銀髪の少年を想像し、本当に変わらない。と、悲しくも笑みを浮かべるステイルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「返答を聞こうかな、上条当麻。これでも尚、自分と関わるか否か」

 

 それはインデックスの、執拗なまでの確認だった。

 上条当麻は特別な右手を持っていようが、あくまで一般高校生。本来魔術サイドの事情や世界の『闇』など知る必要など在りはしない。

 そんな人間を、インデックスは『生きたい』という極めて原始的な利己心によって巻き込もうとしている。

 何も知らない人間を、口先で殺し合いの世界に引き摺り込むなど、どこぞの某孵卵器で十分。

 それなりの人でなしを自覚するインデックスでも、あそこまでクズには成りたくはない。

 

「昨日で身に染みて理解出来たでしょ。一歩間違えれば当麻、お前は死んでいたんだぜ?」

「……」

「しかも、次来るだろうもう一人は、更に難易度は跳ね上がる。ステイルは魔術師としては天才の類で、そうは居ない。だがな、次に来るのは当麻じゃ逆立ちしても絶対に勝てない」

「ッ」

 

 上条はインデックスの言葉に息を呑む。

 インデックスはこれまで上条を非常に、異常なまでに評価していた。少なくとも上条はそう思っている。

 そしてその評価は、ステイルと戦っている最中でも変わらなかった。

 

 先日のステイルとの戦いも、インデックスはイキナリ的確過ぎる、上条が勝てる『解答』を即答し、事実それをするだけで相手の切り札を封じることが出来た。

 しかしそんなインデックスが、絶対に勝てないとまで断言したのだ。

 

「……その次の相手ってのは、お前の肩を切り裂いた奴か?」

「神裂火織。世界で20人も居ない、神の子と同一の身体的特徴を生まれ持った『聖人』だ。コレがステイルみたく火力特化なら兎も角、彼女は魔術は補助程度にしか使わない」

「どういうことだよ? ソイツも魔術師なんだろ? だったら――――」

「じゃあ当麻は、音速でテメェの首を刀で刈り取ろうとする奴に、馬鹿正直に右手突き出すの?」

「はッ……!?」

 

 何だソレは、と上条は愕然とする。

 ステイルはまだ良い。

 上条の幻想殺しは、それが異能を武器にしていればいるほど効果を発揮する。

 だが聖人が相手となれば、そんな強みは無きに等しくなる。

 そもそも、あらゆる異能を打ち消す右手があっても、上条の運動能力は高校生の範疇に過ぎない。

 音速挙動、それも物理で襲い掛かってくる聖人は、基本攻撃が武器による近接戦闘になる。

 

『北欧の戦乙女』ブリュンヒルドなら大剣(クレイモア)

『暴虐の近衛侍女』シルビアはロープ。

『二重聖人』ウィリアム=オルウェルは五メートル超えのメイス、又は竜殺し(アスカロン)

 そして『元天草式十字凄教女教皇』神裂火織は七天七刀。

 

 もし聖人が上条を本気で殺すつもりで戦えば、文字通り瞬殺。五体満足五臓六腑が揃って墓に入れる事は無いだろう。

 それを投入するだけで大抵の戦場を『平ら』にする、魔術世界に於いての戦術核。

 それが聖人だ。

 

「かお──……神裂火織の性格上、当麻を殺す事は絶対に無い筈さ。だけどソレなりにボコられる事は間違いない。それに……」

「インデックス」

 

 神裂の危険性の話を、上条は断ち切る様にインデックスの名を呼んだ。

 

「俺はお前を助けるって決めた。だからそんな風に俺に気を遣わなくても良いんだぞ」

「当麻……」

「お前は、助けてくれって最初に言ったぞ。それに俺はもう関わってる。そして、お前と関わり続けるって決めた。人が誰かを助けるのに、それ以上の理由が必要か?」

 

 上条の、インデックスにとって救済に等しいその言葉に、インデックスは罪悪感で一杯になった

 上条の言葉を実行出来る人間が、一体この世界に何人いる?

 長年連れ添った友人でもない、会って一日や其処らの人間を命を懸けて助ける事が出来る人間。

 

 それは狂人とも呼べるし、聖人とも呼べる。

 

(自分は一体何がしたいのだろう)

 

 一般人で無関係な当麻は巻き込み、自分の都合だけで死ぬかもしれない戦いに投じさせた。

 当麻を案じて、本当に選択肢を与えるならそもそも学生寮に逃げなければ良かった。

 学生寮に逃げれば、当麻は戦うに決まってるのだから。

 

 いやそもそも、インデックスが助けを求めた時点で、もう取り返しは付かなかったのかも知れない。

 

 原作で知っている、からではない。この短時間でもインデックスは理解出来た。

 アレはそういう類いの人間だ。

 そんな人間にとって、インデックスは見過ごせる状態では無かったというのに。

 偽善どころじゃない。もしグレムリンの旧全能(トール)に言わせてみれば、インデックスは間違いなく悪党だろう。

 

(――――それがどうした。)

 

 悪党呼ばわりされるぐらいで命が助かるんなら安過ぎる買い物だ。インデックスだって命は惜しい。

 しかし、インデックスは悪党に成りきれない。

 上条を利己的な理由で利用しているのにも拘わらず、罪悪感で圧殺されそうになる。

 

「取り返しのつかない怪我をするかもしれないぞ」

「サンゼンドを乗り越えた上条さんを舐めるでない」

「死んじまうかもしれない」

「死ぬつもりなんか無いぞ。死んでやる理由も無いしな」

「自分が巨乳美少女だったら?」

「もっとテンション上がったかもです」

「最近常盤台中学の超能力者が、とある高校生に弄ばれたという噂流したら?」

「止めろよな!?」

 

 てか何でビリビリの事知ってんだ!? と面白い様に狼狽える上条に、それがインデックスには可笑しくて、堪らず笑みを浮かべる。

 

 本当に、此処に来て良かったと。

 

 偽物ではない本物の『ヒーロー』という存在を、決して消えないその記憶に刻みながら。

 

 

 




カミやんとインデックスが仲良くなる話(特に深い意味は無い)。


ここでインデックス側の戦力がステイル達側から解説されましたね。
神の右席抜きなら正面からローマ正教に勝てる図です()


修正点は発覚しだい随時修正いたします。
感想待ってまーす。







さーて後二話しかストック残ってねぇぞ。

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