ぼくの名前はインなんとか   作:たけのこの里派

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前回のあとがきで致命的な誤字が発覚。
……ホント早めにわかって良かった。なんやねん「感謝まってます」って。
誤字報告して頂いた方々に感謝します。

というわけで、今回はかおりんいじめ。


第八話 真実

 上条と神裂に向かったインデックスの一方、ステイルは完全にインデックスの姿を見失っていた。

 

「くそッ! 何もかもあの拳法家のせいだッ!!!」

 

 あの変態のせいで全ておかしくなったと、某有名忍者バトル漫画宛らの動きで跳んで行ったインデックスを見て、ステイルは思わず悪態をついた。

 そもそも、インデックスがあの有り様になったのも、アサシン先生マジアサシン先生と呼ぶ原因となった気配遮断も、全て一人の変態が原因である。

 しかもインデックスが圏境と呼んだ、瞑想の極意による透明化という、ふざけるのも大概にしてほしい技術を未熟ながらも変態から学んだせいか、気配遮断が原作と比べアホ程上達したインデックスを、魔力探知無しでステイルが見付ける事は出来ない。

 それ故に、『歩く教会』への魔力探知すら出来なかった数日前に、神裂がインデックスを捉えることが出来たのは、本当に聖人故の幸運だろう。

 それか、あの禁書目録の不運さ故か。

 神裂の位置を把握出来れば良かったが、上条が暴走列車と化していた為、場所は特定出来ない。そしてその場にいるであろう神裂は七閃のみで応戦――――つまり魔術を使用していない為に、魔力探知は不可能。

 僅かな斬撃と轟音が聴こえたが、インデックスがソレを聞き逃す訳は無いだろう。

 

 どちらにせよ、インデックスより速く上条の元に辿り着き、人質にする策は台無しになった。

 

 ステイルはインデックスが暗殺者ばりの運動能力を得る事になった元凶を思い出す。

 アレは余りに熾烈な存在だった。

 拳法家から別れた後のインデックスが溢していた、『どっかの魔術師が英霊を降霊でもしたんじゃね? 容姿とか能力とか激しくツッコミたいけども』という言葉も馬鹿には出来ないほどに。

 

『――――脆弱にも程がある。魔術師とはいえ、ここまで非力では木偶にも劣ろう。鵜をくびり殺すにも飽きたぞ小僧』

 

 ギリィッッ!!! と、自らを文字通り蹴散らした拳法家の言葉を思い出し、ステイルは歯を噛み締めながらインデックスの『歩く教会』の魔力探知を行う。

 尤も、降霊されている英霊に文句を言ってもしょうがなく。誰の所為か問うならば、真実を知る者はこう答えるだろう。

 大体インデックスのせいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八話 真実

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もッ!! ……私も、好きでこんなことをしている訳ではありませんッ……!」

 

 神裂が、血を吐くような悲痛に表情を歪めながらその事実を述べる事は、人の心に訴えかける上条の人格上当然の帰結だった。

 そして上条に告げられる事実。

 神裂とステイルが、インデックスと同じイギリス清教の人間であること。

 ステイルがインデックスのかつての親友で、そして“神裂が”インデックスのパートナーであったこと。

 そして何より絶望的なのは、

 

「……なんだよ、……それ……」

 

 どうしようも無い、完全記憶能力を持つインデックスが抱える爆弾の事を。

 

「彼の脳は記憶領域の85%を占めている一〇万三〇〇〇冊に圧迫されています。そしてインデックスは完全記憶能力者。思い出を忘れられないインデックスに、残り15%の容量で耐えるには保って一年。その一年毎に彼の記憶を消さなければ、彼の脳は……ッ」

 

 容量を越えた空気を風船に入れればどうなるか。

 だから消したのだ。限界を迎え、狂死寸前の激痛に苛まれて苦しんでいたインデックスを救うために。

 自ら何よりも大切な思い出を自分達の手で。

 そしてまた、その悲劇は繰り返される。

 そんな絶望的な事実を知った上条は、確かに呆然としていた。

 

 ―――――目の前の女は一体何を言っている?

 

 85%? 15%? 何だそれは、と。

 それは、まるで見当違いの話を大真面目に、それこそどうしようもない悲劇や絶望であるかのように語る神裂。

 いや、上条がその思考に独力で辿り着けた訳ではない。

 

 数日前に神裂の理論が確実に間違っている事を、()()()()()()()()()()()()、都合の良い事に上条は数日前に知ったからだ。

 そして、インデックスの言葉を思い出す。

 

『――――ステイル達の事あんま悪く言わないでやってくれないかなぁ』

 

 繋がった、と。

 その時は意味が解らず憤慨していたが――――――。

 故に、上条は問いをした。

 

「アンタ……インデックスはその事を」

「知らない筈です。彼は私達の事は、記憶の無い彼には、彼に近付く者は総て『一〇万三〇〇〇冊を狙う天敵』にしか映らない」

 

 親友の記憶を、自分達との思い出を自分達の手で消し去る。

 それがどれ程辛い事か上条は想像出来ない。

 だが、

 

(―――――()()()じゃねぇよ……ッ!!)

 

 そんなのはただインデックスに甘えてるだけだ。

 第三者の、しかも『インデックスの真実』を知る上条からすれば、そんなのはインデックスのことを欠片も考えておらず、インデックス本人にしてみればそんなものは『お前たちの都合だ』と切り捨てられるもの。

 いや、魔術で全てを解決しようとする傾向にある魔術師に脳医学の知識を要求するほうが酷だろう。

 誰が悪いのかというと、やはりインデックスをそんな状況に追い込み、神裂達に甘言を弄んだ者が悪いのだ。

 そしてその『インデックスの真実』を上条に教えたのは誰だ?

 

 単純明快。そんな質問をさせたインデックス本人に他ならない。

 

 つまりは────そういうこと。

 知っていたのだ。

 インデックスは本当に、本当に何もかも。

 

 (そういうことか……そういうことかチクショウ!!!)

 

 インデックスは、上条に一番最初に式と解答を教えていた。だが、それだけでは何の問題に対しての解か判らない。

 そして今、漸く問題を知る事が出来た。

 全くもって回りくどい方法で。

 

「は、ハハハッ……何が恵まれてるだ。────────ふざけやがってッッッッ!!」

 

 見知らぬ土地で要らない知識ばかり詰め込まれ、そしてかつての親友達に追われる日々。

 しかも一年の時限爆弾付きの。

 一体ソレの何処が恵まれてるのか、上条には理解したくもなかった。

 

「分かって、いただけましたか?」

「……なぁ、一つだけいいか?」

「…なんでしょう」

 

 だからこそ、目の前の女の馬鹿さ加減に腹が立ってきた。

 上条のその怒りは、科学の総本山の人間というアドバンテージを有しているが故の、不当なモノかもしれない。

 初めから答えを知っていたが故の驕りかもしれない。

 だが他人に教えられるがままの神裂の視野の狭さと迂闊さに、上条は憤りを感じずには居られなかった。

 だからこそ、

 

「完全記憶能力者って、そこまで短命なのか?」

 

 上条当麻は、神裂の幻想を完膚なきまでに叩き潰す。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『──────あのですね上条ちゃん。人の脳は140年分の記憶が可能と言われていますが、仮に本を何億冊読んだからといって、思い出を消さないといけない程人の脳は単純では無いのです』

 

 つい先日。ステイルと戦う数時間前、上条は補習の時に小萌へインデックスの言ったことについて質問していた。

 例え完全記憶能力者でも、記憶容量が限界になって死ぬことはない────という事の確認の為だ。

 

『そもそも思い出と本で得た知識は同一ではありません。言葉や知識は「意味記憶」、運動の慣れなどは「手続記憶」、そして思い出などは「エピソード記憶」なんて具合にですね、色々有るのですよ。ていうか、この程度の事も分からなければ、上条ちゃんは「開発」を先生ともう一度勉強し直ししなくちゃいけないのです』

 

 本来一般人なら、仮に知らなくても医者に診せれば直ぐ様知ることが出来る事実。

 上条はただそれをそのまま語っただけ。

 

『つまり、どれだけ「意味記憶」を増やした処で全く別の「エピソード記憶」を削らなきゃならないなんてことは、脳医学上絶対にあり得ません──────』

 

 神裂にとって、その身を侵す真実(猛毒)だとしても―――――――――

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「何で気付かねェんだよ」

「──────、」

 

 神裂は、インデックスの行動を思い出していた。

 疑問だったのだ。自分たちに、インデックスにとって『自身の知識を付け狙う魔術師』に対し、ただの一度も敵意をぶつけて来なかった事に。

 

「お前等インデックスと一年以上付き合いがあんだろうが……俺なんかよりずっとずっと長い間、アイツと一緒に居たんだろうが! だったら解る筈だろ!!」

「……何、を」

「あのインデックスが、自分の追っ手の事を調べない訳ないだろうがッ!!」

 

 今思い返せば、おかしな話である。

 インデックスは、何故冷徹無比な仮面に隠された魔術師の素顔を知っていたのか。

 ――――――――――つまり調べたのだ。何もかも。

 

「インデックスは一度でもお前等に敵意を向けた事があったのか?」

 

 否。

 刃を振るったことで怯えられたことは何度もあったが心から敵意を向けられたことなどなく、彼がパートナー達を得てからは常に対話を求めていたではないか。

 

「記憶を消さないと死んでしまう病気なんて、本当に医者の口から聞いたのか!」

 

 否。

 記憶云々はすべて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()最大主教(イギリス清教のトップ)から教えられた事。

 彼女の言葉を鵜呑みにし、医者に見せたことなど一度もない。

 

「何故インデックスに全てを話してあのお人よしが信じてくれる事を、テメェらは信じてやることが出来なかったッ!!?」

 

 出来るわけがない。

 仮に信じたとしてインデックスの記憶は再び失われる。

 喪われた後、アルバムなどを眺めながら、悲しそうに謝罪する彼の姿を何度も見るのが耐えられなくて。

 だが、それは果たしてインデックスのことを考えての選択だったろうか。

 ―――――否。

 

「ぁ……ッ」

「答えろ! 神裂ぃッ!!」

 

 神裂の脳裏に、学園都市にインデックスを追って入る前に戦ったワルキューレの言葉が響いた。

 

『─────────何も知らない道化風情が』

 

 己の目的のみを突き進む魔術師の中でも、彼女の目的は魔法名の通り。

 

救われぬ者に救いの手を(Salvere000)』。

 

 なんという皮肉だろうか。

 そんな彼女が愛し絶望した、まさに救われない者に救いがあり、そして彼女はその救いの邪魔をし続けてきたという。

 ステイルと神裂は、どんな関係を築こうとも最終的に記憶を消されたインデックスに裏切られる事を恐れて、敵を演じた。

 そして何より、自分達が傷付きたくないからインデックスから逃げたというのに。

 傷付け、追い込み、襲い掛かった神裂達に対してインデックスの答えは受容だった。

 彼女達に敵意を一切向けず、笑い掛け続けた。

 

 なんという道化、滑稽極まる。

 これならばいっそのこと恨まれた方が未だマシというもの。

 自分は一体、何をしてきた。

 

『―――――――かおり』

 

 自分は何れだけ、あの子の笑顔を裏切り続けた。

 

「ぁ……────ぁぁあぁああああ嗚呼ぁぁあぁあああああアああああああああああアあああああアアアアアアアッッ!!!!!?」

 

 神裂は、答えられない。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 傷だらけの体で、しかしその瞳は敵を捕らえて離さない上条と。

 全くの無傷で、しかしその膝は折れ、その表情は涙と苦痛で歪んでいた神裂。

 勝敗は決まった。

 上条はもう立つことが限界で、神裂はその心をへし折られた。

 ならば勝者は一体誰か。

 

「―――――流石だ。流石は『神浄の討魔(かみじょうとうま)』」

 

 二人の間に現れた、禁書目録の名を関する銀髪の少年だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ステイルを攪乱しつつ撒けたので当麻の元へ急いで行ったら、当麻がかおりんを泣かせてたでやんす。

 …………………あり? 当麻は兎も角、かおりんはおデコ殴られるくらいと思ってたんだけど……。

 

「おーよしよし怖かったですねー。もー大丈夫だよ怖くないよー」

「イン、デックス……?」

 

 撫でられ続けるかおりが、呆然と涙に濡れた綺麗なおめめを見開いて自分の名を呼ぶ。

 美人の泣き顔は綺麗だが、しかし見ていて気持ちの良いモノじゃあない。

 

「インデックス、ソイツは―――」

「おや? 案外大丈夫そうですね上条さん。こんな美人を泣かせるとはとんだスケコマシだ」

「ちょっ! インデックスサン何故に敬語!?」

「あーハイハイ、精神攻撃は基本ですよね。巨乳でクール系お姉さんの心はズタボロだ」

「上条さんは身も心もズタボロでせう!」

「だから分断された時点で病院に電話しておいたよ。救急車もすぐ来る。だがな当麻、体が傷だらけの野郎と心が傷だらけのボンキュッボンの年上御姉様。どっちを慰めたい?」

「御姉様一択デスハイ」

「判ればヨロシ」

 

 女人の悲鳴は全ての事に優先されるッ!!

 まぁ救い様の無いクソは、更生の余地無く消すが。

 

「インデックス……、私は、私達は……ッ!」

「大丈夫大丈夫。今は安心して自分の胸で泣くが善い」

「ッ……うゎぁあ……ぁあ」

 

 先程の絶叫とは違い、童の様に俺を掻き懐き泣く彼女を、一層強く抱き締める。

 ブリュンヒルドの時を思い出すなぁ。あン娘もキッツイ境遇やけど、この娘も大変だったろうに。

 自分は『彼女』が自分にしてくれた様に、静かに泣き続ける彼女の頭を撫で続けた。

 

「……ステイルか」

「これは……どういう状況かな」

 

 電柱の影から出てきた息の切れた赤毛で長身の神父は、自分と自分を抱き締める火織と当麻。そして当麻と神裂が戦った傷跡を順に見渡して疑問を口にする。

 

「取り敢えず詳しい話は、当麻が治療を受けてからしましょうかね」

 

 救急車のサイレンの音を耳にしながら、自分はこのくだらない首輪と鎖を断ち切る最後の一手に手を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 




申し訳ありませんが、次回の投稿が遅れます。
一つはリアルが忙しい事。
二つ目はストックが尽きた事。

というわけで次回は完成次第更新します。


誤字脱字は随時修正します。
感想待ってまーす!


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