〈Infinite Dendrogram〉 死して立ち上がる者   作:ベトベトー

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第二話 ネフティス

 □2044年3月16日 若葉紫陽

 

 ヘルメット型ゲーム機を脱いで、溜息をつく。体にまとわりつくような倦怠感。原因は分かっている。〈Infinite Dendrogram〉でのことだ。僕がやった事は後悔していない。

 だが、気がかりだった。

 

 「……あの子、大丈夫かな」

 

 それに〈エンブリオ〉の発現。こうして考えてみるとログイン制限は本当に重い制約だ。あちらでは三日間も過ぎているのに、その間自分は何にも出来ない。

 

 「あ、それに砂漠の美女にも会えてないじゃん」

 

 冗談を口にしてみるが、気は休まらない。しばらく寝ようか。そう考えてゲーム機を置き、カーテンを閉め目を閉じる。

 しかし、僕の隣人は寝させてはくれないようだ。カーテンがこじ開けられる。

 

 「ん。美女がどうしたって?振られたのか?」

 

 隣のベッドに寝転がっているのは西園寺ガブリエルだ。どうやら僕の独り言を聞いていたようだ。

 

 「告白もしてねーよ。それから僕は寝るから黙っててくれ」

 「そりゃ無理だな。これから俺とお前は将棋をやるんだ。さあスマホを準備しろ、俺の容易は万端だぜ」

 「勘弁してくれ……」

 

 嫌々ながらも一戦行う。西園寺は弱いので飛車角落ちだ。この男は勝負事が好きで、同室ということもあって、よく二人でゲームをやっている。結果、軍配は西園寺に上がった。そろそろ飛車角落ちは厳しくなってきた。

 

 「よーし、俺の勝ち!」 

 

 ガッツポーズをして、金髪を振り回し喜ぶ。染めているわけじゃない。西園寺はフランス人の血が入っていて、彫りが深く、ギリシャ彫刻のように整った顔をしている。

 

 「おっと、ユウナからのメールだ。ちょっと待て」

 

 そのため非常にモテる。お見舞いには中学生から大人の女性まで幅広い年齢層の女性が来る。非常に妬ましいが嫉妬してもしょうがない。だけど――

 

 「僕にも彼女欲しいよー。シクシク」

 

 メールを終え、西園寺が言う。

 

 「でも、お前神崎さんはどうなんだよ」

 「?神崎さんがどうかしたのか?」

 

 神崎さんは僕たちと同じようにこの病院の患者だ。時々、三人で話すこともあるが口数の少ない人で特別仲が良いわけではない。

 

 「あの人はお前を――いや、何でもない。それよりそれデンドロだよな?」

 「ああ、やっと買えたんだ。西園寺もやってるよな、デンドロ。今はどこにいるんだ?」

 

 西園寺は初日組だ。西園寺は既にレベルカンスト、〈エンブリオ〉の形態はⅥだ。〈Infinite Dendrogram〉の情報の多くはこの男から来ている。もっとも所属国はレジェンダリアだったので、自然僕の持つ情報も偏っている。変態の国ってなんだよ、おぞましい。

 ……それはともかく、最近は各国を旅して回っているらしいので、もしかしたらカルディナにいるかもしれない。

 

 「ああ、今はカルディナのヘルマイネにいるなー。お前はどこ所属にしたんだ」

 「カルディナだよ。驚いたな、僕はコルタナにいるんだ」

 「おお、こっちに来る機会があれば街を案内してやるよ。今立て込んでてな、そっちには行けそうにねーんだ。まあ、あと数ヶ月はヘルマイネにいるからな。来れたらこいよ」

 

 しばらく話していると西園寺が〈Infinite Dendrogram〉に用事があるとログインした。

 そこからはいつも通りの――〈Infinite Dendrogramを持ってなかった頃と同じ――日常。だが、何をするにも身が入らない。

 それにしてもおかしな話だ。ゲームのことでこんなに悩んだのは何時ぶりだろうか。異世界に飛ばされたのかと見紛うほど高度なグラフィック、感情を感じさせる高度なAI、これらがあるからだろうか。

 

 とりとめもなく考え続け、やがて日が暮れ暗闇の中で街が煌々と輝く。日付は変わり、朝食を食べ、少ししてからログイン制限が解けた。

 

 ◇

 

 〈Infinite Dendrogram〉にログインした僕はコルタナの大門前に立っていた。チュートリアルを終えた時と同じだ。セーブポイントを登録してないからだろう。

 

 「そうだ、エンブリオは?」

 

 左手の甲には蒼い宝石の代わりに黒色の紋章があった。紋章は十字架の上部が楕円形をしていて、女性を表す性別記号のような形だ。

 

 『女性を表す性別記号とは随分酷い言い草だねマスター。ひょっとしてその紋章を見せびらかして歩くのは嫌かな。ならあんたはさっさと手袋でもグローブでも買うといいさ』

 

 姿は見えないが、どこからか声がする。ならこれは―――

 

 「お前は――僕の〈エンブリオ〉なのか……?」 

 「その通り、気付くのが遅いんだねマスター」

 

 いつの間にか僕の目の前に一人の中性的な美少年が立っていた。

 純白の絹で出来たコートを身に纏っていて、髪は艶を持った黒色で肩にかかる程度の長さ。陽光にあたり小麦色の肌は黄金色に煌めき、細めた緑眼は品定めをするように僕を射抜いている。

 

 「オレの名前はネフティス。〈エンブリオ〉、TYPE:メイデンwithアームズ。一つ言っておくがオレは女の子だぞ?」

 

 からかうようにそう言って、ネフティスは笑った。

 

 ◇

 

 ネフティスの自己紹介から数十分後、僕たちはオアシスの近くの喫茶店で休んでいた。少女についての情報は殆ど集まらなかった。精々分かったのは、「ミイラ男がパレードに乱入した」、ということだった。ミイラ男というのは僕のことだろう。

 しかし自分がそんな格好をした覚えがない、とすればネフティスのスキルだろうか。

 

 「そうだね、オレのスキルだよ。しかし運が悪かったね」

 「何が?」

 「オレのスキルのおかげで少女は助けれた。でも、そのスキルのせいであんたは死ぬ(デスペナする)ことになったことだよ」

 

 そこに文句をつける気はない。誰だって少女を手に持ったミイラ男が現れれば警戒するだろう。むしろ誰も助けれないという最悪を避けることが出来ただけ僥倖だ。

 

 「そう言ってもらえれば幸いだよ」

 

 僕の心を読めるのか。これは困った、迂闊にエロいことも考えられない。

 

 「そうだよ。ついでに言えばオレはあんたのパーソナルから出来たんだ。つまりあんたの性癖を全て宿していると言っても過言ではないんだよ」

 

 ボーイッシュ日焼け少女?まずいな精神(パーソナル)を疑われかねない。

 そんな意味のない会話をやりながらも少女の情報を探す方法を考える。パレードに出ていたクランの名前は『ガーディアンズ』というらしい。そのクランの本拠地は別にあり、メンバーはコルタナの市長の提供した宿に宿泊していて、当然僕のように何の伝手もない人間がお目通りすることは出来ない。

 

 「……やっぱ宿近くに張り込むしかないのかな」

 

 チリンチリンと客を告げる鈴の音が店内に響く。テーブルに肘をついて、何とはなしにそちらを見る。

 

 「――ッ!!」

 

 思わず勢いよく席を立つ。椅子が音を立て、注意を引くが気にしてられない。

 

 「……?」 

 

 不思議そうにこちらを見つめる女性、服装はあの時と違うが間違いない。

 僕を殺した(デスペナさせた)人だ。

 

 「あ、あのすみません。あなたは『ガーディアンズ』のメンバーの方ですよね?」

 「ええ、そうよ。わたしはクラン『ガーディアンズ』のサブオーナーのラインハイトよ。貴方は……、いえ言わなくていいわ」

 

 ジッと僕たち二人を見つめる。まるで腹の底まで見透かすような鋭い視線だ。

 

 「……分かった。わたしのファンね!」

 

 違います、とは言い出せず頷く。迫力に気圧されてしまった。ネフティスが呆れ顔で僕を見ている。

 

 「いやー、照れるねぇ。最近わたし達宛てのファンレターが届くようになってね、いつかわたしにもファンが欲しいなーって思ってたのよ」

 「お姉さーん、オレ達はあなたのファンじゃないんだよ。ごめんね、連れが誤解を招くようなことして」

 「そんな……。じゃあ、貴方達は一体?」

 

 ネフティスが喫茶店のドアを手で指して言う。

 

 「こんな所ではなんだから、外でね?」

 

 ◇

 

 事情を説明するとラインハイトさんは少女の場所へ快く案内してくれた。ラインハイトさんによると少女は治療を受け、既に回復している。また、父親は官憲に捉えられ現在はティアン用の刑務所にいるらしい。

 バザールを抜け、僕達が入った門とは反対の位置にある門――東西門のうち僕達は東門から来た――へとオアシスを迂回して向かう。

 

 「ここよ」

 

 そう言ってラインハイトさんが指した建物はコルタナで見た建物の中でも大きめだった。岩でできた箱型の建物を組み合わせた造りで、広い庭もあり学校のようだ。庭には子供達が駆け回って遊んでいる。

 

 「当たらずとも遠からず。ここは孤児院よ。あの子はこの中にいるわ」

 「へー、彼女はここに居るんだね、マスター行ってきなよ」

 

 僕の眼は校庭で走り回る子の一人に釘付けになっていた。少し痩せてはいるが楽しそうに他の子供達と遊んでいる。笑顔を浮かべ、元気に――

 

 「いえ、やっぱりいいです。僕のことを彼女は知らないでしょうし」

 「そう、ホントに良いの?」

 

 もちろん。もともとは人殺しを見過ごしたくなかった。そんな中途半端でろくに覚悟もない身勝手な正義感からやっただけのことだ。

 でも――

 

 「おーい、こっちにパスしてよ」

 

 楽しそうに遊んでいる。その姿が見れて本当に良かった。

 

 

 To be continued

 

 




話が中々進まない……
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