〈Infinite Dendrogram〉 死して立ち上がる者   作:ベトベトー

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第三話 サボテン狩り

 □商業都市コルタナ ルーツ·ハイドレンジ

 

 孤児院を離れた後、僕達はやることもないのでバザールに行っていた。太陽はまだ上り始めたばかり、宿に戻るのにも早過ぎるので面白そうな屋台を冷やかして回っているのだ。僕達は会話が途切れない程度には仲が良くなっていた。

 

 「ところで、貴方はこれから何をするの?」

 

 ラインハイトさんが言う。そういえば彼女は昼には宿に戻る必要があるって言っていたな。そんなことを思いながら返事をする。

 

 「特に予定はありませんね」

 

 そう言ったあとに付け加える。

 

 「クエストでも受けてみようかと思ってます。ジョブや武器を見に行ってみたいですね」

 「そう、わたしは宿に戻るから。もし何か相談事でも有ったら気軽に来てね。場所はここ。ボーイさんにも言っとくから」

 

 そう言ってラインハイトさんは僕にフレンド申請を送る。奇妙な出会いだったが、もう彼女とはお別れのようだ。

 今までの感謝の礼を言って別れる。彼女は人ごみの中から手を伸ばして振っている。しばらくは会う機会も無いだろう。少し残念に思いながら僕もセーブポイントに向けて足を―――

 

 「ストッーーープ!!おーい、お姉さん待ちなよーー!」

 

 ネフティスが大声を出して、彼女を呼び止めた。一体どうしたんだ?

 

 「一体どうしたんだ、じゃないよ。いまオレ達には重大な問題があるだろ」

 「一体それは何だ?」

 

 心当たりがない。ネフティスは溜息をついて言う。

 

 「金欠。もんだーい、最初のデスペナの時とその他諸々のことであと残ってるのは何リルでしょう?」

 

 ゾッとしてアイテムボックスの中を確認する。すると本当に僅かな硬貨――たった二十リルだけ――が手に転がり落ちた。おまけにチェシャから貰ったナイフもない。

 とすると、僕に出来ることは一つしかない。ネフティスもそういうわけで彼女を呼び止めたのだろう。訝しみながらもこちらへ来るラインハイトさんに心を込めて言う。

 

 

 「ラインハイトさん!お金貸して下さいッ!」

 

 

 自分でも惚れ惚れするような礼だった。

 

 ……ちなみにラインハイトさんは10万リルをポンと渡してくれた。故意ではないといえデスペナさせたことのお詫びだそうだ。それと初心者向けの武器屋や売店、おすすめの狩場なども教えてくれた。あまりお世話になるのも悪いので、せめてお金は返しますと言っておいたがそれも何時になることやら。

 

 「流石マスター。彼女の罪悪感を煽ってそんなにお金を貰うとは。誰にでも出来ることじゃないよ」

 

 ネフティスが言った。随分な言われようである。

 

 「……褒められてもあんまり嬉しくない」

 

 しかし、これだけあれば武器も良いものが買えるな。ネフティスも欲しい物があれば言えよ。

 

 「じゃあ、オレは日傘が欲しい!この国暑すぎるぜ」 

 「じゃあ買いに行くか!」

 

 ◇

 

 冒険者ギルドに行き、簡単なクエストを受ける。

 既に武具は買い揃えており、砂漠の暑さに耐えれるよう高熱、乾燥耐性を持った防具一式を買った。武器はブレイズソードとスティールメイスの二つだ。斬撃、打撃どちらかに耐性を持つモンスターが出た時のためだ。ジョブは使える武器の種類豊富な【闘士(グラディエーター)】をとった。準備は万端、後はクエストを受けるだけ。……だったのだがここからが問題だった。

 

 「……クエスト多すぎ」

 「こんなに多いとはなー」

 

 どれを受けていいのか分からない。まだ護衛系のクエストは受ける気はない。あと、時間が掛かりすぎるクエストもだ。カルディナ大砂漠では昼と夜で環境が別世界のように変わる。夜は凶悪なモンスターが跳梁跋扈し、気温も驚くほど低くなる。

 ウンウン唸りながら魔法のカタログを読んでいると、僕と同じように唸っている人を見つけた。白髪の少年だ。彼も僕と似たような装備に身を包んでいて、〈エンブリオ〉から彼もマスターだと分かる。

 

 「うーん、どれにしようか」

 

 彼も良いクエストを見つけられずに悩んでいるのだろうか。机の上には注文した料理とカタログがあり、少年はカタログに顔を埋めている。

 

 「君も決めかねてるのか?」

 「ん?ああ、そうなんだよな。どれ選べばいいのか分かんねんだよー」

 「だよなあ」

 

 少年は頭を抑えて机に突っ伏す。彼も僕達と同じように初心者のようだ。初心者同士一緒にクエストを受けないかと誘ってみるか。

 

 「ああ、いいぜ。俺も勝手が分からなくて心細かったんだ」

 「よろしくー。オレの名前はネフティス。こっちは相棒のルーツ。あんたは?」

 

 少年の名前はヴォル·ジェネラル·デストロイヤーというらしい。中々豪快な名前だ。つい最近〈Infinite Dendrogram〉を買えたので始めたようだ。

 

 互いの話をしながら好条件のクエストを探していき、期限未定の簡単そうなクエストを受けることにした。

 

 難易度ニ:【討伐依頼―商業都市コルタナ 歩くサボテン(ウォーキング·カクタス)二十体の討伐】 

 【報酬:15000リル】『コルタナ周辺に生息する歩くサボテンの討伐を依頼します。歩くサボテンの花、幹が採れれば花は一つ20リルで、幹は1キロ1000リルで買い取ります』『また、二十体以上倒した場合、二十一体目から追加で500リル払います』

 

 その後、ギルド内で情報を集めたり、戦いのコツを熟練のティアンから学んでいるといつの間にか日が暮れていた。結局、今から行っても依頼は達成出来そうにないので明日の朝から始めることにした。

 

 □西門 【闘士】ルーツ·ハイドレンジ

 ◇

 

 〈Infinite Dendrogram〉内で初めて夜を過ごしたが、別段現実世界と変わりはなかった。夜が明けてすぐに僕達は西門に向かう。コルタナには南北東西に巨大な門がある。

 特に南北門の大きさはあと二つを大きく上回り、カルディナ大砂漠を移動する交易船や商船の出入口でもある。また南北には門が二重にあって、一つ目の門は城壁から突き出ている。

 おっと話がそれたか。それで西門からは普通に出入りができ、少し行った先には『忘れられた町』と呼ばれる狩場がある。今回はそこに行って狩りをするのだ。

 

 「おーい、待ったか?」

 「遅すぎるぜ。初めてのクエストなんだ。待ちきれなくて一時間前からここに来てたんだ」

 

 眠そうに目を擦りながらネフティスが言う。 

 

 「何でそんなに元気なんだ?マスター、日傘頂戴」

 

 ネフティスに日傘を手渡して『忘れられた町』へと向かう。ちなみにこの日傘は五万リルもする高級品だ。僕の武具全部より高い。贅沢な奴だ。

 

 「暑いのは嫌いなんだよ。美少女の肌が荒れちゃってもいいのかい?」

 「なら包帯になれば?」

 「え?ネフティスって〈エンブリオ〉なのか?ルーツの〈エンブリオ〉はガードナーなのか?」

 

 雑談をしながら目的地へ行く。そういえば〈エンブリオ〉やスキルの説明をするべきかもしれない。ネフティス、『転生女神 ネフティス』の持つスキルは少ない。

 

 《冥府へと旅立つ者(レジェネーション)》Lv1:

 HPが0になってから5秒後に自身のステータスを強化し、【ミイラ化】させる。スキルが発動する前に減らされたステータスは強化されたステータス以外、通常値へと戻る。

 Lv1ではスキルの効果時間は10分間、STRが十倍化。効果時間を過ぎれば必ずデスペナルティを受ける。

尚、効果時間中に自身のHPが0になればデスペナルティを受ける。

 パッシブスキル

 

 ミイラ化すると高い物理耐性を持つ代わりに聖属性や火属性、日光に対して弱くなるらしい。そこでネフティスが包帯に変化することで日光から僕を守るのだ。しかしスキルを気軽に使うことが出来ないのは不便だ。この旨をヴォルに伝えると驚かれた。

 

 「そんな〈エンブリオ〉があるのか!ホントに千差万別だな」

 

 話しているとあっという間に目的地に着いた。大部分が砂に覆われた町だ。昔は人の営みがあったのだろうが、今はもう無い忘れられた町。コルタナという都市の衛星のように寄り添って存在したらしい。

 感慨深く見渡していると、ヴォルが自身の〈エンブリオ〉を出した。何をするんだろう。

 

 「見てな、これが俺の〈エンブリオ〉だ。口で説明するより使って見せてやる」

 

 それは角笛のようだった。これでどうする気なのか。ヴォルが角笛を吹き始める。本人の口調とは似ても似つかないような優しい旋律だ。大人しくヴォルの角笛の音に耳をすましているとあることに気づく。

 

 「……これがヴォルの能力なの?」

 

 砂漠から黄緑色の草花がヴォルを中心にして生え始めた。草花は角笛の音に体を揺らし、上へ伸びる。

 

 「ははっ、やめろよ。くすぐったい」

 「草花を生み出し、操る能力?」

 

 草花は更に増え、数メートル離れていた僕達のところまで生え始める。花が僕の足を巻き取り、撫でてくる。これ、殆ど殺傷力なくない?

 

 「まだまだァ!」

 

 ヴォルの旋律は勢いを増し強くなる。優しく締め付けていた花は次第に痛くなるほど強くその小さな体で締め付けるようになっていく。

 

 「分かった、分かった!これがヴォルの〈エンブリオ〉か」

 「便利そうだね」

 「ふぅ。……どうも演奏を聞いて頂きありがとうございました」

 

 ヴォルが角笛を吹くのを止めると植物達も大人しくただの雑草へと変わる。

 

 「それで俺の〈エンブリオ〉なんだが、植物を成長させる能力があるんだ。だけどモンスターは成長させることができねぇ。つまり――」

 「なるほど。擬態能力を持った歩くサボテンと相性がいいな」

 

 歩くサボテンはその名に反してまったく歩かないことで有名だ。普通のサボテンに擬態し、普通のサボテンと同じように生活する。ただ、歩くサボテンの近くを歩くと攻撃をしてくる。攻撃方法は主に毒性のある体液や針を飛ばす厄介なモンスターだ。

 だが、ヴォルがいれば不意打ちを受けることもない。

 

 「じゃあ、あそこので試すぞ」

 「分かった、僕が攻撃するよ。ネフティス、包帯になってくれ」

 

 前方に見えるサボテンにゆっくり近付く。これは違う、身体を震わせて成長している。ならその隣のサボテンは?動いていない、これだ。

 

 「ラァッッッ!!」

 

 数メートルの距離を一瞬で詰め、ブレイズソードを振り下ろして一刀両断する。毒液を飛ばす間もなく倒せた。

 

 『マスターも危ないねぇ。もし周りに仲間がいたらどうすんのさ』

 

 ネフティスに言われて自身の不注意に気づく。どうやら緊張しすぎていたようだ。悪いな、ネフティスと詫びる。

 

 「ナイスだルーツ!この調子でガンガン狩っていくぞ!!」

 

 そう言ってヴォルはすぐに角笛を吹き始める。今度は僕も慎重にもう一体狩った。そうして狩っていくと正午になる前に目標の二十体の討伐が完了した。

 

 To be continued

 

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