〈Infinite Dendrogram〉 死して立ち上がる者   作:ベトベトー

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第六話 霧の中の魔物

 □【闘士(グラディエーター)】ルーツ·ハイドレンジ

 

 「ヴォル、大丈夫か?フラフラしてるぞ」

 「問題ねぇ。それよりルーツはこいつを見張っててくれ。どうにか逃げ出そうとするかもしれねぇからな」

 

 全身を蔓でがんじがらめに締め付けられたモルジアナには意識が無かった。HPの減少によって【気絶】しているらしい。

 

 『ルーツ、やっぱここで殺そうよ。オレ達に復讐に来るかもしれないんだぜ?』

 「殺したら余計恨みを持たれるだろうよ。デスペナは三日間だからな。僕達には三日後のことかもしれないが、コイツにはつい一日前のことになるんだ」

 

 足を踏んだ方は覚えてなくても踏まれた方は忘れない、と言う。面倒ごとは避けれるなら、避けるに越したことはない。

 

 ミノムシみたいになったモルジアナを脇に抱え、台地の外へ向かう。道中、ティアンの冒険者に出会ったが〈エンブリオ〉の紋章を見せると「マスターなら問題ない」とあっさり納得してくれた。

 

 僕が思うにマスターは同じ人間として見られていない節がある。殺しても三日後には蘇る、得体のしれない力(エンブリオ)を使うなどなど。考えてみればこの世界の理から随分逸脱した存在だ。

 それゆえ多少の無茶も、マスターなら、と許容されてしまうのだ。

 そんなことを考えているとモルジアナが起きた。

 

 「むがー! 何で全身ぐるぐる巻きなんです!? ひどいです!!」

 

 起きて早々僕達に非難の声を浴びせてきた。ひどいのは僕ではなく、盗賊行為をした彼女だろうに。

 

 「ヴォル、モルジアナに猿轡をしてくれ。うるさすぎる」  

 「鬼ですか! こんなかわいい女の子に猿轡をするなんて!?」

 「顔隠してるだろ。お前は台地の入口あたりに置いていくからな」 

 「そんなぁ……」

 

 脱力して哀れっぽく見せようとしても無駄だ。蔓を解いたら何をしてくるか分からない。絶対に解かないぞ。

 

 「例えお前がゴブリンに襲われようとな」

 「あたし何されるんスか!?」

 

 ギャーギャー喚くモルジアナを抱え歩いると、何処からか叫び声が聞こえた。

 騒いでいる奴がいたので聞こえにくかったが、ヴォルも聞こえたようだ。

 

 「なんだ今の声……?さっきのティアン達が去っていった方から聞こえたぞ」

 

 ヴォルの声には彼らを案じるような響きがあった。

 だが聞こえた声は、人間のものでは無かった気がする。少し曖昧だがあの叫び声は鳥の鳴き声に近かったような。

 ハゲワシかなんかがモンスターに襲われたか。

 それに鳥と言えば――

 

 「【ライトニング·ロックバード】がいないな……」

 

 上空を優雅に飛び、モルジアナを気絶させたモンスターの姿が見えない。さっきまで僕達を監視するように飛んでいたのに、今はその巨体を何処に隠したのか。影も形もない。

 

 ひょっとするとティアンの冒険者達があのモンスターを狩ったのかもしれない。そう考えれば辻褄が合う。

 大して強そうに見えないパーティだったが、きっとそうに違いない。

 

 「ふふん、なあ多分だけど謎は解けたぜ。あの声はな――」

 

 『ルーツ、あそこ!!』

 

 せっかく謎解きをしてやろうと思ったのに、ネフティスに遮られた。文句を言ってやろうと思い、ネフティスの指差す方を向いて――凍りついた。全員の表情と動きが凍りつく。

 

 「……俺も謎が解けたぜ、ルーツ」

 

 ヴォルがボソリと言う。謎が解けたも何もない。

 

 答えはそこに示されていた。

 

 目線の先には【ライトニング·ロックバード】の姿が見えた。巨岩が多く連なるこのナジェダ台地でも一際巨大な奇岩。細く切り立った岩の上にそれはいた。

 

 ただしその翼は半ばで喰いちぎられた姿で。

 頭部はドロドロに溶け、雷を宿していた眼は眼窩からはみ出している。

 

 「GRRRRAAAAAA!!!」

 

 巨鳥が光の粒子となって消える。巨鳥を殺した下手人――人ではない――が威嚇音とともにその岩を滑り降りる。

 

 「なんで、なんでこんな場所に純竜級がいるんス

か!?」

 

 岩からゆったりと降りるそのモンスターには【アシッド·キング·スネーク】と表示されている。名前のからしてボスモンスターだろう。巨大な蛇、そんな馬鹿みたいな感想しか出てこない。

 

 唐突な出来事に反応が遅れた。何をしたらいい、最優先は何だ?思考ばかり先回りして体は動かない。

 

 ヴォルが叫ぶ。

 

 「走れ、逃げるぞ!!」

 

 その言葉が体の縛りを解いた。

 怪蛇に背を向け、脱兎のごとく逃げる僕らの後ろから叫び声が聞こえる。何の声だ、と推測しかけてすぐに思い出す。

 

 ティアンの冒険者だ。僕らよりも彼らの方が非常に危険な場所にいる。

 

 「助けに行こう!」

 

 僕と同じ考えに至ったヴォルが足を逆の方向に向ける。

 

 「待て、何か来る!!」

 

 怪蛇の降りたあたりから煙がのぼっている。

 いや煙ではない、霧だ。

 濃霧はあっという間に台地の包み込んだ。そして霧に包まれた瞬間、皮膚が泡立ち、沸騰したかのような感覚に襲われる。

 

 「ゴホッ、これ!体がっ!」

 「ヴォル、来い!!」

 

 【溶解毒】と表示されている。その名が示す通り体を溶かす毒のことだろう。まわり草木が音を立てて溶けている。状態異常を付与しているのは、この霧に違いない。

 

 痛覚をオフにしているから痛みはない、だが呼吸が出来ない苦しみはある。少しでもこの場所から離れるため、二人を引っ張って外を目指して走る。 

 

 その時、抱えられたモルジアナが安堵の声を出した。場違いなまでに落ち着いた様子で――

 

 「――ああ、これなら大丈夫っスね」

 

 と言った。

 

 ◇◇◇

 

 五人の冒険者が地を這い、少しでも霧から離れようとしている。辺りに蛇の姿はない。なら今のうちだ。

 

 「大丈夫か!」 

 

 皮膚は爛れているがこれならまだ治せる範囲だ。ポーションを無理矢理飲ませる。

 

 「アス、癒やせ」

 

 モルジアナの〈エンブリオ〉であるアスクレピオスは咬んだ相手の状態異常を無効化できる。無効化できるのは、過去にモルジアナ自身が罹った状態異常のみ。

 

 「色々な状況に備えて準備してたんスけど、それがこんな風に役立つとは思いませんでしたねー。それとヴォルさん、約束は守ってくださいよ」

 「分かってる。お前も守れよ?」

 

 僕とヴォルはモルジアナと契約を交わした。口約束だが。

 僕達はモルジアナが治した人一人につき一万リルを支払い、それとは別に治した者からも謝礼を貰う必要がある。その代わりにモルジアナは霧の中で見つけた者はみな治す必要がある。

 

 「これでかんりょー。次は――」

 

 ポーションを飲み、怪我が治った男が決死の形相で言う。

 

 「逃げろッ、近くにヤツが居るぞ!!」

 「GGYYRRRAAAAAAA!!」

 

 濃霧の中から怪蛇が飛び出してくる。モルジアナを突き飛ばし、間一髪のところで攻撃を避けた。

 避けた時に牙が肩を掠めた。その部分が音を立てて溶ける。

 

 「先に行け!!」

 

 助けた冒険者達が死んだら元も子もない。そしてモルジアナがいなければ人を助けることはできない。

 だったら、ここは僕がやるしかない。

 

 怪蛇は鎌首をもたげ、逃げる獲物に向けて突進をする。丸太のような体が一筋の光閃となり、大地を抉り進む。

 

 「させるかァ!!」

 

 メイスで頭部を殴り、軌道を逸らす。

 反動で3メートルほど吹き飛ばされるが、問題ない。直線的な軌道故にタイミングさえ合わせれば傷も最小限で済む。

 

 『霧の効果と範囲にリソースのほぼ全てをつぎ込んでるんだ。そのせいで大したステータスじゃない』

 

 ネフティスの言う通りなら、僕達にも十分勝ち目はある。例外的に高い防御力はスキルを使用して対抗すればいい。

 

 『スキルを使うのか?』

 

 ああ、使わなきゃ負ける。そうなったら次はあいつ等が狙われる。それはなんとしても避けたい。

 目の前の怪蛇を睨みつける。冒険者達を見つけれたのはコイツが止めを刺さず、助けに来た者を喰らうための罠として利用したからだ。

 

 『正直、オレはモルジアナの言い分の方が正しいと思ってる。何処かの誰かを助けるために自分が死ぬのはおかしい』

 

 かもな。じゃあ時間稼ぎに徹するべきか?だけどお前はそうは思わないだろ。

 

 『そうだね』

 

 ネフティスは肯定した。

 

 『たかだかデカイ蛇一匹を前にしてスゴスゴ引き下がるなんて馬鹿馬鹿しい。倒すぞ、ルーツ!』

 

 獲物に逃げられた苛立ちか、唸り声を上げ体を鞭のようにしならせ叩きつける。避けられず岩肌に叩きつけられる。体は岩にめり込み続く連撃を正面から喰らう。

 

 「GGGYYYYAAAAAA」

 

 邪魔者を片付け、必死に逃げる獲物を追うため体の向きを変える。

 

 だから、死んだ筈の邪魔者からの一撃を避けれなかった。

 

 「ラアァッ!!」

 「GGGAAAAAAAAAAAA!?」

 

 頑強な鱗が破壊され、肉が露出する。

 

 「行くぞ、ネフティス!」

 『ああ、絶対に倒せ』

 

 人相も分からないほど包帯を巻かれたミイラ男が怪蛇の前に立つ。格は圧倒的に蛇の方が上だが男には怖れは見えない。ただ、自然体でそこにいる。

 

 『例え、死んでも、だ!』

 

 To be continued

 

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