〈Infinite Dendrogram〉 死して立ち上がる者   作:ベトベトー

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第七話 抗う死者

 □【闘士(グラディエーター)】ルーツ·ハイドレンジ

 

 跳躍し、怪蛇の頭部を殴りつける。メイスでどれだけ殴ろうと傷一つつかない頑強な鱗が砕け落ちる。

 

 「その程度か!?」

  

 激昂し、突進してきたところをかち上げる。下顎を捉えたその一撃で蛇の頭がかっ飛ぶ。無防備に腹を見せた怪蛇に容赦なく続く連撃を叩き込む。

 

 「GRAAAAAAA!?」

 

 肉が抉れ、返り血で全身が紅く染まる。

 体が思考よりも速く動く。視界にあるものを手当たり次第に殴る。怪蛇の反撃、それを避け懐に潜り込む。

 悲鳴を上げて怪蛇が後退する。だが、怪我の影響からかその動きはぎこちない。

 

 『ルーツ、あと七分!それまでに決着をつけるぞ!!』

 「ああ!」

 

 距離をとって態勢を立て直した怪蛇は、攻撃の構えを取る。鎌首をもたげ、頭部を不規則に揺らし射線を特定させないようにする。

 僕には物理耐性があるし、多少の衝撃ならダメージもろくに喰らわないだろう。だけど、わざわざ目に見える危険に突っ込み危機に陥りたくはない。

 

 「GRRRRREEEEEE!!」

 

 少しずつ霧が晴れてくる。ヤツが弱っている証拠だ。

 

 「目くらましだ!!」

 

 メイスを地面に突き立て、岩を掘り起こす。

 ヴォルのバフ、ネフティスのスキルにより引き上げられたSTRは少年漫画のキャラのように桁外れだ。

 岩石を野球ボールに見立て、標的に向けて打つ。

 

 「RRRRAAAAAA!」

 

 高速で飛来する岩石を避けるため、攻撃の構えを解く。だが、岩石は避けれても、その陰から弾丸の如く飛び出してくるメイスの一撃は避けられなかった。

 さらに剣を《瞬間装備》し、斬撃を浴びせた。

 

 ◆◆◆

 

 純竜級の蛇は取るに足らない羽虫のような存在に圧倒されていた。存在の格は圧倒的に蛇の方が上。

 だが、どちらが今この場を制し、上位に立っているか。それは火を見るより明らかだ。羽虫のような白いニンゲンだ。

 

 「RUUUUUUUUU……」

 

 故に怪蛇は戦い方を変えることにした。

 わざわざ真正面から力比べをせず、淡々と敵の弱点をつく。

 

 「GYUUUUUUUUU!」

 

 台地を再度、霧で満たす。防御にまわしていた意識は回避に専念させる。

 例え、毒を無効化する薬を飲んでいたとしても問題ない。何時間も、何倍も強い毒でこの台地を満たしてやろうと。

 

 もともと、これは遊びだ。同条件で争い、危機に陥る気はない。

 

 ◇◇◇

 

 体力が少しずつ減ってきている。

 

 「まだ、力を隠してやがったか……」

 

 明らかに蛇は、こちらと正面から戦い勝つことを諦めたようだ。毒の霧はより強力な毒に変化している。

 そして蛇は霧に紛れ、攻撃をするつもりもないようだ。嘲笑うように鳴きながら、攻撃を避けている。

 

 『あと三分……!くそ、卑怯者め!!』

 

 ネフティスが悔しげに呟くが、それは僕も同じだ。

 もともと、ヤツには僕達と戦う利点がない。そして、実力差も大きい。スキルの制限時間のことは知らないだろうが、このまま逃げ続ければ僕達の負けだ。

 

 「……何か策は無いか!?」

 『何もねーぜ。ヤバい、どうにかしなくちゃならねー……!』 

 

 どうする。怪蛇を怒らせ、冷静でなくすにはどうしたらいい?ヤツは僕達を格下だと思っているが侮ってはない。そんなやつを怒らせるにはどうすべきか。

 

 それは、最初と同じように予想外の攻撃を喰らわせることだ。

 

 「……ちょっと無茶するぞ」

 

 もし、予定通りいけば酷い怪我を負うだろう。一か八の賭けになるかもしれない。

 だが、ネフティスはあっさりと納得してくれた。

 

 『いいぜ!任せた。このままじゃジリ貧だからな』

 「任されたよ。じゃあ、せいぜい頑張るしかねねな!!」

 

 大地に足跡がめり込むほど強く踏みしめ、飛ぶ。自分でも制御できないほどの速さだ。

 真っ直ぐ飛んでいき、怪蛇の巨体にメイスを突き立てる。

 

 「GRAAAAAAA!!」

 

 怒りで目を見開き、激流のように強くなめらかに頭を動かし、僕の腕を噛み千切る。巨体の上を転がり落ちて、再度メイスを構える。

 だが、片腕を失った姿は弱々しい。これは演技だ。ミイラ化した状態では四肢の欠損は大した影響じゃない。

 

 そして、それはこの怪蛇も薄々感づいているだろう。物理に対する耐性、毒霧の無効化、唯一まともに通じるのは牙のみ。今ならヤツの行動もある程度予測できる。ヤツはこの絶好のチャンスを無駄にしようとは思わないはずだ。

 怪蛇が口を開けて、体を噛み切ろうとする。

 

 ――そこへ、僕は飛び込んだ。

 

 『ルーツ!』

 

 咄嗟に口を閉じようとした怪蛇の顎をメイスで強引に開かせる。ヌメヌメとした唾液と喉奥から噴きつける毒霧で包帯が溶け、ボロボロの肉体が顕になる。だが、そんなの関係ない。

 

 「これでっ!どうだ!!」

 

 メイスを滅茶苦茶に振り回す。巨大な牙にぶち当たり、そのまま砕き割る。舌が動き、口内に入った不届き者を外に出そうとするが、それは肉にメイスを突き立て耐える。

 

 「UUURRRRRUUU!?」 

 

 出すのではなく、次は舌で押し潰そうとしてくる。メイスが弾き飛ばされた。

 上下から強い圧力がかかる。片腕だけでは耐えきれず、体が少しずつ沈んでいく。

 

 『ルーツあと二分!それであっちは再発動可能!!』

 「おう!終わりだ《瞬間装備》!!」

 

 渾身の力で僅かにを開ける。残った片腕でブレイズソードを上に突き出す。僕の力と怪蛇自身の圧力で熱刃はあっさりと鱗を突き破った。そのまま剣を振り抜き、上顎を縦に切り裂く。

 

 「A!?GRAAAAAAA!!!」

 

 刃は戻され、更に怪蛇の顔から剣が突き出ては戻される。そして、喉の奥を熱刃で貫かれ、ついに絶命した。

 

 ◇◇◇

 

 霧が晴れた。さっきまでの騒乱が嘘だったのかのような快晴だ。思えば、十数分にも満たない時間だったのだ。……それにしては、色々あったが。

 

 「ヴォル君、終わったようです」

 「そうか。やったのか、ルーツは」

 

 嬉しそうにそう言って、ヴォルはアイテムボックスを私の手に乗せる。更にその上に何かが書かれた紙切れを。

 

 「何ですか、それ?」

 「俺のサインだ。これがあればお前でもアイテムを買い取って貰えるだろうよ」

 

 それはありがたい。もし、それがなければ随分買い叩かれてたでしょうから。カルディナにいくつかあるそういう店は、出処を聞かない代わりに通常の取引価格より大きく安いのだ。

 

 「そう言えばルーツさんを助けに行かなくて良いんですか?」

 「無駄だな。多分、死んでるから」

 

 どうやら、色々難儀な能力を持っているらしく、生きてる見込みは低いとのことだ。そう考えると、私のアスちゃんは素晴らしい使い安さだ。

 

 「ねー、アスちゃん」

 「アスちゃんて、滅茶苦茶安易なネーミングだな」

 「何を言ってるんですか!?ならヴォル君はなんて名前にしますか?」

 

 ヴォルはニヤリと笑って言う。

 

 「スーパーアスクレピオスだな」

 「まずいですよ、それはっ!!」

 

 ◇◇◇

 

 「あー、これで終わりだな」

 「ああ、次は止めてくれよ。こんな頻繁に死なれちゃ困る」

 「善処する」

 「善処しない人間のセリフだね、それは」

 

 また、死ぬ。でも、今度は最後を見届けることが出来たのが救いかな。もう時間だ。

 

 「ほんとに悪いな。嫌なら嫌って言ってくれて良いんだぜ」

 「……オレはマスターのやりたいようにやらせるつもりだよ。基本的にはね」

 

 言葉を切って、更に続ける。

 

 「だから、きっちりやり切ってくれたらそれで良いんだ。だから、後悔はするなよ?」

 「ああ。もちろんだ」

 

 どうにかそう返すと僕の体は光の粒子となって消えた。

 

 To be continued

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