盾斧の騎士   作:リールー

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見切り発車。


第一章 聖祥大付属高校編
第一話 チャックスへ愛をこめて


「――いやいや、冗談だろ……」

 

 笹原 顕正(ささはら けんせい)は、私立聖祥大学付属高校の1年生である。

 3年前まで男女別だったが生徒数の減少に伴って統合、共学化され、県内でも人気の高校となっている。私立だけあって設備も充実しており、各教室にエアコン、大画面液晶テレビ完備な上、1年を通して使用可能な屋内温水プール、全学年を一斉に集められる大講堂、さらに学内に建てられた図書館は市立図書館を凌ぐ蔵書量となっている。そして何より、特待生にもなれば学費が免除され、支援金として毎月『お小遣い』も振り込まれる。当然、合格倍率も年々高くなってきているのだが、顕正は必死の勉強の末見事特待生としての合格を果たした。

 

 入学から三ヶ月、もうすぐ夏休みだなー、と呑気に考えながらの下校中のことであった。

 学生鞄を片手に歩いていると、顕正の10mほど前を進む二人の女生徒の姿が見える。

 輝く金髪と、深い紫髪の二人組。顕正はこの特徴的な組み合わせを見てすぐに、同じクラスのアリサ・バニングスと月村すずかだと判別出来た。

 どちらも類稀なる美貌と、特待生である顕正と勝負出来るほどの頭脳を持っていて、入学直後から彼女たちとお近付きになろうと躍起にやっている男子生徒が後を絶たない。

 顕正が二人と会話をしたのは5月のこと、一学期中間テストの結果が発表された日である。

 二人を抑えて学年トップの成績を修めた顕正に、

 

「次は負けないわよ!」

 

 と挑戦的に言ったのがアリサで、

 

「ごめんね、笹原君」

 

 と苦笑しながらアリサのフォローに入ったのがすずかだった。

 顕正にとって勝ち負け自体はそこまで気にならない。特待生の条件である学年10位以内に入れさえすればそれでいいからだ。

 ともあれ、そんなこんなで知り合い、夏休み前の期末テストでも張り合ってくるのだろうなー、と予感していた。実際、数日前のテスト結果でその予感は的中した。

 

 

 そんな二人が視線の先にいるのだが、ただ連れ立って歩いているのなら別にそこまで気にしない。わざわざ話しかけに行くほど仲良くはないし、また二人で一緒にいるな、程度にしか思わないだろう。

 顕正が冗談だろ……と口に出したのは、その二人が強面の男三人によって無理矢理車に押し込まれている場面を見てしまったからである。

 しかも一瞬ではあったが、アリサにスタンガンのような物を押し当てて気絶させていたのも見えた。

 その時頭を過ったのは、彼女たちがただの才色兼備の学生であるというだけでなく、どちらも生粋の大金持ちの『お嬢様』であるということだ。

 まごうことなき『誘拐』の現場であり、とりあえず警察に電話をしなければ、という思いと、警察を介入させて大事にしてしまうのか、とで迷う。そして警察に連絡してまともに取り合ってくれるか、今から動き出して警察が間に合うのか。

 普通であれば警察に助けを求める、で何の間違いでもないのだが、笹原 顕正は3年ほど前から『普通』ではなくなっている。

 あー、と数瞬考え、

 

「……これも『騎士』の務め、ってやつかね……?」

 

 と、首からぶら下がっている寡黙な『相棒』に声を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月村すずかは、連れ込まれた海鳴市郊外にある廃ビルの中で思考していた。

 

(こ、このパターンは初めてだなぁ……)

 

 この少女、実は誘拐されることには慣れている。

 15年間で3回の誘拐事件に遭遇しているが、その内1回は姉の婚約者に救出され、残りの2回は自力で脱出していた。

 一度目の時は今回と同じくアリサ・バニングスと共に攫われ、助け出されるまで何もできず震えていた。

 その時から、自分の身は自分で守れるように、と『闘い方』を覚え、二度目三度目は知恵と勇気と生まれ持った能力をもって道を切り開いた。

 今回も、まだスタンガンで気絶しているアリサのことを守りつつであっても、どうにかできる自信があったのだが……。

 

「本当に、奴は来るんだろうな?」

 

「間違いない。この2人と奴が親しくしていることは確認済みだ。親友二人のためなら、あいつは必ずやって来るさ、呼び出しももう終わっている」

 

 犯人たちの会話を聞いて、ため息をつく。

 

 

 

「恨みを晴らす時が来たんだ!あの、――エースオブエースに!」

 

 

 

 これである。

 相手がただの犯罪者、普通の人間だったのであれば、たとえ拳銃を持っていても三人程度簡単にあしらえるだろう。

 しかし誘拐される時に言われたのだ。「恨むなら、エースオブエースを恨めよ。」と。

 エースオブエース、それはすずかとアリサの共通の友人、小学校時代からの親友に付けられた異名である。そしてその名は、限られた相手しか知らないはずであり、流石のすずかであっても軽率な行動を取れないような相手であることは間違いない。

 幸い、犯人たちがすずかとアリサに手荒なことをする気配はなさそうだ。あとは自分の身につけている発信機によって姉が気付き、解決策を見つけてくれることを待つばかりである。

 

 そんなことを考えていたすずかは、

 

 

「――ども、クラスメイト助けに参りましたー」

 

 

 ドアを蹴り破って突入してきたクラスメイトを見て、一体どういうことだろうと本気で思った。

 

「さ、笹原、くん?」

 

「よ、月村。助けに来た」

 

 笑顔の顕正に思わず呼びかけ、どうしてここに、と思うと同時に、まずい、と感じる。

 すずかから見た顕正は、学年でトップの成績を誇る秀才の特待生である。決して荒事に慣れた不良ではなく、基本的に物静かな印象しかない。アリサがテスト結果を見て挑戦的な態度をとっても、さらっと受け流すような人物だ。

 しかも相手が相手である。顕正が多少腕に覚えがあったとしても、相手が悪過ぎる。

 

「――っ、てめぇっ!!」

 

 突然のことに犯人たちも呆然としていたが、我に返って顕正に得物を向けた。

先端の 輝くその『杖』。そこから光の弾丸が発射される。

 

「笹原くん逃げて!」

 

 反射的にすずかは叫んだ。

 あれは、『魔力弾』だ。

 普通の人間が受ければ、ひとたまりもない代物である。

 すずかの声に反応した顕正は自身に迫る光の弾丸を確認して一瞬戸惑ったが、

 

 

「せいっ」

 

 

 右の拳で弾き飛ばした。

 

「……」

 

「……」

 

 いよいよわけがわからない。すずかも犯人たちも唖然とした。

 魔力弾を殴り飛ばした本人は右手をプラプラ振りながら、

 

「いきなり攻撃とは穏やかじゃないな」

 

 まぁ、誘拐の時点で穏やかじゃないのは分かり切っているが、と。

 

「さて、本音を言えばもっと簡単に事件解決、といけると思ってたんだが……」

 

 犯人たち三人を見回しながら首から下げた剣と盾のネックレスを掲げ、

 

「ただの誘拐犯じゃなくて、『魔導師』ってことでいいんだよな?――グランツ!」

 

『Anfang. (起動。)』

 

「騎士甲冑を!」

 

『Jawohl. (了解 。)』

 

 ネックレスから機械的な男性の声が響くとともに、顕正の足元に群青色の、頂点に円を持つ正三角形が展開された。

 

『Panzer. (装甲。)』

 

 三角形が顕正の足元から頭までを通り終わると、そこには騎士甲冑――バリアジャケットを着た顕正の姿。手には、銀と青で彩られた長剣と大盾を装備している。

 

「一応、今回が初『実戦』になるし、名乗っておこうか」

 

 右手に盾を、左手に剣を携え、心底楽しそうな笑みを浮かべながら犯人たちを見据える。

 

 

「『盾斧の騎士』笹原 顕正と、『光輝の巨星』グランツ・リーゼ。

 

 

 いざ。

 

「――推して参る!」

 

 

 

 

 

 

 





チャックスへの愛があふれた結果。





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