同期の人たち(勝手にこっちで思ってるだけですが)と比べて更新ペースが遅い…。
同期の人の更新をまだかなーまだかなーとか待っているうちに、気付いたら倍の差がついてる現状をどうにかせねば!
サユリ必死の猛攻を、なんとか捌き切った翌日の昼下がり。
普通であれば、県外からやってきたサユリを観光案内でもするところなのだが、残念ながら顕正が居を構えるこの海鳴市には、わざわざ人を案内するほどの観光名所が存在しない。精々海の見える広大な自然公園くらいだが、顕正は知人と遭遇してサユリのことを説明するのが面倒であったし、サユリはサユリで、外に出るより顕正と二人きりの家で過ごすほうが良かったので、二人でのんびりとした空気を味わっていた。
顕正が昼食に使った食器を洗っていると、ピンポーンと来客を告げる電子音が響く。
連絡のない限り、基本的に新聞勧誘や、謎の宗教団体の啓蒙しか来客のいない笹原家である。
一体誰が、と思うが、顕正は今皿洗いの最中である。中断するのも億劫で、なおかつ今日に限っては自分の代わりに対応に出せる人員がいるのだ。テレビを見つつ、皿洗いをしている顕正をチラチラ見てはだらしなく顔を歪めているサユリは、非常に鬱陶しく、そして一応は暇そうだ。
「ごめん、ユリ姉さん。悪いけどちょっとお願いしていい?新聞とか宗教とかの売り込みだったら、容赦無く断っていいから」
「う、うん!任せて!」
えへへー新婚さん、新婚さんみたいだよ!と足取り軽く玄関に向かうサユリを見ながら、小さくため息をつく。
どうやら昨夜の攻防については、深く考えていない様だ。大方、布団に入って待機していた時にそのまま寝てしまった、ということで納得しているのだろう。完全に死角をついての当て身をしたことが効果的だった。
一応今夜も気をつけていた方がいいか。
そんなことを考えながらそのまま皿洗いを続けていると、玄関から慌ただしく走ってくる足音が響き、顕正は少し不審に思った。
普段の顕正に対する暴れっぷりから、常時暴走特急の様に見えるが、その実サユリは『外面』がいい。
家族や本当に親しい友人以外には、嫋やかな大和撫子然とした対応を心がけているのだと、サユリから聞いたことがあるし、基本的に顕正が絡まなければサユリは完璧超人と言っていい。スペック自体は非常に高いので、大抵の問題は卒なくこなすのだ。
そんなサユリが、家の中を慌てて走るような相手が来たのかもしれない。
そう思うが、顕正には家を訪ねて来るような人物で、サユリが対応に焦る相手に心当たりがない。
普段家を訪ねて来る一番の候補は高校の友人たちだが、彼らには親戚が来る、と伝えてある。その状況で来るとしたら、先に一報入れて来るだろう。
次に候補になるのは、アリサとすずかだ。
実はこの二人、何度か笹原家に遊びに来ている。が、それはテスト前の勉強会であったり、二人が旅行に行った後の土産を持ってきたときだったりと、頻度は然程多くない。そしてその二人が来たところで、サユリが騒ぎ立てるとは思えない。まず間違いなく、一目で胸のサイズを確認して優越感に浸っているだろう。そして前者以上に、来訪するならば必ず一報入れてくるだけの礼儀は持ち合わせている。
それくらいしか候補がいないのだ。考えても分かることではない。
そんな思考をして待っていると、サユリがキッチンに飛び込んできた。
「け、けんちゃんけんちゃんけんちゃん!大変!大変だよ!」
あわあわと落ち着かない様子で名前を連呼しているあたり、相当混乱しているようだ。
「まあまあ、落ち着いて。何?誰が来たの?」
努めて冷静に問うが、それでもサユリは混乱状態から抜け出せない。
「お、お……!」
「お?」
「――おっぱい」
「…………」
気が狂ったようだ。
昨日の当て身によるダメージが、遅れて脳に深刻な影響を与えたのかもしれない。
「ユリ姉さん、病院だ。病院に行こう?」
「頭おかしくなってないよ!ほんとだよ!?ほんとにおっぱいだよ!おっぱい魔人だよ!」
どこのセクハラ親父の妄想だ、とツッコミを入れたいが、とりあえず話が進まないし来客の存在は間違いないので、皿洗いの手を止めて玄関に向かうことにした。その間もサユリはおっぱい魔人!おっぱい魔人!と連呼している。
そうしてキッチンから玄関に続く廊下に出たが、玄関でなんとも言い難い表情で所在無さげに立つ人物を見て、サユリの発言に納得がいくと同時に、なぜ彼女が、と疑問も覚えた。さらに言えば、確かに彼女には連絡先を教えていなかった。来訪の連絡の入れようがなかったのだろう。
彼女はどうやら先ほどからおっぱいおっぱい騒いでいるサユリの声が聞こえて居たようで、何処と無く普段の凛とした空気が消えている。
憧れの人物のこんな妙な顔は見たくなかったが、しかしそんな理由で礼節は軽んじるわけにはいかない。まぁ、訪問して早々におっぱい魔人呼ばわりされて今更だとは思うが。
「――お久しぶりです、騎士シグナム。どうぞ上がって下さい」
「あ、あぁ。邪魔をする……」
シグナムから返事はあったが、ひとまず顕正の後ろで騒ぎ続けるサユリを黙らせないといけないようだ。
おっぱい混乱状態に陥ったサユリを再起動させ、シグナムをリビングへと通した。
電気ケトルを使いコーヒーを淹れて、シグナムに手渡す。すまんな、と受け取り一口飲んで、よく見なければわからない程度に頬が緩んだので顕正は内心ガッツポーズした。顕正のコーヒーは、最近では喫茶店のマスターである士郎が合格点を与えられるものが出来るようになっていた。それは足繁く翠屋に足を運び、士郎から手解きを受けたお陰だろう。
しかしその反面、紅茶に関しては何故かダメだ。以前豆を切らしたタイミングでやって来たアリサに、「茶園の人に謝れ!」と凄まじい剣幕で激怒されてから練習して、少しはマシになったが、ある程度飲み慣れていると違和感を覚える味がするらしい。なお、一番ダメージが大きかったのはアリサが激怒したのを見て、席を同じくしていたすずかがニコニコ笑ったままで、顕正の淹れた紅茶には一切手をつけていなかったことである。
いつか二人を唸らせる紅茶を淹れてやる、と努力はしているが、まさか修行中の紅茶を、かの烈火の将に振る舞うわけにはいかない。自信のあるコーヒーを出して正解だったようだ。
「――それで、き……シグナムさん、今日はどうしてまたウチに?」
玄関でもそうだったが、ついつい慣れた敬称をつけてしまいそうになる。しかし、この場にいるのは魔法関係者だけではない。
ショックから立ち直ったシグナムは、いつもの空気を取り戻しており、『騎士』と呼んでも違和感はないだろうが、騒いでいたサユリには、夏のバイトで知り合った外人の女性、と説明している。
「あぁ、今日はコレを渡しに来た。聖王教会からだ」
そう言ってシグナムがテーブルの上に置いたのは、一枚の紙だった。
それほど大きなものではなく、ドイツ語で書かれているためサユリにはわからないようだったが、グランツ・リーゼの使う言語がドイツ語と似通っているベルカ語であるため、顕正に理解できた。
「……これ、小切手ですか?」
「そう、夏の歴史検証の賃金だそうだ。丁度休暇で海鳴に用事があったのでな。き……カリム殿から頼まれて、届けに来た」
「そういえば、カリムさんが言ってましたね。わざわざありがとうございます」
顕正は、ミッドでの口座をまだ作っていなかったので、現地での観光に使う費用として幾らか前払いしてもらっていたが、残りの金額は専門家の意見を聞いてから算出するため、後で使いの者に届けさせる、と言われていた。丁度良いタイミングでシグナムが地球に行くことを知って頼んだのだろう。
かの烈火の将に『おつかい』をさせるとは、と思いつつ、顕正も普段はただの高校生だ。渡された小切手の金額が気になって、チラッと確認した。
(一、十、百、千、万……まぁ、ちょっともらい過ぎ感はあるけど、ありがたいかな)
顕正が聖王教会でした仕事と言えば、カリムとお茶しながらの気軽な歴史検証だ。バイトというには簡単な作業であり、賃金自体にはそれほど期待していなかったのだが、恐らく教会側が多少色をつけてくれたのだろう。
金銭以上に貴重な、現役騎士たちとの修練という経験が得られた夏の旅、と考えていた顕正には、嬉しい臨時収入といえた。
これは聖王教会にまた恩が出来てしまったかと、なんとなく教会との繋がりに思いを馳せながらコーヒーを飲み、
「……」
ふと重大な落とし穴の存在に気付き、顕正の背中に嫌な汗が出る。
「……あ、あの、騎士シグナム?」
「……なんだ?」
震える声でシグナムに問いかければ、顕正の反応を予想していたように落ち着いた反応を見せた。ちなみにサユリは話に口を挟まず大人しくしているが、顕正が何に対してそんなに焦っているのか分からず、キョトンと首を傾げている。
「……この小切手、金額の頭に『¥』じゃない記号がついている気がするのですが……」
「……そうだな」
やはりそこに気が付いてしまったか、とシグナムがため息をついているが、顕正はもはや気が気ではない。
顕正が気付いたその記号。
普段見慣れないそれは、ヨーロッパ市民の重みを象徴したギリシャ文字の『ε』、ヨーロッパの『E』に、安定性を示す交差した平行線を入れた、通貨記号の一つだ。
ダラダラと冷や汗が背を伝う感覚と、今朝ニュース番組で見た為替相場が頭をよぎる。
「ユ、ユーロですよねこれ……!?」
そう、顕正が少しもらい過ぎ、と判断したそれは、日本円に換算すれば学生に相応しくない金額に相当する。
「受け取れませんよこんな大金!」
少し、どころではない。普通に考えて、大きくもらい過ぎ、にしか思えない。
そう言ってつき返そうとしたが、シグナムに止められた。
「まぁ、落ち着つけ。……私は詳しくないが、これが歴史的な価値を考えた場合の相応の金額だそうだ。古代ベルカの、それもほぼ欠損のない確かな歴史記録なのだぞ?これだけの金額になるのは当然らしい」
「それはそうでしょうけど……」
なるほど、そう言われればそうだ。地球でも、遺跡で発掘される歴史的な遺産は非常に高値がつく。それを考えたら、まだマシな金額に思える。
「し、しかし、これを丸々受け取ることは出来ません!……た、滞在費!自分が聖王教会に滞在していた時に掛かった費用を引いて下さい!」
あまりに金額が大きい。そのための、少しでも額を減らそうという顕正の交渉は、正に悪あがきでしかなかった。
「それはもう差し引いてある。ついでに言えば、稀にある、一般人が現役騎士に稽古を付けてもらった際の『月謝』の分も引いてあるそうだ。こうでもしなければ、お前が受け取らないとシスター・シャッハが進言してな」
「な、なんという……」
項垂れる顕正。顕正の性格を読んで、しっかり逃げ道を塞がれていたのだ。ここまでされてはぐうの音も出ない。
「確かに、学生の身分のお前には不相応な報酬かもしれないが、ミッドで考えればそれほど不思議なものではない。お前の年齢であれば、既に社会に出ていてもなにもおかしなことではないからな」
ひとまず顕正が受け入れる態勢になったのを見て、シグナムが追撃を掛けた。
シグナムの言う通り、ミッドは就業年齢が低い。日本でまだ学生の顕正だが、ミッドなら既に働いていてもおかしくない。一人前の『大人』として見てしまえば、金額は大きいがただの『正当な報酬』だ。
結局、気にしているのは顕正だけで、しかもそれを気遣って天引きまでされている。
受け取るしか道はないのだろう。
仕方が無い、と一つため息をつく。
「それに、どうしても納得出来ないのであれば、教会に入ってからその恩を返せばいいだろう」
「っ……そう、ですね」
現状で考えても埒が明かない、そう考えてのシグナムの発言だったが、顕正からの返答は歯切れが悪かった。
その反応でもしやと、
「笹原、――迷って、いるのか?」
鋭い眼光と共に、シグナムが問う。
「……」
それに、顕正は答えられず俯くしかなかった。
「……そうか」
シグナムは顕正の反応を見て、そしてチラリと、二人のやり取りについて行けていないサユリを見てから、決心したように言葉を紡いだ。
「笹原。……続きだ」
「え?」
唐突な、その言葉で、俯いていた顕正が顔を上げる。
「あの夜の『続き』をするぞ」
それは、確かに顕正の中で燻っていた思いに、決着を付けるためのものだ。
シグナムは燃えるような熱を宿したその瞳で顕正を見つめ、宣言した。
「『剣の騎士』八神 シグナムと、『炎の魔剣』レヴァンティンが――」
一息。
「――『盾斧の騎士』笹原 顕正と、『光輝の巨星』グランツ・リーゼに決闘を申し込む!」
前半はユリ姉さんによるスーパーおっぱい祭り。書いててすごい楽しかった。
オリキャラは動かしやすくていいです。余計な背景がないから、つじつま合わせる必要がないしね!
一応、予定ではもう一人くらいヒロイン級のオリキャラが追加されます。
……そろそろ、あらすじとタグを更新しようかなぁ…。
あ、あと、最近感想返ししてませんけど、全部読んでます。
最初のころは全部返信してたんですけど、あまりに皆さんが核心をついてくるので返事書けないなこれ、っていうのが多くなって、完結するまでは感想返ししないことにしました。申し訳ありません。
その代わり、返せる質問はあとがきにてお答えしようと思います。
では質問返しのコーナーを。
Q:グランツもオーバーヒートするの?
A:します。作中で長期戦が出てないのでまだ判明していませんが、そのうち書きたいです。
Q:従姉もデバイス持ってたりする?
A:笹原家に伝えられていたデバイスは、グランツだけです。
Q:グランツのAI高度過ぎない?
A:なのは世界におけるアームドデバイスのAIの程度が分からないので明言はしていないのですが、グランツはインテリジェントデバイスよりは知能は低いですが、非人格型ではないのである程度受け答えや一定のアクションは可能です。騎士育成に関しては、そういうプログラムが前から仕込まれていました。
Q:顕正の騎士甲冑ってどんなの?
A:モンハンの「アロイ装備(頭無)」みたいな甲冑を装備します。なお、一度感想返しで触れましたが、グランツ・リーゼの外見は「近衛隊専用盾斧」を採用しています。銀と青で、お揃いです。
Q:お姉ちゃんヤバ過ぎ…。
A:ここまでヒかれるのは予想外。作者的には「ぶっ飛んだブラコンお姉ちゃん」はこれくらい当然のものと考えていました。
Q:どんなエロゲーやってんの?
A:普通です。普通のエロゲーです。しいて言うなら女装主人公ものが大好きです。
では、また次回。……こんなにあとがき書いたの初めてだよ…。