盾斧の騎士   作:リールー

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 バトル回。
 やっぱりバトル書くのが一番楽しいね!


第十八話 撃槍の騎士

(――どうしてこうなった……)

 

 いつもであればおおよそどんな相手だろうと、共に技術を高め合える模擬戦となれば心躍らせる顕正だったが、流石に今回ばかりは勝手が違った。

 去年の夏から幾度となく訓練に精を出した、聖王教会本部内の修練場。

 今日から正式に貸与された、白黒をメインに使った騎士服を見に纏った顕正の前に立つのは、これから共に研鑽して行く同期入団の少女――プリメラ・エーデルシュタインだ。

 彼女のキッと睨みつけるようなエメラルドグリーンの瞳は、ぶれることなく顕正を見ている。

 

 再度思う。

 どうしてこうなった。

 

 

 

 ことの始まりは、騎士団入団式を終えて、荷物整理などのために今日の残り時間が自由になったため、たった一人の同期へ声を掛けたことである。

 すみれ色の長い髪をローツインテールに纏めた、恐らく年下であろう少女は何故か顕正の事を凝視して動かなかったため、自分から友好の意を示す握手をしようと右手を伸ばした。

 

「――同期入団の、笹原 顕正だ。これからよろしくな」

 

 と、年下相手なので威圧感を感じさせないように笑顔で口にしたのだが、バシッと、その手が振り払われ、

 

 

「貴方に決闘を申し込みますっ!!」

 

 

 という口上が、少女の口から飛びたしたのである。

 

 

 

 

 そこからの展開はあっという間だった。

 偶然近くを通りかかった騎士がカリムへと知らせ、呼び出されたカリムがニコニコしながら、

 

「いいでしょう。決闘――いえ、模擬戦を認めます。お互いに実力を知っておいた方が、今後のためになるでしょうし」

 

 などと言い始めたのだ。

 しかも続けて、負けた方は一週間朝から修練場の草むしりをしてもらいます、と言えば、騒ぎを聞きつけて集まった騎士達がわいわい盛り上がり出したのでもう収集がつかない。

 

 なぜいきなり少女――プリメラから決闘を申し込まれたのか、理由についてなんの心当たりがない。

 目鼻立ちのハッキリとした、街行く人に問えば、10人が10人美少女と形容するだろうこの少女とは面識がなく、出会ってから無礼を働いた覚えもない。

 そもそも生粋の魔法文明人であろう彼女と、この一年間で数回しかミッドを訪れたことのない顕正だ。接点が全く思いつかないのである。

 はぁ、と溜息をつき、これも経験の一つだと割り切ることにした。

 

「――グランツ、甲冑を」

 

『Jawohl. Panzer. (了解。装甲。)』

 

 ネックレスの形をとっていた相棒に声を掛ければ、足元に展開したベルカ式魔法陣が頭まで通過。頭を除く全身を保護する鈍色の騎士甲冑、そして右手に大盾、左手に長剣が装備された。

 前方を見れば、プリメラも準備を終えている。

 

(……短めの槍に、軽装甲のバリアジャケット。シスター・シャッハと同じような、高機動型か?)

 

 魔導師の身を守るフィールド型の汎用魔法、バリアジャケットは、見た目の設定がある程度自由なので個性が出やすい。

 基本的にはどのような見た目であっても特段防御力に影響があるわけではなく、極論を言えば、ブーメランパンツ一枚のバリアジャケットでも問題はない。

 しかしそれはノーマルの術式であり、実際には使用する魔導師の適性や、内包された術式が異なるため全てが同じではない。

 例にあげるならばなのはとフェイトで、なのはの術式はオーソドックスだが適性的に一般的な魔導師よりも硬い防御を持っており、フェイトの術式であれば、防御用のリソースの幾分かを空気抵抗軽減、加速術式補助に回しているため、所謂『紙装甲』になっている。

 そういったものは主にイメージから編まれるので、見た目にも反映されやすく、なのはは丈の長いスカートで足を隠す、白い制服の様な堅固な見た目になっているし、フェイトは風ではためくマントが印象的なバリアジャケットだ。

 顕正のバリアジャケットが正に騎士甲冑、といった見た目なのも、本人の『騎士とはこうあれかし』という思い故である。

 プリメラの甲冑は全体的に金属質な装甲の少ない、騎士服にアクセントとして装甲がついている程度の、カジュアルなバリアジャケットだ。

 どっしり構えるのではなく、スピードによって攻め立てる強襲戦を得意としている様だと顕正は判断し、

 

(……やっぱり、闘うことが嫌いじゃないんだよな、俺も)

 

 つい先ほどまで突然の模擬戦に頭を抱えていたはずが、もう相手のバトルスタイルの分析を始めていたことに気付く。

 なんだかんだ言っても、自分は闘いを楽しめる。

 それを思い出してしまえば後は簡単だ。

 相手は未知数とはいえ、騎士名を与えられた、自分と同じ『騎士』。相応の実力は持っていることだろう。

 ならばやることは、全力で闘うのみだ。

 

「『盾斧の騎士』笹原 顕正と、『光輝の巨星』グランツ・リーゼ!」

 

 名乗りを上げれば、相手もこちらを見据えて返してくる。

 

「……『撃槍の騎士』プリメラ・エーデルシュタインと、『貫き返るもの』ガングニール」

 

 互いの名乗りが終われば、残りは掛け声一つ。

 

(さぁ、始めようか騎士プリメラ!)

 

 いざ、尋常に、

 

 

 

 

「「――勝負っ!!」」

 

 

 

 

 剣戟の音が修練場に響き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――ど、どうしてこんなことに……)

 

 プリメラの脳内は半分それについての後悔ばかりが駆け巡っていた。

 顕正の振るう長剣を躱し、短槍による突きを繰り出しながらも、マルチタスクによって並列思考が行われているため、表情には出ていない。

 第一の失敗は顕正の手を振り払って、あろうことか決闘を申し込んだこと。

 どう考えても自分が悪い。

 いくらこの半年間目標としていた騎士が自分と同期入団の『新人』だったことにパニックになっていて、更にその相手から突然友好の握手を差し出されて思考回路がショートしていたからといって、拒絶して決闘騒ぎなど、思い返せば『顔から火が出る』を通り越して自害レベルの恥ずべき行動である。

 第二の失敗は、しばらく自分のパニックを治められず、顕正に頭を下げるタイミングを逃してしまったこと。

 あれよあれよと言う間に決闘騒ぎが正式な模擬戦として許可されてしまったが、原因を作ったプリメラが頭を下げて誤解を解けば、最低でもここまでの騒ぎにはなっていなかったはずだ。

 これも、明らかに自分が悪いだろう。

 結局今の状況は自業自得としか言いようがない。

 そして始まってしまったものはもう仕方が無いのだ。

 ならばせめて、今の自分がどれだけ出来るのかを測るチャンスを無駄にしないように。

 

(……というか、この人が同期入団だなんて、未だに信じられません)

 

 切り結びながら切実に思う。

 今のところお互いにクリーンヒットはしていないが、この時点でプリメラは顕正の技量に感嘆する。

 前に見た時よりも更に動きが洗練され、堅実な盾の防御とタイミングの良いパリィによって、こちらの攻め手は擦りもしない。逆に相手の攻撃は、軽いフットワークを活かしてポジションを常に動かしているプリメラを少しずつ捉え始めている。

 

(それでもまだ、本気になってはいないようですし……)

 

 顕正の攻めが激しくないのは、プリメラがどの程度の実力を持つのか測っているからだろう。

 相手の手札を観察し、自分にとっての脅威を読み取るそれは、魔法技術ばかりに傾倒して無防備に攻め始めることの多い若い魔導師とは違う、『戦人』の闘い方。

 だが、それはプリメラも同じだ。

 あの夏の日から、今まで以上の研鑽を積み、魔法戦闘能力だけではなく闘い方そのものを見直すことにしたプリメラは、幾人もの現役騎士やツテのある管理局魔導師から実戦的な戦闘用の思考を学んできた。

 出し惜しみするのは臆病なのではなく、長期的な目で見れば非常に理にかなった戦法なのだ。

 技や動きを知っていることは相手の隙や対処法を見つける助けになるし、逆にこちらの攻め手が相手にとって未知のものであれば、より効果的な状況を作り出せる。

 情報アドバンテージの重要性を知っているものは、自分の手札を晒さないということを、プリメラは知った。

 だからこそ、今対峙している顕正の技量を観察して驚愕する。

 一つの特殊技能も、大掛かりな魔法も使うことなく、魔法学校では傷一つ負うことのない完勝を多く勝ち取ってきたプリメラの攻撃を防ぎ切っているのだ。

 同年代の騎士で、これほどの使い手がいるなど、到底信じられるものではない。

 

(あの日見たときから力量には差があると思っていましたが、半年掛けて全く追いついた気がしません……!)

 

 だからといって、勝利を諦めるつもりはない。

 模擬戦であろうと、これは『闘い』だ。まだ手札の一つも切っていないこの状況で諦めるなど、『騎士』の考え方ではない。

 自分の手札を一つ、切ることを決めた。

 

「せっ!」

 

 顕正の繰り出してきたシールドバッシュを避けず、身体強化を増した足でタイミングを合わせて蹴り飛ばす。

 蹴りは盾を構える顕正に一つのダメージも与えないが、反動を使って壁蹴りの要領で距離を取ったのだ。

 

「む……」

 

 これまで接近戦を仕掛け続けたプリメラが離れたことを見て顕正は不審そうな顔をするが、追いすがっては来ない。プリメラの出方を待つつもりだ。

 ならば好都合、と。

 プリメラは手に持つ短槍型デバイス、ガングニールの回転弾倉に込められたカートリッジを一つ消費し、自身が得意とする魔法を発動させた。

 

「――アクセル!」

 

『Boost Up Acceleration.』

 

 ガシャリと機械的な動作音が響くと共に、プリメラの身体を髪と同色のすみれ色の魔力が包む。

 更に、もう一発。

 

「ダブル!」

 

『Boost Up W Acceleration.』

 

 二発のカートリッジを消費して行使されたその魔法は、通常のミッド式の支援魔導師が使う支援魔法を遥かに凌駕する倍率を誇る。

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

 身体高速の二段掛け。

 それにより通常時でも身のこなしの素早いプリメラは、一般人の知覚を超えた速度で顕正に肉薄する。

 移動も攻撃動作もスピードを増したプリメラの槍に、顕正の顔が渋面を作った。

 ただ早いだけではなく、今までとの速度差、そして攻め手の中で速度に緩急を織り交ぜる槍捌きに対応しきれなくなった顕正の肩に、僅かではあるが攻撃が掠った。

 

(やはりこれだけ高速化すれば、防ぎきれないようですねっ)

 

 その上動きながら、カートリッジを使わない通常の支援魔法『ストライクパワー』を併用したため一撃の重さも増している。

 自らの支援魔法での、速度と威力の底上げ。

 これが、プリメラ・エーデルシュタインの基本戦法である。

 

 

 平均よりも高い魔力量と、卓越した魔法制御能力を併せ持って生まれてきたプリメラだったが、現在主流となった魔法戦に必須扱いされている、射砲撃への適性が著しく低かった。

 その上古くから続くベルカの家系であったエーデルシュタイン家も、長い時間と血の交わりによって真正ベルカ式の適性を失い、現在ではミッド式によってエミュレートされた近代ベルカ式を扱っている。

 遠中距離戦は実質不可能で、近接においても一線級になれるかどうかわからない。近代ベルカ式でも、牽制に射撃を使うことが多いのだ。鍛え上げた槍の腕だけでのし上がれるとは、到底思えなかった。

 そんなプリメラが目をつけたのが、ミッドのフルバック要員が使用する『支援魔法』である。

 身体強化や動作の高速化、防御力の向上などを他者に与えることでチーム全体の効率を上げるその魔法を、プリメラは戦闘中に自身に掛けることで近接戦闘能力を底上げするのである。

 他者よりも優れた魔法制御能力が、ここで活きた。

 一段階の能力向上が標準とされている支援魔法を、個人で多重展開することを可能にするだけの制御が、プリメラには出来たのだ。

 デバイスであるガングニールも、専用のチューンがなされた特注品である。

 鍛えた槍術を活かす短槍型アームドデバイスに、支援魔法を補助するためのブーストデバイスの機能を一部備え付けており、更に近年実用化され始めた、全体的な火力を上げるカートリッジ機構をも搭載した、アームドブースト混合型だ。

 魔法学校中等部入学祝いとして両親からプレゼントされたこのデバイスには、プリメラたっての願いで、奥の手となる特殊機能が追加されている。

 入団前の現役騎士との模擬戦で披露したその機能は、彼女の『撃槍』という騎士名の由来である。

 

 

 プリメラの怒涛の攻めを、顕正は受けるばかりだ。

 時折攻撃の隙を縫って剣を動かすが、攻めてくるわけでもなく盾の上部に突き刺すだけだ。

 その動きを見てプリメラは、この動作が彼の攻め手に繋がる準備であると推測した。

 

(剣の柄付近にあるのは、カートリッジ機構……?それを盾に刺すという動作は、剣に溜まったエネルギーを盾に譲渡しているということですか)

 

 試合が始まってそれなりに時間が経っている。未だ防御に専念している顕正だが、そろそろ動きがあるかもしれたい。

 プリメラが顕正の動きを一つ一つ細かく観察していると、ついに顕正が構えを変えた。

 左の長剣を肩近くまで引き、力を込めている。

 今まで見たことのない構えであったが、そこから繰り出される攻撃は想像がつく。

 魔力を付与した高威力斬撃だ。

 

(しかしそれだけでは、私の防御は越えられませんっ!)

 

 力をため切った顕正の剣が振り抜かれる。

 プリメラはその攻撃を受け止めた上で反撃するため、魔法障壁を展開。

 大型トラックの衝突すら防ぐとされる魔法障壁に守られ、斬撃を踏み倒して顕正の元へ、

 

 

「『燕返し』」

 

 

 ――駆けようとしたところで、脳裏を焼いた危険信号に従った。

 

 前方へ高速で踏み出していた足を無理矢理止めてバックステップしたため、両足から嫌な痛みが走るが、そんなことはどうでもいい。

 咄嗟の判断で下がったプリメラの魔法障壁が容易く食い破られ、返す刀で腹部のバリアジャケットを掠めた。

 

(っ!あと一歩、ステップが間に合わなかったら切り裂かれていました……!)

 

 避けられたのは本当に偶然だ。

 いつものプリメラならば、些細な違和感など気にも留めずに突き進んでいた。

 魔力を纏わせた神速の二連斬撃の餌食となっていただろう。

 

(一撃目で障壁を切り裂き、そのまま返して相手に当てる二撃目。そして……)

 

 距離を取ったプリメラ目掛けて、数本の刃が飛来する。

 誘導性はないが狙いは正確で、プリメラは襲い来るナイフたちを槍で弾き、身体を捻って躱す。

 相手は射撃も出来るが、それほど得意ではないようだ。

 

(これは、むしろ好都合です)

 

 顕正が近づいて来る様子はない。

 ガングニールの回転弾倉にはカートリッジが残り4発。ここで勝負にでる。

 ナイフを避けるために駆けていた足を止め、短槍を持ち替えた。

 これまで相手を突き刺すために順手に持っていた槍を、逆手にしたのだ。

 それを見た顕正が、ギョッとしたように表情を変える。

 

(……まぁ、初見では驚きますよね)

 

 その反応に慣れているプリメラは、そのまま油断していてくれと願いながらカートリッジを炸裂させた。

 

「――全てを貫け……」

 

 手に持つ短槍にありったけの思いを乗せて、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「『ガングニール』っ!!」

 

 

 

 

 

 

 『槍』を投げた。

 

 バスンっ、と大気を引き裂きながら顕正の元へ向かうのは、プリメラが今の今まで手にしていた短槍型デバイス、ガングニールである。

 

 自ら武器である槍を、それも魔導師としては無二の武装であるデバイスを投げつけるという攻撃方法に、顕正は大いに動揺した。

 まさかとは思っていても、本当に投げるとは。

 その所為で盾の防御が一瞬遅れたものの、まだ許容範囲だった。

 槍の穂先と大盾が、ギチギチと音を立てながらぶつかる。

 ガングニールは一部の装甲を展開して、小型のブースターから火を吹き続けている。魔力カートリッジを消費することで、使用者の手を離れても継続した推進力を得ているのだ。

 しかし所詮は制御を離れたデバイス。

 顕正は盾を斜めにすることで、ガングニールの軌道を変えた。

 盾の表面を滑るように動いた槍は、顕正の背後に抜けて行く。

 プリメラの乾坤一擲の攻撃を防ぎきった顕正はそのまま彼女の元へ駆けようと走り、

 

 

 その彼女の手から伸びる『鎖』を視認した。

 

 

 

 

 

(かかりましたね!)

 

 プリメラは手にした鎖を――その先に繋がるデバイスに指示を出す。

 

 顕正の後ろに進んでいたガングニールは持ち主の命を受け、急速に反転。

 ブースターを吹かし、再度顕正へと爆進する。

 

 プリメラがデバイスを投げたのは、この攻撃を含めた行動だ。

 

 彼女が苦手とするのは射砲撃。

 しかし適性の低さの理由は、弾丸形成が不得手であるからだ。

 つまり、『弾』が作れない。

 魔力の固定化や収束などが苦手な彼女は、優れた誘導適性があっても射撃が行えない。

 それを解消するための機能が、これである。

 

 弾が作れないのだから、元からあるものを使えばいい。

 

 戦いで常に手にするデバイスそのものを弾丸として放ち、そして投げた後は石突に内蔵された鎖を伝って指示を出す。

 これによりプリメラは、使い減りのしない弾丸を手にしたのだ。

 

(さぁ、背後からの奇襲を、どう躱しますかっ!?)

 

 こちらへ走る顕正の後ろから、ガングニールが追いすがる。

 このまま行けば、彼がプリメラの元へたどり着く前にガングニールが彼を貫くだろう。

 最も、プリメラは顕正ならばそれを対処するであろうことも考えている。そしてそこからどう動くのが自分の勝利に繋がるのかも。

 

 顕正は背後から迫る短槍を、自身に到達する直前で止めた。

 長剣を槍の後ろから伸びる鎖に絡ませ、固定したのだ。

 剣や盾で弾いても、同じことの繰り返し。だから、と、高速で飛来する槍を前にして、寸分の狂いもなく鎖を絡め取るという方法を取ったが、それすらも、

 

(想定内です!)

 

 今まで模擬戦をやったクラスメイトの中にも、顕正と同じような対処をしたものがいた。

 しかしその状況を、プリメラは打ち破ってきたのである。

 

「ガングニール!!」

 

 鎖を伝って与えられた指示を忠実にこなす短槍。

 突撃とは、完全に逆の方向へ、カートリッジを消費した爆発的なエネルギーを持ってブースターを作動させたのだ。

 

 鋼鉄を容易く貫く速度のそれは、重装備の相手を『引っ張る』。

 引かれた人間はそのまま宙を舞うか、鎖に絡まったデバイスを手放すかのどちらかしかない。

 そうやって生まれる隙を狙い、プリメラは攻撃の準備に移る。

 顕正の闘い方を見る限り、剣は貴重な攻撃手段だ。

 咄嗟の判断でも手放すことは考えづらく、宙を舞う可能性の方が高い。

 そのタイミングで――。

 

(……そ、そんな……!?)

 

 一瞬、顕正の様子が静止画に見えたのは、プリメラの所為ではない。

 

 拮抗しているのだ。

 

 剣を空に運ぼうとするガングニールと、顕正の腕力が。

 ありえない、単純にそう思った。

 カートリッジを消費したブースターに、人間が腕力で拮抗するなど、冗談にしか見えない。

 

(本当に人間なんですかこの人っ!?)

 

 いくら顕正が鍛えていて、魔力による強化を受けていたとしても、人間技ではない。人がトラックが衝突して、びくともしないようなものなのだ。

 座標固定などの特殊な魔法を使っている様子もない、純粋な怪力による拮抗。

 それを成している顕正が、鋭い瞳をプリメラに向けた。

 プリメラは今、デバイスを遠隔操作していて無防備だ。

 だが顕正も攻められる状況ではない。長剣を封じられた顕正には攻撃手段がなく、先程の投げナイフ程度であれば無手のプリメラにも対処可能だ。

 

 その、想定は。

 

 

 

「――『ディバイン』」

 

 

 

 残る大盾の前面に展開された、四枚のベルカ式魔法陣によって打ち砕かれる。

 

 

 

 

 

『Buster.』

 

 

 

 

 

 群青色の極太砲撃が、プリメラを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて、翌日。

 

 

「――それで、どうして貴方まで『草むしり』をしているんですか?」

 

 模擬戦の結果は、顕正の魔力砲によるダメージで、プリメラの敗北であった。

 魔力ダメージで気絶したプリメラが目を覚ましたのは夕方を過ぎていて、騎士寮の先輩女性騎士から勝敗を聞かされた。

 ついでに敗者の義務も。

 試合が始まる前にカリムが言っていたことは冗談でもなんでもなく、これから一週間、プリメラには早朝から修練場の草むしりが課せられたのだ。

 

 そのことについては何の文句もなく、むしろ要らぬ騒ぎを起こしてしまった自分への罰として素直に受け止めている。

 問題なのは、草むしりをしようとやってきた修練場に、昨日の模擬戦の勝者、顕正が先に来ていたことだ。

 敗者を嘲笑うといった意地の悪い行為のために来ているのではなく、そして朝から鍛錬のために来ているのでもなく、プリメラと同じような運動着姿で、軍手着用済みであった。

 唖然としたプリメラに一言、

 

「おはよう、さっさと始めようか」

 

 と言ったきり、無言で草むしりを始めてしまった。

 慌ててプリメラも開始したが、どうしても沈黙に耐え切れず、質問したのだ。

 

 

 

「……まぁ、なんというか、あれだ」

 

 修練場に生えた草を鎌で刈り取りながら、歯切れ悪く顕正が答える。

 

「――二人しかいない同期なんだ。これから一緒にやっていくんだし、罰とはいえ一人で草むしりなんてさせられないだろ」

 

 そっぽを向いての言葉だったが、僅かに恥ずかしそうな表情が見え、プリメラはその時初めて、顕正が同年代の少年であることを思い知った。

 

 確かに戦闘中は完全に『騎士』のそれだった。

 しかしそれだけではなく、彼も自分と同じ人間なのだという事実が、ストンと頭に入って来たのだ。

 少しぶっきらぼうだが、こちらを思いやってくれている、優しい人なのだと。

 その認識が正しく成された時、プリメラの口は動いていた。

 

 あの、と。

 

 

「――『撃槍の騎士』プリメラ・エーデルシュタインです。昨日は、ご迷惑をお掛けしました」

 

 

 頭を下げたプリメラを見て、顕正が数瞬キョトンとなる。

 ややあって、昨日の決闘騒ぎについてだと気付いて、笑った。

 

「いや、大丈夫だ。あれはあれで、いい経験だった。カリムさんが言っていたように、お互いのことを知ることが出来たしな」

 

 まさかデバイスをあんな風に使うとは、と。

 剣を交わし、また、こうして話すことで、顕正にもプリメラ・エーデルシュタインという少女のことが少し分かったのだ。

 表情があまり変わらないため読み取れる感情は少ないが、この真面目な少女が決闘を仕掛けてきたのだから、何かしらの理由があったのだろう。

 と、そこまで考えて、結局その『理由』を聞いていなかったことに気が付いた。

 

「……なぁ、昨日の決闘、そもそもの理由は何だったんだ?」

 

 思い当たることはないが、自分が失礼な振る舞いをしてしまったのかもしれない。

 これからこの少女と共に働いていく中で、同じようなことをしてしまわないためにも、聞いておきたかった。

 

「……それは……」

 

 言い淀むプリメラ。

 その反応で、聞かなかったほうが良かったか、と思う顕正。

 

 もともと、顕正は昨日のことをあまり気にしているわけではない。

 知識のベースになっているのが、未だグランツ・リーゼからの古代ベルカ時代のものなので、当時頻繁に起こって居た決闘騒ぎと同程度にしか考えていないのだ。

 大した理由などなく、相手の力量を知りたかった、とか、なんとなく暇だったから、とかで決闘していた時代である。

 顕正の中では、決闘と模擬戦の違いはあまりない。

 そのため、理由を聞いたのはただ気になったからなのだが……。

 

「……いつか」

 

「ん?」

 

 プリメラが口を開いたが、それは理由を告げるためのものではなかった。

 

「いつか、話します。決闘の理由」

 

 今は言えない。だがいずれは、と。

 顕正は、それで構わなかった。

 

「そうか、まぁ、いつか聞かせてもらうさ。――じゃあ、改めて、だ」

 

 話しながらも続けていた草むしりを中断して立ち上がり、軍手を外して右手をプリメラに差し出した。

 え?と困惑したプリメラに、

 

 

「笹原 顕正だ。これからよろしく、プリメラ」

 

 

 昨日は出来なかった、友好の証を。

 それに気付き、同じように軍手を外し立ち上がったプリメラ。

 もう一度、今度は謝罪ではなく、友好のために名乗る。

 

 

 

 

「プリメラ・エーデルシュタインです。こちらこそ、よろしくお願いします、――ケンセイ」

 

 

 

 

 

 その笑顔は、地球の日本で美しく咲き誇っているだろう、桜と同じ色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 プリメラはすでにデレている。
 呼び捨て敬語は私のジャスティス!


 顕正君は幼馴染から教わった技を、さっそく使っているようです。中距離だとバスターあれば他は何もいらないんじゃないかとか思う。
 なお、チャックスの変形を使わなかったのは、単純に変形する隙がなかったため。変形しようと思ったら相手が槍投げてきたから割と本気でビビった顕正君。


 えー、では質問返しのコーナー。



Q:騎士がバスター覚えるとかいうチート

A:主人公が魔力砲撃覚える展開は前々から考えていました。や、だってせっかく『砲撃』っていう共通点があるんだから、使わないと、って。顕正君は『砲術王』持ちです。




Q:ヴィータが褒められてる!?

A:ヴォルケンズのなかで、一番好きなのはヴィータです。これからもヴィータさんは依怙贔屓します。ヒロインにはなりえないけどね!




Q:ガンランス!ガンランス!

A:ごめんなさい、完全に想定外でした。
  感想で言われてから、「……あっ!?」ってなりました。
  ミスリードとかそういうことではなく、自分の中で『撃槍』ときたら『ガングニール』です。

  予定では、これからもチャックス以外のモンハン武器が出てくるのは考えていません。
  他武器使いの方々申し訳ありません。この小説はチャックスへの愛でできております。



Q:素早い見習いシスターは出るの?

A:一応今作はSTSで完結の予定なのですが、もしかしたら番外編としてVividの一部やるかもしれません。これについてはなんとも…。




Q:モンスターはシャガルだけ?

A:本編にかかわらない場所で出てくる予定です。あんなことがあったなー、っていう地の文で、それらしいモンスターが。多分。





 はい、ではまた次回ー。


 あ、最近友人から勧められて、艦これを始めました。
 響ちゃんかわいいよ響ちゃん…。


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