盾斧の騎士   作:リールー

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短い…。


第四話 食い違い

「この度は、誠に申し訳ありませんでしたっ!」

 

 八神はやては全力で頭を下げていた。

 その謝罪ははやての前で困惑している顕正に向けられている。

 

「いや、まぁ、お互いに勘違いだったわけだし……」

 

 シグナムの主であるという自分と同年代の少女の本気の謝罪に、顕正はどう対応すればいいのか分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 顕正の死力の一撃が不発となってから約1時間後、顕正とシグナム、そしてはやては、今回の誘拐事件の当事者である月村すずかの家の客室で顔を合わせていた。

 先程まで、古代ベルカ知識しか持たない顕正に対し、現在の魔法文明、そして時空管理局という組織の説明がなされており、顕正もようやく常識的な魔法文化を知ることができた。

 一通りの説明を受けて管理局というのは警察的な存在であり、ベルカ戦乱期から数百年も経っているのだから、そういった自治組織があってもおかしくないか、と理解したが、古代ベルカの騎士とは既に廃れてきてしまっているという事実に落ち込んだ。

 また、顕正がどのようにして魔導師として覚醒したのか、今までどうやって過ごしてきたのかも説明した。顕正のように魔法文化の無い世界で魔導師として覚醒する例は数が少なくとも過去にあるようで、はやてにはすんなり理解された。

 それから今回の『勘違い』がどうして発生したのか、という話になり、顕正は自分側とはやて達側の話を擦り合わせて、ようやく合点がいく。

 

 

 

 まず、高町なのはからの要請を受けたはやてとシグナムは、すずかの持っていた発信機の反応を元に廃ビルに近付いた。このとき既に、顕正によって犯人達は戦闘不能になっている。

 接近する二人を誘拐犯の増援だと勘違いした顕正はすずかとアリサを逃がし、増援を引き付けるために魔力を解放。

 発信機が魔力反応から遠ざかっていることを知ったはやては、すずかとアリサが自力で脱出したものと判断し、シグナムを魔力反応の元へと向かわせ、自身は二人の保護に駆けつけた。

 顕正とシグナムが勘違いしたまま激突している時、はやてはすずかに事情を聞き、既に誘拐犯を倒した魔導師がいることを知る。

 そしてその魔導師が、強力な魔力を持つ増援を引き付けるために廃ビルに残ったことを知ったはやては、ようやく勘違いに気付く。

 慌ててシグナムに念話をしつつ現場に急行し、必殺の一撃を放とうとしていた顕正を止めに入った。

 

 

 そんな流れである。

 

 

 

 

 

「せやから、今回の件はこちら側の不手際なんや」

 

 と、まだ謝罪の姿勢を解かないはやてに対し、顕正も引けない。

 

「不手際と言っても、敵対者と意思疎通が取れないなんて当然のことだろう?そしてそれを言うなら、俺の方にも落ち度がある。良く考えもしないで二人を敵だと決めつけてしまった」

 

「落ち度って、笹原くんは他の魔導師のことなんて知らんかったんやし、しかも直前に誘拐犯と戦っとるんやから、勘違いしてもしゃあないやろ……?」

 

 はやて達管理局員と違い、顕正には魔法知識が不足している。今まで他の魔導師と会ったこともなく、初めて遭遇した相手は誘拐犯。その直後に近付いてくる魔導師がいたら、敵の増援である敵性存在だと思っても仕方が無い。

 そう思ったのだが、顕正は首を振る。

 

「相手が違えば知識不足と言えただろうが、その相手が『烈火の将』だったのだから、もっとよく考えるべきだった」

 

 

 『烈火の将』が犯罪者の片棒を担ぐなど、ちゃんと考えたらあり得ないとすぐに分かるはずだ、と顕正は胸を張って答えた。

 

 

「……笹原くんの魔法知識って、ベルカ戦乱の時代だけなんよな?」

 

 はやてがそう質問したのは、単純におかしいと思ったからだ。

 『夜天の主』 八神はやての守護騎士たち――ヴォルケンリッターは、次元世界にその名を轟かせている有名人であるが、それは『悪名』としてである。

 はやてが彼らの主となるまでの長い時間、歴代の主によって『悪道』を歩まされてきたヴォルケンリッターの将、シグナムを、これほど『善』の意味で信じる言葉を聞いたことがなかった。

 何かまた、お互いの認識にズレが生じている気がした。

 

「?あぁ、グランツの中に記録された、600年くらい前の知識だが」

 

 顕正のその言葉に、はやては一瞬思考停止した。

 600年前の記録。

 古代ベルカ戦乱の時代の、記録。

 嫌な汗が額から落ちるのを感じた。

 

「さ、笹原くん、ちょっと、……ちょっと待っててな?」

 

 辛うじてそれだけ絞り出すと、はやてはシグナムの手を掴んで客室の外に飛び出した。

 そう、何故気付かなかったのか。

 顕正がシグナムを呼称する際、普段シグナムが名乗る『剣の騎士』、ではなく、かつて闇の書の管制人格であったリィンフォースのみが使っていた呼び名、『烈火の将』と呼んでいたのだ。

 管制人格とリンクしたことのあるはやてはたまにその呼び名を使ってしまうことがあるが、一般的に知られているシグナムの名乗りは『剣の騎士』だけだ。何故、闇の書の騎士、無慈悲なプログラム体として行動していた時しか知らないであろう顕正がその名を知っているのか。

 それは恐らくグランツ・リーゼの記録が、夜天の書が幾度とない『改造』を施されてしまう、前の時代の記録だからだろう。

 主と共に旅をして、各地の魔導師の技術を収集し、研究するために用いられていた、健全であった頃の夜天の書を知るアームドデバイス。

 夜天の主、八神はやてとしても非常に興味深い存在だが、それ以上にその存在を必要とする組織がある。

 月村邸の廊下を走りながらはやては次元通信を起動し、とある事件の際に知り合った『騎士』に、急いで連絡を取った。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたんだろうな?」

 

『Unbekannt.(不明。)』

 

 はやてとシグナムが飛び出し、客室に残された顕正は首を捻った。

 しかし自分の発言がどんな影響を与えたのか理解出来ていない顕正がいくら考えても答えは出てこない。きっと自分の常識の無さが何かを引き起こしたのだろう、とは思うが、その何かは皆目見当がつかない。

 どうしたものか、と待っていると、客室のドアがコンコンコン、とノックされた。

 

「どうぞー」

 

 一人待っていても暇だし、誰でもいいから相手をして欲しいと思っていた顕正は、即座に返事を返した。ちなみに相棒であるグランツ・リーゼは話し相手にはならない。寡黙な相棒は、ほとんど単語しか発しないからだ。

 

「――失礼します、……ってあれ?笹原くん一人?はやてちゃんとシグナムさんは?」

 

 入ってきたのはこの月村邸の住人であり、今回の誘拐事件の被害者の月村すずかと、

 

「……。」

 

 先程まで誘拐犯によって気絶させられ、はやてのデバイスであるリィンフォースⅡに介抱されていたアリサ・バニングスの二人だった。

 

「起きたか、バニングス。怪我はなかったか?」

 

「おかげさまでね。スタンガンも市販品で、改造とかはしてなかったみたいだし、それ以外は乱暴に扱われなかったし」

 

 ふん、と顔を背けるアリサだったが、少し虚空に視線を彷徨わせた後、意を決したように顕正を見据え、

 

 

「今日は、本当にありがとう」

 

 

 とはっきりと口にした。

 

「……。」

 

「な、なによ、あたしがお礼を言ってそんなに意外?」

 

「いや、まぁ……」

 

 言葉を濁した顕正にため息をつくアリサ。

 まぁ、今までの態度を見てればそう思うでしょうけど、と呟き、

 

「当然、わざわざ助けに来てくれて嬉しかったってのもあるけれど、あんたが誘拐犯を倒した後、勝てないって分かってたのにシグナムさんと戦って足止めしようとした、っていうのに、本当に感謝してるのよ」

 

 勘違いでの戦闘ではあったが、アリサもすずかもシグナムの強さを知っている。顕正が決死の覚悟で挑んでまで自分たちを逃がそうとしたことを聞いて素直に礼も言えないほど、アリサは子供でもない。

 

「私からも、お礼を言わせて。笹原くん、助けに来てくれて、ありがとう」

 

 ぺこりと頭を下げるすずか。

 誘拐犯に捕まっている時、冷静に状況を把握していたすずかだったが、それでも不安はあった。顕正が助けに来るまで、すずか自身には状況を打開する策が何もなかったからだ。助けを待つしかなかった時に、本当に助けが来てくれた。それがどれだけありがたかったか。

 

 二人から感謝され、うぅ、と顕正は唸る。

 顕正が二人を助け、また強敵に敵わなくとも足止めしよう、という気持ちで二人を逃がしたことは事実である。

 

 しかしその後、シグナムと戦っている時には、

 

(……戦うのに夢中になっていて、二人のこと完全に忘れてた、なんて言えない空気になってるんだが……)

 

 本物の騎士との闘争があまりにも楽しく、甘美であったために、逃がした二人のことは顕正の頭から吹き飛んでいたのである。

 今回ははやてとシグナムが敵ではなかったからいいようなものを、本当に敵の増援であったらすずかとアリサは再度捕まり、顕正は死力の一撃を放って行動不能に陥る、というどうしようもない展開が待っていた。

 増援が二人いることに気付いていたにも関わらず目の前の敵だけに注意を向け、もう一人のことは放置して闘争を楽しんでいた顕正。

 二人からの感謝に「いや、騎士として当然のことをしただけだ。」と返したが、

 

(……まだまだ未熟者だな、俺は)

 

(『Ja. 』)

 

 内心では二人に申し訳なくて、土下座したい気分であったという。

 

 

 

 

 




ベルカ時代の歴史考察は、正直参考資料が少なすぎて適当になっています。
ここらへんはオリ設定ということでご容赦いただきたい……。
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