盾斧の騎士   作:リールー

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 また時間が空いた上に、また納得のできない内容…。
 空白期の動かし辛さは異常だと思う。




第八話 金の来訪

 顕正が聖王教会に滞在して、一ヶ月弱が過ぎた。

 

 本来の目的である歴史検証は、予定していたよりも早く終わったが、滞在期間はまだ残っている。

 この機会にとカリムから聖王教会の歴史や、魔法文明での一般知識、管理局の在り方などを、シャッハからは現代の『騎士』の戦い方として、近代ベルカ式魔法の応用法や、近接戦主体の騎士にとって厄介なミッド式の魔法対策を教わり、また、休暇シーズンを終えた教会所属の騎士達を交えた模擬戦を行うなど、顕正は非常に充実した夏休みを過ごしていた。

 本来であれば、地球で従姉の恐怖に怯えながらアルバイトに明け暮れる、という陰鬱な夏となっていたものを、自己研鑽に集中出来たし、そして骨董品レベルの記録しかなかった魔法知識を深められるなど、積み重なって改めて思う聖王教会からの高待遇に、聖王陛下様々だな、と一人呟くこともある。

 更に数日前には、多様な手続きを踏まねばならず、面倒だな、と思っていた時空管理局への『管理外世界在住魔導師』の登録も、聖王教会所属騎士の身分を、書類上だけ借り受けることで、聖王教会が身分を証明していることによって簡易な手続きで済んだこともあり、顕正の中で聖王教会への評価はうなぎ登りである。

 

 

 

 そんなある日のことだ。

 一人の少女が、聖王教会本部を訪れたのは。

 

 

 

 少女がミッド北部にあるベルカ自治領に入るのは、今回が初めてだ。

 高層ビルの立ち並ぶミッドチルダとは打って変わって、自然に溢れた光景は、少女の出身地であるアルトセイム地方を思い起こさせる。

 少し感傷に浸ってしまったが、今日は仕事に来ているのだ、と頭の中の『スイッチ』を切り替える。

 試験に合格し、執務官として勤務を始めてもう三年は経つが、たまにプライベートの時の自分と執務官の自分の切り替えが甘くなる。

 

「――まだまだ、だね」

 

『Yes,sir.』

 

 独り言のつもりで呟いたそれに反応した長年の愛機に、苦笑し、少女――フェイト・T・ハラオウンは聖王教会本部に足を向けた。

 

 

 

 

 受付にて、時空管理局のフェイト・T・ハラオウン執務官です、と名乗れば、少し予定していた時間よりは早い来訪となってしまったが、事前に連絡してあることもありスムーズに本部内に入ることが出来た。

 受付の女性から、この時間でしたらまだ修練場にいらっしゃると思います、と伝えられたため、案内図を頼りに教会騎士が鍛練に精を出すという修練場に向かう。

 歴史を感じさせる、趣のある本部内を見ながら進むと、微かに鈍い剣戟の音が耳に入ってきた。

 音のする方へ歩いて行けば、そこは訓練をするのに十分なスペースを確保された、修練場に辿り着く。

 

 

 

 数人のギャラリーに見守られながらそこで剣を交わしていたのは、トンファー状に加工された二本の木剣を持つショートカットの女性と、木剣と木盾を使用しているフェイトと同年代の少年。

 女性のラッシュに、少年は剣と盾を巧みに操ることで防ぎ、弾き、そして隙を見て盾で殴りつける。

 しかしそれは軽やかに躱され、カウンターで一撃を返される。

 当たる。

 フェイトはそう思ったが、予想に反して少年は後ろにステップし、攻撃範囲から離脱した。

 一瞬、両者共に睨み合ったまま動きが止まるが、すぐに模擬戦が再開される。

 攻め入ったのは少年で、木剣で切りつけつつ、返される打撃を盾で受け、女性の懐まで駆け抜けた。

 女性は両手のトンファーだけではなく、合間に蹴撃を浴びせて距離を保とうとするが、少年の盾に阻まれ、結局接近を許してしまう。

 しかし、せっかく近づいた少年が大きくバックステップした。その後、互いが得物を下げ、距離を取ったまま一礼したのを見て、フェイトは模擬戦が終了したことを理解した。

 

 

 

「――流石は、シスター・シャッハ。連撃の隙があっても、回避のための余力を残しているから反撃は喰らわないか」

 

「いやいや、そのシスターの連撃を堅実に防ぎ、カウンターすら素早い身のこなしで避ける騎士ケンセイも凄まじいだろう」

 

「確かに。魔法抜きの手合わせでシスター・シャッハの短距離転移がないとはいえ、あの年であの技量だからなぁ……。もう騎士ケンセイと全力で模擬戦出来るのは、教会騎士の中でもそうはいないぞ」

 

 手合わせを観戦していた若い騎士達が話し合うのを聞いて、フェイトは剣と盾を操っていた少年が、今日の来訪の目的の人物だと理解する。

 地球の日本人として一般的な黒髪に、ブラウンより少し明るい鳶色の瞳。試合を行っていた時には気迫に溢れていた顔付きは、今は日本人の学生と言われて納得する平凡なものになっている。

 

「彼が……」

 

 笹原 顕正。

 古代ベルカの技術をそのまま継承し、七月の中旬に第97管理外世界で発生した、魔導師による現地住民誘拐事件解決の立役者。ヴォルケンリッター 八神 シグナムと互角の勝負を繰り広げ、現在聖王教会にて修行を行っている若き騎士である。

 フェイトはそのパーソナルデータを思い出しながら、試合の感想を伝え合っている二人に声を掛けるために足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 このままでは失礼だと、身嗜みを整える二人を、聖王教会の来賓室で待つ事数十分。

 コンコンコン、という軽いノックが、聞こえ、どうぞ、と返す。

 入ってきたのは、シャッハと顕正だ。二人とも先ほどまでの運動着から、修道服と騎士服に着替えている。髪が少し湿っていることから、軽くシャワーを浴びてきたのだろう。

 

 

「申し訳ありません、少々訓練に熱が入り、約束の時間が近付いていることも忘れてしまいました……」

 

 お互いに軽く自己紹介を終えた後、開口一番にシャッハが頭を下げた。その横の顕正も同じようにしているのを見て、フェイトは微笑みながらやんわり返す。

 

「いえ、予定の時間より早く到着したのは私の方です。お気になさらず」

 

 その返答に、ほっとするシャッハと顕正。

 事前に面会があることを聞いていたにもかかわらず、客人の前で模擬戦に熱中していたのだ。完全に二人の落ち度であるが、フェイトの反応を見れば大事にはしないようだ。

 

「――それで、ハラオウン執務官。今日は自分に御用件との事ですが……?」

 

 顕正はカリムから、今日時空管理局の執務官が自分を訪ねてくることを聞かされていたが、その内容までは知ることができなかった。

 そしてどんな人物が来るのかも知らされていなかったため、顕正が管理局員の中で最も会話をした時間の長い、事情聴取を行った熱血管理局員を想定していた。

 しかし、目の前にいるのは暑苦しい男性局員ではなく、むしろその逆。

 黄金の如く煌めく金髪に、ルビーの様な美しい紅眼。少しだけ幼さの残る整った顔立ちは職務中であるからか真剣なもので、自分と同い年であるとは信じられない。これが学生と社会人の差か、と思ってしまう。

 しかも時空管理局の執務官といえば、顕正の少ない知識の中でも分かるほどの『エリート』だ。事件捜査や各種の調査などを取り仕切るという、難関である試験に合格者した者のみがなれる役職である。

 そんな相手が、わざわざ自分に会いに来るなど、理由が思いつかない。

 首を捻る顕正に、笑みを深めながら、

 

「今日私がここにきた目的は、大きく三つあるのですが、そのうち二つはもう済んでしまいました」

 

「……三つもあったんですか?」

 

「ええ、一つは笹原 顕正さん、貴方の人となりを確認することです。先日、聖王教会から『管理外世界在住魔導師』の登録データが届きましたが、正式に登録するには、管理局員三名以上の確認が必要になりますので」

 

 そのうち二人は、聖王教会に所属しているが管理局にも籍を置いているカリムと、カリムから要請があり、それを承認した八神 はやてのことだ。

 

「『管理外世界在住魔導師』は、基本的に魔法文明のない世界に生きる魔導師ということですから、その人の人となりを知り、魔法を不用意に使用しないか判断する必要があるんです」

 

 それを聞き、顕正もなるほどと思う。

 魔法のない世界――例えば地球で、魔法を使って犯罪行為をすれば、簡単に不可能犯罪が起こせる。しかも捕まってもすぐに脱獄出来るだろう。それを考えれば、管理局員複数名で判断するのは妥当といえた。

 

「二つ目は、まぁ、言ってしまえば勧誘です。優秀な古代ベルカの騎士である笹原さんを、可能であれば管理局に勧誘するように、とのことでしたが……」

 

 これはついでですね、と。

 

「管理局に来ていただければありがたいですが、それを決めるのは笹原さんですし、私はあくまで、聖王教会だけではなく、時空管理局も貴方を受け入れるつもりがあることを伝えるだけです」

 

 それについても、顕正は理解できる。聖王教会滞在二日目に、カリムに言われている。顕正の中でまだ確たる答えは出てないが、そのうち真剣に考えなければいけないと思っている。

 

「なるほど、二つの用件は分かりました。では、まだ済んでいない最後の一つとは?」

 

 顕正の問いに、フェイトは微笑む。

 

「最後の一つは、管理局の執務官としてではなく、フェイト・T・ハラオウン個人としての用件なので、敬語じゃなくても大丈夫ですよ」

 

 同い年ですし、というフェイトの笑顔に、顕正は自分の顔が少し赤くなっていることを自覚しながら、分かった、と返した。

 

「――それじゃ、改めて」

 

 顕正がフェイトに続きを促したところ、フェイトは椅子から立ち上がった。

 そして顕正に向かって、頭を下げる。

 

 

「一ヶ月前の事件、アリサとすずかを助けてくれて、本当にありがとう」

 

 

 ぽかん、と、どういうことか理解出来ていない顕正にまた笑みを浮かべ、

 

「私も、少し前まで地球の海鳴に住んでいてね。アリサとすずかは、小学校の頃からの親友なの」

 

 地球で起きた、魔導師による誘拐事件。そのときフェイト自身は仕事中で、別の次元世界にいた。後ではやてから事件の詳細を聞き、肝を冷やしたのは記憶に新しい。

 そして、その被害者である二人の親友を助け出してくれた『騎士』に感謝の意を伝えること。

 それこそが、フェイトがはるばる聖王教会本部を訪れた一番の理由だった。

 

 

 

 




 少し放置してたらランキング入っちゃうし、UA10000超えするし、お気に入り500件突破するしと、驚きの連続でした。
 いやほんと、こんな行き当たりばったりの始まったばっかりの小説を読んでいただき、感謝感激です。
 多くの人に読んでいただいていると思うと、こんな適当な内容で大丈夫なのかと練り直してもこのざまで、どうしてくれようかと思いますが、とにかくエタらないように頑張ります…。


 あ、バルさんが意味的にどうなの、ってタイミングで「yes.sir」って発言するのは仕様です。


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