2039年 1月16日 PM 14:43
海上自衛隊 横須賀基地 第二会議室
今年は歴史的な暖冬であり、まだ真冬であっても昼には気温が15度を超える春らしい陽気が続いていた。横須賀基地に所属する第一護衛艦隊群は1日に行われる二回の演習は昼と夜に分かれている。その昼の部の演習が終わり、演習結果の講評がされている最中にある艦娘が発言した。
「五航戦の子なんかと一緒にしないで」
その声の主は、黒髪サイドテールで周りからいつもむすっとしていると評されている空母加賀だった。かつて太平洋戦争で開戦時の日本軍の進撃の中核をなした空母、それが現代では艦娘として第二の生を受けていた。
「ちょっと、あんたこの私に文句があるの!?」
すぐさま反論したのが、緑髪のツインテールが逆立つほど興奮している瑞鶴、彼女もまた同じように二度目の生を受けた艦娘だ。
「そうよ、あなたたち五航戦では私たち一航戦、二航戦には練度がはるかに及ばないわ。一緒にいてもただの足手まといになるだけだわ」
「何を言っているの!?今日だって、私と翔鶴姉は飛龍さんを中破判定に追い込んだのよ!練度がかけ離れているわけないじゃない!飛龍さんはさっき私たちが一航戦や二航戦のようになれるって言ってくれたばかりじゃない!」
本日行われた演習は、二航戦の蒼龍と飛龍と五航戦の瑞鶴と翔鶴による実戦形式で行われた。結果は、蒼龍が小破、飛龍が中破、瑞鶴と翔鶴ともに小破判定を受け、五航戦の判定勝利となった。飛龍は瑞鶴に対して「実力がついてきたね。すぐに私たちと艦隊を組めるようになるよ」と言い、それに対して加賀が上記の発言をしたのであった。
「気付かなかったの?飛龍さんはわざと直掩機を下げていたのよ。あなたは手を抜いた相手に勝った気でいてうかれていたのよ」
加賀が淡々と説明する。
「えっ!?そうなの?私は飛龍が手を抜いていたと気付かなかったな」
蒼龍が驚きながら答える。
「本当なんですか飛龍さん!?」
瑞鶴が顔に不安を浮かべながら問う
「いや、直掩機を下げていたのは事実だけど、手加減していたわけではないんだけどなぁ」
飛龍が何かわけがありそうな感じで答える
「これではっきりしたわね。五航戦は私たちには遠く及ばない、ただの足でまといだと。今度の作戦から外してもらうように提督に進言するわ」
「そんな勝手が通るはずがない…もしかして、あなたがその身体を使って提督さんを誘惑するのかしら!!まったくいいご身分だこと!!」
「あなたがそんな貧相な身体しているひがみにしか聞こえないのだけど?」
「何を!!言わせておけば!!!」
これまで溜めてきたストレスと疲労が原因でついに瑞鶴は加賀をこぶしで殴った。加賀は一メートルほど吹き飛び、倒れた。
ついさっきまでの騒ぎが嘘のように一瞬静かになった。
だが、そのあとはそれ以上に騒がしくな
ることは言うまでもない。
「瑞鶴!?あなた何をしたのか分かっているの!?」
ことの顛末を静観していた翔鶴が動揺しながら瑞鶴に問いただす。
「加賀さん?大丈夫ですか!?」
蒼龍が加賀の下に駆け寄る。
「ええ、このくらい…なんともないわ…」
加賀が殴られたほほに手を当て答える。
「ああっ…翔鶴姉…でも、私…」
「瑞鶴さん、いくら加賀さんの方にも落ち度があったとはいえ手を出してはいけません。私は練度は努力さえすればすぐに追いつくものだと思います。この顛末は私の方から提督に報告させて頂きます」
翔鶴と同じく騒動を静観していた赤城が動いた。
「赤城さん…私…」
「分かっています。これが普段の瑞鶴さんではないことはここの誰もが知っています、もちろん加賀さんも。私は提督に寛大な処分が下されるように取り計らってきます。それまでは自室で待機しているのがいいでしょう。あと、蒼龍さん飛龍さん、あなたたちは加賀さんを明石さんのところへ連れていって下さい」
「はい」
「了解しました」
二人は加賀に付き添い部屋から退出する
「加賀さん…ごめんなさい…」
瑞鶴が出ていこうとする加賀に謝罪する。
だが加賀からの反応は無かった。
その後、赤城は瑞鶴に慰めるように頭に手をポンと置いた後、退出した。
残された姉妹二人は
「瑞鶴、何があっても私はあなたの味方よ」
翔鶴は瑞鶴を抱きしめる
「翔鶴姉…」
それに応じて瑞鶴も強く抱きしめた。
「とりあえず、部屋に戻って休みましょ」
二人の姉妹はお互いを支えるように寄り添いながら自室へと向かった
2039年 1月18日 PM12:29
海上自衛隊 横須賀基地 第一護衛艦隊群司令官 執務室前
昼の12時からの一時間は艦娘、隊員とともに基本的には昼休憩の時間であり、ほとんどが食堂で昼食をとっている。それは瑞鶴にとっては都合が良かった。昨日の事件のことで、艦娘たちから困惑と心配の両方の視線を向けられていることはわかっていた。実際、執務室に向かう道中で艦隊を組んだことがある松型駆逐艦の子が話しかけようと寄ってきたが、何も言わずにそのまま帰ってしまった。艦娘の食堂と執務室の建物は離れているので、出くわしたはのその子だけであった。恐らく、提督はそのへんの事を配慮してのこの時間だったと思う。
瑞鶴は執務室の扉を前にして、唾を飲み込んだ。
果たして、これからどんな処分が言い渡れるのか?
謹慎処分、営倉、あるいは酒保の利用禁止などを考えていた。。
まさか、解体処分ってことはないよねと自分に言い聞かせていた。
顔をバシバシ叩いて、気持ちを整えて意を決して扉を叩いた。
「どうぞ」
中から男性の声が帰ってくる。つまり提督だ。
「失礼します」
瑞鶴は恐る恐る中に入っていった。
中には提督が一人で正面に配置されたデスクで礼儀正しく座っていた。
瑞鶴は何度もこの部屋に入ったことがあるが未だに落ち着かない。
部屋の調度品は帝国海軍時代を彷彿とさせる豪華なもので揃えられていて、目を取られてしまう。そうしていると、加賀からは「落ち着きが無い」と何度か注意された。
「空母瑞鶴、ただいま到着いたしました」
敬礼しながら瑞鶴があいさつをする。それに応じて提督も敬礼を返す。
「ご苦労、まあ今回の件はいろいろと面倒だったよ」
ため息交じりに話す、年齢は50代後半に近いが白髪は無く、丸眼鏡からは若干鋭い眼光を覗かせているこの男こそ瑞鶴たちの直接的な上司、第一艦護衛艦隊群の司令官だ。名前は高崎大輔と言い階級は海将補、かつては海上幕僚監査部に長く在籍した経歴を持つ自衛隊きっての頭脳派の提督だ。冷静沈着で堅実な采配が艦娘自身からも定評があり、瑞鶴は提督というよりは、霞が関にいる官僚という印象を持っていた。また、海上幕僚監部というのは海上自衛隊の防衛計画を担う機関であり、昔でいうところの軍令部に相当する。
「この度は、私自身の身勝手な行動により、艦隊と提督にご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした」
提督は謝罪した瑞鶴にコクリと一度うなずいたあとにもう十分というジェスチャーを出した。
「なにせ、艦娘による暴行事件なんて初めてだったかたね、どう対応していくのか僕の一存では決められなかった。隊員同士なら簡単だったけど、そうはいかなかった。今回の事件を防衛省の海上幕僚監部に報告したところすぐに回答が返ってきた」
高崎提督は少し瑞鶴に目配りをさせる。対して瑞鶴はごくりと唾をのみこむ。
「その回答というのが…気分を害してしまったら申し訳ないが、君たち艦娘は人間では無く兵器であるというのが我が国としての見解だ。兵器同士の暴行事件に対する法律やルールなんて今のこの国には存在しない。よって、今回の事件に対する処分は無いというのが決まった」
実際のところ艦娘に関する法律は少ないがいくつか存在する。それはあくまで艦娘を運用する自衛隊への法律である。その中に、艦娘の取り扱いについては艦娘という特殊性から非人道的行為は禁止され、待遇に関して自衛隊隊員に準ずる処遇を受けるよう努力しなければならないといされている。文字通り解釈をすれば、艦娘も他の自衛隊員と同じ処分を受けるのではあるが、あくまで努力義務であり、必ずしも同じ扱いをする必要はない。事実として艦娘はいくつかの行動が制限されており、基地からの外出が認められない等がある。
今回は瑞鶴が起こした暴行事件は艦娘を運用してからは初めてのことであった。これまでは、艦娘による遅刻や怠慢な行為に対しては口頭で注意するなどの軽い処分がとられていたが、暴行事件となると正式に処分をする必要がある。防衛省は今後の艦娘運用に影響しかねないと考え、今回の正式な処分を見送った。
「えっ!!今回の事件は不問ということですか?」
瑞鶴は思わず驚愕し声を上げた。自分たちの立ち位置は理解してはいたが、それによって今回の事件が不問になるとは思いもしなかった。正直処分は軽い方がいいなとは心の底では思っていたが、いざ無いとなると納得いかないところがあった。
「だが、もう一つ防衛省からの指令が来ている。それが、空母瑞鶴は本日付で、第一護衛艦隊群から第四護衛艦隊群への転属が決定した」
現在の自衛艦隊は四個の護衛艦隊群(EF)を保有している。護衛艦隊群とは主力艦隊の事であり、二個の護衛艦隊(ED)よって編成されている。海上自衛隊の艦隊編成を簡単に説明すると、横須賀に第一護衛艦隊群(第一護衛艦隊・第二護衛艦隊)、佐世保に第二護衛艦隊群(第三護衛艦隊・第四護衛艦隊)、呉に第三護衛艦隊群(第五護衛艦隊・第六護衛艦隊)、佐世保に第四護衛艦隊群(第七護衛艦隊・第八護衛艦隊)と構成されている。付け加えると、護衛艦隊のうち奇数が水上打撃部隊で、偶数が空母機動部隊である。瑞鶴が所属を正式に言うと第一護衛艦隊群の第二護衛艦隊であった。各護衛艦隊ごとに、その編成の特徴から主任務が定められている。、例えば、第一護衛艦隊群の場合は海外に展開する大規模害獣群拠点を排除、第四護衛艦隊群は領海に接近する敵艦隊への即応での対処などと決められている。
また艦隊司令官についても、艦娘の運用するにあったっては基地から指令を出すだけで可能であり、先の深海棲艦との戦いで多くの将官を失い深刻的な人材不足であるため、各護衛艦隊群の司令官がその所属する両護衛艦隊の司令官も兼任することになった。この高崎提督の役職を正式に言うと、第一護衛艦群司令官兼第一護衛艦隊司令官兼第二護衛艦隊司令官とゲシュタルト崩壊寸前であるので護衛艦隊群司令官とだけ名乗っているのがほとんどである。
「これが…今回の処分ですか…?」
瑞鶴が驚き言葉を漏らす。
「いや、今回の事件とは関係ない」
提督は建前として否定する。
先述べたように艦娘への正式な処分は難しいところがある。しかし、今回の事件が何のお咎め無しでは艦娘からの不信感が出てしまう可能性があり、規律が緩むんでしまうことが懸念された。そのため、別項目として異動の辞令を下すことで実質的な処分を下すことを決断した
「…了解しました。謹んでこの度の辞令を受けます」
全てを察した瑞鶴は実質的な処分を受け入れた。
「早速、明日の昼過ぎにここから出発してもらう、それまでに別れの挨拶を済ませておくように。それと、明日の早朝カウンセリングを受けるように」
「はい」
「現第四護衛艦隊群の司令官は昔僕の部下だった人でね。優秀で人柄も問題ないから心配する必要は無いよ。それと、最後に誤解しないで欲しいが…僕は加賀とはそんな関係ではない…」
高崎提督が最後に瑞鶴から目を逸らし、ボソッと言う。
意外な返答に瑞鶴はニカッと笑って「分かってますよ」と言い、執務室を後にした。
筆者は二次創作を執筆するのが初めてであり、まだ不慣れな部分が多いです。何かアドバイスを頂ければ幸いです。