2039年1月18日 PM14:21
日本列島上空 輸送機格納庫
ヘリは自衛隊の厚木飛行場に着陸した。そのあと、輸送機に乗り換えた。ここで、瑞鶴の輸送を担当する自衛官5名ほどと合流し同乗した。
瑞鶴は輸送機はそこまで好きじゃない。民間の飛行機には乗ったことは無いが、それでも居住性の悪さは感じる。いつか、翔鶴とファーストクラスなるものに乗って旅行をしたいと思ってはいるが、今この現状では夢のまた夢である。
離陸をしてから30分ほどして機体が安定してきから、一緒に同乗している自衛官たちが思い思いの行動をしていた。小説を読む者、目を閉じて休む者、中にはスマホで国会中継をを観ている者がいてその音が瑞鶴の耳に入ってきた。
『清原総理、今回は艦娘の艦隊をインド洋に派遣すると決定しましたが何故ですか?』
『えー、今回のインド洋への派遣につきましては、インド政府からの特定害獣(深海棲艦)の駆除要請がなされたため、自衛隊法の災害派遣に基づき派遣の決定を致しました』
『清原総理、あなたは以前国民の生活を向上させる目的と周辺諸国の安全確保以外では艦娘の派遣は無いと答弁でおっしゃっていましたね?今回派遣予定のダッカ周辺はすでに国民が内陸に退避していると聞いています。そこはどうお考えですか?』
『それにつきましては、未確認情報が多く断定できないものがあります。また、ダッカはインドの要所であり、この地を人類の手に取り戻すことで日本国民の生活の向上につながるという認識であります』
『清原総理、あなたは日本・オーストラリアの航路の確保が最優先とおっしゃっていましたが、今回の派遣で遅れる可能性はあるのでしょうか?また、それによって日本周辺の防衛が甘くなるのではないのでしょうか?』
『今回の派遣とは別にすでに航路の確保への作戦は決定しております。また、日本周辺の特定害獣はすでに99%以上排除されているのでそれは考えられません』
『清原総理、艦娘は兵器だとう閣議決定がされて以来議論が全く行われていません。そもそも艦娘とは何か、特定害獣と呼ばれる深海棲艦とは何かという議論を再開してもよろしいのでは
無いでしょうか?』
『それは三年前に有識者を交えた討論で最終的な決定がでたと考えております。ヒトとはホモ・サピエンス種及びその近縁種であり、艦娘及び特定害獣は未知の原子で構成されているのためそれには該当しません。また、艦娘と特定害獣の違いにつきましては、艦娘はの人類との意思疎通が可能であり、対して特定害獣は意思疎通が不可能であることが…』
「あーっ、マジムカつく!この野党の人って批判ばっかしてて何もしていじゃん!」
瑞鶴の隣に座っていたスマホで中継を見ていた20歳前半であろう自衛官が声を上げた。
「瑞鶴ちゃんもそう思うよね?俺らは瑞鶴ちゃんたちの事兵器じゃなくて人間だと思っているからね」
その少しやんちゃさが残る若い自衛官は押し気味で同意を求めてきた。
「あっ…ええと…」
艦娘のタブーの1つが政治的な発言及び活動をすることである。それを自覚している瑞鶴はこれは政治的な発言にあたるのか考え、回答に困っていると
「この馬鹿!!余計なことをしやがって!!」
この自衛官の上司と思しき30後半であろう体格の良い隊員が、若い自衛官を咎め殴った
「痛っ!!パワハラですよっ!隊長!」
「うるせえ、自衛隊にパワハラも糞もあるか!瑞鶴さん、うちの馬鹿がこんな真似をしてしまい申し訳ありません。根はいいやつなんですが…おつむが少々悪くて…それにこの頃隊員の育成が追い付いていなくてですね…」
隊長と呼ばれた自衛官は若い自衛官の頭を手で下げさせ謝罪をしてくる
「ああ、いいんです。自分たち艦娘のことを心配していてくれてるのだなと少しうれしかったです」
「ほら、瑞鶴ちゃんはいいって言っているじゃないですか!」
「社交辞令だろ…」
年季の入った自衛官はもはや怒りを通り越して呆れていた。
そんな様子を見て瑞鶴は苦笑いするしかなかった。
2039年1月18日 PM16:24
海上自衛隊 舞鶴基地 ヘリポート
その後は特に何も無く、基地近くの飛行場に輸送機は着陸し、その後は輸送機に同乗していた自衛官の護衛の下、また、ヘリコプターに乗り換えて舞鶴基地まで移動した。ヘリコプターが着陸すると、壮年の男性が出迎えた。
「瑞鶴さん、長旅お疲れ様です。私は第四護衛艦隊群主席幕僚の梅野です」
一等海佐の階級章をつけた40代前半であろうこの男性は敬礼する。幕僚というのは昔で言うところの参謀に相当する。
「私は空母瑞鶴です。今後ともよろしくお願いします」
瑞鶴は敬礼を返し、あいさつを済ませる
その後、この梅野幕僚は瑞鶴の輸送担当者と書類をいくつか交わし、飛び立っていったヘリコプターを見送った。
先ほどまで、ローターの騒音が無くなり静かになる。
「それでは瑞鶴さん、提督が執務室でお待ちしていますのでご案内します」
瑞鶴は舞鶴についてから、最初に感じたのが横須賀とは比べ物にならない寒さだった。ここの寒さは横須賀の寒さとは質が違う、身に染みるような突き刺さる寒さを身を持って実感していた。
執務室までの道すがら見覚えのある何人かの艦娘たちとすれ違い、5分ほど歩くと執務室にだどりついた
梅野幕僚がコンコンとノックする。
「どうぞ」
今朝とは違い若い女性の声が返ってきた
「失礼します」
梅野幕僚が入室し、瑞鶴は後に続いて入室した
執務室の中にはデスクに座っている40代後半と思しき男性とその横に綺麗な黒髪ロングの女性が立っていた。
「和田司令官、空母瑞鶴をお連れしました」
「梅野くん、ありがとうございます。実は先ほど、監部から新たな指令が来ていまして、後程向かうので、先に幕僚たちを集めておいてくれませんか?」
「はい、了解しました」
一礼をし、梅野幕僚は執務室から退出した。
「挨拶が遅れてしまいましたね。私は第四護衛艦隊群司令官の和田晋太郎です。瑞鶴さん、高崎さんからはお話は伺っております。これから大変だとは思いますけどよろしくお願いします」
この和田と名乗る男性は、海上幕僚監部と護衛艦の艦長としての実績が評価され、二年前に海将補に昇進し、それと同時に第四護衛艦隊群の司令官に任じられた。自衛隊内ではどんな命令でも着実にこなす、その安定性が高く評価されている。見た目は、体格が良く若干の日焼けをしており、瑞鶴は高崎提督とは違い自衛官らしい見た目をした司令官という印象を持っていた。
「はい、本日付で着任することになりました空母瑞鶴です。今後ともよろしくお願いします」
「そして、ここにいるのが第7護衛艦隊旗艦の榛名です」
提督が横に立っていた巫女服の女性、かつては戦艦として終戦まで戦い抜いた榛名を紹介した。
「初めまして、私は戦艦榛名です。瑞鶴さん、これから一緒に頑張りましょう」
榛名が瑞鶴の正面まで寄って行き、自己紹介をして右手を差し出し握手を求めた。
「こちらこそよろしく、服装から金剛型の榛名か霧島かなと思っていたけどあたっていたんだね。横須賀にいた時は金剛と比叡と良く艦隊を組んでいたんだ」
瑞鶴がそれに応じて手を差し出して握手をする。瑞鶴は先ほどまで外にいた影響なのか榛名の手が温かく感じた。
「お姉さま方が大変お世話になったみたいで、瑞鶴さんありがとうございます」
榛名が頭を深く下げる。
「いやいや、そんなことないよ。あと頭を下げなくていいよ。むしろこっちがお世話になったというか…いい妹さんを持てて金剛と比叡は幸せだね」
瑞鶴は頭を上げるようにと榛名に促す。
「そんなことありません…榛名はまだお姉さま方には足元にも及びません…」
そんな中、執務室にノックをせず入室してくる来訪者がいた。
「提督、作戦が終わったぜ」
突然入ってきた茶髪で少しきつい感じのする釣り目の女性は提督のデスクの前まで歩み寄る。
「提督、これが今回の報告書だぜ。確認をよろしくな」
その女性は報告書らしき書類を提督に差出す。
受け取った提督は書類に一通り目を通してうなずく。
「報告書には不備が無いみたいですね。摩耶さん、お疲れ様です。明日の出撃には遅れないでくださいね」
「ん、了解、というか提督、こいつ新入りなの?見た感じ空母っぽいけど?」
「ああ摩耶さん、この方は今日からこの艦隊への着任した空母の瑞鶴さんです」
提督が摩耶に瑞鶴を紹介する。
「よろしくなっ、あたしは重巡麻耶、また船だった時のように艦隊を組もうぜ。というか、提督も水臭いぜ、新入りが来るなら早く教えてくれたっていいだろ?」
「ちょっ、摩耶あなた…敬語を使わないと提督さんに失礼なんじゃ…」
瑞鶴は思わずタメ口で話す摩耶を注意してしまった。瑞鶴も着任当初は敬語が上手く使えず加賀に何度も注意されたことがあり、とりわけ言葉使いや所作には敏感であった。
「それは別にかまいませんよ、むしろ私としては無理して敬語を使わない方が、艦娘の皆とより良いコミュニケーションが取れると思っています。だから、瑞鶴さんもしゃべりやすい言葉使いでもかまいませんよ」
提督は少し笑いながら、気楽でいいんだよとジェスチャーを交えながら語ってくる。
「だとよ、瑞鶴も敬語なんて堅苦しいものなんて使わなくていいんだぜ」
「そうなんだ…」
瑞鶴が困惑しながら答える
「すぐに慣れますよ」
榛名が微笑む
「瑞鶴さん、話がだいぶ反れてしまいましたが明日から本格的に任務に就いてもらいます。明日はまず10:00にこの執務室に来てください、紹介したい人がいます。それと、福本舞鶴地方総監は出張のため本日は不要です、挨拶は後日改めてして下さい。このあと歓迎会をと考えたのですが、今回の話が急だったもので…代わりと言ってはなんですが、今日は伊良湖で思う存分楽しんできてください、費用はこちらで持ちますので。榛名さんと摩耶さんは瑞鶴さんにこの基地の案内して下さい。もちろん、あなた方の伊良湖での飲食代を出します」
「やったぜ!提督、ありがとうなっ!」
摩耶が大はしゃぎして喜ぶ
「榛名もご一緒してもいいのでしょうか…?」
「食事は人が多い方が楽しいですからね。領収書の提出を忘れないで下さいね?」
「はい、了解しました」
「では、今日は楽しんできて下さいね」
提督が敬礼をする。それに応じて三人の艦娘も敬礼を返す。
その後三人はそのまま執務室を後にした。