港の星たち   作:太平洋の鯨

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第5話

2039年 1月18日 PM 17:03

海上自衛隊 舞鶴基地 リトルマイヅル 酒保「伊良湖」前

 

 艦娘は基地から外出することが許されていない。艦娘の安全及び機密の保持のためである。艦娘は深海棲艦に対抗する唯一の手段であり、人のサイズながら第二次大戦の軍艦と同じ戦力がある。その人という形の特性上、反社会勢力、敵対国家に誘拐されるリスクがあり、誘拐されるのが空母や戦艦といった主力艦だった場合の損失と言うのははかり知れないものがある。また、艦娘は兵器であるという政府の認識上、艦娘単独で基地からでるのは難しい。今回の瑞鶴の輸送にあたっては、専門のチームのもとで厳重に法を守った上で自衛隊の基地以外には下りず行われたものである。

 

 そんな艦娘たちの為に自衛隊は各基地の一角に防衛省共済組合が運営する複数の飲食店、アパレルショップ、カラオケ等の娯楽施設と小さな商業施設並の十数件程の店舗を用意した。もちろん、自衛隊員も利用することは出来るが基本的には艦娘が優先されている。そういった施設の一帯を艦娘たちは、リトルマイヅルなどと言った愛称をつけている。

 

「ここが洋服屋さんであそこがエステサロンです」

榛名が瑞鶴に店舗を紹介する。

「なあ瑞鶴、今度あそこのボーリング場で艦娘たちと大会を開くんだけど参加しないか?」

「ありがとう、横須賀でもボーリングを何度か遊んだことがあるからぜひ参加したいわ」

「おう!横須賀にもボーリング場があんのか、なら基地対抗ボーリング大会ってのもあったら面白そうだよな!」

「確かに面白そうね」

瑞鶴は笑って答える。確かに、所属の違う艦娘同士の交流というのは少なかった。そういった面では何か交流イベントがあれば面白のではないかと瑞鶴は考えた。

 

「ここが伊良子です。早速入りましょう」

榛名がそう言って、伊良子と書かれている暖簾を付けた、おしゃれな居酒屋風の店に入った。それに、瑞鶴も摩耶も続く

内装は40名ほどが入れるほどの広さで、喫茶店と居酒屋を足して割ったような内装だった。

既に何組かの艦娘が食事をしており、将校らしき自衛官が数名ほどいる。

 

「いらっしゃいませ」

中に入ると青っぽい黒のポニーテールをした割烹着姿の女性が出迎えた。

「伊良湖さん、お疲れ様です。こちらが本日着任した瑞鶴さんです」

「瑞鶴です。伊良湖さん、よろしくお願いします」

「話は提督から聞いていますよ、今日は瑞鶴さんのために腕によりをかけたので楽しんでいって下さいね」

伊良湖が笑顔で答え、瑞鶴たちを席まで案内する。

 

「お飲み物は何に致しますか?」

伊良湖が早速飲み物の注文を取ってくる

「あたし、とりあえず生」

「榛名も生ビールでお願いします」

「じゃあ、私も生で」

「承知いたしました」

注文を取り終えた伊良湖は厨房へ戻っていく。

 

「とりあえず生という文化って舞鶴にもあるんだ」

瑞鶴が不思議そうに言う

「横須賀にもあんのか、不思議だよな離れていてあまり交流もないのに」

摩耶が答える。

「そうですね、確か榛名が着任した当初はそんなのは無かったのですが」

三人の艦娘が何気ない疑問にうーんと頭をひねる

 

「はい、生ビール三つです」

伊良湖が注文された生ビールのジョッキを三つテーブルに置く

「あっ、伊良湖さん、少しいいですか?」

瑞鶴が伊良子に声をかける。

「いいですよ」

「今、三人で話していたんですか、とりあえず生という文化っていつから艦娘の中で定着したのか考えていたんですよ」 

瑞鶴が質問を投げかける。

「あっ、それですね、確かそれは、艦娘の皆さんがここを利用する自衛官さんの真似をしたのだからと思います。最初の方は艦娘の皆さんは最初の飲み物を選ぶのに時間がかかっていましたからね、とりあえず生の便利さに気付いて、それを真似して定着していったのだと思います」

「ああ、そうか。納得がいったぜ。おーい、お前たち!お前たちのせいで生ビールばっか飲むようになったんだぜ!責任とってこれからは奢れよな!」

摩耶が大声で離れていて飲んでいた隊員に

 

「そりゃあ、無いですよ摩耶さん」

隊員の一人は笑いながらおどける

それにつれられて、瑞鶴、榛名、摩耶、伊良湖も笑う

「すぐに、お料理をお持ちしますね」

そう言い残し再び伊良湖は厨房に戻る

 

「飲み物も来ましたし乾杯しましょうか?」

「そうだな」

摩耶が榛名に同意する

「乾杯の音頭は榛名にお任せ下さい。この度は瑞鶴さんの着任と今後の活躍を願って、乾杯」

「乾杯-っ」

「乾杯―っ」

三人はグラスを当てて、そのまま口に運び飲む

ガタンとグラスをテーブルに置いた音が響く

 

「んやっぱ、何度飲んでも仕事後のビールは最高だな!」

「そうですね、榛名もそう思います。仕事終わりというのは空腹に次ぐ最高のスパイスだと思います」

「今日、私は仕事はしてないけど疲れたわ。朝からカウンセリングを受けてそれから移動だったし」

「今日カウンセリングを受けたんですか?榛名はあれ苦手ですね…何か質問攻めで疲れます」

榛名が不満をこぼす

「あたしも嫌いだせ…面倒だから適当に答えたら怒られるしな…何のためにやっているんだろ?」

「提督に聞いたことがあるんですが、心の健康とかというのを調べているらしいですよ。それが戦闘のパフォーマンスに影響するとかで」

榛名が摩耶の疑問に答える

「くっだらねー、心の健康なんてしっかり飯を食って寝ればいいよな?」

「そうですよね、でもあれには何か別の意図がありそうですけど」

 

艦娘たちが不満をこぼしていると、伊良湖が料理を運んできた

「お待たせしました、本日はいい寒ブリが入ったので寒ブリのフルコースです。まずは、ブリの刺身とブリ大根です。そのあとにブリしゃぶとブリの照り焼きとブリの兜焼きをお持ちします。何か追加注文があれば申しつけて下さいね」

テーブルに大皿に盛られたブリの刺身と小鉢のブリ大根が置かれる。

「えっ、こんなに豪華でいいの?」

瑞鶴が予想以上に豪勢な料理に驚く

「提督が楽しんでこいとおっしゃっていたのでいいのでしょう。摩耶さん、これは上等な日本酒が無いとお料理に失礼ですよね?」

榛名が摩耶に同意を求める

「ああそうだな、伊良湖さん、一番高い日本酒を人数分持って来てくれ」

「はい、承知いたしました」

榛名と摩耶はやったとグータッチをした。

 

「うーん、このブリ最高じゃないっ!こんな美味しい魚は久しぶりだわ!」

瑞鶴はブリの刺身の美味しさについ声を上げてしまう。

「だろっ?日本海の魚は最高だぜ、これだから海を守っている甲斐があるってもんだ」

「これじゃあ、お酒が進んでしまうわね。でも、摩耶あなたは明日早くから出撃があるのにこんなに飲んでもいいの?さっき提督がいってたよね」

瑞鶴が摩耶に質問する

「大丈夫だよ、相部屋の鳥海が朝起こてくれるから」

摩耶が答える

「姉妹艦同士相部屋というのは良いですよね。榛名は旗艦になってからは霧島と

一緒にいる時間が減ってしまってさみしいですね」

「そういえば、ここの提督さんってどんな人なの?」

瑞鶴が二人に質問する

「あー、とにかくいい奴だな、采配も文句は無いし、あたしとしては特に不満は無いな」

「そうですね、榛名も艦娘のことを大事に思って下さる優秀な提督だと思います。でも、少し欠点が…」

榛名が摩耶の方を見る

「ああ、あれか…確かにあれはな…」

摩耶が若干しかめっ面をする

「あれって何よ?」

瑞鶴は提督に致命的な欠点があるのか不安になった

「それはですね…」

「それは?」

「たまに…よく親父ギャグをおっしゃる事ですね」

「はあ!?」

瑞鶴は予想外の回答に開いた口がふさがらなかった

「瑞鶴…おまえはまだ聞いたことがないからそんなことが言えるんだ。文字通り空気が凍りつくことが何度も見たことがあるぜ。あいつのおやじギャグは真冬のアリューシャンより寒いぜ。最近は減ってるけどな」

摩耶が深刻そうに答える

「でも、私はギャグを披露している時の提督の顔は好きですよ」

「ああ、やったぜみたいな顔をするよな。ドヤ顔というやつ?本当にいい顔するよな」

「…」

瑞鶴は言葉を失ってしまった。親父ギャグを言う司令官?なによそれ?と思った

 

「この話はこのくらいにしといて、何で瑞鶴は急にこっちに来ることになったんだ?」

摩耶が瑞鶴に質問をする

「ああ…その…」

瑞鶴は答え辛い質問に困惑した。正直に話すか、それとも言葉を濁すか

「あっ…わりいな、答えたくなかったら無理して答えなくてもいいんだぜ」

摩耶が地雷を踏んでしまったのかと後悔し、瑞鶴に気を遣う

「ありがとう、でもいいんだ…ここで全部話した方がすっきりするだろうし。実は数日前、先輩の空母と言い争いをしてしまって、ついカッとなって思わず殴ってしまったんだ…」

瑞鶴はいっその事話すことを決めた。ここで言葉を取り繕っても時間が経てば、そのうち噂として伝わってくる。なら、真実を全部打ち明けた方がいいと判断した。

「そりゃ、大変だな…その先輩ってやつは酷いな。少し話しているだけでも瑞鶴はいい奴って分かるのにそれを殴るまで怒らせるとか、足手まといだとか邪魔とか言ってきたんだろ?どうせ」

「いや、でも半分当たってるかも…それが原因で言い争いが起きたのだけど、直接的な原因ではないから…その、ひ…」

「ひ?」

摩耶が聞き返す

「私の事を貧相な身体って言ったの、それで気づいたら殴ってしまっていたの…」

「あはははははははははは!!!」

瑞鶴の予想外の発言に摩耶が大声を出して、テーブルをバシバシ叩いて笑う

「ちょっ…ひどいじゃない!何でそんなに笑うのよ!」

瑞鶴がついムッとする

「あはははははは…いやっ、ちょっと予想外過ぎて…わりぃ…でも、貧相な身体って言われてか…榛名もおかしいと思うよな?」

榛名は腹を抱えてうつむいて笑いを必死に堪えている。摩耶からの問いかけに対しても止めてと首を振る。

「榛名もひどいじゃない!こうなったら、死ぬほど飲んでやる!明日の事なんて知らないわ!」

「おおいいぞ!おーい!伊良湖さん、追加の酒をどんどん持って来てくれ!」

 

 

2039年 1月18日 PM23:13

海上自衛隊 舞鶴基地 艦娘宿舎 瑞鶴の寝室 

 

 あのあと、日本酒の一升瓶2本とワインを1本空けた。伊良湖から出てから三人でカラオケに行き、大はしゃぎをした。最後の方には三人とも呂律が回らなくなっていた、これは二日酔い確定ねと瑞鶴は思った。でも、こんなに楽しく飲んだのはいつぶりだろう?また機会があれば同じメンバーで飲んでみたいと思った。店を出て千鳥足の三人は宿舎まで戻りそこで解散した。

 

 艦娘の部屋割りは基本的に同型艦同士で新たに舞鶴に着た瑞鶴には二人部屋を一人で利用することになっている。舞鶴の宿舎は横須賀の宿舎とほぼ変わらない広さに部屋にベットが二つといくつかの家具が配置されている。瑞鶴は入口側のベットに腰掛けた。

いつも横を見れば、翔鶴がいた。だが、ここにはいない。

「やっぱり、一人では広いわね…」

瑞鶴は大きさは対して変わらないこの部屋をかなり広いと感じていた。同時にさっきまで飲んでいた榛名と摩耶には相部屋の姉妹艦がいることが羨ましくなった。

 

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