日の丸の軌跡   作:ホームベースの踏み忘れ

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第2話 貴方は誰

「ここは日本じゃ…」

 

彼はそう呟いて気を失った。

 

(ニホン?地名か何かかしら?でも東方にそんな地名が?)

 

事前に東方の文字が書かれた服を着用していたと聞いていたので、共和国方面の人間と考えうろ覚えの東方の地名を思いだそうとするも出てこない。

 

「ソーニャさん、申し訳ないが聞き取りは明日にしていただきませんか。ご覧の通り患者の体力はまだ戻っていません」

 

先生が患者の容態を確かめながら言う。

 

「ええ、分かりました。では彼の意識が戻りましたらご連絡下さい」

 

その後、病室の警備をしている警備隊員に声をかけてから病院の駐車場に待機させていた装甲車に向かう。

 

「お疲れさまです、ベルツ二尉。例の彼は意識を取り戻しましたか?」

 

装甲車のそばで待機していた隊員が敬礼をしながら話しかける。

 

「ええ、でもすぐに寝てしまったわ。後、私は今はベルツではなくロウです。シーカー曹長」

 

「おっと、失礼しました。ロウ二尉」

 

優秀だがどこか抜けているシーカー曹長に呆れながら、装甲車の助手席に座る。

 

「そういえばシーカー曹長が最初に彼を発見したのよね?詳しい話は門に戻ってから聴くけど、どういう印象を受けた?」

 

シーカー曹長は運転席に座ってエンジンを掛けながら答える。

 

「そうですね、最初は迷彩服を見て猟兵だと思いました。ですが、彼の装備品はどちらかというと正規軍のものに見えましたし、雰囲気も若手の兵士という感じでした」

 

「確か、服には名前らしき東方の文字が書かれていたそうね」

 

「はい、ただ東方の文字で何と読むのかさっぱりで」

 

「そう、分かったわ。さっき言った通り後で詳しい話を聴くからよろしくね」

 

「了解。…ハァ、2日後には家に帰れるはずだったのに…」

 

(確かシーカー曹長は娘さんが2人いたわね)

 

ソーニャは曹長に同情しつつも容赦なく命じた。

 

「彼が誰で、何の目的で、どうやってクロスベルに入ってきたのか、そして仲間が他にもいるのか。これらが判るまで帰ることはできません」

 

「了解…」

 

シーカー曹長は完全にショボくれてしまった。それでも安全運転に努めているのはさすがである。

 

(私もしばらくあの人に会えないのよ)

 

どうやら若干私怨の混じった命令だったようだ。

 

 

~翌日~

 

(何も分からない…)

 

ソーニャ二尉は完全にお手上げ状態であった。

 

昨日タングラム門に戻ってから病院で拘束中の彼について散々調べるも何も分からない。当初、東方の文字から共和国方面から来た可能性があるとみて、門の検問をしていた部下を聴取したが、彼の顔写真を見せても皆知らないと首を横にふった。そもそも門を通過したのか、したとしていつ通過したのかも分からない。列車で来たのであれば確認のしようがない。

 

(ここはクロスベルよ。どこからでも入れるわ!)

 

普段は考えないようにしていたクロスベル自治州の重大な欠陥に目を覆いたくなる。ここは帝国と共和国の狭間、工作員や猟兵など簡単に入れる。

 

(念のためベルガード門や警察に問い合わせてみましょう)

 

正直無駄と思うが仕方がない。

 

(そもそも彼が東方あるいは共和国の人間かも怪しいのよね…)

 

東方の文字が書かれていたという理由で共和国方面の者だろうという至極当然の推理は途中で瓦解した。なぜなら、東方の言葉が多少分かる部下にその文字を見てもらうと。

 

「名前と思われる文字に関しては読み方が分かりません」

 

「所属部隊の第1中隊は分かりますが、第○○普連については連は連隊のことだと思います。只、普の意味は分かりません」

 

「この…陸上自衛隊というのは…それぞれ陸上はground、自衛はself-defence、隊はforceを意味します。しかし、陸上自衛隊という組織は聞いたこともありません」

 

(どういうことよ…本当)

 

言葉のほとんどは読めないか意味不明という有り様だった。

 

(しかも…)

 

「身元不明者の武器・装備品を調べましたが、武器は小銃と銃剣1本のみ、火薬式の銃で所持していた小銃弾は全て空砲です」

 

最早、理解不能である。

 

(東方の文字を除けば、国境を接している国の若い兵士が、演習中誤って国境を越えてしまったように見えるけれど…)

 

ソーニャ二尉の知る限り帝国・共和国ついでにリベール王国いずれの軍隊も彼の所持していた武器・装備品と類似するものは配備していない。国境を接してない他の国や自治州も同様だろう。

 

(ハァ…もう全部あの人に丸投げしたい。こういう捜査は警察の本分でしょ)

 

優秀なクロスベル警備隊幹部にあるまじき発想に陥っていた時、電話が鳴った。

 

「はい、ソーニャ・ロウ二尉です。ええ、病院から…彼が目を醒ましたのね。分かったわ、病院には1時に伺うと伝えて。よろしくね」

 

(もう後は本人に聞くしかないか)

 

電話を切ると伸びをして頬を叩く。

 

(それにしてもself-defenceforceか。もしかしたらうちと似た組織なのかもね)

 


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