龍門近衛局督察隊副長   作:三途リバー

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ギリギリでチェンさんを引けてそろそろ昇進2出来そうなので初投稿です。ホシグマさんは来ません(無慈悲)


世界はそれを愛と呼ぶんだぜ

「ぐ……」

 

チェンの意識が覚醒し、まず目に飛び込んだのは知らない天井…ではなく、自宅のものでは無いものの幾度も目にした慣れ親しんだ天井であった。

 

「シセイ、いるか…」

 

「俺の部屋だぞ、当たり前だろう。起きたらとっととシャワーを浴びてこい。飯は汁物だけで良いな?」

 

頭を掴まれ、滅茶苦茶に揺らされるような鈍痛を堪えながら上体を起こせば更に慣れ親しんだ呆れ顔が待っている。傍迷惑そうな口調だが風呂と朝食の準備を済ませているあたり、人の良い男だ。

 

「頭が痛い…」

 

「あれだけ呑めば当然だ。あんた俺より弱い癖になんで()()なんだ」

 

「朝から小言を言うな…頭に響く…」

 

実の所チェンは酒に強くない。より正確に言えば酒を楽しむということについてはごく少量で満足できるクチだ。それにも関わらず一度に必要以上の酒を飲むのはそういった時、チェンは酒ではなく酔いを求めているからである。当然、シセイも理解している。

 

「自業自得だこの馬鹿、俺はあんたの人となりは気に入ってるがこの馬鹿癖だけは好きになれねぇ」

 

「仮にも上司に何度馬鹿と言えば…」

 

「仮にも人の上に立つ人間が店で酔い潰れて退勤間近の部下を呼びつけるか馬鹿、てめぇ寝てる間も俺の腹ァ蹴りまくりやがってはっ倒すぞ馬鹿」

 

が、理解はすれど文句の一つや二つ言わねば気が済まないのだろう。無口を通り越して視線で会話するとまで言われる男が、ノンストップで言葉を浴びせてくる。普段の冷徹さが信じられぬほど餓鬼のように馬鹿馬鹿と繰り返す。

お前は私の母親かと喉元まで出かかるが、流石に馬鹿力の一撃を喰らいたくはない。グッと堪え、痛みが引かない眉間を揉んだ。

 

「今は?」

 

「5時半。あんたは今日非番だろうが、俺は仕事だ。いつも通り鍵は置いていくから出てく時は副長執務室に届けてくれ。冷蔵庫の鍋に吸物が入ってる」

 

「あぁ…すまない…」

 

これだけの会話を聞けば完全にデキている男女の会話なのだが、別にそうではない。

ここは龍門近衛局駐屯所、簡単に言えばシセイとチェンの職場である。基本的に局員は自宅から出勤してくるが、元々商人として各地を歩き渡っていたシセイは特定の家を持っておらず、かつ身寄りもないため近衛局に在職が決定した際、住み込みを始めた。こうして翌日が非番の為深酒をした挙句酔い潰れたチェンがシセイの居室に連れ込まれ、彼の出勤まで介抱されるという流れも数年続けられてきた恒例行事だ。

 

「ん」

 

「…おい」

 

「ん」

 

「てめぇいい加減にしろよ」

 

「今日は痛みがひどいんだ」

 

故に、こうした無体も割と推し通る。

チェンが手を伸ばせば、激昂した口調とは似ても似つかぬ繊細な手つきでシセイが引っ張り、抱き上げる。

 

「風呂場まで頼む。服も脱がせてくれ」

 

「俺の聞き間違いか?それとも酒浸りで脳が腐ったか?」

 

「お前、今更私の裸で欲情できるのか…?逆に尊敬するぞ…」

 

「駐屯所の廊下に放置されたいようだな」

 

「シセイ待て、すまない、私が悪かった」

 

所謂幼馴染として、幼い頃から棒切れを振り回して遊んでいた間柄。日夜を問わず龍門の端っこを走り回り、泥だらけになって一緒に風呂に入ったことも一度や二度ではない。

堅物、司法権の擬人化とまで言われるようになったチェンも、シセイの前だけではありのままを曝け出せる。

言い換えれば、チェンが唯一甘えられる人間がシセイ、ということになるのだろうか。

 

「何時までも俺に介抱されてねぇで、いい加減婿でも取ればいいだろう。見合いもかなりの数申し込まれてる筈だ」

 

「ふん、近衛局での地位が欲しい俗物が群がって来ているだけだ。大体そういう話ならお前の方が耳が痛いんじゃないか?」

 

「女は買うくらいで丁度良いのさ。あんなのに四六時中べったりされちゃあ気持ちが悪くてしょうがない」

 

「世の女全てを敵に回したな今。はぁ、喧嘩と女遊び以外に趣味は…ないよな、お前はそういう男だ」

 

女遊びは好きなのに女自体は嫌い、というおかしな感覚を持つ幼馴染に抱き上げられたまま、ふとある考えが頭を過ぎった。素面なら絶対に口に出さない様なことだが、幸い――なのかは微妙な所であるが――身体に残った昨晩の酒が、チェンの思考と口の動きを緩めている。

 

「私はどうだ」

 

「嫁にか?」

 

「馬鹿、気持ち悪いのかという話だ」

 

いつものようにゴミを見る目で見下してくるかと思いきや、間髪入れずシセイは答えた。

 

「あんたは別さ」

 

「…………ふん」

 

近衛局に就職してからは副長として辣腕を振るい、あまりに苛烈な性格から人の心を母親の腹に忘れて生まれてきた、等と局員に陰口を叩かれるシセイである。

そんな男のこれ程までに柔らかい声を、自分以外に聞いた者がいるだろうか。素のままのシセイに触れた女がいるだろうか。

自分でもよく分からぬ優越感に浸りながら、妙に心地の良い二日酔いの朝は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

服をぬがせとごねる酔っ払いの頭にシャワーの冷水をぶっかけて放置し、軍服に袖を通したシセイは副長執務室で朝の定時報告を受けていた。

 

「以上、昨晩から今朝にかけての市街の様子です」

 

「御苦労。引き継ぎを済ませて休んでくれ」

 

「はっ!失礼します」

 

敵を前にした時、いやそれ以上の緊張を浮かべながらぎこちない動きで退出していく部下の背中を見、流石のシセイも少々凹む………などということは一切なく。

 

「シセイ副長、近頃流石に隊員を脅かし過ぎでは…」

 

傍に控える翠の髪が美しい女に白い目で見られていた。

 

「敵よりも私を恐れていれば、鉄火場で恐怖のあまり逃げ出すという事はなかろう。背を向ければ斬られるのが分かっているのだからな」

 

「副長が不人気な理由の一端に触れることができ、小官は幸せです」

 

匙を投げたように溜息をつく有角の大女を、近衛局のホシグマという。

極東から流れ着き、龍門で幾つかの犯罪行為に及んでいた所を当時商人として各地を渡り歩いていたシセイと出会った鬼族である。その豪胆さ、武勇を覚えていたシセイが督察隊副長に就いた際に街中より探し当てて無理矢理近衛局に在職させた。

素のシセイを知っているせいか、口調は崩さないものの妙に親しみやすさを感じさせる関係性だ。局内で数少ない、シセイに真正面から意見が出来る隊員と言っていいだろう。

 

「ところで副長、密偵から連絡が。今日明日にはテロリストの主要メンバーが集まりきるようです」

 

「欲張って損をしては叶わん。今日踏み込む。私が20名率い、君は留守だ」

 

「了解しましたが…チェン隊長不在で突入ですか?」

 

「不安かね?」

 

「いえ、そういう事では。しかしいつもならば隊長が陣頭指揮に立たれて取り押さえるという形だったので、疑問が生じました」

 

ホシグマは慎重で、そして自分に正直な性格だ。シセイにもチェンにも、聞くべきことは聞くし言うべきことは言う。そういった部分は個人的には嫌いではないが、督察隊副長としては少々煩わしかった。組織に必要なのは決して動じぬ()とその意のままに動く手足、そして武器だ。一々隊員の言うことに耳を傾ける民主主義的なあり方は、シセイの好むところではない。督察隊はより集めの議会ではなくチェンという傑物を頂点とする実働部隊なのだ。そうでなくてはならない。

 

「敵も我々の動き方をパターン化している筈だ。大抵、隊長が動いて大捕物か巡回中の隊員と偶発的に遭遇するかのどちらか。そしてチェン隊長率いる武装した隊が動くのは決まって夜、戦闘になるのも夜。奴らもその程度分かっているさ」

 

「納得いたしました。副長が率いる隊が裏をかくのですね。上への連絡は私がしておきます。ご武運を、副長」

 

本当の所は密偵に出した隊員を誰よりも信頼しているのだが、とは言わない。別に嘘を吐いたのではなく、説明した通りの意図もある。ただそれ以上に、密偵…パースァーという青年に、シセイは絶大な信頼を置いていた。

 

(あいつはしくじらんぜ)

 

チェンがいなくても自分が付いていれば現場を任せられる、というのは隊の中でも彼しかいないだろう。ホシグマもチェンがいれば自分は必要あるまい。

 

そしてチェンは自分も、他の誰もいなくとも、必ず目的を果たして一人生還するだろう。

 

「なんでそこであいつが出て来やがる」

 

珍しく独り言を零したシセイは既に武器ラックから二振りの剣を取り出している。

忙しさと煩わしさ、そして腕の中に残る仄かな温もりを感じながら、副長の朝は過ぎていった。

 

 





龍門近衛局について、かなりオリジナル設定を取り込んでいるので、どこかでしっかりと纏めて書きます。

作中出てきた密偵のパースァーは友人が作ったものを許可を得て輸入したオリジナルのオペレーターです。シセイと合わせ、いずれステータスと個人履歴を書きたいんですが如何せんこいつらロドスに所属する気配が無さすぎて頭を抱えています。

感想お待ちしておりますので、よかったらお願いいたします
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