龍門近衛局督察隊副長   作:三途リバー

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長らく放置して申し訳ありません…ということで初投稿です。
そろそろホシグマさん引きたいです。


シセイという男

シセイが、どうにも手の付けられぬ己の喧嘩好きに気が付いたのはいつだったか。

10もいかぬうちから幼なじみのチェンが習う剣術を見よう見まねで模倣し始めたのが起点だろうか。

それとも行商を始めて龍門から出た後、次々と襲いくる野盗紛いの暴漢を撃退するようになってからだろうか。

分からぬが、兎も角シセイにとって喧嘩が人生最大の楽しみであることは間違いない。

 

シセイは、チェンのように美しい剣技は繰り出せぬ。

ホシグマのように一騎当千の怪力を誇ることもできぬ。

 

だがしかし、それでもシセイは一つだけ天才的な才能を持っていた。それは、自身の身と積荷さえ守れれば充分な行商人の手に余る()()()

この才を活かさずに一生を終えるのか、思う存分死力を尽くす場を得ずに死ぬのか。

一種の絶望にも似た感覚で惰性的に日々を過ごしていたシセイが持っていたのは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「人数割りはいつも通り。殺さなくても良い、足を狙え」

 

ピシャリと言った時には建物に足を向けているシセイと、それに続く隊員、そして裏手口と出口を防ぐ近衛局の隊員達。

一つの生き物のように動く、不気味な程に統制の取れたこの集団はシセイが心血を注いで作り上げてきた『喧嘩に勝つ為の組織』だ。

 

集団戦も一対一の喧嘩も、結局は同じというのがシセイの思想である。

相手の出方をいち早く見切り、考え、手足を動かす。

上の命令に即座に従い、隊員は手足ないし武器となって動く。そこに個人の考えや感情を挟む必要は無い。

頭も2つ、3つもいらない。1つ(チェン)だけで良い。

 

命令はひとつ所からしか出ず、命令系統も至極単純。

隊長か、副長か。

そのいずれかの鶴の一声さえあればいついかなる時も整然と動く特別督察隊は、数多の移動都市の中でも別格の実力を持つ警備集団だろう。

後に続く隊員達がハッとするほど無造作に、シセイは二階建ての建築物へ足を踏み入れた。当然、異変に気付いた潜伏者が廊下へ顔を出す。

 

「きさ」

 

ま、と言い切らぬうちに1人が凄まじい音を立てて倒れた。だがもうその時には、背後にいた2人目の男がシセイの剣に串刺しにされている。

息一つ乱さず死体を2つ拵えたシセイが扉を蹴倒すと、膝を詰めて論じ合っていた男女、合わせて8名が一斉にこちらを見やる。

「龍門近衛局特別督察隊だ。共謀容疑で逮捕する。局までご同道願おう」

 

逮捕すると言われ着いていくテロリスト(馬鹿)はいない。各々銃や短剣など得物を構えようとするが、一瞬早くシセイの影に隠れていた隊員が閃光弾を投げ入れた。

後はもう、戦闘とも言えぬ一方的なものである。

不意をつかれ視界を奪われたテロリストの脛や膝を狙って黙々と剣を振るい、アーツ能力か何かで辛くも外へ脱出した者は控えていた狙撃要員が撃ち抜く。

捕物が終わるまでに、10分もかからなかった。

 

「こちらの損害はなく、建物内にも敵の残りはいません」

 

「敵の中に死者及び重傷者は」

 

「副長が斬られた2人以外には。ただ腿を撃たれた1人は放っておけば失血死するかと」

 

「それは止めを刺す。近場の駐在所に連絡を入れろ、死体を3つ片付けろとな。残りは連行」

 

「了解しました」

 

手早く指示を飛ばすと、シセイは先程血を吸ったばかりの愛刀を再び抜き放った。

龍門周辺でよく見られる青龍刀などとは違って刀身は異様に細長く、切先へ向かって僅かばかり婉曲している。

哭丸。

そう名付けられ、極東で畏れられた名刀だという。行商人時代、襲ってきた暴漢を返り討ちに殺して所持していた品を奪ったものだ。不思議な形をした剣だとは思っていたが、シセイの微々たるアーツ能力と相性が良く、以来長く彼の腰間にある。銘を知ったのは極東出身のホシグマがこれを見、思わずと言ったように零した言葉を聞いた時だ。今やチェンの赤霄、シセイの‪哭丸と言われるまでに龍門に広く知られている。

 

 

「感染者を嬲り殺して…楽しいか…非感染者共…!」

 

立ち止まった場で、地べたから怨嗟の篭った声を投げ掛けられる。テロを計画していた男その目は血走り、この世の全てに呪いを望むかのように燃えていた。

 

「龍門で…何一つ不自由の無い、生活を…ハァ、送る貴様らには、分からないだろうな…虐げられた者の…」

 

「こそこそと逃げ回る鼠を狩って何が楽しいものか。只の職務だ。鼠に感染者も非感染者もない」

 

「はっ、近衛局の犬が何をほざく…!」

 

言葉が続くが、シセイはその半分も聞いていなかった。ただ、死ぬ前に気が済むまで話させてやろうと気が向いただけである。わざわざ受け答えまでしてやるほど、シセイはお人好しではない。

 

「ハァ…ハァ、ッ…ぐぅ…!」

 

「気は済んだか?」

 

「………くたばりやがれ…近衛局…」

 

切っ先を胸に当て、ゆっくりと体重をかけていく。沈み込むように刺さった剣はやがて、コンクリートの地面まで食いこんだ。

 

「あぁ、全くもって楽しくないな」

 

「御苦労様です、副長」

 

足音ひとつ立てず、いつの間にか背後に控えていた1人の青年。シセイよりもふた周りほど背が低いが、足さばきひとつとっても卓越した戦闘能力の高さが伺える。

 

「パースァーか。君の長い潜入任務に比べればなんのことも無い」

 

「いえ、自分は何も」

 

「謙遜するな。潜入から突入の手引きまで見事な手際だった」

 

 

リーベリとして生を受けたこの青年が龍門に辿り着き、そしてこの督察隊に所属するまでかなり長い経緯があり、出生に関しても特筆すべき点があるが、シセイはさほどそれらを気にしていない。

頗る有能であり、職務に忠実というその一点のみで、パースァーはシセイにとって信頼に足る存在だった。

命令に言葉を挟まず、必ず成し遂げ再び舞い戻る。組織は、パースァーのような人間を必要としていると、シセイは本気で思っていた。

 

「このまま次の諜報へ向かいましょうか?チェルノボーグにやけに多くの人間が集まっています。そろそろ始まるかと」

 

「いや、一度帰営してもらおう。チェルノボーグは駄目だろう。忙しくなるのはあそこが落ち、矛先がこちらへ向く時だ。今は暫く鋭気を養ってくれ。ホシグマも、久し振りに君の顔を見たいだろう」

 

「ホシグマ殿が…自分如きに、そんな…」

 

諜報、戦闘能力と引き替えになったのか、生活能力が壊滅的なパースァーはホシグマの居宅に居候している。なんでも食事の世話などを焼いてもらっているらしい。

もっとも、シセイの命で龍門中、下手をすれば更に外の移動都市を飛び回っているパースァーが帰ってくるのは大変稀なのだが…。

ともかく、面倒見が良いホシグマはパースァーのことを弟のように思っているらしく、シセイの目から見ても大変な可愛がりようである。当のパースァーは恐縮しきりだが、珠には2人でゆっくりさせてやろうと思う程度にはシセイも人の子である。

 

 

「ともかく、チェン隊長には私から知らせておく。報告書は不要だ」

 

「お気遣い、感謝致します」

 

頭を下げ、去っていく背中を見送ってシセイも歩き出す。事の顛末を報告書に纏め、龍門長官殿に知らせなければならない。

実働が好きなシセイにとっては、捕物よりも事後の方が厄介である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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居候しているホシグマの家へ歩を進めながら、パースァーは有能この上ない上司について考えを巡らせていた。

暫く前、龍門だけではなく他都市の情報も集めろと言われた時は不思議に思ったが、今になって段々とその意味がわかって来た。

 

『戦争は自分の本拠地からはなるべく離れてやった方が良い。1歩でも外へ出て戦うことだ』

 

パースァーは戦闘はともかく戦争は分からない。だが上司は…シセイ副長は違った。

普段の眠そうな眼を嘘のようにギラつかせながら、背筋か凍るような声を響かせていた。

 

『同じさ』

 

何と同じなのか。

その一言を、当時は理解できなかった。

理解できないまま、言われるがままに各地を飛び回るうちに目にしたのは、ある感染者集団の纏まった行動と不自然な物資の移動。

 

篭っているだけでは龍門を守れない。

外へ出てテロリストの大元を辿らなければ根絶は不可能……それと、同じだったのか。

気付く頃にはパースァーの心は畏怖と興奮に染まりきっていた。

 

(副長は、唯の武官で終わるお人じゃない)

 

龍門に辿り着いた頃には考えられないほどの熱に浮かされながら、パースァーは帰路に着いた。

 




ほんと遅れに遅れてすいません…しかもあんまり話進まなくすいません……次回からちゃんとあの人とかあの人とか出てきますので…
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