チェルノボーグが陥ちた。
それも、たった一つの感染者の武力集団の手によって。
そんな情報が龍門を、いや、世界中を激震させる中にあって、シセイと幼馴染は普段通りの顔で地図を睨んでいた。
「ウェイ長官はある人物を捕らえろと仰せだが…」
「ふざけろ。チェルノボーグ高官の娘だが知らんが、そんなのを探すより敵の尖兵を炙り出すのが先だ。あの龍頭はどこまで行っても政治家だな」
「口が過ぎるぞシセイ。大体私も龍族だ」
龍門を急激に成長、発展させてきた名君も実働部隊の副長に言わせれば『所詮政治家』である。
なんの材料に使うかは知らないが、小娘1人に構っている暇はない。シセイにとっては、100年先の龍門の平和よりも明日の喧嘩の方が大事だ。
「…しかし正直な話、心の底から承服しかねないのは私も同じだ」
伏せていた目を、シセイが上げた。分かりづらいが、この男にして相当の驚きを感じている証である。
「ほう、珍しい。隊長が長官殿に異議ありか」
「茶化すなシセイ。龍門内部のテロリスト…レユニオンを狩り切れているわけが無い。少しずつ力を削ぎ続けたとは言え、かなりの数が健在だろう」
3ヶ月以上にも及ぶ捜査で、のべ100人を超える逮捕者、死者を出したが2人の睨む所ではまだまだだった。
チェルノボーグをあのように簡単に陥とした集団が、この程度の根回しで満足している筈がない。
パースァーの諜報は正確無比だが、それでも掬いきれないほどの密謀が繰り広げられていることだろう。
「拷問で1人も吐かなかったあたり、連中も本物だな」
ポツリと呟かれた言葉に、今度はチェンが目を丸くする番だった。
「お前こそ珍しいじゃないか。敵の覚悟を本物と認めるのか?」
「違ぇよ。本物の
「ぷっ……くく、向こうも狂人の親玉に言われたくはなかろうに」
流石に病的な喧嘩好きを自覚するシセイは、言い返せずに鼻を鳴らした。
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「はぁ……それで、長官の目すら欺いてレユニオン潰しを行おうというのですか…」
「そう嫌な顔をするなホシグマ。チェン隊長も承諾済みの話だ。ウチで最も使い物にならない…口が滑ったな、入隊して間もない新兵を中心にこのミーシャという人物を捜索する。その間、我々主力部隊は龍門中を虱潰しにレユニオンを狩出す。飽くまでミーシャ探しの途中で発見したという体でだ」
そんな子供騙しな…と喉まで出かかった言葉を飲み込み、ホシグマは目の前の喧嘩狂いを見た。
(このお人はやはりおかしい)
それでいてその子供騙しな案に興奮し、それでこそ我らが副長と思ってしまうあたり、自分も相当おかしいのだが。
「どうだ、面白いだろう?」
「職務に面白いもつまらないもないと小官は愚考いたします」
「御託はそのニヤケ面を収めてから言え、素直な奴だ」
呆れたといったように目だけで笑いながら、シセイは地図を差し出した。
「チェン隊長とスワイヤーさん、私とホシグマ。この2部隊編成で龍門を東西から総洗いする。後は出来ればやりたくなかったがスワイヤーさんには個人的に
「…!!よく向こうがそのような無茶苦茶な依頼に応じましたね。配達を建前にした斥候という事や怨敵たる副長の差し金という事くらいすぐに分かるでしょうに」
「そこはビジネスさ。かつての遺恨と目の前の莫大な報酬、連中は後者を取ったということだ」
「遺恨の大元がよく言いますよ、本当に。どうせスワイヤー殿もご自慢の男ぶりで落としたんでしょう」
「勤務中だぞ、口調を直せ」
シセイは、近衛局が新進気鋭の隊長の進言のもと出自不問の特別督察隊を新設した際入局した元薬の行商人だ。
その頃、ホシグマは彼を「薬屋」と呼び、彼もホシグマを「食い逃げ女」と呼んでいた。もっとも、いつ何処で見掛けても返り血を浴び、足元には生きてるんだか死んでるんだか分からない人間が転がっている様はどう見ても薬屋には見えなかったが。
『あんたなぁ…薬屋が怪我人こさえてどうすんだ』
『商売相手を自分で作ってるだけだ。俺の薬は打ち身によく効く。懐から有り金全部もらってく代わりに薬は置いといてやるんだよ』
どう見ても足元の
「本当に活き活きとしていますね…龍門がチェルノボーグの如く消し炭になるやもというのに。頼もしい副長です」
皮肉のひとつでも言わなければこの男の部下などやっていられない。が、益々嬉嬉としてシセイは返す。
「ならねぇ。この喧嘩、俺達が勝つ」
もう何も言い返す気力がホシグマにはない。諦めの境地に達したとの感と共に、溜息をついて天を仰いだ。
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時は1日巻き戻る。
同僚であり、財閥関係者という富豪のスワイヤーを口付けと収束後の買物、という条件で買収した極悪女たらしシセイは彼女の個人的なボディガードに扮してとある場所にいた。
「依頼自体は構いませんけど…本当に大丈夫なんですの、シセイ。あなた、昔
「大丈夫ですよ『お嬢様』。商人というのは遺恨よりも利益と損得を取る生き物です」
「お、お嬢様……!シセイにそう呼ばれるのも悪くないわね…!」
虎柄の尻尾をくねらせ、自分の世界に浸るスワイヤーの背中を押しながら、シセイはその依頼を頼んだ配達会社の事務所へと足を踏み入れる。
「コホン!先程依頼させて頂いたスワイヤーと申す者ですわ。責任者の方と細かい打ち合わせの約束をしていたので伺ったのですが」
1歩店内へ入れば流石は財閥の一人娘たるスワイヤー、先程の赤ら顔を瞬時に引っ込め、ごく自然に事務員に語りかけ始めた。
「はい、15時にお約束のスワイヤー様ですね。今担当の者をお呼びしますので「
シセイにすれば中に入れさえすればもう偽装は用済みである。サングラスとカツラを脱ぎ捨て、事務員の言葉に割り込んだ。
「ちょっとシセイ!?」
「しせ…?…!?!?シセイ!?!?ぉま、おまお前ぇぇぇぇッッッッ!!!!!!!!!」
段々と目の前の人間が誰だかを認識したらしく、恐怖とも怒りとも付かぬ表情で事務員の男は拳銃を構えた。
「うう、ウチの人間があの騒動で何人死んだと思ってる!どれだけの宅配物が焼けて、俺達の評判が落ちたと思ってる!俺達がどれだけ……!!」
「私に喧嘩を吹っかけてきたのも、その上負けたのも君達ペンギン急便だ。私は正当防衛をしたに過ぎない」
「野良商人で徒党を組んで焼き討ちをしといて、何が正当防衛だっ!!!ふざけやがって!」
5年近く前のことだろうか。
シセイは薬の行商の傍ら、都市から都市へ簡単な宅配の請負を行っていた。薬を買わせる代わりに品を受け取り、目的地へそれを届けてまたそこで薬を売る。帰りには届け先から証書をとって請負先へ戻り、それを業務遂行の証拠として渡す。
単純なものだったが、これが当時高額料金で行われていた宅配に比べてかなりの格安であり、幸か不幸か行く先々で評判となった。
そして、その高額料金な宅配会社の筆頭がここ、ペンギン急便である。
「知らんのかね」
シセイにとって、あれは会心の出来と言って良い喧嘩であった。思い返せば、シセイの軍事的才能が本格的に開花したのはあの騒動がきっかけかもしれない。
向けられた銃口を意に介さず、シセイは1本前に出た。
「ひっ、ひぃっ…!?」
ゆっくり、ゆっくりと事務員の肩に自分の手を置き、囁く。
「君の言うそれは、負け犬の遠吠えと言うんだ」
膝を着き、震えたままの事務員をその場に残し、悠々とシセイが歩を進める。
後には頭を抱えるスワイヤー。
刺すような視線を感じながらも、それすら心地よくシセイはいよいよ狂人の親玉である。
イベントで興奮したことTOP3
3位:将軍!将軍!!
2位:開けろ!宅配だ!!
1位:ボブおじ再登場&チェンさんの水着