Fate/Grand Order Episode of Drifters 廃棄漂流戦場関ヶ原 宝知らぬ武者   作:watazakana

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前回までのあらすじ
カルデアに現れたバーサーカーとともに特異点である関ヶ原へと向かった藤丸立香と織田信長。彼女らはその旅先で異世界の織田信長を味方につけ、いよいよ関ヶ原の戦いを始めた。また、その裏で聖杯戦争も始まっていく。異世界の浸食を受けた聖杯戦争は、異世界のセイバー、異世界のライダーなどイレギュラーをポンポン出していく。特に異世界のセイバーは、この特異点の島津のバーサーカーをマスターにしていた。織田信長はこれによって「同盟を組まんか?」と誘い、ライダー、菅野直は「俺はいいがマスターが最終の決定をするからマスターに逢おう」と返答。というわけで島津のバーサーカーのもとへ行こうという時、アーチャーやセイバーに狙われた異世界の信長と彼に背負われて戦場を駆る藤丸立香と遭遇した。


半戦 関ヶ原戦線
9節 ドッペル島津


「おお、マスターか。お主ら、石田の方へ行ったのではなかったか?」

「いや、これがカクカクしかじかで」

「なるほど、それなら是非もなし!ちょうどいい、わしら今島津の陣へ行こうとしておる。史実の陣地を見せよダ・ヴィンチ!」

「オッケー!」

 

藤丸立香の腕輪から空間投影されたのは史実の地図。現在地は最前線、北国街道上の平地である。兵士たちは軽装で走り回る藤丸立香たちの首を獲ろうとしばしば襲い掛かる。そんな兵士たちをカルデア一行は裏拳で吹き飛ばし、刀の鞘で引っ叩き、ヘッドロックの後投げ飛ばし───

 

要するに、ちぎっては投げちぎっては投げの状態だった。

 

「ところでノッブ、どうして島津軍に?」

「ああ、それがかくかくしかじかでな」

「なるほど、って、はぁ⁉︎」

 

藤丸立香は絶句した。

 

「いやーそう思うじゃろ?」

「だって島津の魔力Eだよ⁉︎むりむり、私がいうのもアレだけど無理だってマスターなんて!」

「なんだバカヤロウ、俺のマスター気に入らねってんならぶちのめすぞコノヤロウ」

「いや気に入らないわけじゃないよ……⁉︎」

「とりあえず、盟約を結ぶ件、どうじゃ?」

「私は賛成だよ。こっちの島津もそんなようだし。ダ・ヴィンチちゃんは?」

 

うーん……と悩んでいる声。オーダー開始前に『島津を島津と会わせない』と言っていた手前、会ってしまった影響を改めて考えると躊躇いが生まれる。ライダーがいるから殺し合いには発展しないだろう。しかし、やはり二の足を踏んでしまう。

 

「ここの土地は特異点ちもんやろ?」

 

そこへ、島津が乱入する。

 

『え?ああ、そうだけど?ここは聖杯という魔力の塊が、歴史に異変を起こしているのは確かだ』

「ならこいは特異点ぞ。因が同じこつ、ないごて異な果になる?主ゃらは主ゃらのやって来たようにやれば良かでなかか?ないごて迷う」

 

絶句。カルデア管制含め、その場にいた全員が口をアングリと開け、目を点にした。

 

「馬鹿じゃない……」

「急に島津のIQが上がった……」

「いつも突貫しかしない島津が……」

「馬鹿島津お前馬鹿じゃなかったのか……」

「コイツ馬鹿だけど馬鹿じゃないんだよな……」

「あ゛ァ⁉︎敵かコノヤロウ」

「誰が馬鹿かー!!!」

 

訂正。異世界のライダーだけは全く聞いていなかった。

 

『……ミスター・シマヅの言うことは確かに的を射ている。この特異点は実際にカルデアスで観測されている以上、この世界の歪みであることは間違いないからね』

 

ホームズはうなずき、ダ・ヴィンチちゃんはさらに眉間のしわを深く刻んだ。

 

『ええい、こうなればやってみるしかない!第二魔法をも超えたものだ、魔術理論的に考えても私たちがわかるはずもない!ただし!シマヅはここのシマヅとぜっっったいに!戦闘しないこと!』

「ええい、わかっちょる!」

「結局はこうなるか!面白い巷じゃの!」

 

 

島津陣営・豊久衆

 

「豊久殿!怪しげな衆が面会を求めとりもす!かるであと名乗る連中にごわす!」

「あぁ?知らぬ者ぞ。首級にす」

 

現地の島津は刀を抜き、陣地から出ようとした。しかし───

 

「おーおーここが島津の拠点かぁ」

「お、マスター!」

「ん?らいだぁ?」

 

ライダーの登場で殺意は一旦何処かへと消えた。しかし、その隣の人間が目に入った瞬間、刀の塚に手を当てた。おぞましい殺気が彼に向く。

 

「らいだぁ、主ゃら何ぞ」

「ん?どうしたマスター」

「主ゃ何を連れてきた?怪しげなるもんば連れて来っはよか。じゃっどんそいは何ぞや」

 

視線は島津のバーサーカーへと向いていた。

 

「化生の類か、鬼か、あの世からわいらの首を獲りに来たか」

「ハン、化生も何も、おいはおいぞ。島津◼️◼️◼️◼️◼️◼️、おいはそれ以外の何者でもなか」

「まぁ化生の類っちゃあサーヴァントみんなそうなんだけどネ……」

 

島津のバーサーカーとこの土地の島津。全く同じ顔、全く同じ体格、全く同じ声。眉をひそめ、じり、じり、攻撃的な心をあらわにしていく。威嚇、警戒、それが伝わり、衆の者は皆手持ちの武具を携えカルデアに向けた。

 

「あー……えっとぉ……これってもしかして……」

 

藤丸立香は流れを悟る。

 

「そうじゃな、ライダーのマスターだと言うから、こういうことにも耐性がついとったと思ったんじゃが……」

「んなこと言っとる場合か!お前ら戦闘準備!藤丸立香を守り通せ!」

 

 

「……ハン、つまらん。薩摩ん兵子はこいまで弱か覚えはなかぞ!」

 

結論から言えば、圧倒的だった。島津のバーサーカーは一撃必殺、薩摩はタイ捨流の太刀筋を全て避け、全て受け流した。そして島津に切っ先を向けた。

 

「……腹ばかっさばく。介錯は頼んまあ」

「戦じゃものな。ならさぱっと死せい」

「待って」

 

本気で待ってほしいと、藤丸立香は止めに入る。

 

「こいはしきたりぞ。侍大将が殺生を握られれば、そいは城が落ちた城主も同然。ならばおぃが腹ば裂いて、そん責を取らねばならぬ」

「いや知らないから!!島津は死んじゃダメだから!島津がいないと、とにかくヤバいの!」

 

本当に命が軽いなこの戦闘民族っ!と藤丸立香は心の中で罵った。

 

「あ、そいぞ。忘れとった。おぅ、おまぁが死んだら親父殿を守れん。そがいなこつになれば薩摩は終わり。薩摩が徳川ば倒すは夢のまた夢ぞ」

 

今更に島津のバーサーカーは思い出して、もう一人の島津を諭しだす。

 

「とにかくマスター、話だけでも聞かねえ?」

「らいだぁ、おまぁは本物か?」

「んだよ、信用ねえなコノヤロウ」

『妖術ばかり使われて困惑しているかもしれないが、紛れもなくそのライダーは、ミスターシマヅ、君のサーヴァントだ』

「……話せい。全部話せい」

 

取りつく島は浮かび上がったようだ。藤丸立香は事情を話した。

 

 

「───ってことなの。力を貸して欲しい。私は、私たちは戦う。そのためにここへ来た。私の生きる時代のために」

 

藤丸立香は知っていた。あの夜、島津はどのような考えを持っているのかを知ったから。どんな言い方をすれば良いか知っていた。

 

「うし、わかった!薩摩が天下を取るなら、おいはその魁になる。聖杯戦争も関ヶ原も勝つのみぞ!」

 

説得には成功したようだ。

 

「議は成立したな。じゃあこれから俺たちが作戦立案をする。まず、確認されたサーヴァントは廃棄物であるあの侍、よくわからんそっちの与一、漂流物であるこっちの俺とこっちのバカ、そっちの俺モドキ、ライダー」

「未確認はランサーとアサシンじゃな。すでに開戦されておるならこの二騎の生死は不明かのう」

「つか聖杯?ってやつはどっからきたんだ。俺の世じゃ全く耳に入らんかったぞ」

「聖杯は魔術王とかいう天竺のさらに西の国の王が作ったやつじゃな。それを時代時代の大事な場所に置いてボンってやつよ」

「よくわからんことがわかった」

 

少し話の逸れはじめる参謀二人。

 

「でもわからないのが、どうしてはぐれ同士で戦争をやるわけではなくマスターがいる聖杯戦争なのかってことじゃな」

「ん?なんかおかしいのか?」

()()()()()()()()()()()()()()()()。聖杯戦争としては真っ当。真っ当すぎる。逆にはぐれのキャスターと違う時代のマスターがここでもマスターにカウントできるのがおかしいんだよネ」

 

魔術王、いや、魔神王の作った特異点では、マスターとなっている人間はほとんどいなかった。サーヴァントの魔力源は聖杯や土地に依存しており、マスターとなっていた者もギルガメッシュ王や女神ロンゴミニアドくらいだ。しかも召喚方式の違いで、令呪など持っていない。今回は何もかもが違うのだ。令呪を持ったマスターがいることが異常であり、全てのサーヴァントにマスターがいることも異常である。()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、この特異点の異常のひとつだった。

 

「まあそれはそれとして、真っ先の脅威はアーチャーとセイバーじゃな」

「与一と廃棄物か」

 

与一は、神仏の加護を纏い、超威力の矢を放つ。その上「矢が命中する」という結果を作って放つので、必中の矢になった。挙げ句の果てに一枚だけなら防御状態を無視できると、厄介極まりないサーヴァントだ。

廃棄物は、新撰組を呼び出して数の暴力を行う。宝具のランクこそ低いが多対一の戦闘もでき、戦闘センスも他サーヴァントと引けを取らない。令呪によるもの思われる戦闘力の向上はともかく、先述の与一の矢を撃ち落とすという離れ技もやってのけたので、マスターは尋常ではない可能性も出てきた。

廃棄物はカルデアを狙い、与一はそのカルデアを襲いに来る廃棄物を狙っているという構図がある以上、カルデアはそんな二騎を相手にしなければならない。

 

「与一は藤丸をやろうと思えばいつでも狙える。必中であるからには、受けるサーヴァントが必要だな」

「せめてマシュがいればな……いや、今では詮無きことか」

 

弓ノッブの歯噛み。

 

「俺がやるにも、廃棄物のマスターは確実に俺を狙っている。アイツの餌として俺は機能せねばならんからな。俺と交戦経験のある戦バカが組んで廃棄物の相手をしよう」

「わしの援護は要らんな?お前の雑兵でどうにかなるじゃろ」

 

そしてキャスノブはマスターの盾にならず、廃棄物を斃す為に自らが囮になると言った。弓ノッブはそれを請負う。

 

「与一が神性を纏うなら、わしが一番相性が良いな。ならばわしがマスターの護衛を行う。ライダーはその宝具で廃棄物のマスターの居場所を突き止めよ。森に神性を借りた獣がおったじゃろ?あの辺は臭い。探ってみよ」

「応」

「薩摩の衆は指揮系統を全て据え置きだ。サーヴァントは物の怪の類だからな、人間の攻撃は通じない。相手にしないこったな。今まで通りにやってくれ。異論はないな?」

 

全員から肯定の声が聞こえた。

 

「それじゃあ始めようか。聖杯戦争、開始!」

 

藤丸立香は満を辞して、作戦開始の合図を執った。

 


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