Fate/Grand Order Episode of Drifters 廃棄漂流戦場関ヶ原 宝知らぬ武者 作:watazakana
白い廊下が黒に浸食される。
「………」
廊下では場違いの、なんともアナログな仕事机の男は新聞を読んでいた。彼は今、不機嫌である。
「またかEASY」
「ええそうよ、またよ。民生屋」
黒いロリータの少女は不機嫌そうな白い廊下の男を嘲るように、見下し、ほくそ笑む。
「暇つぶしに他の人類も滅ぼしてやろうと思ったのよ。その世界は私たちの争う世界よりも遥かに脆く崩れやすいの」
「……」
彼は彼女が嫌いである。とにかく嫌いである。故に淡々と。感情を混ぜてはならない。
「EASY、君の好きにはさせない。失せろEASY。私は君が嫌いだよ」
ああコイツ、コイツの態度が気に食わない。機械のように同じ言葉を投げてくる。面白くない。淡々としていて面白くない。なんか私が負けたみたいに思えてくるじゃない。負かしたい。負かしたい。
「あらそう、私も貴方が大嫌いよ。紫。せいぜい足掻くことね。私の廃棄物に、貴方の漂流物が勝てるわけないんだから」
少女は、EASYは闇に消えた。黒の浸食は止み、白の廊下は復活する。
「……次」
男は、紫は新聞をたたみ仕事を再開した。
藤丸立香は事情を話した。
「ほーん、言うなればお主らはおっぱい機関みたいなやつで、この歪んだ歴史を正しい形に戻す、とな?」
「おっ……⁉︎違うよ、カルデアだよカルデア!」
「そいを言うなら十月の奴ばらではなかか?」
藤丸立香は赤面しつつもキャスノブ(キャスターノッブの略)に反論する。
「それで?俺にどうしろって?まあ決まってんだろうが、言ってみよ」
「特異点解消のためにこの霊地とあなたの力を貸してください」
キャスノブは大きくため息をついた。
「やだ」
「なんで⁉︎」
「めんどくせーから。なんで俺が動かんといかんのだ?そんな天命じみたこと信じるとかサーヴァントの皆さん頭おかしんじゃねーの」
藤丸立香の願いは真っ向から単純な理由で軽く拒否された。
『こちらからもどうかお願いしたい。これまで聖杯絡みの事件は現地の英霊との協力なしには解決できなかった。だから事件解決のために、どうか力を貸してもらいたい』
「かるであとやらは虚け者の集まりか?ここは俺の領地で、ここは俺の城だ。それを『貸す』だぁ?覚えとけ、一国の主はんなこた絶対にしねえ。最後のケツに火がついてもな。そんなに欲しけりゃ俺と戦さでもして奪い取れ」
「おう、ノブ。そがいに言う必要はなかろうが。前ん時よろしくやればよか」
「■■、お前は少し黙っとれ」
「そうじゃ、わしには異議がありまくりじゃ」
「ノッブはもっと静かにした方が「いいや黙らん!だいたい、こんな下卑たおっさんがわしと同じ織田信長ァ⁉ぬかせ、虚けが!」
独り会話に乗れていない弓ノッブがついにキレた。無理もない。ただのおっさん(のように見える不審な中年男)が国民的アイドルの名を名乗るようなものだ。本人からすれば絶句&通報モノ、戦国だったら手討ちモノだ。
「ククッ……虚けだぁ?そちこそ本物の虚けではないのか?いいや、虚けを通り越していかれか?俺が信長、俺こそが織田前右府信長よ。天下統一を目前に、49で
確かに戦術眼や戦略の法則は全てがなんの誤差なく一致している。それは事実であり、二人は互いに互いを信長その人であるという確からしい根拠としている。しかし、互いに『異世界の同位体』を考えたことがなかった。その許容ができなかった。弓ノッブは男であることを容認できなかった。キャスノブは若々しい女であることを容認できなかった。しかし、彼らは真実に信長である。どちらも真でありどちらも偽なのだ。それ故にタチの悪い口喧嘩となり、今にも取っ組み合いを始めようとする両者を最初に見兼ねて声を上げたのは島津のバーサーカーであった。
「ああやがます!」
皆が静かに島津を見る。
「どちらが信長かなんぞ、そん下卑た野郎に決まっちょる!」
「えっ、そこは『そんなの知らん』って一蹴するとこじゃない?」
「それこそ知らぬ」
「えぇ……」
「わはは、見たか自称信長!」
「お前もうるさか」
「えぇ……」
もう何がなんだかよくわからないバーサーカーに全体がぐだぐだしてきた。
『話の腰を折るようで申し訳ないが、ミスターノブナガ』
「ん?」
また新たに雰囲気ブレイカーが顔……いや、声を出す。
「あっホームズ」
『君を協力させるためにもういくつか情報を与えよう。勿論、断言できる範囲内でね』
「……随分と正直だな。狙いは何ぞ?」
『ミスターノブナガが我々カルデアに協力せざるを得ない情勢にすること。恐らく貴方はハッタリの類は一切通用しない人種だ。だから隠さず言おうと思ってね』
「ほう」
『まずこの世界には人類存続が危うくなる大事件が起きるとき、抑止力という防衛機構が作動する。抑止力は本来この世界とそれに類する並行世界の中でしか力を振るえない。英霊を記録する「座」から抑止力は英霊を召喚するのだが、本来遠い異世界という虚数事象の先に存在する記録など持っていない。つまり今回、ミスターシマヅの精神ををカルデアに召喚、いや、
「抑止力ってのが俺を必要だから召喚した、か……」
それこそハッタリじゃねえのか。
キャスノブの猜疑心は消えない。それじゃあまるで天命が本当に存在するみたいじゃねえか。気持ち悪い。そんな気持ちが漏れていたのか、声の主に勘づかれていた。
『もちろん、これだけじゃない。この特異点が解消できなければ最低でも今の日本という国家は崩壊する。そうなれば、世界は突然のズレに耐えられず、人類は自壊する』
『「「はぁ⁉︎」」』
この名探偵、あまりにもにこやかにヤバイ宣言をしやがった。ダ・ヴィンチちゃんは「今言うことかよ」と手で顔を覆い、藤丸立香、マシュ、弓ノッブの口はあんぐりと開けたまま塞がらない。
「俺たちに、人類の救世主になれと?」
『そうなるね。もしこの特異点が崩れても貴方は座に還るだけ。それだけならまだいいかもしれないが、精神そのものをここにおかれたミスターシマヅは死ぬと見たほうがいい』
「なっ……」
『シマヅの証言をもとに考えるなら彼は今、元の世界で夢を見ている体で肉体のみ元の世界で放置されている。この特異点で人理定礎が崩壊すると、もちろんミスリツカも死ぬし、ミスターシマヅの精神も特異点諸共砕け散り、彼は一生目覚めることがないまま、そちらの世界も人類廃滅に向かう』
「……世界と◾️◾️、両方を人質に取るか……」
『貴方は抑止力に選ばれた。貴方は
「まだあるのかよ!」
『カルデアには米がいくらかあってね、この霊脈で拠点を設けたらいくらでもとはいかないが、米をそちらに送れる』
キャスノブはこの一言で陥落した。お米食べたいの衝動には勝てなかったのである。
───それはそれとしてだ。
「ホームズ、それはどういうことじゃ⁉︎人理焼却の危機は去ったのではないのか⁉︎」
「そうだよ、魔神王も倒して、残った魔神柱だって倒したし、魔神王が倒された後の特異点なんて範囲狭かったし本来の人類史に影響ないのが殆どだったじゃん!」
人理を救った組からすればトンデモ案件だ。魔神王亡き今でも世界の危機が去ってないのだから。
『ははは、実はこの特異点、観測範囲が亜種特異点よりも遥かに大きい。これから言えることは───』
「今語ることじゃない、って言いたいんでしょ」
さすが、よく分かっている。と、のらりくらりに言うのは、今はまだ触れるべきじゃないではないということの暗示だ。藤丸立香はぶつくさ言いながらもキャスノブと向き合う。
「信長殿、どうかご協力を」
「ここが終われば二つの世界が滅びるだぁ?分かったような口利きやがって、こちとら召喚されたらされっぱなしで山ん中に放り出され、徳川の兵が俺を見つけたら撃ってくるわ射てくるわ切りかかってくるわ、挙句の果てに
「……」
やはり、だめか。そうした考えが藤丸立香を支配する。
「だが、この特異点とやらをとらねえと、俺も死ぬし◾️◾️も死ぬ。俺たちの新世界の全人類が死ぬんだ。そりゃあやるしかねえよなあ……」
面倒くさそうにしているが協力してくれるようだ。
「何より、米が食えるからな」