Fate/Grand Order Episode of Drifters 廃棄漂流戦場関ヶ原 宝知らぬ武者 作:watazakana
勝手に召喚され、勝手に暴走し、勝手に突っ走る。そんな勝手尽くしの島津のバーサーカーとそれを抑え込む弓ノッブ、そして彼らを纏める(体にもならず引っ張り回されてる)最後のマスター藤丸立香は関ヶ原に降り立ち、霊脈探しを始めるも、そこはキャスターが先に陣取っていた!その上そのキャスター、名を織田信長というのだ。ホームズの脅しもあってキャスターノブナガ、略してキャスノブはカルデア側につくことになる。一方面と向かって島津に存在を全否定された弓ノッブの明日はどっちだ!
時は遡り、昨日の夜 徳川陣地、本拠地───
「俺の預かった斥候兵は全滅した。申し訳ない。主人よ」
主人と呼ばれたその男、それすなわち徳川家康である。
「情報は、持って帰ったのだろうな?」
「織田信長がキャスター……妖術師の英霊として現界し、南宮山の霊脈を独占している。タチの悪い陣地だ。陣地内に入れば存在と位置情報、大まかな行動が信長にバレる」
近代風の格好をした男は、一言一言静かに簡潔に、分かるように説明する。
「天下の一つも取れず英霊に昇華されるとは、まあ信長らしいといえばらしいか」
狸の発する雰囲気は重苦しいものに変わった。表向きは少し微笑んでいるくらいだろうか。声に怒気や憎悪は無い。しかし、戦乱を生きた者には分かるのである。隠せない怒り。地雷を踏み抜かれた怒り。それは殺気としてにじみ出るのだ。側近たちの額に冷や汗が浮かぶ。
「西軍には3日の停戦協定を結ぶ。使いの馬を出せ。それとは別に各備から人員を割きそれで新しく備を編成する。名を『狩り備』とし、南宮山に配置せよ。侍大将は手前が務めよ。編成は翌日夕までに済ませ、明後日の昼に戦さを始める。以上だ。下がってよい」
「御意」
剣兵は姿を消し、史実と変わらない風景となった。
「この戦さは、後の世に要らぬものを削ぎ落とす戦さなのさ。死霊なんか徳川の世には要らない。ここで終わらせるぞ、織田信長」
*
あの信長は、間違いない。
「……」
「普段から無口だ」といつも部下に言われた。同僚にも。上司にも。だがわざわざ言葉にするような激しい感情は起きないのだ。愛していても、嫌いでも、恐ろしくても、愉しくても。
だが、今は心の底から恨めしく思う。心の底から殺してやりたいと思う。この衝動はあのいかれバカに対する憎しみだ。言葉にしないと、どうにかなりそうだ。
「この世界にもいるならば、俺は何回だって殺す。俺と、俺たちが、何回でも切り刻んでやる」
戦さを愚弄し、戦さで笑い、戦さで死に、俺たちを殺したその十字を、今度こそ俺の手で───
*
現在、黄昏時
「拠点よし!」
「米よし!」
「魔力供給よし!」
「今からここをキャンプ地とする!」
一度は言いたかった、水曜のアレの名言その1を言い切った藤丸立香は名状しがたい達成感の虜になった。
「きゃんぷ?藤丸は何を言っちょるかわかりゃせんど。日の本言葉喋れ日の本言葉を」
「島津十字、お主には風情というものは無いのか」
「ごめんなー、こいつバカなんだよーこういうヤツなんだよー」
一度協力体制に入ると、空気は途端に緩み出した。そんな空気をもう一度締めるのも、カルデア司令官であるダ・ヴィンチちゃんの仕事だ。
『えーコホン、いいかな?』
「応、良いぞ」
『無事拠点も出来たことだし、今の状況を確認しよう。本来、この時代の関ヶ原は信長亡き後、天下を統一した豊臣秀吉が死んで起きた戦さだ。「天下分け目の関ヶ原」とも言われるがね、そのような規模の戦争でもかかった時間は半日だ』
「まっこと度し難か戦さじゃったど」
(((お前が言うのかそれ……)))
東軍にハブられ、西軍に馬上から話しかけられてキレて、薩摩の軍勢は事実上孤立。目に映るもの全てに襲い掛かった結果徳川の井伊軍に包囲され、ただ敵前逃亡するのもアレだからと敵中突破しつつ敵前逃亡。徳川四天王である井伊直政の死の原因になったり徳川の勝利に泥を塗ったりと、島津家だけでなく薩摩全体がやべえ奴らであった。他にも、報復は全力でやるくせに準備・現地に到着から実行までに翌日と待たないほど血気盛んであったり、敵本丸に単身突っ込んで返り討ちに遭い敵が「討ち取った」という宣言として自身の本丸にそいつの持ってた島津十字の旗が掲げられているのを見て「島津が勝った」と勘違いして全員で攻め入り見事制圧したりと、戦闘民族の筋金入りっぷりを示す逸話には枚挙にいとまがない。
そんなやべえ奴ら筆頭の島津家の人間がこう言うのである。
島津について少しでも知ってる人間ならば「それお前が言う?」と思うのは当然だろう。知ってて思わなかった人間にはきっと薩摩の才能があるだろう。おめでとう。
『ところで、キャスター』
「信長と呼べ」
『では信長、この地に召喚されてからどのくらい経つ?』
「2日だ」
『開戦の気配は?』
「皆無だな。徳川の斥候兵は昨日から湧いてきたが、ただの人間よ。1日経っても帰ってこないってんなら徳川も気付く」
「ほう、なら徳川は此方に向けて手を伸ばすはずじゃな。わしの見立てなら……」
「明日の昼じゃ」/「明日の昼だろ」
織田信長ズは確信して言った。
「薩摩は当日に夜襲かけっど」
「それはお前んとこがおかしいんじゃよ島津十字」
島津のバーサーカーをあしらいつつ、弓術双方のノッブが徳川襲撃の対策を立てる。流石は信長同士、考え方に違いがないので一切の滞りなく、たびたびこの上なく嫌そうな顔を互いに向けながら戦略を組み立てて行く。少し詰まったら島津のバーサーカーが口出しし、そこからヒントを得てさらに戦略を構築する。
しかし、ここへ来てここまでの戦略が瓦解するような発言がキャスノブの口から出た。
曰く、「そういや、昨日の夕べに明らかに人間じゃねえのが斥候に混じってたな」
日も暮れて、藤丸立香も火起こしをやっている中出た爆弾発言。キャスノブと島津以外、その場にいる全員が「そういうの早く言えよ……」と、地に膝をつきうなだれた。
*
夕飯後───
藤丸立香は状況を整理した。
「まずはキャスターとバーサーカーの出自について。これは遠い異世界から来たサーヴァントと生身の魂がサーヴァントという殻を纏ったものということだね。次に、関ヶ原の戦いはまだ始まってない。戦争前夜なのか戦争に異常が起きているのか、これはわからない。最後は私たちが置かれている現状について。東軍は斥候を幾らか出していて、キャスターはこれを殲滅しちゃった。だから纏まった量の兵士がこっちに来る。試算だと明日の昼。そして徳川の軍勢にはサーヴァントがいる。と、こんな感じ?」
『そんな感じです』
「困ったことに真名どころかクラスすらもわからん」
「知るかよんなもん」
「開き直るなよ……」
『斥候兵に混じっていたという発言からすると、アサシンのクラスかもしれないね』
「でも信長に気付かれてるから気配遮断はないよね」
「いや、アレの陣地は魔力を察知する。わしらみたいなサーヴァントは、たとえ気配遮断持ちでも身体を構成する魔力は隠せんじゃろうて」
厄介なことになった。とインテリ組は奥歯を噛んだ。せめてクラスに関する手がかりがあれば対策も打てたかもしれないのに。
『何にせよ、クラスに関する手がかりがないならばあらゆる可能性を考えねばならない。一番ありえるクラスはアサシン。これを前提とした作戦を立て、それからクラス別で対策法を分岐させる。それでいいかね?ノブナガ』
「そうじゃな」/「そうだな」
またも両者嫌な顔。ともかくどうにか徳川の軍勢と鉢合わせにならないようにせねばならない。しかし未だ何もわからぬ状態。結局この日の成果はキャスターの織田信長を味方にするのみにとどまった。
*
夜。
「応、どがんかしたか、こげな遅きに腕立てばしよって」
「あぁ、島津」
藤丸立香と島津は初めて2人きりになった。
「安全とはいっても、これまで見張りとかしてたことが多かったから、なんか落ち着かなくて」
「そいで鍛錬ばしちょるんか」
「うん」
*
私はたまたま生き残ったんだ。たまたま生き残ったから世界を背負わされた。勿論楽しかったこと、勉強になったこと、嬉しかったこと、沢山あったよ。でも、すっごくきついんだ。魔術師じゃないから魔術なんてこの礼装でやってきた。世界を救うクセしてこの手から沢山の命がこぼれた。魔術があったら、私じゃない魔術師が生き残ったら、って今でも思う。マシュに守られてばっかりだし、私にできることは全然ないんだって思う。でも、できることがないというのはできることを増やしちゃいけないことじゃないと思うんだ。だからこうして鍛錬してるの。
私は不思議なものを見る顔の島津に事情説明兼愚痴を始めた。カルデアのみんなやマシュに言えばいいと人は言うだろうけど、そんなことは微塵も思えないことを島津に話した。当の島津は興味なさげだったけど、最後まで話させてくれた。
「おいは戦餓鬼ぞ。十二の頃、敵の首ば獲って
それだけ言ってにかりと笑い、島津は元の場所に戻って寝た。
バーサーカーに言っても無駄だってことは知ってたけど、スパルタクスみたいなこと言うなあ。スパルタクスの方が難しいけど、どっちも自分の中で解決してることを延々と話すっていうか。
「うーん、とりあえず、今のまま出来ることをしろってことかな?」
夜は更け、筋肉の負荷も程よい感じになった。明日も早いし、そろそろ寝よう。
*
朝が来る。
徳川の備が来る。
男がキャスノブの陣地に足を踏み入れた瞬間、男の足元で大爆発が起きた。
「……ッ!!」
開戦の狼煙は今、上がった。
島津のバーサーカー
霊基再臨
スキル習得
心眼(戦):B
自身に回避状態を付与(1T)&敵全体のクリティカル発生ダウン(3T)
白兵戦において最も大事なこと、すなわちどれだけ傷を受けずに相手へダメージを入れるかについてのスキル。彼は戦場にあるものを全て使い、最低でも急所には当たらない身のこなしと戦術を組む。