(なんだよ…………あの姿…………ッ!?)
目の前の少女の変化に目を見開く。
アームドギアらしき武器は見当たらない事から、それがアームドギアであるという可能性は考えられないが、響の全身からはそれと似たような力を感じられる。アームドギアを形成せず、ただ姿のみを変化させる。考えられない事だが、これは明らかに――――――
(――――――ギアを変化させやがったのかッ!? どんだけ化け物なんだよ、こいつはッ! …………ぐッ!?)
立ち上がろうとした時、全身に鋭い痛みが走る。自己修復機能を備えたネフシュタンの鎧がクリスの体を自身と同一化する事で治療しようとしているのだ。このままだと食い破られかねない。
(なら、食い破られる前にカタをつけるだけ…………ん?)
ふと、気付く。なぜ、こんなに隙だらけの自分に彼女は追撃してこない? これまでの戦いで、自分がどれ程の強敵かは響達も知っているはずだ。なら、なぜ追撃してこないんだ。
響達を見ると、なんと響が仲間達に「私にやらせてください」と頼み込んでいた。仲間達は心配そうに響になにかを言っていたが、最後には響に任せる事を承諾して後方に下がっていき、響が前に出る。
(自分一人でも、あたしに勝てるって言いてぇのかッ!?)
目の前で追撃する気配を一片も見せない響に、クリスは怒りの叫びを上げる。
「お前、馬鹿にしてるのか? あたしを…………雪音クリスをッ!」
「…………そっか、クリスちゃんって言うんだ」
「なッ…………」
戦場に立っている事を忘れているかのような笑顔で返事をした響に、思わず呆気に取られる。
「ねぇ、クリスちゃん? こんな戦い、もうやめようよッ! ノイズと違って、私達は言葉を交わす事が出来るッ! ちゃんと話をすれば、きっとわかり合えるはずッ! だって私達、同じ人間だよッ!」
人と人が繋がれる事を信じてやまない瞳で自分を見つめてくる響に、クリスはさらに怒りを募らせていく。
「…………お前、くせぇんだよ。嘘くせぇ…………ッ! 青くせぇ…………ッ! お前は絶対に、ぶっ潰してやるッ!」
差し伸べられた手を振り払うようにクリスは二本の鞭を振るい、響に攻撃した。
いきなり攻撃された事に防御が間に合わなかった響が一歩後ずさり、このまま押し切ろうとクリスは再び鞭を振るおうとするが、ネフシュタンの鎧の修復機能による激痛に膝をついてしまう。どうやら、予想以上に鎧の回復速度が速いらしい。
――――――それなら、奥の手を使うまでッ!
「ぶっ飛べよッ! アーマーパージだぁッ!」
身に纏う鎧を周囲に放出する形で脱ぎ捨てる事によって発生した土煙の中、クリスはこれを口にする事に強い忌避感を覚えながら――――――
「――――――Killter Ichival tron」
「――――――新たなアウフヴァッヘン波形検出ッ!」
「なんだとッ!?」
新たな聖遺物の反応を確認したオペレーターの言葉に、司令室が騒然とする。
先程ガングニールになんらかの変化が起きた事ですぐに調査を始めさせた直後に新たな聖遺物の存在を告げる言葉に驚愕した弦十郎達の前に、今回検出されたアウフヴァッヘン波形の根源の名が表示される。
《code:
「イチイバル…………だとォッ!?」
イチイバル。それは北欧神話に登場する神ウルが使用していたとされる弓であり、十年前に失踪したとされていた聖遺物の名前である。
(失われた第二聖遺物までもが、向こう側に渡っていたというのか…………ッ!)
拳を握り締め、弦十郎はモニターで響の前に立つクリスを見つめた。
「――――――歌わせたな。あたしに歌を歌わせたなッ!」
自分や翼と同じ鎧を纏ったクリスが、響達に両手に持ったクロスボウを向ける。
「教えてやる…………あたしは、歌が大っ嫌いだッ!」
クロスボウから撃ち出された十本の矢は響どころかその後方にいるエターナル達にも襲い掛かる。
振り返った響は、胸から湧き上がってくる、歌とは異なる力を発動させる。
すると、エターナル達の前に現れたもう一人の響が彼らに迫っていた矢を全て弾き飛ばした。
「嘘ッ!? これって分身ッ!?」
「これって、まさかルナメモリの…………ッ!?」
「克己先生達に手出しはさせないッ!」
誰かに教えられなくても、この身に宿ったガングニール以外の力の使い方は自然と理解出来る。
(本当は戦いたくないけど、やるしかない…………ッ!)
走り出した響から二人の響が左右に現れ、三方向からの同時攻撃を仕掛ける。クリスは僅かにそれに動揺するが、攻撃の手を緩める程ではない。
「舐めるなッ! 見せてやる…………これがイチイバルの力だッ!」
アームドギアをガトリング砲に変化させる事で繰り出す技――――――『BILLION MAIDEN』が左右から迫る響の分身を消滅させ、響を吹き飛ばした。
「――――――ッ!」
全てを破壊し尽くさんとする意思を感じさせる歌を口ずさみながら撃ち出される弾丸を響が弾きながら後退していると、彼女の前に降り立ったエターナルがエターナルローブで弾丸を防御し始めた。
「克己先生ッ!?」
「どうやら、今のお前はルナメモリの力を使えるようになっているようだな。だが、完全には扱いきれてないように見える。悪いが加勢させてもらうぞ」
「はあああッ!」
ルナドーパントを踏み台にジャンプしてクリスの上を取ったヒートドーパントの跳び蹴りをガトリング砲を交差させて防ぐクリス。
「歌を嫌ってるくせに、中々良い歌じゃない。あんた、本当は歌が大好きなんじゃないの?」
「んな訳あるかッ!」
撃ち出された弾丸をクリスを中心に弧を描くように走って避けていくと、ルナドーパントがT2マスカレイドドーパントを召喚してクリスに向かわせてくる。
「響ちゃん。なにかを召喚する時はね、そこに本物がいる事をイメージするのよ。貴女が召喚した貴女は決して『偽物』じゃなく、『本物』である事を強く意識しなさいッ!」
「は、はいッ!」
響がクリスを囲む形で三人の自分を召喚すると、彼女達はそれぞれ違う動きでクリスに攻撃を仕掛けていく。
「鬱陶しいんだよッ! ぶっ飛べぇッ!」
だが、クリスが腰部アーマーから追尾式小型ミサイルを飛ばす技――――――『CUT IN CUT OUT』を使用した事で、彼女を囲んでいた三人の響とT2マスカレイドドーパントは倒されてしまう。
「あぁ…………ッ!」
「…………やっぱり、響ちゃんはエネルギーを集中させるのは不得意みたいね。だったら今度はその力を体に纏わせるのはどうかしら。貴女には分身を作るより、体でぶつかった方が良いかも」
「悪いけど、そう簡単に練習台になってくれる相手じゃないわよ、あの子」
その時、エターナル達目掛けて小型ミサイルが一斉に襲い掛かってきた。クリスが腰部アーマーから小型ミサイルを発射する技――――――『MEGA DETH PARTY』である。
回避も防御も許さないと言わんばかりの数の暴力が彼らを嬲ろうとしたその時――――――
「そこまでだッ!」
夕焼けの空から落ちてきた巨大な物体が、全ての小型ミサイルから彼らを護った。
「なんだこりゃ…………、盾…………?」
「――――――剣だッ!」
大地に突き立った巨大な剣の柄の上に立っていた翼が足元の剣を元の大きさに戻し、クリスに斬りかかった。
「翼さんッ!」
間一髪で頭上からの斬撃を躱した翼に響達が駆け寄る。
「翼さん、体の方は…………」
「まだ本調子ではないが、軽く戦える程度には回復した。…………手を貸してくれるか?」
「…………ッ! もちろんですッ!」
思わぬ増援からかけられた言葉に心が晴れやかになった響が、翼達と共に構えを取る。
「ふん、死に体でおねんねと聞いていたが、足手纏いを庇いに現れたか?」
「違うな。もうなにも、失うものかと決めたのだッ! 行くぞ、立花ッ!」
「はいッ!」
笑顔で答える響に頷く翼。この時、ついに翼は響が覚悟を決めた戦士であり、共に戦場に立つに相応しい友であると認めたのだ。
「助っ人と言えども、所詮は死に体ッ! ここで全員纏めてゲームオーバーだッ!」
「それが事実か否か、その目で確かめるがいいッ!」
クリスが撃ち出した弾丸を響達が散開して回避し、前に走り出した翼が掻い潜っていく。
(あたしの弾幕を、掻い潜ってきただとッ!?)
「震える指で引き金を引こうとも、狙いを定めるには能わずッ!」
「このッ! うらあああッ!!」
周囲からの攻撃を掻い潜りながら翼の動きを予想してクリスは引き金を引くが、翼はそれを全て回避し、時には弾いたりしながら着実にクリスと距離を縮めて剣を振り上げた。
「しまった…………ッ!?」
以前戦った時と動きがまるで違う翼に動揺したクリスが攻撃を躱した結果バランスを崩してしまい、尻もちをついてしまう。
「これで王手だな」
首筋に切っ先を当てる翼だが、クリスの目に諦めの色は見えない。
「お前と私達は刃を交えるべき間柄ではないと信じたい。お前にはその聖遺物について問い質さなければならない。本部まで同行願おうか」
「誰が行くかよッ!」
「…………ッ!」
右手のクロスボウから撃ち出した矢を翼が防御している隙に彼女から離れるが、すぐに自分が彼女の仲間達に囲まれている事に気付く。
「リンチは趣味じゃない。大人しく降伏したらどうだ?」
「降伏なんて選択肢、あたしが選ぶわけ…………ッ!?」
腰部アーマーからミサイルを撃ち出そうと構えた瞬間、突如として上空から襲ってきたなにかがクリスの武装を破壊した。
「なんだよ、これ…………。どうしてノイズが…………ッ!?」
「――――――命じた事も出来ないなんて、貴女はどこまで私を失望させるのかしら…………?」
この場にいる誰のものでもない女性の声が聞こえ、全員がその声が聞こえてきた方向を見ると、こちらを見下ろしてくる金髪の女性がいた。そして、その手にはソロモンの杖が握られていた。
「いきなりなにすんだよ…………フィーネッ!」
「フィーネ? フィーネって確か…………」
「楽曲の終止を表す用語の名前よ。どうやら、親玉の登場ってわけね」
全員が見上げる中、フィーネは心底失望した目線をクリスに注ぎ続ける。
「呆れたわ。私はそこにいる小娘を連れて来いって命じたはずなのに、それを潰そうとするなんて。こんな簡単な事も果たせないの?」
「なんでそこまでこいつに拘るんだよ…………ッ! こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいあたし一人で消してやるッ!」
自分の胸に手を当て、クリスはどこか哀しさと嫉妬を感じられる声で叫ぶ。
「そうすれば、あんたの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろッ!?」
(呪い…………? 呪いとはいったいなんだ…………?)
聞き慣れない単語についてクリスに訊こうとしたその時、フィーネは深く溜息を吐いた。
「丁度いい機会ね。クリス、もう貴女に用は無いわ」
「な、なんだよ、それ…………ッ! おい、フィーネッ!」
叫ぶクリスを無視してフィーネが片手を持ち上げると、クリスが脱ぎ捨てたネフシュタンの鎧が光の粒子となって彼女の手に集まり、やがて消えてしまう。
「本来ならノイズの相手をしてもらうべきだけど、今日は彼の相手をしてもらうわ」
そこでフィーネは、エターナル達の目からは見えない背後を振り返り、そこにいるであろう誰かに声をかける。
「紹介するわ、仮面ライダー、ドーパント、そしてシンフォギア装者諸君。彼が今回、貴方達の相手を務める男よ」
そう言って左に避けたフィーネの背後から現れたのは、白い服装に身を包んだ男性。その服装に、エターナルと彼の部下のドーパント達が息を呑む。
「貴方…………ッ! その服装は…………ッ!」
「おや、この服装をご存じで? もしや、過去に
「えぇ、その通りよ。思い出すだけでも虫唾が走るけどね…………ッ!」
ルナドーパントとヒートドーパントが全身から殺気を迸らせ、その様子に驚愕する響達の前で、二人以上に殺気を漲らせているエターナルが得物をその男に向ける。
「忘れるものか…………ッ!
これまで以上の憤怒と怨嗟を感じさせる声で、エターナルは頭上の男の所属する組織の名を口にする。
「――――――殺してやるぞ…………『
言うが早いか、三人はその男に飛びかかる。彼は目の前から迫り来る三つの死に対し――――――
「自己紹介もさせてくれないとは、余程我々は貴方方の恨みを買ってしまったようだ」
全く動じておらず、むしろゆったりとした動作で懐から一本の黄金のメモリを取り出した。
『ユートピア!』
男の手から滑り落ちた『理想郷』の記憶を内包したメモリが、まるで自我を持つように自動的に彼の腰に巻かれたベルトに差し込まれ、彼を異形の存在へと変化させる。
瞬間、彼に向かっていた三人の体が吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「大道ッ!」
「京水さんッ! レイカさんッ!」
倒れている三人に響達が駆け寄る中、フィーネは彼らに背を向ける。
「それじゃあ、いつかまたお目にかかりましょう。尤も、生きていたらの話だけど」
フィーネが姿を消し、道路からユートピアドーパントが専用武器『理想郷の杖』を手に彼らの前に降り立つ。
「さて、貴方方がどういった戦いをするのか、私に見せてください」
「臨むところ…………ッ!」
軽く杖で左手を叩きながらゆっくりと歩いてくる彼から感じる絶対的なオーラに僅かに気圧されながらも、翼が走り出す。
「やあああッ!」
病み上がりでありながらも、長年の鍛錬によって鍛え上げられた腕から振るわれる斬撃。並のノイズであれば集団であろうと一撃で全てを塵に変える程の威力を誇るそれを――――――
「これは…………予想外ですね」
「な…………ッ! ば、馬鹿な…………ッ!?」
――――――ユートピアドーパントは、軽く杖で受け止めていた。
「以前のダメージがまだ残っているようですね。なら、貴女に用はありません」
「ぐ…………ッ!?」
突然襲って来た謎の重圧に、翼はその場に跪く。立ち上がるどころか、圧し潰されないように踏ん張る事で精一杯な状態の翼を残し、今度は響に向かっていく。
「聖遺物とガイアメモリの力の融合ですか。来なさい」
「よくも翼さんを…………ッ!」
「だ、駄目よ響ちゃんッ! 行っちゃ駄目ッ!」
ルナドーパントの制止を振り切って、響がユートピアドーパントに殴り掛かる。
「はッ! やぁッ!」
「ふむ…………」
連続で突き出された拳を片手で受け止め、その力量を量るユートピアドーパント。反撃にと繰り出された杖による打撃を躱すと、響は先程ルナドーパントから受けたアドバイス通り、分身を生み出すエネルギーを全身に巡らせる。
「喰らえッ!」
「むぅ…………ッ!?」
ゴムのように伸びたパンチが顔面に叩き込まれ、予想外の攻撃に対処が遅れたユートピアドーパントが僅かに後ずさる。そこへすかさず響が足や腕を伸ばして追撃を加えていくが、徐々にユートピアドーパントもその攻撃に慣れていき、最後には響の攻撃を全ていなしながら彼女に近付いていき、杖で殴り飛ばした。
「この…………ッ!」
「よくも響ちゃんと翼ちゃんをやってくれたわねッ!」
今度はヒートドーパントとルナドーパントだ。ルナドーパントが向かわせた五人のT2マスカレイドドーパントを吹き飛ばした際に出来た隙を突いてルナドーパントの両腕が迫るが、ユートピアドーパントはそれを容易に受け流し、続けて飛んできたヒートドーパントの蹴りも受け止めると、理想郷の杖を振るって二人の体を浮かび上がらせ、勢いよく地面に叩き付けた。
「仮面ライダー。次は貴方です」
「はぁッ!」
エターナルエッジを駆使しての攻撃を受け止めたユートピアドーパントの杖をエターナルローブで防ぐ。一度距離を取ってからエターナルローブで体の大部分を隠し、ユートピアドーパントの攻撃に合わせてカウンターを繰り出してダメージを与えていく。
「中々骨がありますね。そうでなくてはつまらない」
「ぐぅ…………ッ!?」
カウンターの際に露出する胴体になにも握っていない左手からの衝撃波を受けて吹き飛ばされたエターナルは、立ち上がると同時にスロットから引き抜いたエターナルメモリをエターナルエッジに挿し込む。
「ならば、こいつはどうだ?」
『エターナル・マキシマムドライブ!』
「…………ッ!? これは…………ッ!?」
エターナルメモリのマキシマムドライブは他のメモリの機能を半永続的に停止する力を持つ。T2ガイアメモリにはその力はあまり適用されないが、ユートピアドーパントが動きを止めたという事は、彼が使用しているメモリはT2ではない証拠だ。
「貴様はあの時、俺が殺したはずだ。地獄から蘇ったのなら、もう一度地獄に叩き落としてやる…………ッ!」
身動きが取れないでいるユートピアドーパントに、エターナルがトドメを刺そうと走り出し、跳び回し蹴りを繰り出す。
エターナルの必殺技は直撃した。変身解除の途中で絶大な威力の跳び回し蹴りを叩き込まれれば、いかにユートピアドーパントといえど無事では済まない。
――――――そのはずだった。
「馬鹿な…………ッ!?」
なんと、ユートピアドーパントは彼の跳び回し蹴りを受けたにも関わらず、起き上がったのだ。だが、エターナルレクイエムは流石に堪えたらしく、僅かに呻き声を漏らしていた。
「やってくれましたね…………ッ! ですが、私を倒すにはまだ足りない…………ッ! おおおおおおおおぉぉぉぉッ!!」
全身に黄金の輝きを纏い、錐揉み上に回転しながらの跳び蹴りがエターナルに直撃した。
「が、あ…………ッ! はぁ…………ッ!!」
変身が解除された克己がユートピアドーパントの攻撃を受けた胸元を押さえて悶える。相手が仮面ライダーではなくドーパントである事が不幸中の幸いであり、いかにそれが致死の一撃だろうと、マキシマムの力を宿した攻撃でない限りはNEVERである克己の身を滅ぼす事は出来ない。
「仮面ライダーもこの程度ですか。それと、私は死んでなんかいませんよ。今もこうして生きています」
自分の胸をトントンと叩いたユートピアドーパントは克己に続ける。
「それに、貴方には感謝しているんですよ、仮面ライダー。貴方のベルトがあったから、フィーネはこのガイアドライバーを作る事が出来たんですから」
「なん…………だと…………ッ!?」
自分のロストドライバーが財団Xに新たな力を与えてしまった事に驚愕している克己から視線を外し、ユートピアドーパントはクリスに顔を向けた。
「最後は貴女ですね、雪音クリス」
「…………ッ!」
ユートピアドーパントに視線を向けられ、クリスが身を強張らせる。
「フィーネは貴女を用済みと切り捨てた。なら、貴女とそのシンフォギアは我々の手元に置くとしましょう」
「に、逃げて…………クリスちゃん…………」
「あ、あぁ…………ッ!」
自分を苦戦させた者達をあっという間に退けたユートピアドーパントから距離を取るように、クリスは一歩、また一歩と後ずさっていく。しかしそうやって開いた距離は、ユートピアドーパントが歩を進める事で縮んでしまう。
「貴女の希望とは、いったいどういうものなのでしょうかね…………?」
「ひッ!」
ついに距離を詰めたユートピアドーパントの手が、クリスの顔を覆う。瞬間、クリスは全身からなにかが吸い取られていく感覚に襲われた。
それは、希望。彼女がなぜ生きるのか。なにが彼女を突き動かすのか。それら全てを、目の前の怪物は奪おうとしている。
(やめろ…………取るな…………取らないでくれ…………ッ! それを取られたら、私はいったい、なんの為に戦ってきたんだ…………ッ! フィーネに、従ってきたんだ…………ッ!)
不意に、クリスの脳裏にとある男女の姿が浮かぶ。
それは、幼い頃自分を庇って命を落とした、両親の姿。彼らは戦地でも絶やす事の無かった笑顔で、自分の名を呼んでいる。それすらも、希望の一部としてユートピアドーパントに奪われようとしている。
(取らないで…………ッ! パパとママを、取らないでよ…………ッ!)
彼らの姿が徐々に黒く染め上げられていく。それが嫌で堪らなくて、クリスは我知らずに叫ぶ。
「誰か…………助けてくれえええええッ!!」
嗚咽交じりの叫びが森に響き渡った瞬間、
「――――――クリスッ!!」
頭上から降り注いだ光弾が、クリスからユートピアドーパントを引き剥がし、茂みから飛び出した影が両手で握った槌でユートピアドーパントを殴り飛ばした。
「クリスッ! クリスッ!!」
自分を抱え起こしている蒼い体を持つ怪人から聞こえる声に、クリスは微かに瞼を持ち上げる。
「け、賢…………?」
「賢ッ! こいつら運んで行くぞッ!」
遠くから聞こえる声に頷いた賢が変身を解除し、スモークグレネードを投げてユートピアドーパントの視界を奪う。その隙に駆け出す賢の腕の中で、クリスの意識は深い闇の底へ落ちていくのだった。
クリス「雪音クリスと」
賢「芦原賢と」
剛三「堂本剛三の」
ク&賢&剛「聖遺物解説コーナー!」
クリス「久しぶりのこのコーナー、今回はあたし達が担当させてもらうぜッ! 今回紹介するのはこいつだッ!」
《イチイバル》
賢「イチイバルとは北欧神話に登場する弓の名手である神ウルが、自分の住処にしていたとされるユーダリルという場所で作った櫟製の弓だ」
剛「ユーダリルというのは『イチイの谷』という意味があるんだ。まさに、イチイバルを作るに相応しい場所だな」
ク「あれ? イチイバルの紹介ってこれだけか? え? もっとこう、ガングニールや天羽々斬のような凄い伝承は?」
賢「残念だが、いくら探しても出てこなかった。まぁ、ウル神お手製の弓だと考えればいいんじゃないか?」
ク「あたしだけショボくないかッ!? クッソーーッ! あ、えっと、じ、次回もよろしくなッ!」