死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 お気に入り登録者400人ありがとうございます! 私のような小物が書いた小説をここまで多くの人が読んでくださって本当に嬉しいです! これからも「死神に鎮魂歌を」をよろしくお願いします!



それが武器なのであれば

「――――――メディカルチェックの結果が出たわよ。外傷は多かったけれど、深刻なものが無くて助かったわ」

 

 

 二課では了子のメディカルチェックを受けた翼と響が、その結果に耳を傾けていた。

 

 翼はユートピアドーパントの重力操作に耐え続けた結果、元々十全ではなかった体がさらに疲弊、響はガングニールとルナメモリの両方の力を使用した事による疲労と判断された。幸い、二人のそれは充分に休息を取れば問題は無いらしいので、それに二人は一先ず安心する。

 

 万全じゃない状態で出撃した無茶をした翼は弦十郎に怒られはしたが、以前と違って響を半人前ながらも戦場に立つに相応しい戦士であると認め、今度出撃する時は援護くらいなら出来るという話を受け、響は彼女に認められた事を嬉しがっていた。

 

 

「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片が、前より体組織と融合しているみたいなの。その一撃一撃が絶唱に匹敵する攻撃力を引き出す驚異的なエネルギーと、大ダメージを受けてもすぐに全快する回復力はそのせいかもね」

「融合…………ですか?」

 

 

 聖遺物と人間の融合という情報に目を細める翼達だが、了子が軽々しく話題に出したので大事ではないと判断する。この中で最も聖遺物に詳しいとすれば了子だろうし、メディカルチェックで装者達の状態を確認し、彼女達が出撃させるか否かの判断を弦十郎に伝えるのは彼女の仕事だ。問題が起こるようであれば、彼女はこの情報を軽々と口にしたりはしないはずだ。

 

 

「そういえば、今日響ちゃんが纏った新しいギアについて聞かせてもらいたいわね。変化しても元のガングニールのフォニックゲインは検出されていたから、完全に別のギアに切り替えたわけではないようだけど…………」

「分身や伸縮自在の四肢…………。間違いなくルナメモリの力だな」

「それは私も同感です。あの時、立花の網膜にはルナメモリのイニシャルが浮かんでいましたから」

「ワタシのルナメモリが響ちゃんに力を貸したって事かしら? そういえば響ちゃんって、ワタシ達より先にメモリを見つけてたわよね。それが関係しているのかしら?」

「そうなると、私のヒートも彼女のギアを変化させるかもしれないって事? でも、そんな事ってあり得るのかしら?」

「その可能性は否定出来ないぞ。T2以前のメモリの話だが、過去にあるドーパントが複数のメモリを挿入してそれらの能力を使用したという記録がある。彼の場合はガイアメモリの法則を度外視した手段だったが、響の場合は恐らく…………」

「元から複数のメモリに適性があった体質だった、って事ッ!? そんなのってあり得るのッ!?」

 

 

 聞いた事の無い事例に驚愕するレイカは、次に疑問に思った事を克己に尋ねる。

 

 

「でも、あんたが例に挙げた男って、最後はメモリの過剰使用で死んだって話じゃない? いくら適性があるからって、これからも響がルナの力を使い続けて、仮に私のメモリの力も使えるようになったら…………」

 

 

 最悪、死んでしまうのではないかという不穏な考えを抱いていたレイカだったが、克己はそれを否定する。

 

 

「翼がサイクロンとブランクメモリをプロフェッサー・マリアから受け取った時、彼女はそれを『地球(ほし)の意思』と言ったらしい。もしかしたら、この地球そのものが響をバックアップしているかもしれない。もしこれが正しいのなら、響はリスク無しでメモリの力を使えるはずだ。とんでもない話だが、聖遺物の力や現代じゃ再現不可能な異端技術の結晶が存在しているこの時代だ。あり得なくも無いんじゃないか?」

 

 

 地球の力がどれだけ強力なものかはガイアメモリが証明している。それを使用して戦うレイカだって、それを理解しているはずだ。

 

 

「地球そのものが力を貸すなんてね。響ってば、もしかしたら物凄い切り札(ジョーカー)なのかもね」

「ジョーカーだなんて、私はそこまで凄いものじゃ…………」

 

 

 照れ隠しのつもりか、頭を掻いている響をじっと見つめていた了子がそうだと手を合わせてこの場にいるメンバーを見渡す。

 

 

「ねぇねぇ、良かったら新しいガングニールの名前を決めましょ? 『ルナの力を宿したガングニール』じゃ変でしょ? そうねぇ…………」

 

 

 顎に手を当て、少し考え込んだ了子は頭に浮かんできた名前の内、これだと思った名前を口にした。

 

 

「『ガングニール・ルナクロス』っていうのはどうかしら? クロスは『交わる』という意味もあってね、翼ちゃんと擦れ違いながらもこうして絆を結んだ響ちゃんらしいとは思わない?」

「あら、カッコいい名前じゃないッ! 嫌いじゃないし、むしろ好きよッ!」

「ガングニール・ルナクロス…………良い名前ね。気に入ったわ。響はどう?」

「はいッ! 私も気に入りましたッ!」

「よし、では今後からルナの力を纏ったガングニールを『ガングニール・ルナクロス』と呼称しようッ!」

 

 

 弦十郎に全員が頷き、話はメディカルチェックに戻る。

 

 

「…………そういえば、克己ちゃん達はよかったの? メディカルチェックを受けなくて」

「俺達の体は常人よりも強靭な耐久力を備えている。いかに致命傷といえども、俺達は止まらないさ」

「でも…………」

「私達の事は気にしなくていいわよ。それより今は…………」

「あの男…………財団Xについて話さないとね」

「財団Xという組織名は知っている。確か、科学研究財団として活動しているはずだが…………」

「それはあくまで表向きの財団Xだ。裏社会に活動する組織は数あれど、二課(おまえたち)が本当の奴らを知る事はまず無い。調査の最中知るか、向こうから接触してこない限りはな」

 

 

 ソファーに背を預けていた克己が両手を組み、目の前の机を囲むように配置されたソファーに座っている弦十郎達に財団Xについて説明し始めた。

 

 

「財団X。ボスの言った通り、表向きでは科学研究財団として名を馳せている団体だが、その実態は強力な兵士を手に入れる為に様々な組織、個人に援助を行う闇の組織だ。目的の為なら手段は選ばず、必要とあれば非人道的行為にさえ手を出す…………死の商人さ」

「一度ワタシ達は、財団Xの支援を受けたとある組織が運営する村で、そこに囚われていた人達を助け出そうとした事があったわ。でも、結果は残酷なものだったわ…………」

「それって、まさか…………」

「全員殺されたわよ。私達の目の前で。そこのボスが予め彼らに仕掛けを施していたの。村から出た瞬間、彼らの命を奪うような、悪魔の仕掛けをね」

「そんな…………」

「なんと下劣な…………ッ!」

 

 

 口元に手を当てる響の隣で翼が拳を太ももに叩き付ける。彼女達から見て左側のソファーに座っている弦十郎は、以前病室で聞いた克己の過去と、今語られた彼らの過去にあった出来事を照らし合わせていた。

 

 

(そうか…………。以前、克己君が話した過去とは、その事だったのか)

「その組織のボスが彼らに仕掛けを施す事が出来たのは、財団Xが奴に与えたガイアメモリの力故だ。そして、それを作ったのももちろん…………」

「財団X、というわけね。貴方達の話を聞く限りだと、彼らが支援した相手がどれだけ人殺しをしようと、彼らは全く悪びれていない。それどころか…………」

「貴重なデータが取れて万々歳、と喜ぶだろうな」

「なんで、そんな酷い事を…………ッ!」

「それを平然とやってのけるのが、財団Xという組織だ。そして今回俺達の前に現れた男…………。俺は一度、奴に会った事がある。使ったメモリも同じものだった」

「そのメモリとはどんなものだ?」

「ユートピア。『理想郷』の記憶を内包したガイアメモリだ」

「じゃあ、その能力は…………」

 

 

 了子の質問に、克己は過去の彼と出会った時を思い出す。

 

 

「…………そういえば、俺から希望を奪おうとしてきたし、重力を操って俺の動きを止めてきた。能力は『触れた相手の希望を奪う』、『重力操作』といったところか」

「あの時襲ってきた重圧感はそれが原因だったのか…………」

「重力操作はわかりますけど、希望を奪うっていう能力はイマイチピンと来ませんね…………。希望を奪われたら、いったいどうなってしまうんでしょうか…………」

「…………少しいいか?」

 

 

 顎に手を当てた弦十郎に克己達の視線が集まる。

 

 

「どうしたの、弦十郎君?」

「以前、デュランダル移送計画を実行した事は君達の記憶にも新しいだろう。結局妨害されて中止になってしまったが、それから数時間後にある情報が入ってきたんだ」

 

 

 次に弦十郎が口にしたのは、二課に入ってきた情報はデュランダルを移送する予定だった《記憶の遺跡》に関する情報だった。

 

 

「実はあの後、《記憶の遺跡》にいた職員の内数名が意識不明の重体となったという情報が入ってきてな。原因は不明。持病も無いとされていた。原因不明とされている事を除けば日常でもよくあるニュースなんだが…………これを見てくれ」

 

 

 胸ポケットから取り出した写真が机に置かれ、それを見た全員が息を呑んだ。

 

 なんとその写真に写っている人々は、誰も彼もがのっぺらぼうのように顔のパーツを全て失っていたのである。

 

 

「監視カメラには偽装された映像が流れていた。それを止め、本来の映像を確認してみたところ、被害者の顔を片手で掴んでいるユートピアドーパントの姿が映っていたんだ。克己君からの聞いた彼の能力と照らし合わせてみれば、自ずと答えはわかる」

「希望を奪われた人間は、その証拠として顔を奪われる…………。どこが『理想郷』だッ! こんなのが『理想郷』の力なのか…………ッ!?」

「でも、どうして私達にこの事を黙っていたの? こんなの、二課(わたしたち)が真っ先に解決すべき事件じゃない」

「…………すまない。翼はまだ回復していないし、響君はデュランダルを振るった影響で眠っている。克己君達も事後処理を手伝っていたから、それを話せるタイミングを逃してしまったのだ」

 

 

 頭を下げる弦十郎だが、克己達はそんな彼を責めず、了子が彼に顔を上げさせた。

 

 

「みんなを気遣っていたのね。本当なら『なんで早く言わなかった』ってはっ倒してやりたいところだけど、そういうところが貴方らしくて素敵よ?」

「了子君…………」

「私も、あの後すぐにそういう情報が入ってきたら死んじゃいそうです…………」

「気遣う事も上に立つ者としての務め。実に叔父様らしい」

「了子の言う通り、そういうところがボスらしい。お前らもそう思うだろ?」

 

 

 克己に京水とレイカが頷くと、弦十郎は改めて「すまない」と一言謝ってから、写真を胸ポケットに仕舞う。

 

 

「でも、そうなると心配です。あの人がいつまた人を襲うかわからないんですから…………」

「ユートピアメモリの性能を改めて確認する為に人を襲う可能性があるかもしれない。でも、この街の住人全員を護る事は出来ないな…………」

「悔しいが、その通りだ。だが、部下や情報網を駆使して奴の情報を集める事は出来るかもしれん」

「…………そういえば、未来は大丈夫なんですか?」

「お友達に関しては心配しなくても大丈夫よ。緒川君達から機密保護の説明を受けたら、すぐに解放されるわよ♪」

「はい…………」

 

 

 一先ず未来が安全だという事に響は安心するが、その表情は晴れなかった。

 

 

(未来…………)

 

 

 隠し事はしないと約束したのに、黙ってシンフォギアを纏って戦っている自分を見て、彼女はなにを思っているのだろうかと、響は親友について考えるのだった。

 

 

 

 

(――――――なんでだよ、フィーネ…………)

 

 

 ユートピアドーパントに希望を奪われかけたところを響達と一緒に賢達に助け出されたクリスは、重い足取りで夜の街を歩いていた。

 

 あの装置に繋がれて痛みを与えられるのは嫌だったが、それでも自分を受け入れてくれたフィーネに切り捨てられたクリスは、ふと後ろを歩く二人に声をかける。

 

 

「なぁ、フィーネは本当に、あたしを捨てたのか?」

「襲われたくせにまだ信じられねぇのか? お前は捨てられたんだよ、クリス」

「そう簡単に信じられる程、あたしは出来てねぇんだよ。…………お前達はどうしてあたしについてくるんだよ。捨てられたのはあたしだけで、お前達は捨てられてないはずだろ?」

「財団Xが関わっていた事がわかった以上、もう彼女に従うつもりは無い」

「あの女、奴らと組んでいた事を俺達に黙ってやがった。前からどこかに俺達が集めたメモリのデータを送っていた事は気になってたが、まさかその相手が財団Xだなんてなッ!」

 

 

 吐き捨てるように言った剛三が近くの電柱を殴りつける。持ち前の怪力によって殴られた箇所が僅かに凹んだ事に気付かぬまま、三人は歩を進める。

 

 

「どうするよ、賢。俺達が見つけたメモリは全部奴の手元にある。なんとかして取り戻さねぇとまずいぞ」

 

 

 フィーネの取引相手は米軍だけかと思っていたが、財団Xも関わっていたとなると話は変わってくる。米軍であれば手に入れた技術を他国に流出させる事は無いだろうが、財団Xは支援している相手に惜しげも無くガイアメモリの情報を提供するだろう。そうなってくると、無辜の人々がガイアメモリを使用した犯罪の被害者になってしまう可能性が出てくる。

 

 フィーネがガイアメモリの情報を財団Xに提供し始めたのは賢達が彼女の下で動くようになってからだろうが、この短期間で財団Xはガイアメモリ専用のドライバーを開発するまでに至っている。

 

 ドライバーが作られてしまった以上、もう量産を止める事は出来ないだろう。だが、メモリの情報はフィーネの手元にあるメモリを全て回収してしまえば、少しではあっても情報の流出は防げるはずだ。

 

 

「せめてゾーンさえあればなぁ。あれを克己に渡せたら万々歳なんだが…………」

 

 

 『地帯』の記憶を内包しているT2ゾーンメモリには物体移動能力が備わっている。それさえ手に入れば後はエターナルに変身した克己に使用してもらう事で残りのメモリを回収する事が出来る。だが彼らが集めたメモリの中にそれは無く、今もこの街のどこかに存在しているのだろう。

 

 

「だが、なにもゾーンが無ければメモリを回収出来ないわけじゃない。今度フィーネに会った時に奪えるだけ奪うだけだ」

「おう! んじゃ、そうと決まれば早速――――――」

 

 

 フィーネのところへ向かおうと言い出そうとした剛三だったが、腹部から空腹を訴える声が聞こえて突き上げかけた拳を下ろした。

 

 

「駄目だ…………腹減った…………。こんなんじゃあの屋敷に突撃出来ねぇ…………」

 

 

 腹部を押さえて項垂れる剛三に呼応するように、クリスと賢の腹の虫も唸り声を上げた。

 

 

「腹減ったなぁ…………。なにか食べたいところだけど、あたし金なんて持ってねぇし…………」

「金に関しては大丈夫だ」

「「あん?」」

 

 

 声を揃えて二人が賢を見ると、その手にはフィーネから与えられたスマホが握られていた。

 

 

「ガイアメモリ捜索に出る時、フィーネから貰ったものだ。道中腹を空かした時に食料を買えるように電子マネーが入っていた」

「おい、大丈夫なのかよ。GPSとかでバレたりしたら最悪だぞ」

「大丈夫だ。搭載されていたGPS機能は解除したし、怪しい部分は取り除いておいた。どうやったかは秘密だ。さて、なにが食べたい?」

「俺はおにぎりで。具はなんでもいいぜ」

「クリスは?」

「…………あんぱん。あと牛乳」

了解(ラジャー)

 

 

 近くのコンビニで賢が買ってきた夕食を公園で食べ始める。

 

 

「…………なぁ」

 

 

 最後に口に含んだあんぱんを牛乳で一気に飲み込んだクリスが、自分を挟む形で食事を取っている二人に声をかける。二人は相変わらず食事を続けていたが、その様子からちゃんとクリスの話を聞いていると感じたクリスは、自分の抱く疑問をぶつける。

 

 

「前にも訊いたけど、なんであたしを助けてくれたんだ? 向こうにいる仮面ライダーとかはあんたらの元同僚だから助けるのもわかるけど、どうしてあたしまで…………」

「そういう事なら賢が答えるべきだな。俺はお前を救おうとしていた賢に従っただけだし」

「そうなのか?」

「…………あぁ」

 

 

 横から覗き込んでくるクリスに頷く賢。それを見て、クリスはふと、以前見た彼とその家族が写った写真を思い出す。

 

 

「…………もしかして、あたしをあんたの娘と重ねているのか?」

「…………やっぱり、そう思うのか?」

 

 

 横目で見てくる賢に頷く。

 

 髪の色は自分とは違う色だったが、彼の妻に抱えられている子どもの顔立ちは、どこか自分と似ていた。彼が自分を助けるのは、自分に娘の面影を重ねていたからなのかと、クリスは考えているのだ。

 

 

「違うと言えば嘘になる。なにせ、もう会えないんだ。妻にも娘にも」

「…………それって」

 

 

 嫌な想像が出来てしまったクリスだったが、賢は首を振ってそれを否定した。

 

 

「いや、生きている…………かもしれない」

「かもしれないって…………。随分と曖昧な返事だな。じゃあ、なんで会いに行かずに傭兵なんてやってんだよ」

「…………捨てたからだよ、彼女達を。いや、『捨てざるを得なかった』と言った方が正しいが…………」

「な、なんだと…………ッ!?」

 

 

 思わず立ち上がったクリスが賢の胸倉を掴んで揺さぶる。

 

 

「お前の家族なんだろッ!? なんで捨てたりなんかしたんだよッ!?」

 

 

 誰だって、自分の家族より優先すべき事なんて無いはずだ。自分を庇って命を落とした両親だって、余程の事じゃない限りは自分と遊んでくれていた。それなのにこの男は、家族を捨てて傭兵になったと言う。それがクリスの怒りを燃え上がらせていた。

 

 

「やめとけよ、クリス。そいつは…………いや、俺達はとある事情から色んなものを捨ててきたんだよ。そいつみたいに家族を捨てた奴だっていれば、俺みたいに仲間を捨てた奴だっている。俺達がいた部隊は、そういった連中の集まりだったんだよ」

「でも…………ッ!」

 

 

 クリスが反論しようとした瞬間、近くから子どもの泣き声が聞こえて辺りを見渡す。すると遠くのベンチで泣いている少女と、その前で立つ少年が見えた。

 

 

「おいこらッ! 弱い者をイジメるなッ!」

 

 

 二人の様子から、少年が少女をイジメて泣かせていると考えたクリスが少しだけ威嚇するように声を荒げて二人に近付くと、少年が顔をこちらに向けてきた。

 

 

「え、イジメてなんかないよッ! 父ちゃんがいなくなって一緒に探してたんだけど、もう歩けないって…………」

「ふええ…………だって、だって~…………ううぅ…………。お父さん、どこぉ~ッ! うわああああんッ!」

 

 

 涙や鼻水でぐしゃぐしゃになってはいるが、顔を上げた少女の顔立ちは少年と似ていた。どうやら、彼の言っていた事は本当だったらしい。

 

 

「ああもう、泣くなってッ! クソッ! こういう時どうすりゃいいんだよ…………ッ!」

 

 

 大声で泣く少女にどう接するべきかわからずクリスがおろおろとしていると、少女の前に賢が立ち、彼女と同じ目線になれるよう屈んで視線を通わせる。

 

 

「大丈夫だ、俺達が一緒に探してやる。だから泣くな」

 

 

 そう言ってポケットから取り出したハンカチで少女の顔を拭くと、少女は震えた声で賢を見る。

 

 

「ほ、本当…………?」

「本当だ。クリスもいいだろ?」

「あ、あぁ…………」

「ねぇねぇ、お姉ちゃん、おてて繋いでッ! おじさんもッ!」

「はぁッ!? なんであたしが…………」

「駄目…………?」

「わかったから泣くなッ!」

 

 

 断ろうとした途端にうるうると両目に涙を溜め始めた少女に慌てながらもクリスは彼女の左手を握り、賢は右手を握った。

 

 

「わッ! おじさん冷たいッ! 氷みたいッ!」

 

 

 賢の手の冷たさに一瞬驚くも、すぐに笑顔になった少女に賢も笑顔になっている様子を見ていた剛三は、自分の隣に立つ少年を見下ろす。

 

 

「坊主はどうする? 俺と手ぇ繋ぐか?」

「おじさんデカいから繋げないよ」

「だったらこうだなッ!」

「え? わぁッ!?」

 

 

 少年を肩に乗せて体を動かしながら、剛三は少年に口を開く。

 

 

「お前は親父を探すんだな。早く親父を見つけてこいつを安心させろ」

「う、うん」

「よしッ! それじゃあ、出発だッ!」

 

 

 迷子になった二人の父親を捜すべく歩き出す。その最中、クリスはどうすれば今自分や賢と手を繋いでいる少女の気持ちを明るくできるかを考え、ある行動を実行した。

 

 

「…………ふん♪ ふんふふんふん…………♪」

 

 

 それは鼻歌である。元になった歌など無い、即席で考えた歌ではあるが、音楽界のサラブレットである彼女が歌うそれは、少女の気持ちを晴れやかにするのに充分だった。

 

 

「わぁ…………。お姉ちゃん、歌好きなの?」

「んなわけねぇだろ。歌なんて大っ嫌いだ。特に、壊す事しか出来ないあたしの歌はな…………」

「それは違うぞ、クリス」

 

 

 被虐的に呟いた言葉を賢に否定され、クリスはキッと賢を睨む。

 

 

「なんでだよ、賢。あたしの歌は壊す事しか出来ねぇんだよ。今日だって、あいつらに…………」

「それはお前が、『自分の歌はなにかを破壊する為にある』と思っているからだ。武器というものは、それを取る者によって善にも悪にもなる。お前にとっての武器が歌であるなら、『自分の歌は誰かを救う為にある』と考えろ。そうすればお前の歌は、破壊ではなく救済を行うものになる」

「俺達が使うガイアメモリだって、使い方によっちゃ人を傷つけられるが、逆に人を救う事だって出来る。それはお前も見てきたはずだぜ、クリス」

 

 

 思い起こされるのは、数日前のデュランダル移送の妨害作戦と今日の出来事。ドーパントに変身した賢と剛三は妨害作戦ではその力で二課の職員らの命を奪い、今日の戦いではクリス達を救って撤退した。

 

 彼らの言葉に嘘は無い事は、クリスも理解していた。

 

 

(でも、あたしは…………)

「あッ、父ちゃんッ!」

 

 

 その時、剛三に肩車されていた少年が父親を見つけた。彼が指差した方向には彼らの名を叫んで駆け寄ってくる男性がいた。

 

 

「お前達…………どこに行ってたんだッ! ん、この方々は…………?」

 

 

 子ども達を抱き締め、クリス達を見る父親に少女が説明する。

 

 

「お姉ちゃん達が一緒に迷子になってくれた~♪」

「違うだろ、一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」

「すみません、ご迷惑をおかけしました…………。ほら、三人にお礼は言ったのか?」

「「ありがとう!」」

 

 

 父親に促されて子ども達が頭を下げて感謝の言葉を言い、二人の元気な姿にクリスは自然と笑顔になる。

 

 

「仲、いいんだな。…………そうだ。そんな風に仲良くするにはどうすればいいのか、教えてくれよ」

「そんなのわからないよ。いつも喧嘩しちゃうし」

「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し~♪ それに…………」

 

 

 少年に抱き着いた少女がクリス達を見上げる。

 

 

「お姉ちゃん達も仲良しでしょ? 私にはよくわからないだけど、お姉ちゃん達、とても仲良しに見えたよ?」

「そ、そうか? お前がそう言うんなら、そうかもしれないな…………」

 

 

 他人と仲良くなる方法がわからないクリスは自分よりも遥かに年下の少女の言葉にも頷いてしまう。

 

 

「本当にありがとうございました。さぁ、帰るぞ」

「「うんッ! バイバ~イッ!」」

 

 

 勢いよく手を振って父親に連れられて帰っていく子ども達に手を振り返していると、賢が口を開いた。

 

 

「…………クリス、聞いてくれるか?」

「なんだよ?」

「『お前に娘を重ねていない』と言えば嘘になるが、それでも、俺はお前の笑顔を見たいんだ」

 

 

 今も手を振り続けている子ども達を見つめながら続ける。

 

 

「子どもには笑顔が一番。泣き顔なんて見たくないし、辛い事も感じさせたくない。でも、生きている以上、辛い目に遭うのは必然。その中には意図せず襲い掛かってくるものもある。俺は可能な限り、そういったものから彼らを護りたいんだよ」

 

 

 子どもは宝だからな、と微笑んだ賢に、「ま、そういうこった」と剛三が続く。

 

 

「お前の歌が壊す事しか出来ないのなら、俺も同じさ。力に任せて全部ぶっ壊すのが俺のやり方で、昔はそれだけだったさ。でも、今の俺はその力を『誰かを救う為』に振るっている。俺に出来たんだ。俺よりも柔軟な考えが出来るお前なら出来るはずだぜ?」

「本当に、あたしにも出来るのか?」

「出来るさ、クリスなら」

 

 

 バシンッとクリスの肩を叩いて笑う剛三に頷く賢。その二人の間に挟まれながら、クリスは自分の胸に手を当てる。

 

 

(私にも、護れたりするのか…………? みんなの命を…………)

 

 

 そして次に思い浮かぶのは、先程の少女の言葉と、あのシンフォギア装者の言葉。

 

 

『喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し~♪』

『ちゃんと話をすれば、きっとわかり合えるはずッ! だって私達、同じ人間だよッ!』

(話をすれば…………わかり合えて、仲直りできるのかな…………。あたしと、フィーネも…………)

 

 

 もしそれが出来るなら、自分達も仲直り出来るかもしれない。だったら自分は、彼女と仲直りすべきだ。

 

 

「…………賢、剛三」

 

 

 クリスは二人を順に見つめながら、今後の予定を話した。

 

 

「明日、フィーネのところに行く。あたしは、フィーネと仲直りしたい。お前達もフィーネに用があるんだろ? 付き合ってくれよ」

「丁度いい機会だ。了解した」

「でも、危なくなったらお前の首根っこ掴んですぐに撤退するぞ。それでもいいな?」

「…………あぁ、頼む」

「だが、今日はもう遅い。どこか休める場所を探そう」

 

 

 歩き出した三人は街外れに廃れたマンションを見つけ、そこで休む事に決めた。

 

 そして夜が明け、三人はフィーネのいる屋敷へと向かうのだった。

 

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