死神に鎮魂歌を   作:seven74

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私ト云ウ炎ハ猛リ、狙撃手ハ蒼キ引キ金ヲ引ク

 二課からの通信を受けて克己のバイクに乗せられた響が現場に向かっていると、そう遠くない場所から少女の悲鳴が聞こえてくる。

 

 

「…………ッ!? …………克己先生、止めてくださいッ!」

 

 

 その悲鳴が誰のものかをすぐに理解した響がバイクから降り、悲鳴が聞こえてきた建設中の建物へと向かっていく。その様子をみてまさかと思った克己は自分の後を追って来たレイカ達に指示を送る。

 

 

「レイカ、響を頼む」

「わかったわ」

「あら、ワタシは行かなくていいの?」

「響が向かった場所は建設途中の建物だ。伸縮自在なお前の腕はそういった場所には不適切だ。お前にはこっちの手伝いを任せたい」

「あら、ワタシってば期待されちゃってる? だったら頑張らないとねッ!」

 

 

 レイカのバイクから克己のバイクへと乗り換え、京水はレイカに手を振る。

 

 

「それじゃあね~♪ 響ちゃんになにかあったら、承知しないわよッ!」

「私はそんなヘマしないわよ。早く行きなさい」

 

 

 サムズアップしてレイカが走り去っていき、克己達はノイズが出現した現場へと急行するのだった。

 

 

 

 

 ――――――まだ鉄骨などが設置されている建物内に入った響が辺りを見渡すが、自分以外の人の姿は無い。

 

 誰かいないかと声を上げようとした瞬間、頭上からなにか物音が聞こえて上を見る。

 

 

(…………ッ! ノイズッ!)

 

 

 頭上にいたのは無数の触手を持つノイズ、タコ型(ミリアタボ)ノイズである。

 

 その時、響の腕を誰かが掴んで物陰に引っ張り込んだ。声を上げるよりも早く口を塞がれた響が自分の背後にいる人物を見ると、唇に人差し指を立てて「静かに」と伝えてくる親友の姿があった。

 

 親友が無事である事に喜ぶ響に、未来はスマホを取り出して見せる。

 

 

『静かに。あれは大きな音に反応するみたい』

(そっか。それで未来、私の口を塞いで…………)

『あれに追いかけられて、ふらわーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』

(おばちゃんがいるの? どこに…………)

 

 

 よくお世話になっている食事処で働く女性を探すと、気を失っているのか、彼女はここから少し離れた場所で倒れていた。今すぐ助けに行きたいところだが、あそこに向かうまでの間にタコ型(ミリアタボ)ノイズに気付かれてしまうだろう。気付かれずに辿り着けたとしても、彼女を助ける為にはシンフォギアを纏わなければならないが、その際に聖詠を口にする必要があるので、どの道気付かれてしまう。

 

 その時、自分が来た方向から足音が聞こえる。反射的にそこを見ると、克己の指示を受けて響を追って来たレイカが立っていた。すぐに頭上のタコ型(ミリアタボ)ノイズに気付いてメモリを取り出そうとする。しかしその寸前、自分を見る響に気付いて声を上げかけるが、彼女からジェスチャーで静かにするようにと伝えられ、ジェスチャーから頭上のノイズが音に反応する種類だと理解したレイカが物音を立てずに彼女達の隣へ移動する。

 

 

『その服、克己先生と同じものですよね』

『克己を知ってるの? それもそうよね。その制服、あいつがいる学校のだし』

 

 

 そこでレイカは未来の後ろに置かれているアタッシュケースに視線を奪われ、それがなにかを尋ねる。

 

 未来が伝えてくるに、それは克己に渡してほしいと芦原賢という人物から託されたものだという。

 

 

(賢が克己に渡すもの…………? じゃあ、その中に入っているのは――――――)

 

 

 今でこそ賢は自分達と敵対しているが、かつては自分達と共に数多の戦場を駆けた仲間だ。そんな彼が克己に渡すものといえば、それは一つしかない。

 

 

(――――――ガイアメモリッ!)

 

 

 数は不明だが、アタッシュケースに入れるくらいだ。それ相応の数のガイアメモリが納められているに違いない。これを克己に渡す事が出来れば、こちらの戦力は大幅に強化される。

 

 思わずアタッシュケースに手を伸ばしかけたが、今はそれどころではないとタコ型(ミリアタボ)ノイズの様子を窺う。

 

 未来からの情報によると、ノイズの近くには女性が倒れているらしい。だが助けに行こうにも、響がシンフォギアを纏う為にも、レイカがドーパントに変身しようにも、必ず音が出てしまう。これでは女性を助けられない。

 

 どうすべきかと悩んでいると、隣からタコ型(ミリアタボ)ノイズが反応しない程度に抑えられた小さな会話が聞こえてきた。

 

 

「…………私、響に酷い事した。今更許してもらおうなんて思ってない。…………それでも、一緒にいたい。私だって戦いたいんだ」

「だ、駄目だよ、未来…………」

「どう思われようと関係ない。響一人に背負わせたくないんだ」

 

 

 まさかと未来に顔を向けた瞬間、未来はバッと立ち上がり――――――

 

 

「私、もう迷わないッ!」

 

 

 ――――――わざとタコ型(ミリアタボ)ノイズに聞こえるように声を張り上げた。

 

 当然、タコ型(ミリアタボ)ノイズがそれに反応しないはずが無く、走り出した未来を追って建物から出て行った。

 

 

「なんて無茶を…………ッ!」

 

 

 触れられた時点で即死なのに、それを承知で囮になった未来に駆け出す。

 

 

『ヒート!』

「響、そこで倒れてる人とアタッシュケースは任せたわよッ!」

「はいッ!」

 

 

 もう音を気にする必要は無い。T2ヒートメモリを体内に挿し込んでヒートドーパントに変身したレイカは未来に攻撃しようとしたタコ型(ミリアタボ)ノイズの触手を火炎弾で消滅させた。

 

 

「走ってッ! 早くッ!」

「は、はいッ!」

 

 

 ヒートドーパントの怒号に背を押されるように速度を上げた未来をタコ型(ミリアタボ)ノイズがまだ無事な触手で捕らえようとするが、それは建物の壁を蹴って接近したヒートドーパントの蹴りを側頭部に叩き込まれた事によって消滅した。

 

 だが安心するのも束の間、ヒートドーパントをノイズの集団が囲む。さらに厄介な事に、もう一体のタコ型(ミリアタボ)ノイズが未来を追い始めた。

 

 

「邪魔よ、消えなさいッ!」

 

 

 灼熱の炎を纏った両足でノイズを蹴散らしていくが、その数は減るどころかどんどん増えていく。

 

 

「チッ、ムカつくわねぇ…………ッ! 燃やし尽くすッ!」

 

 

 突撃してきた人型(ヒューマノイド)ノイズを蹴り飛ばしていると、ガングニールのシンフォギアを纏った響がノイズを殴り飛ばしてきた。

 

 

「おばちゃんとアタッシュケースは緒川さんに預けてきましたッ! 私は未来のところに行きますッ!」

「了解。絶対に護り切るのよッ!」

「レイカさんも無事でッ! 後で会いましょうッ!」

 

 

 徒手空拳でノイズの壁を破壊しながら未来の後を追う響に群がろうとしたノイズを、ヒートドーパントは火炎弾で消滅させた。

 

 

 

 

(――――――シンフォギアで誰かの助けになれると思っていたけど、それは思い上がりだッ!)

 

 

 飛びかかってきた人型(ヒューマノイド)ノイズを殴り飛ばし、速度を緩める事無く走る続ける。

 

 

(助ける私だけが一生懸命じゃない。助けられる誰かも、一生懸命ッ!)

 

 

 無力な人々はただ助けを待っているわけじゃない。なんとしても生き残ろうと、迫り来る死の権化から逃れる方法を模索し続けているのだ。そんな当たり前の事を、自分は今まで忘れてしまっていた。

 

 

『――――――生きるのを諦めるなッ!』

 

 

 本当の人助けは自分一人の力では成し得ない。だからあの日、自分の命の恩人はその言葉を叫んだのだ。

 

 

(今ならわかる気がするッ! だから、助けられる誰か…………未来の為にもッ!)

「きゃあああああッ!」

「未来ッ!」

 

 

 見つけた。疲れ切っているはずなのに、それでも自分を追う脅威から逃れようと走っている彼女との距離を、響は縮めていく。

 

 

(私が誰かを助けたいと思う気持ちは、惨劇を生き残った負い目なんかじゃないッ! 二年前、奏さんから託されて、私が受け取った…………気持ちなんだッ!)

 

 

 ――――――助けるんだ。未来を、私が本当に護りたい人を…………絶対にッ!!

 

 

「未来うううううううッ!!」

 

 

 なによりも大切な、陽だまりの名を叫んだその時、響の全身を紅の輝きが包み込んだ。

 

 

 

 

(――――――ここで、終わりなのかな)

 

 

 タコ型(ミリアタボ)ノイズから逃げ続けている間にどんどん体力が削られていく中、ふとそういった考えが浮かんでくる。

 

 これはきっと、罰なのだろう。絶対に壊したくないものを、勝手な感情で壊してしまった自分へ、神様が下した天罰。

 

 

(だけど、それでも…………ッ!)

 

 

 それでも、この足は止めない。止めてはならない。

 

 こんなところで死ぬのは御免だ。だって、まだ――――――

 

 

(――――――響と流れ星を見ていないッ!)

 

 

 大好きな人との大事な約束は必ず果たす。その為になら、悲鳴を上げているこの足だって動かせるッ!

 

 限界を超え、再び走り出した未来は背後から来る触手をジグザグに動きながら避けていくが、崖の近くに体が寄ったところで一本の触手が彼女の真横を穿ち、その衝撃で体が崖に放り出されてしまった。

 

 

「きゃあああああッ!」

 

 

 全身を襲う浮遊感と、視界を埋め尽くす橙色に焼かれた空に、自分の体が宙に浮いている事に気付く間にも、体は重力に引き寄せられて地面へ吸い込まれていく。この高さでは、間違いなく死ぬ。

 

 

(折角頑張ったのに、これじゃ――――――)

「未来うううううううッ!!」

 

 

 その時、下り坂から飛んできた響が、未来の体を抱き留めた。

 

 

 

 

「響…………ッ!」

「よかった、間に合ってよかったッ! ごめん、遅くなっちゃってッ!」

 

 

 着地した際の衝撃から未来を護るようにして着地した響だが、その分の衝撃が襲ってきて呻き声を漏らす。

 

 

「だ、大丈夫?」

「うん、大丈夫ッ! 未来と話したい事色々あるんだけど、その前に…………」

 

 

 自分達の前に浮かぶタコ型(ミリアタボ)ノイズから未来を庇うように響が立つと、彼女から発せられていた光が強くなる。

 

 

「あいつを倒して、未来を護らせてッ!」

 

 

 力強く叫んだ響の武装が、彼女の叫びに答えるように変化していく。

 

 灼熱の業火を思わせる色に変わったガントレットとブーツに備え付けられたパワージャッキ部分は陽炎のように揺らめき、ヘッドギアも炎のような形状に変化し、右目の網膜にはヒートメモリに描かれていた『H』の文字が浮かび上がる。

 

 灼熱の武装形態に変化したガングニールギアを構えると、彼女を囲むようにノイズが現れるが、今の彼女が負ける可能性など、万に一つもありはしない。

 

 

「私のこの灼熱の想いッ! 止められるものと思わないでッ!」

 

 

 力を籠めた右腕に纏わりついた炎の渦を放つと、前方にいたノイズ達が一気に灰燼と化して消えていく。続けて後方から迫るノイズに左手を向け、彼女の瞳が強く発光すると同時に起こった爆発がノイズを吹き飛ばした。

 

 

「響ッ!」

「…………ッ!」

 

 

 未来の声に頭上を見上げてみれば、そこからタコ型(ミリアタボ)ノイズが無数の触手を駆使して二人を捉えようとしてきた。

 

 

「掴まってッ!」

「え? きゃあッ!?」

 

 

 未来を抱え上げた響は脚部のパワージャッキから発生させた火炎の爆発による勢いを利用しての速度でその攻撃を躱す。

 

 

「これでトドメッ!」

 

 

 未来を降ろし、四肢に宿った炎とノイズを焼き払った際に広がった炎を右足に収束した響が飛び上がり、

 

 

「はあああああああッ!!」

 

 

 ドリル状に変化した炎を纏った右足での急降下キックがタコ型(ミリアタボ)ノイズを貫き、一瞬の間を置いた後、風穴を開けられたノイズは炭素となって消滅した。

 

 

「やったぁ、響ッ!」

「おわっとっとっとっとッ!?」

 

 

 自分達に迫っていた脅威が消えた事に満面の笑みで飛び込んできた未来を抱き留めるも、勢いが強すぎて後ろの坂道を転がってしまう。

 

 転がっていた二人の体が止める頃には響の武装も解除され、元の制服に戻ったおり、痛む箇所を擦りながら二人は起き上がる。

 

 

「イタタ…………大丈夫? 未来」

「響こそ…………大丈夫?」

 

 

 起き上がった二人が互いの顔を見合わせると、自分達が改めて無事だという事を再認識し、軽く笑い合った。

 

 

「ごめんね、巻き込んじゃって、大丈夫だった?」

「ううん、それを言うなら私が飛びついたのが原因だもの。ごめんね、響」

 

 

 それと、と未来ははにかむように笑って続ける。

 

 

「ありがとう。響なら絶対に助けに来てくれるって信じてた」

「…………ありがとう。未来なら絶対に最後まで諦めないって信じてた。だって、私の友達だもんッ!」

 

 

 朗らかに笑う響の顔を見て、涙ぐんだ未来が彼女の胸に顔を預けた。

 

 

「怖かった、怖かったの…………ッ!」

「私も、凄い怖かった…………」

 

 

 泣き声を上げ始める未来の頭を、響は安心させるように優しく撫でる。

 

 

「私、響が黙っていた事に腹を立ててたんじゃないのッ! 誰かの役に立ちたいって思ってるのは、いつもの響だからッ! でも、最近は辛い事苦しい事、全部背負い込もうとしていたじゃないッ! 私はそれが堪らなく嫌だったッ! また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してたッ!」

 

 

 二年前のあの事件の後、胸に大きな傷を負った響はしばらくの間病院で眠り続けていた。そんな響を傍で見続けていた未来にとって、今のように響が自ら死地へと向かっていくのは忌避感を感じるものだったのだ。

 

 

「だけどそれは、響を失いたくない私の我が儘だッ! そんな気持ちに気付いてたのに、今までと同じようになんて…………出来なかったの…………」

「未来…………。それでも、未来は私の…………ぷっ」

 

 

 未来の顔を見て、唐突に笑い出す響。

 

 

「え? なにッ! 真面目な事言ってる時に笑うなんてッ!」

「あははッ! だってさぁッ! 髪の毛ボサボサ、涙でぐちゃぐちゃッ! なのにシリアスな事言ってるしッ!」

「んもうッ! 響だって似たようなものじゃないッ!」

 

 

 腹を抱えて笑い転がる響に頬を膨らませ、未来は自分と同じように汚れている響に文句を言うと、レイカが彼女達を見つけて近寄ってくる。

 

 

「その様子だと護れたみたいね。…………って、ふふっ、二人とも凄い顔してるわね」

 

 

 呆れたように笑ったレイカがスマホを取り出して二人の顔を撮る。

 

 

「ほら、これが今の貴女達よ」

「うわぁ、凄い事になってるぅッ!? これは呪われたレベルだ…………ッ!」

「私も想像以上だった…………」

 

 

 そこで再び顔を見合わせて笑い合う二人につられて、レイカも笑い声を漏らすのだった。

 

 

 

 

「――――――ぐは…………ッ!」

 

 

 時間は克己達が二手に分かれて行動し始めた頃に遡る。杖を叩き付けられたメタルドーパントが店内に吹っ飛ばされ、彼の体を数々の商品が覆い尽くしていくが、それを退かして立ち上がったユートピアドーパントに立ち向かう。

 

 

「うららららあああああああッ!」

「タフな方ですね」

 

 

 スッと体を逸らしてメタルシャフトを避けたユートピアドーパントにクリスとトリガードーパントの弾が直撃して数歩後ずさるが、大したダメージにはならなかったようで平然とした様子で二人に向かってくる。

 

 

「チッ、化け物め…………ッ!」

「侮れないな…………」

 

 

 重力操作の能力で飛んできた瓦礫を躱したトリガードーパントの光弾をユートピアドーパントが杖で弾き落とすと、立ち上がったメタルドーパントがユートピアドーパントを羽交い絞めにした。

 

 

「今だッ! 俺に構わず撃てッ! 心配するな、俺は頑丈だからよッ!」

「だったら、お言葉に甘えてッ!」

 

 

 腰部アーマーから小型ミサイルを展開したクリスの『MEGA DETH PARTY』とトリガーマグナムから撃ち出された無数の光弾がユートピアドーパントに直撃する。

 

 甲高い爆発音と共に黒煙が立ち昇る。

 

 

「これなら…………ッ!」

 

 

 仕留めたと思った瞬間、二人の間を通り過ぎて行ったメタルドーパントが地面を削り、変身が解除されてしまう。

 

 

「やってくれましたね。彼を盾にしなければダメージを受けていたところでした。では、反撃といきましょうか」

「なんだ…………これ…………ッ!?」

「体が…………動かん…………ッ!」

 

 

 見えないなにかがのしかかってきたような重圧に膝をついた二人を、ユートピアドーパントは杖を握っていない左手から繰り出した衝撃波で吹き飛ばした。

 

 杖を弄ぶユートピアドーパントから這いずってでも逃走を図ろうとするクリスはシンフォギアの武装が解除されており、微かな笑い声と共にユートピアドーパントが彼女に手を伸ばそうとするが、その体に変身が解除された賢がしがみ付いた事で手を引っ込めざるを得なくなった。

 

 

「クリス、逃げろッ!」

「く…………ッ! 邪魔をしないでほしいですねぇッ!」

 

 

 賢に膝蹴りを喰らわせて引き剥がそうとするが、それでも賢は彼の拘束をやめようとはしない。

 

 

「うらあああああッ!」

 

 

 必死にしがみ付く彼に続くように、剛三が雄叫びを上げて走り出し、持ち前の怪力から繰り出されるパンチをユートピアドーパントの顔面に叩き込んだ。

 

 

「ぐぅ…………ッ! なぜ、そこまでして彼女を護るんですか? 貴方方にとって、彼女はなんなのですか?」

「へっ、そんな事…………」

「決まっているだろ…………」

 

 

 ボロボロになりながらも、二人は拳を握り締め――――――

 

 

「「――――――俺達が護るべき、一つの命だッ!!」」

 

 

 そう叫び、ユートピアドーパントを殴り飛ばした。

 

 

「行け、クリスッ! 俺達がこいつを止めている内に…………」

「止められませんよ、ドーパントでない貴方方では」

「が…………ッ!」

「むぅ…………ッ!」

 

 

 杖を捨て、両手で二人の首を掴んだユートピアドーパントが彼らを持ち上げる。

 

 

「丁度いい機会です。貴方方の希望も戴きましょう」

「「ぐああああああッ!!」」

「賢…………ッ! 剛三…………ッ!」

 

 

 全身に青白い電流のようなものが走る二人の名前を悲痛に叫ぶクリスに、彼らは苦しみながらも「逃げろ」と言ってくる。

 

 普通なら、彼らの言う通り逃げるべきだろう。だが彼らは、フィーネやユートピアドーパントと違って自分を『護るべき命』だと思ってくれている。自分を、人だと言ってくれているのだ。

 

 受けた恩は返す性分だが、その相手は自分が忌み嫌う大人達。そんな彼らを助ける事を、自分の心が認めてくれるだろうか。否、認めなどしない。それどころか、「惨たらしく死んでくれ」とすら叫んでいる。

 

 だが、それとは対照的に「彼らを助けろ」と叫ぶ自分がいる事も、クリスは知っている。

 

 二つの感情が争い、その場を動けなくなっている間にも、二人はユートピアドーパントによって苦しめられている。

 

 

「どうしてそこまで抗うのですか。さっさと貴方方の希望を渡しなさい」

「渡す…………かよ…………ッ! あんな…………哀しい顔した奴…………俺達がほっとけるわけ…………ねぇだろ…………ッ!」

「俺達は…………今までたくさん命を奪ってきた…………だがッ! 俺達は…………決めたんだッ! これまで奪ってきた命に負けないくらい…………多くの人を救うと…………ッ!」

 

 

 必死に抗いながら、二人は続ける。

 

 

「そう決めたのによぉ…………ッ! 子ども一人救えないようじゃ…………誰も救えねぇじゃんか…………ッ!」

「救ってやるさ…………必ず…………ッ! そして、教えてやるんだ…………ッ! お前の未来は…………輝いているんだって事をなッ!」

「な…………ッ!? ぐあ…………ッ!?」

 

 

 その時、ユートピアドーパントの全身から火花が飛び散り、二人の首から手が離れる。

 

 

「馬鹿な…………ッ!? 希望が奪い切れなかっただと…………ッ!?」

「へへっ、俺達に希望なんて無いっと思ってたけどよ。あったみてぇだな、賢?」

「そのようだな、剛三」

 

 

 不敵な笑顔で頷き合った二人の背に、クリスは小さく呟く。

 

 

「…………ありがとう、二人とも」

「あん? 当たり前だろ? どれだけ血塗られた過去があってもな、お前は前に進めるんだ。いつまでも後ろを見続けてるんじゃねぇぞ」

「俺達に未来は無い。なら、未来があるお前達を護るだけだ。それが俺達の務めだ」

「務め…………」

 

 

 その言葉を脳内に反芻させる。あの日、戦火に焼かれて死んでいった両親も、それを胸に抱いて、あの地獄に足を踏み込んだのだろうか。逃げようと思えばいつでも逃げられたのに、それでも彼らはあの場に留まって、難民達に笑顔を与えていたのだろうか。

 

 

(――――――それなら、あたしだって…………ッ!)

「さ、あいつが怯んでるうちに早く逃げるぞ」

「…………いや、あたしは逃げない」

「はぁッ!? なに言ってんだッ! 俺達じゃ勝てねぇんだよッ! どうやって…………」

「あたしがやる。お前達は見ててくれ」

 

 

 ユートピアドーパントは危険だ。一瞬でも油断すれば敗北は明らか。だがそれでも、クリスは前に踏み出す。

 

 その体は、蒼色に輝いていた。

 

 

「逃げるなんて選択肢はな、この雪音クリスには似合わねぇッ!」

 

 

 ペンダントを握り締め、クリスは聖詠を唱う。

 

 

「――――――Killter Ichaival tron」

 

 

 そしてクリスの全身を覆ったのは普段と異なる蒼いイチイバルであり、クロスボウの代わりに白い線の走った蒼いマグナムを両手に持ち、左目の網膜には『T』の文字が浮かび、右肩からダメージを軽減するマントを羽織ったものになっていた。

 

 

「みんなから希望を…………未来を奪おうとする奴は、あたしが全部撃ち抜いてやるッ!」

 




 響×ヒートの組み合わせは、「決して折れない真っ直ぐな熱い心で人助けをする」という響とヒートがベストマッチだと思ったからです。

 一方、クリス×トリガーは、「長年フィーネに『道具』として扱われてきたクリスが、『人』として叛逆の銃声を轟かせる」といった感じで組み合わせました。

 そして、今回もやらせていただきますとも、名前募集ッ! 皆さんの考えた名前、是非教えて下さいッ! もしかしたら、あなたの考えた名前が本編で使われるかもしれませんよ?

 この話が投稿された後、すぐに私のページに以前のように名前募集欄を設けますので、そこにお願いしますッ!

 そして、次回も投稿され次第、新たな名前募集欄を設けますので、その時もよろしくお願いしますッ!
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