それでは本編、どうぞ!
弦十郎達がクリスの案内に従って屋敷に到着し、奇襲に注意しながら廊下を進んでいくと、扉が吹き飛ばされた部屋を見つける。
「これは…………」
「酷いな…………」
部屋に転がっている顔を失った黒服の男達を発見し、彼らの脈を確かめるも、それを確認した弦十郎が首を振って彼らが殺害された事を告げる。
「微かだが温かい。どうやら少し前まで彼らは生きていたのだろう。だが、殺された。傷口が無いところを見るに、殺ったのはユートピアか…………」
遺体に切り裂かれた傷痕が無い事から、ネフシュタンの鎧を纏っているフィーネが彼らを殺した可能性は除外され、ユートピアドーパントが彼らを殺したと考えられる。ユートピアドーパントが希望どころか命まで奪い取ったのは口封じの為だろうか。すると、弦十郎の部下の一人がなにかに気付いて弦十郎に声をかけた。
弦十郎は自分の名を呼んだ部下の前にある顔の無い遺体に置かれている張り紙に視線を落とす。
「『I Love You SAYONARA』か…………」
口紅かなにかで書かれたであろう赤い文章を読み上げ、張り紙を手に取る。
瞬間、張り紙についていたピアノ線が引っ張られ、仕掛けられた爆弾が連鎖的に爆発した。
轟音と共に頭上から大小様々な瓦礫が降り注いでくるが、ここにいるのはそのほとんどがそれなりの訓練を積んできた者達。各々が反射的に動いて圧し潰されかねない程の大きさの瓦礫を避けていき、彼らの中でも遥かに鍛え上げられた肉体を持つ弦十郎は拳を突き上げた衝撃波で頭上の瓦礫を破壊した。
「全員無事かッ!?」
すぐに仲間達の安否を確かめる弦十郎に全員が頷くと、剛三が彼が粉砕した瓦礫の欠片を見て驚愕していた。
「うへぇ、なんて力だよ…………。おっさん、本当に人間か?」
「人間だよ。ごく一般的なおっさんさ。それより、お前達も大丈夫か?」
「あ、あぁ」
信じ難いと言いたげな表情でもクリス達が頷くと、弦十郎は瓦礫が散らばる周囲を見渡して溜息を吐いた。
「中々味な真似をしてくれたな。フィーネもドーパントの姿も無いとなると、もうここにいる理由も無いな。俺達はこれから本部に戻るが、お前達も…………無理だよな」
「あぁ、悪いけど、一緒には行けない」
申し訳なさげにクリスが返すと、弦十郎は「まぁ、仕方ないさ」と言う。
「大人嫌いな君を、大人で溢れ返ってる場所に無理矢理連れて行くのも気が引けるからな。だが、君がこれからどの道を歩もうと、その道は遠からず、俺達の道と交わるだろう。その時を楽しみにしているぞ」
「今まで戦ってきた者同士が一緒になれると言うのか? 世慣れた大人がそんな綺麗事を言えるのかよ」
「言うだろうな、この男は」
子どもよりも現実というものを知っている弦十郎に吐き捨てると、克己が弦十郎を横目に見ながらキッパリと言い切った。
「ボスは情の厚い男だ。お前がどれだけ馬鹿にしようが、この男は信条を曲げずにお前と接するだろうさ。人に誇れない事をこなし続けてきた俺達ですら雇ったんだ。お前がどれだけ言っても、ボスに弱音を吐かせるのは無理だと思うな」
「大道克己だっけか? 随分と入れ込んでるな。そこまでこのおっさんは信用出来るのかよ」
「出来るとも。風鳴弦十郎という男は、お前が出会ってきたどの大人よりも誠実な男であると断言しよう」
「へっ、どうだかな。それはあくまで表だけで、裏では人に言えない事やってるんじゃねぇか?」
「ホント、ひねてんなぁ、お前」
そこまで信用されてないのか、と肩を落とすも、ごほんと咳払いをして弦十郎はクリス達に背を向けて撤収し始める。
「…………そうだ、君達に一つ訊きたい事がある」
「なんだよ」
「『カ・ディンギル』。この名に聞き覚えは?」
「…………ッ!? お前、どうしてそれを…………」
その名を知っているのは、あの時フィーネの話を聞いていた自分達と財団Xのエージェントのみだ。それなのになぜか、この男はその名を知っている。
「…………まぁ、いいさ。お前がなんでその名を知ってるのは知らねぇけど、あたしらが聞いた話だと、そいつはもう完成しているらしい」
「…………遂に完成まで漕ぎ着けたか。情報、感謝する。…………それと、お前達、スマホは持ってるか?」
「賢が持ってるけど、どうしたんだ?」
「連絡先ぐらいは伝えておこうと思ってな。俺達になにか用があれば、遠慮なく電話してきてくれ」
「はッ! 誰がそんなの…………」
「いいだろう」
「いいのかよッ!?」
「まぁ、こいつらの助けが必要になった時に連絡先を交換しなかった事を後悔するのは嫌だろ? 我慢しろって」
剛三がクリスを宥めている間に賢と弦十郎は互いの連絡先を交換する。
「それじゃあ、俺達は帰らせてもらう。お前ら、本部に戻るぞッ!」
その言葉に彼の部下達が「はいッ!」と威勢よく返事し、部屋から出ていく。
「賢、剛三」
部下である二人に背を向けたまま、克己は彼らに言う。
「お前達が『もう大丈夫だ』と思えるまで、そこの少女を護ると決めたのなら、絶対に護り抜け。それが出来なかったら、お前達を地獄に叩き落としてやる」
「わかり切った事を。絶対に護り抜いてやるさ。…………じゃあな、克己。またお前と一緒に戦える時を楽しみにしてるぜ」
「また会おう、リーダー」
「…………またな、お前達」
軽く上げた手を振って、克己はレイカ達を連れて部屋から出ていった。
「――――――うわぁ、学校の真下にこんなシェルターや秘密基地が…………」
「えへへ、凄いでしょうッ!」
翌日、学校は休日のため、昼に本部からの召集を受けた響に連れられて二課の本部に足を踏み入れた未来は、学校の真下に存在する施設の数々を見て目を見開いていた。
国家機密であるシンフォギアを纏ってノイズと戦う響の姿を見てしまった未来は、非公式の外部協力者として二課本部に招かれる事となったのだ。もしこの世界が、某SFコメディ映画の世界であれば謎の黒服の男達によって記憶を消されてしまうだろうが、生憎とこの世界にそんなハイテク機能持ちの機械は開発されていないので、シンフォギアについての事は他言無用という条件付きで、未来はこの場に訪れている。
昨日の出来事で擦れ違っていた二人の仲も元に戻り、今ではいつものように晴れやかな表情で会話しながら司令室へと向かっていく。
「あ、翼さ~んッ!」
その途中で、自分達と同じく司令室へ向かっていた翼と緒川を見つけ、響の声に反応した二人が振り向く。
「立花か。…………そちらは、確か協力者の」
「こんにちは。小日向未来です」
「私の一番の親友ですッ!」
「わッ! ちょ、響ッ!」
いきなり抱き着かれて驚いた未来と、彼女に抱き着いて満面の笑みを浮かべる響の仲の良さを微笑ましく思いながら、翼は未来に自己紹介する。
「風鳴翼だ。よろしく頼む。立花はこういう性格故、色々面倒をかけると思うが支えてやってほしい」
「いえ、響は残念な子なのでご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「えぇ~、なに? どういう事~?」
「響さんを介して、お二人が意気投合してるという事ですよ」
「むむ~、はぐらかされた気がする」
「ふふ」
首を傾げる響の姿に翼が笑う。響や克己が来る前は自分達に見せる事は基本無かった笑顔を、こうして自分達に見せるようになった翼の変化を緒川が嬉しく思っていると、響が少し頬を赤らめながら周囲を見渡した。
「でも、未来と一緒にここにいるのはなんかこそばゆいですよ」
「司令が手を回し、小日向を外部協力者として二課に登録したが、それでも不都合を強いるかもしれない」
「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです。不都合だなんて、そんな」
「皆さん、お話するのもいいですが、そろそろミーティングの時間です。翼さんも、その後は仕事が入ってますので、お話はいいところで区切ってくださいね」
「え? 翼さん、もうお仕事入れてるんですか?」
絶唱のバックファイアの影響はもう無いとは聞いていたが、ここまで早く翼が仕事を入れている事に驚くと、「少しずつよ」と翼が返す。
「今はまだ体を慣らしているの。十日後には復帰ステージを予定しているから、それまでの間に体を本調子に戻さないとね。…………そうだ、君達にこれを」
そう言って差し出してきたのは、先程翼が口にした復帰ステージのチケット。しかも販売直後に売り切れとなった、最前列のものである。
「え、嘘ッ!? 本当にいいんですかッ!?」
「私の分まで…………ありがとうございます」
「無理言って捻じ込ませてもらったんだ。…………立花にとっても、辛い思い出のある会場だが」
十日後に行われる復帰ステージ。それを行う場所は、二年前に翼が奏を失い、響が多くの死を目の当たりにした、あのライブ会場である。ライブの場所を確認する響に「嫌な思いをするようなら、無理して来なくてもいい」と言おうとした翼の耳に届いたのは、心底嬉しそうにはしゃいでいる響の声だった。
「ありがとうございます、翼さんッ! いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えていけます。そうですよね、翼さんッ!」
「…………そうありたいと、私も思っている」
「あら、楽しそうな顔してるわね。ガールズトーク? 混ぜて混ぜて♪」
すぐ近くの扉から出てきた了子が響達に近寄ってくる。
「いえ、ガールズトークではありませんよ、櫻井女史」
「そうなの? 残念。ガールズトークだったら私の恋バナ百物語を聞かせたかったわぁ」
「えぇッ!? 了子さん、好きな人いるんですかッ!?」
「もう遠い昔の話になるけどね。こ~う見えても呆れちゃうくらい一途なんだからぁ…………」
そこでなにかを思い出したのか、了子は肩を竦めて先の言葉を訂正する。
「いえ、違ったわ。一途『だった』と言うべきだったわね」
「どういう事ですか?」
「前まで私が想ってた相手は一人だったんだけどね。ここ最近になって気になる男が増えてねぇ」
「うわぁ~ッ! 了子さん、モテモテですねぇ~ッ! その男の人ってどんな人ですか?」
「それほどイイ男じゃないわ。私の心の中にずかずかと入り込んでくる不届き者よ。私を捕まえる気ならもっとソフトに来てほしいぐらいだわぁ」
「ふむふむ、かなりの肉食系男子ですね。でも、そういったところがカッコいいじゃないですかッ!」
「そうかしら? 彼の相手をしてると凄い疲れるわよ? 断ってる私の身にもなってほしいわ」
「そんな事言って、本当はどこかで楽しんでるんじゃないんですか?」
「さて、どうかしらね? それは響ちゃん達のご想像にお任せするわ」
「「えぇ~?」」
ブーブーと不満を言う響と未来を横目に、翼は了子が自分が彼女に抱いていたイメージとは少し違っていた事を口にした。
「それにしても意外です。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると」
「命短し恋せよ乙女ッ! と言うじゃなぁい? それに女の子の恋するパワーって凄いんだからぁッ! 私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも…………あ」
気付くと、先程まで不満を垂らしていた響達が目をキラキラさせて話の続きを待っていた。
「「うんうんッ! それでッ!?」」
「…………あ、もうこんな時間よッ! 早く司令室に行かなくちゃ、弦十郎君に怒られるわよぉ?」
「え? わッ、ホントだッ!」
スマホに表示された現在時刻を確認し、ミーティングの開始時間がもうすぐである事に気付いて、了子を筆頭に響達は司令室へと向かった。
(…………らしくない事言っちゃったわね。変わったのか、それとも、変えられたのか…………)
了子がそんな事を考えている間に一同が司令室に到着すると、そこで待っていた弦十郎達の視線が彼女達に向き、未来が彼らに自己紹介してからミーティングは開始された。今回の内容はもちろん、『カ・ディンギル』についてである。
「了子君、早速だが『カ・ディンギル』について教えてくれるか?」
「…………『カ・ディンギル』とは、古代シュメールの言葉で『高みの存在』、転じて『天を仰ぐ程の塔』を意味しているわね」
「何者かがそんな塔を建造していたとして、なぜ俺達は見過ごしてきたのだ?」
「確かにそう言われちゃうと…………」
「だが、ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば、勝利も同然。相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるなッ!」
弦十郎の言葉にその場にいた未来を除く全員が頷いて各々のすべき事を始めると、了子が響と翼に声をかけた。
「最終決戦となれば
「ですね。よろしくお願いしますッ!」
「あの、私もついていっていいですか?」
「もちろんよ。ついてきなさい」
了子に連れられて響、翼、未来が司令室から出ていく。それを確認した克己は、次々と新たな情報が表示されていくモニターを見つめている弦十郎に声をかけた。
「ボス、訊きたい事がある」
「なんだ?」
横目で見てくる弦十郎に、克己は鋭い視線と共に言い放った。
「
「…………なにを言っているんだ? 俺はなにも…………」
その問いをはぐらかすように答えた弦十郎を睨みながら、克己は続ける。
「嘘を吐くな。
『天を仰ぐ程の塔』の意味を持つ『カ・ディンギル』。姿形こそ不明なものの、その意味から、その塔が巨大なものである事は子どもだって理解出来る。それを自分達に気付かれる事無く建造するとしたら、自然と隠し場所はそれを隠し切れる程巨大なスペースを誇るものに絞られる。そして克己は、それがどこに置かれているのかを知っている。
不思議な模様のように思える壁。明らかに現代のものとは思えぬ構造。
専門知識こそ少ないものの、長らく傭兵として様々な戦場で様々な武器を見てきた。その中には現代には過ぎた武器だって含まれている。
だからこそわかる。標的は不明だが、フィーネが建造しているとされる『カ・ディンギル』が、どれ程危険な代物であるかを。
「敵を泳がせるのは俺達もやった事があるから、それを否定する気は毛頭無い。だが、何事にも限度がある。いつまで見ているつもりだ? まさか、情が湧いているというわけではないだろうな? それなら俺達が――――――」
命を奪う事には慣れ切っている。ここで働いている職員の中で、最も彼女と関わってきたであろう彼が彼女に情が湧くのは仕方ない。それなら、彼と比べて彼女にそれ程情を抱いていない自分達が彼女を殺そうと提案しかけたその時、
「――――――やめろ」
弦十郎の怒りの籠められた視線と声によって、克己は言葉を止めざるを得なかった。
その瞳の奥に宿る憤怒の炎が形作るものはまさしく――――――
(鬼…………)
「俺に辛い思いをさせたくないからといっても、その考えに至ったのは褒められたものじゃないな。俺は殺しは好まんし、部下に誰かを殺せと命じたりもしない。全てが話し合いで解決できれば、と考えているさ。克己君、これはな、約束なんだ」
「約束?」
「あぁ、俺と彼女の間で取り交わした約束だ。これだけは、誰にも邪魔させない。それでも、俺の邪魔をするのなら…………」
その時は容赦しない、と怒気を纏った声色で釘を刺してきた弦十郎に、克己は自分が彼の逆鱗に触れた事を恥じて頭を下げる。
「すまない。浅はかな考えをしていた俺を許してくれ」
「…………いや、謝るのはこちらだ。長らく血塗られた場所にいた君ならそう考えるのも仕方ないさ。…………だが、君の言う通り、泳がせておくにも限度がある。完成しているのなら、その後どうするかは目に見えている。俺も行動に出て――――――」
その時、二課本部全体にサイレンが鳴り響く。それと同時に、オペレーター達から次々と緊迫した声での報告が上げられていく。
「飛行タイプの超大型ノイズが一度に三体ッ! いえ、もう一体出現ッ!」
「なんだとッ!? 状況はッ!?」
「出現したノイズは現在、東京スカイタワーに進行中ですが、人を襲っている様子は見られませんッ!」
「スカイタワー付近にドーパント出現ッ! 以前と少し違いますが、エネルギー反応からユートピアドーパントと考えられますッ!」
「スカイタワー…………『塔』繋がりでノイズを出現させたというわけか。どうする、ボス。俺達はお前の命令に従う」
カ・ディンギルとスカイタワーが全く別である事は既に知っている弦十郎であれば、これが罠である事は目に見えているだろう。だが、まだ人を襲ってはいないとはいえ、相手はノイズ。そして、それに対抗できるのはノイズと戦える術を持つ響達装者や克己達仮面ライダーまたはドーパントのみであり、見捨てるという判断は弦十郎には出来ないだろう。罠だとわかっていても、ここは乗るしかない。
「師匠ッ!」
振り返ると、メディカルルームから大急ぎで走ってきたのだろう、響達が肩を上下させながら立っていた。
到着した彼女達に弦十郎がノイズに関する情報を伝えた後、響達に命令を飛ばす。
「スカイタワーには俺達二課が活動時に使用している映像や、交信といった電波情報を統括制御する役割も備わっている。ユートピアドーパントも出現したとなると、被害はノイズのみのものよりも大きくなるだろう。お前達、東京スカイタワーに急行だッ!」
クリスはユートピアドーパントを撃退出来たそうだが、それは以前までの話。フィーネの屋敷に残された遺体を思い返すに、彼の力はより強化されている事だろう。こう言うのはアレだが、この場にいる装者二人が彼を倒せるとは思えない。それなら克己達も向かわせるべきだと考えたのだ。克己達もそれを理解しているため、なにも言う事無く「了解」と答える。
「ですが、ここからスカイタワーまではかなりの距離があります。私や大道、羽原にはバイクがありますが、それでもスカイタワーまでは…………」
「そこをなんとかするのが俺達の仕事だ。既にヘリは地上に用意してある。そいつに運んでもらえッ!」
「流石です、師匠ッ!」
心強い味方に響が喜んでいると、隣からの視線に気付いてそちらを見る。
「響…………」
「平気。私達でなんとかするからッ! だから未来はここにいて」
「ここに?」
「いざとなったら、地下のシェルターを解放してこの辺の人達を避難させないといけない。未来にはそれを手伝ってもらいたいんだ」
「う、うん…………わかった」
了承するも、未来の顔には響を心配する気持ちがこれでもかという程に表れており、それでも出撃しなければならない響は申し訳なさげに小さく言った。
「…………ごめん、未来を巻き込んじゃって」
「ううん、巻き込まれたなんて思っていないよ。私はここに残るのは、響がどんなに遠くに行ったとしても、ちゃんと戻ってこられるように、響の居場所、帰る場所を、護ってあげる事でもあるんだから」
「私の…………帰る場所」
「そう。だから行って。私も響のように、大切なものを護れるくらいに強くなるから…………」
まるで戦地に赴く夫を見送る妻のような、応援するようでどこか哀しそうな笑みを浮かべた未来の手を、響は強く握り締める。
「小日向未来は、私にとっての陽だまりなのッ! 未来の近くが一番温かいところで、私が絶対に帰ってくるところッ! これまでもそうだし、これからもそうッ! だから、私は絶対に帰ってくるッ!」
「響…………」
なによりも大切な一番の親友に、響は太陽のように明るい笑顔を見せる。
「一緒に流れ星見る約束、まだだしねッ!」
「うんッ!」
「あら夫婦」
「わかるけど黙ってなさい」
二人のやり取りにそう言わざるを得なかった京水の頭をレイカが叩く。
「でも…………、そうね。あの子達の帰る場所を護る為に戦うのが、今の私達の役割ね」
「当然だ。行くぞ、お前達」
「「了解ッ!」」
響達がヘリに乗る為に走り出し、克己達もその後に続いた。
――――――逃げ惑う人々の内の一人を捕まえ、ユートピアドーパントはその男から希望と未来を吸い取る。
「この方はハズレでしたか。若いくせに満足な希望も持ってないとは、つまらない男ですね」
顔を奪われた男の体を投げ捨て、次の標的を定めようとしたユートピアドーパントの聴覚がプロペラが回転する音を捉える。
「来ましたか」
上空にホバリングしているヘリを見上げた瞬間、そこから五人分の人影が飛び降りた。
「――――――Balwisyall Nescell gungnir tron」
「――――――Imyuteus amenohabakiri tron」
『エターナル!』
「変身ッ!」
『ヒート!』
『ルナ!』
人影の内三人の体を鎧が覆い、残り二人はその身を異形のものへと変えて地上に降り立つと同時に、周囲にいたノイズを消滅させた。
自分がいる事は当然彼らも気付いているだろうが、自分と彼らの距離は開いている。今の内に奇襲を仕掛けるのも吝かではないが、ユートピアドーパントは首を振ってその考えを捨て去る。そもそも自分がここにいるのは、このソロモンの杖からノイズを召喚して二課の注意を逸らし、自分という脅威を利用して装者の他にも仮面ライダーや彼の部下のドーパント達もこの場に誘導させる為。役目はもう果たしたも同然なのだ。ならばその後は、自由に行動させてもらう。
「時間稼ぎはしました。後は貴女次第ですよ、フィーネ」
彼らがその視界に自分を収める前に、ユートピアドーパントは以前よりも速度を増した速さでこの場を後にした。