死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 最近リアルの方が忙しくなり始めてきました。合間合間を見つけて執筆していますが、それでも投稿頻度が落ちてしまうかもしれませんので、その時はご了承下さい。



少女が受け継いだ夢

 日が沈んだ頃、響達はノイズによって破壊されたであろう《私立リディアン音楽院》の惨状を見て唖然としていた。

 

 自衛隊が使用していたであろう戦車や銃の他にも、所々に小さく積もった黒い砂の山が、この場でなにが起こったのかを雄弁に語っている。

 

 

「まんまとハメられたというわけか…………」

「やってくれたわね…………ッ! 絶対に許さないわ…………ッ!」

「…………ッ! みんな、あれッ!」

 

 

 京水が指差した方角を全員が見ると、校舎の端に了子が立っていた。

 

 

「あれは…………櫻井女史かッ!?」

「…………なんで」

 

 

 翼とは違う驚愕を胸に抱き、クリスは自分達を見下ろす了子を睨み上げる。

 

 

「なんでお前がここにいるんだ、フィーネッ!」

「フフ…………ハハハハハハッ!」

「そうなのか…………ッ!? その笑いが答えなのかッ! 櫻井女史ッ!」

 

 

 叫ぶクリスの問いに対する答えとして高笑いをするその姿に、翼が信じられないという感情を隠す事無く叫ぶと、眼鏡を外した了子の姿が光に包まれる。

 

 

「その通り。特異災害対策機動部二課に所属する考古学者、櫻井了子とは仮の姿。我が名はフィーネッ! 終わりの名を持ち、人類を忌々しいバラルの呪詛より解き放つ者ッ!」

 

 

 収まっていく光の中から現れた、ネフシュタンの鎧を装備し、解かれた金色の長髪を靡かせた了子――――――フィーネの姿に、響は目を見開く。

 

 

「…………嘘ですよね。そんなの、嘘ですよね…………? だって、了子さん、私を護ってくれましたッ!」

 

 

 以前行われたデュランダル移送計画。当時はまだネフシュタンの鎧を身に着けていたクリスとトリガードーパントとの交戦の際、シンフォギアを纏う猶予を与えられなかった響がノイズに殺されかけた時、彼女は自分を護ってくれたのだ。そんな彼女が自分達の敵なはずがないと思っている響に、フィーネは当時の事を思い出しながら答える。

 

 

「あれはデュランダルを護っただけの事。希少な完全状態の聖遺物だからね」

「そんな…………。それじゃあ、了子さんがフィーネと言うのなら、本当の了子さんは?」

「櫻井了子の肉体は先立って喰い尽くされた。…………いや、意識は十二年前に死んだと言っていい」

「なんだと…………ッ!?」

「超先史文明期の巫女フィーネは遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引く者が、アウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力が再起動する仕組みを施していた。その目覚めし意識こそがこの私、フィーネなのだッ!」

「まるで過去から蘇る亡霊…………」

 

 

 死して尚も自らの子孫の体を乗っ取って活動する彼女の在り方に、翼は険しい表情をする。

 

 

「フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散ったフィーネ(わたし)達はパラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期に、いつも立ち会ってきた。お前のシンフォギア・システムも、その一つだ。尤も、それは為政者からコストを捻出する為の副次品…………玩具に過ぎないがな」

「玩具だと…………ッ!? お前の戯れに、奏は命を散らせたのかッ!」

 

 

 翼のかつての相棒にして、ツヴァイウィングの片割れだった天羽奏は、その適合係数の低さからシンフォギアを纏えなかったが、文字通り血反吐を吐く思いで薬物投与を繰り返し、訓練に励み続けた結果、ようやくガングニールのシンフォギアを纏うに至ったのだ。彼女はその力で人を救える事を誇りに思い、あのライブ会場の事件でも、自分の命を散らしてまで多くの人々を救ったのだ。彼女の意志はガングニールを介して、後継者である響に受け継がれた。そんな、彼女の想いが込められたシンフォギアを『玩具』と言われた事に、翼は怒りを感じていた。

 

 

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよッ!」

 

 

 天涯孤独となり、大人に酷い目に遭わされてきたクリスがフィーネに拾われた時から、クリスは彼女を心底信頼していた。結局、最後は裏切りという形で二人の関係は終わってしまったが、それでもクリスは、心のどこかでフィーネを信じていたのだ。だが、先の言葉で、自分は本当の意味で彼女の『道具』である事を改めて痛感した。

 

 

「そうッ! 全てはカ・ディンギルの為ッ!」

 

 

 フィーネが高らかに叫ぶと、大きな地響きが起こり、彼女の背後に、地面を突き破って巨大な建造物が姿を現した。

 

 天を貫かんとするかのように屹立する、二課本部のエレベーターからも見える不思議な紋様が描かれた塔。

 

 

「これこそが、地より屹立し、天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲カ・ディンギルッ!」

 

 

 カ・ディンギル。別名、『バベルの塔』。それは太古の昔、神々の領域へ足を踏み入れようとした人々が作り上げ、そして破壊された最古の塔。一つの共同体だった人類をバラバラに散らす原因となった塔。神話に存在する古塔の出現に、その場にいたフィーネを除く者達が目を見開く。

 

 

「今宵、これより放たれる一撃で月を穿つ事によって、人類は忌々しき呪詛より解放されるのだッ!」

「呪詛…………? 呪詛とはいったいなんの事だッ!」

「それは私が説明しましょう」

「…………ッ! お前は…………ッ!」

 

 

 その問いに答えるのはフィーネではなく、彼女の隣に現れたユートピアドーパント。自らの出現に身構える克己達に、ユートピアドーパントはフィーネの言う『呪詛』について説明し始める。

 

 

「今と違って言語が統一されていた古代の人類は、神の領域に至ろうとシンアルの野に、このカ・ディンギルを建造しました。しかし神はそれを快く思わなかったのか、彼らが建造したこの塔を破壊し、同時にある呪いを撒き散らしました。それこそが『バラルの呪詛』。神によって施された、人類の相互理解を阻む呪いです。そして、その根源となったのが」

「月、というわけか」

 

 

 頭上に浮かぶ月を見上げる克己に「その通り」と答えるフィーネ。

 

 

「私はただ、あの御方と並びたかっただけなのに、あの御方は人の身が同じ高みに至る事を許しはしなかったッ! あの御方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる果てしなき罰、バラルの呪詛をかけられてしまったのだッ! そして、遂にこの時がやってきたッ!」

 

 

 カ・ディンギルから月へと視線を移し、フィーネは両腕を広げて歓喜する。

 

 

「人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊する事で解いてくれるッ! そして再び、世界を一つに束ねるッ!」

「…………下らねぇな」

「なんだと?」

 

 

 ロッドを担いで吐き捨てるように言った剛三をフィーネがじろりと見ると、剛三に続いて賢が口を開く。

 

 

「誰かに会いたいという気持ちはわかる。だが、その為に多くの命を奪う事を肯定する事は出来ない」

「『あの御方』とやらに想いを伝えたい。その気持ちは立派よ。だけど、その為に無実の人々を殺すあんたのやり方は肯定できないわね」

「身勝手な理由でこの子達を振り回す事は、天が許してもワタシ達が許さないわッ!」

「死者は後世に生きる者達を後押しするものだ。それをせず、無実の人々を殺してきたお前を、俺達は許さない」

 

 

 誰かを愛する心を持つ事は素晴らしい事だ。だが、その為に関係の無い者達を巻き込むのは解せない。ただ身勝手に、自分の感情を優先して無実の人々の命を奪ってきた事は、到底許される事ではない。生者(ひびきたち)は彼女の我が儘に無理矢理付き合わされているようなものなのだ。

 

 だからこそ、死者(かれら)は言う。

 

 

「「「「「――――――身勝手な理由で、この子達を巻き込むなッ!」」」」」

 

 

 命を持たない彼らだからこそ、自分達と同類とも考えられる生ける亡霊である彼女に対する怒りは熱く燃え盛っていた。

 

 

「お前が支配した世界が、みんな笑顔でいられるような世界なら、あたしはなんも言わねぇけどよ、お前の話を聞いて確信したよ。お前が支配した世界じゃ、誰一人笑顔にはならねぇって事がなッ!」

 

 

 進み出たクリスに、翼が続く。

 

 

「未来は希望と絶望によって形作られていくものだ。絶望と恐怖のみで染め上げられた世界に明日は無い。だからこそ、私は防人として貴女の野望を阻むッ!」

 

 

 そして最後に、響が翼とクリスの間に進み出る。

 

 

「私、難しい事はよくわかりませんけど、了子さんが間違っている事だけはわかりますッ! だから、私は…………、私達はッ!」

 

 

 フィーネを見据え、覚悟を決めた響は叫ぶ。

 

 

「了子さん、貴女を止めますッ!」

 

 

 三人の少女がペンダントを握り締め、克己達がガイアメモリを取り出す。

 

 

「――――――Balwisyall Nescell gungnir tron」

「――――――Imyuteus amenohabakiri tron」

「――――――Killter Ichaival tron」

『エターナル!』

「変身ッ!」

『ヒート!』

『ルナ!』

『メタル!』

『トリガー!』

 

 

 三人のシンフォギア装者と一人の仮面ライダー、そして四人のドーパントが並び立つ。

 

 

「永遠を生きる私が余人に歩みを止められる事などあり得ない」

「止めてみせますッ! 私が、いえ、私達がッ!」

「素晴らしい…………。貴方方の希望、この私が戴きましょう」

「奪わせはしない。希望も未来もッ!」

 

 

 フィーネの鞭とユートピアドーパントの衝撃波を躱し、八人はそれぞれの相手に攻撃を仕掛けた。

 

 

「でりゃああああッ!」

 

 

 クリスの『MEGA DETH PARTY』を両手に握った鞭を巧みに動かす事で全弾を破壊したフィーネの視界を黒煙が埋め尽くし、それを切り裂いて翼の一閃が迫る。それを視界に収めた瞬間に動いた右腕がそこに装着された籠手で受け止め、翼を蹴り飛ばす。

 

 

「翼さんッ!」

「そんな玩具が私に届くものかッ!」

「こんのおおおおッ!」

 

 

 突き出された拳を躱し、時に防御したフィーネが左手の鞭を響の足元に巻き付かせ、背後から向かって来ていた翼に投げ飛ばす。飛んできた響の体を受け止めた翼の元にフィーネの鞭が二人を貫こうと迫るが、それはアームドギアをクロスボウ形態に戻したクリスが矢を命中させた事で軌道が逸れ、二人の真横の地面を穿つ。

 

 

「やってくれたな…………ッ!」

「がぁ…………ッ!?」

 

 

 右手の鞭でクリスを拘束したフィーネが彼女の体を持ち上げて地面に叩き付ける。ネフシュタンの鎧によって強化された腕力によって叩き付けられた衝撃に開いた口から少量の血を吐き出したクリスをもう一度地面に叩き付けようとした瞬間、左右からの攻撃に気付いて防御する。

 

 防御に意識が向いたため鞭の拘束が緩くなった瞬間を狙ってクリスが拘束から抜け出した事に、翼の剣と響の拳を受け止めていたフィーネが舌打ちをして二人を蹴り飛ばし、両手の鞭を強く握り締め、二人よりも遠くにいるクリス諸共薙ぎ払った。

 

 

「「「ぐあああああああッ!」」」

「どうした? もう終わりか?」

 

 

 よろよろと起き上がる彼女達に、余裕のある佇まいで挑発するように言うフィーネに、所々に大小様々な傷を負ったクリスは苦し紛れに返す。

 

 

「な、わけねぇだろ…………。おい、お前ら…………」

「…………うん」

「…………わかった」

 

 

 クリスの視線に込められたものを読み取った響はガングニールをT2ヒートメモリの力を引き出してエルナンディ・ガングニールに、翼は天羽々斬をT2サイクロンメモリの力を引き出して天羽々斬・翼風刃(よくふうじん)に変化させ、自身を鼓舞するように雄叫びを上げてフィーネに攻撃を仕掛けた。

 

 そして、響達がフィーネと戦っている場所から少し離れた所では、メタルドーパントに鍔迫り合いで勝利したユートピアドーパントが彼を押し飛ばし、ルナドーパントの右腕を杖で受け止め、重力操作で彼の体を持ち上げて遠くから狙撃しようとしていたトリガードーパントにぶつけていた。

 

 

「く…………、このッ!」

 

 

 態勢を崩されながらもトリガードーパントが右腕のライフルから放った光弾を杖で弾いたユートピアドーパントにヒートドーパントの跳び回し蹴りが直撃し、微かな呻き声を漏らしてユートピアドーパントが後ずさると、すかさずエターナルが前に出る。その手に握られているのは、T2ユニコーンメモリ。

 

 

『ユニコーン・マキシマムドライブ!』

「おおおおッ!」

 

 

 マキシマムスロットに挿し込んだ一角獣の記憶を持つガイアメモリの力を宿した拳にドリル状のエネルギー波を纏わせて殴りかかる。体勢を立て直していたユートピアドーパントは襲い来る拳を両腕を交差させて受け止めるが、連続で叩き込まれる拳に宿った、凄まじい勢いで腕を貫通してこようとするエネルギー波は遂に彼の防御を崩し、がら空きとなった腹部に右拳が捻じ込まれた。

 

 

「おのれ…………ッ!」

 

 

 殴り飛ばされたユートピアドーパントは空中で自身に重力操作の力を使用して空中で留まると、上空から五人目掛けて衝撃波を放ってきた。五人が衝撃波に吹き飛ばされると、続けて杖の先端から黄金の輝きを放つエネルギー弾を五つ出現させ、五人に向かわせる。

 

 

「「「「「があああああああッ!」」」」」

 

 

 エネルギー弾が直撃した事で再び吹き飛ばされた五人の中央にユートピアドーパントが降り立つ。以前交戦した時よりも格段にパワーアップしているユートピアドーパントは多少のダメージを負いはしたもののまだ余裕を見せており、それに比べて五人はかなりのダメージを受けていた。

 

 五人が立ち上がろうとしたその時、カ・ディンギルが眩い輝きを放ち始める。

 

 何事かと驚く五人を他所にカ・ディンギルを見上げたユートピアドーパントは、これからなにが起こるかを五人に説明する。

 

 

「どうやらエネルギーが満たされたようですね。溜まりに溜まったエネルギーがあの砲口から放たれたが最後、呪詛の元凶たる月は破壊され、人類は再び一つに…………む?」

 

 

 なにかが発射されるような轟音を捉えたユートピアドーパントが音が聞こえてきた方向へ視線を移すと、四基の大型ミサイルがカ・ディンギルに向かっていた。

 

 だが、フィーネは微かな焦りを見せながらもミサイルを破壊していき、あれならば問題は無いと判断したユートピアドーパントが五人に視線を戻しかけた瞬間、一基のミサイルが黒煙を突き破って遥か上空の月へと向かっていくのが見えた。だが、ユートピアドーパントの視線を引きつけたのはミサイルではなく、それに乗っている一人の少女の姿だった。

 

 

「クリス…………ッ!?」

「あいつ、なにしてやがんだッ!?」

 

 

 五人の中では最もその少女と同じ時間を過ごしたトリガードーパントとメタルドーパントは、ただミサイルに乗って徐々に姿を小さくさせていくクリスを見上げているしかなかった。

 

 

 

 

 ――――――同時攻撃を仕掛けてきた響と翼の攻撃がネフシュタンの鎧のパーツで陣を組ませる事によって張られたバリアで防がれる。攻撃が失敗した二人がフィーネから距離を取るよりも速く動いた鞭が二人を切り裂く。

 

 

「やぁッ!」

「ぐぁ…………ッ!」

 

 

 切り裂かれながらも態勢を整えた翼が大型化させた剣を振るって発生させた緑色の竜巻にフィーネを閉じ込めてから風を操って彼女の全身を切り刻んでいくが、切り裂かれた箇所からネフシュタンの鎧の力によって凄まじい速度で回復していくフィーネは鞭を振るって竜巻を切り裂いて風を霧散させた。自分を竜巻に閉じ込めて行動を制限するのが彼女達の目的かと思ったが、響達の真の狙いは別にあった。

 

 

「本命は…………こっちだぁッ!」

 

 

 トリガーの力を引き出してアズゥティラール・イチイバルに変化させたギアを纏ったクリスが、先の戦いで超大型ノイズすらも仕留めた技を放とうとしている事にフィーネが気付いた頃には、既にそのチャージは完了していた。

 

 

「喰らいやがれッ! ロックオンッ! アクティブッ! スナイプッ! デストロイイイイッ!」

 

 

 並の敵であればたとえ集団であれど一掃が殲滅力を誇る『MEGA DETH QUARTET』が、フィーネではなくその背後に聳え立つカ・ディンギル目掛けて飛んでいく。

 

 

「狙いはカ・ディンギルかッ!? させるかぁッ!」

 

 

 バラルの呪詛の解除にカ・ディンギルは必要不可欠。それを破壊されては、フィーネは目的を果たせない。初めて焦りを見せたフィーネが二本の鞭を駆使してミサイルを破壊していくが、最後の大型ミサイルが見当たらない。

 

 

「どこに…………はッ!?」

 

 

 見上げると、徐々に遠ざかっていく大型ミサイルが見えた。

 

 

「クリスちゃんッ!?」

「なんのつもりだッ!?」

 

 

 これは響と翼も予想外だったのか、二人もフィーネ同様に驚愕して徐々に遠ざかっていくクリスの背中を見上げる。

 

 しかし、彼女の乗るミサイルを当てたとしても、この巨大な塔は完全に破壊出来ないし、これから放たれるであろう砲撃を食い止める事も出来ない。そう、シンフォギアを『玩具』だと捉えているフィーネは考えていたのだが、それは次の瞬間に聞こえてきたものによって、その考えは覆される事となった。

 

 

「――――――Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

 

 ミサイルから飛び降りたクリスは腰部アーマーからエネルギーリフレクターを展開。ダメージを軽減する役目を持つマントを構成するエネルギーを両手に持ったマグナムの光弾に籠め、威力を増した光弾はリフレクターを反射しながらその威力と速度を増していき、次第に蒼い蝶の羽を象っていく。

 

 そして、両手のマグナムを合体させてバスターキャノンに変形させた瞬間、カ・ディンギルから超出力のエネルギー砲が発射された。

 

 地上から、雲を突き破って飛んでくる破壊の砲撃。それを、クリスは真正面からバスターキャノンの引き金を引いて迎え撃った。

 

 

「一点集中ッ!? 押し留めているだとッ!?」

 

 

 地上からも見える程のに二色の輝きの拮抗に、あり得ないと言いたげに叫ぶフィーネ。

 

 シンフォギア・システムは副次品として開発しただけの玩具に過ぎないはずだ。それがなぜ、ああして月をも砕く一撃と互角に渡り合っている。目の前で起こっているそれは、フィーネにとって、理解出来ない出来事だった。 

 

 

(ずっとあたしは…………パパとママの事が、大好きだった…………ッ! だから、二人の夢を引き継ぐんだッ!)

 

 

 賢と剛三が思い出させてくれた、両親への想い。

 

 この世界は、喜びと哀しみで満ちていて、今もどこかで誰かが笑って、誰かが哀しみに暮れている。

 

 でも、だからこそ、この世界は美しい。どれだけ絶望に打ちひしがれても、その先には必ず希望が待っていて、誰もが笑顔になれる。

 

 あの日、戦地で命を落とした両親は、みんなに笑顔を与える為に進んでこの世の地獄に足を踏み入れた。どれだけ残酷な世界でも、希望は必ずあると、現地の人々に教える為に。

 

 両親はあの日死んでしまったけれど、その魂、意志は死んでなんかいなくて、今もこの胸の中で生き続けている。

 

 

(パパとママの代わりに、歌で平和を掴んでみせるッ!)

 

 

 破滅の砲撃が迫ってくる。それを恐れる事無く、最後の力を振り絞って、クリスはバスターキャノンの砲撃の威力を底上げする。再び力と力の均衡が成り立つが、それも、たった一瞬の事。

 

 

(あたしの歌は――――――)

 

 

 最後に、幸せに満ちた笑顔を浮かべる両親と手を繋いで歩く幼い頃の自分を思い出す。

 

 

(――――――その為にッ!)

 

 

 ――――――そして、クリスは破滅の光に呑み込まれた。

 

 

 

 

「――――――クリスううううううううッ!!!」

 

 

 哀しみに満ちたトリガードーパントの絶叫が響き渡る。

 

 

「仕損ねたッ!? 僅かに逸らされたのかッ!?」

 

 

 驚愕に目を見開くフィーネの視線の先には、クリスの命懸けの迎撃によって、一部のみを欠けさせた月。

 

 

「ふざけんなよ…………。なんで、そんな事をしたんだよ…………ッ!」

 

 

 遠目から見てもわかる程の眩い輝きを散らして墜ちていく一人の少女の姿に、メタルドーパントは地面に拳を叩き付ける。

 

 

「ふざけんじゃねぇよ…………ッ! クリスううううううううッ!!」

 

 

 悲痛な叫び声を上げたメタルドーパントの慟哭が周囲に満ちる。

 

 

「あ…………あ、あ…………」

 

 

 森に墜ちていく輝きを見て、響の口から微かに声が漏れ――――――

 

 

「――――――ああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 

 絶望に染め上げられた悲鳴が、夜空に響き渡った。

 

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