死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 無印編の終わりが見え始め、G編をどう進めようかと本格的に考え始めた今日この頃、オリキャラが使うオリジナルメモリのロゴで頭を悩ませ、参考がてらWに登場したメモリやファンの方々が制作したオリジナルメモリを調べていましたが、その度に「これ考えた人凄いなぁ」と思っているseven74です。

 無印編が終わった後はG編の間にしないフォギアを投稿する予定ですが、それまでの間にロゴが決まったら嬉しいなぁ(遠い目)。頑張れ未来の私ッ!

 それでは本編、どうぞッ!


双翼のウィングビート

「そんな、クリス…………ッ!」

 

 

 《私立リディアン音楽院》の地下のシェルターの一室で、未来は画面に映し出されている落下中のクリスに、未来は口元に手を当てる。

 

 弦十郎を下した後、フィーネは二課に存在する機能のほとんどを破壊。それが原因でまともな通信も出来なくなってしまったので、東京スカイタワー周辺に現れたノイズを駆除し終えた響への連絡が途切れてしまったのだ。だが、それでも機能が生きている場所は少なからず存在しており、現在二課の職員を含めた民間人は、その一つであるシェルターの一室にて監視カメラなどの映像を見ていたのだ。

 

 そして、ミニターを見ていた人々は、命懸けの行動で月の完全破壊を防ぎ、その身を小さな流星へと変えて墜ちていく少女の姿に息を呑んでいた。

 

 

(…………さよならも言わずに別れて、それっきりだったのよ。なのにどうしてッ!?)

(…………お前の夢、そこにあったのか? そうまでしてお前が、まだ夢の途中というのなら――――――)

 

 

 俺達はどこまで無力なんだ、と弦十郎は拳を握り締めていた。

 

 

 

 

「――――――折角仲良くなれたのに、こんなの、嫌だよ…………。嘘だよ…………」

 

 

 クリスが消えていった森を見つめ、響は両目に涙を溜め、震えた声で己の無力感を感じていた。

 

 

「もっとたくさん話したかった…………話さないと喧嘩する事も、今よりもっと仲良くなる事も出来ないんだよぉッ!」

 

 

 クリスにあのような行動を取らせてしまった無力な自分への怒りと、堕ちていった彼女への哀しみが籠められた声が響の口から吐き出される。

 

 

「クリスちゃん…………夢があるって言ったもん。私、クリスちゃんの夢、聞けてないままだよ…………」

 

 

 心中を荒れ狂う感情の渦に思考が定まらないその時、ある一言が響の鼓膜を響かせる。

 

 

「自分を殺して月への直撃を阻止したか。ハッ! 無駄な事を」

 

 

 その最後の一言に、響と翼の視線がフィーネに向く。

 

 その視線に籠められているのは、憤怒。命を懸けて月の完全破壊を防いだクリスの覚悟を嘲笑った女性への激情。

 

 

「無駄…………? 無駄なもんかッ! クリスちゃんがした事は、無駄な事なんかじゃないッ!」

「いいや、無駄だ。クリスは無駄死にしただけの、見た夢も叶えられない、とんだ愚図でしかないッ!」

「な…………ッ!」

「笑ったか…………? 命を燃やして大切なものを護り抜く事を…………ッ! お前は無駄と、せせら笑ったかッ!?」

 

 

 奏もクリスも、彼女達の護るべきものを護る為に、命を顧みずに禁断の歌を歌った。その覚悟を嘲笑ったフィーネに、翼の怒りがマグマのように煮えたぎっていく。だが、その比にならない程の怒りを抱いているのが、彼女のすぐ傍にいた。

 

 

「…………許せなイ。それガ…………」

「…………ッ!? 立ば――――――」

「――――――夢ごと命を、握り潰した奴が言う事かああアアアアッ!!」

 

 

 己の激情に呑み込まれ、禍々しい邪悪な姿へとその身を変えた響が、隅々までドス黒い感情に塗り潰された咆哮を轟かせた。

 

 

「ほぅ…………」

 

 

 響の異変に気付いたユートピアドーパントが彼女の姿を興味深そうに眺めると、彼に攻撃を仕掛けようとしていたエターナルと彼の部下達も、咆哮を轟かせる響に気付く。

 

 

「響ちゃんッ!? どうしたのッ!?」

「わからないが、碌なものじゃない事だけはわかるわね…………ッ!」

 

 

 ビリビリと震える空気に身構えた彼らを横目に、フィーネは全身を黒く染め上げた響に笑みを浮かべる。

 

 

「融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御出来ない力に、やがて意識が塗り固められていく」

「まさかあんた、響を使って実験をッ!?」

「欠片とはいえ、聖遺物と融合した人間など前代未聞。研究者として興味を抱かないはずが無いだろう? それに、実験を行っていたのは立花だけではない。見てみたいとは思わんか? ガングニールに翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を」

「その為にお前は響を…………奏を…………ッ!」

 

 

 彼女の言葉に、彼女が響のみならず、奏すらもガングニールの融合実験のモルモットとして扱っていた事を理解した二人がさらなる怒りを抱き、既に怒りのボルテージが頂点を突破していた響は、僅かに残っていた理性すらもガングニールによって喰らい尽くされてしまった。

 

 

「ウウウウアアアアアアアッ!!」

 

 

 四つん這いになって飛びかかった響がフィーネの顔面に拳を捻じ込み、数十メートル先まで殴り飛ばした。

 

 

(フィーネを一撃で…………ッ!?)

 

 

 自分達が全力を出してもまともなダメージを与えられなかったフィーネをたった一撃でぶっ飛ばした響の力に驚愕する翼の前で、響はフィーネに追撃を仕掛けようと唸り声を上げていた。その在り方はまさしく、ただ本能のままに動き、己の敵を粉砕する獣そのもの。

 

 

「もうよせ、立花ッ! これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだッ!」

「ウ…………ウアアアアアアッ!!」

 

 

 しかし、今の響に敵味方を判別するだけの理性も残っていない。響は自分を止めようと声をかけた翼すらも敵として判断し、漆黒の嵐と化して襲い掛かった。

 

 

 

 

「――――――どうしちゃったの、響ッ! 元に戻ってッ!」

 

 

 シェルターで響が禍々しい姿に変貌した瞬間を目の当たりにしてしまった彼女の友人達が、一片の優しさも感じさせない彼女の戦い方に唖然とする。

 

 

「…………もう、終わりだよ、あたし達。学院が滅茶苦茶になって、あの子もおかしなって…………」

「終わりじゃないッ! 響だって、私達を護る為に…………」

「あれが私達を護る姿なのッ!?」

 

 

 理性を感じさせぬ唸り声を上げて翼を威嚇する響を指差して、弓美が叫ぶ。あんなのが、自分達を護ってくれるとは到底思えないし、むしろ自分達を襲ってくるようにしか見えない。現に今、彼女は味方であるはずの翼に牙を剥いているではないか。

 

 だからこそ、モニターから彼女の様子を見ていた人々の心には絶望が満ち始めていた。

 

 だが、それでも――――――

 

 

「――――――私は、響を信じる」

 

 

 未来だけは、響を信じ続けていた。

 

 

「あたしだって、あの子を信じたいよ…………。この状況もなんとかなるって信じたい…………。でも…………」

「板場さん…………」

「でも、もう嫌だよぉッ! 誰かなんとかしてよッ! 怖いよ…………死にたくないよぉッ! 助けてよ、響ぃ…………ッ!」

 

 

 遂に泣き崩れた弓美が、モニターに映る響に助けを求めた。

 

 

 

 

「――――――ハハハッ! どうだ、立花響と刃を交えた感想は? お前の望みであったなぁ?」

「命を絶たれたはずなのに、人の在り方さえ捨て去ったか…………ッ!」

 

 

 砕かれた頭蓋骨を修復して起き上がったフィーネに、翼は響の攻撃を凌ぎながら吐き捨てる。

 

 先の響の一撃は、間違いなく彼女を殺しただろう。だが、彼女は響と同じように聖遺物と融合した存在。自らの感情に呑まれる事無く、その能力を遺憾なく発揮する新霊長となった今の彼女に『死』は無い。

 

 

「私と一つになったネフシュタンの再生能力だ。面白かろう?」

 

 

 その時、一度目の月の破壊を防がれたカ・ディンギルが再び輝き始める。それに気付いた翼がまさかと思うと、フィーネはカ・ディンギルの砲口を見上げてほくそ笑む。

 

 

「カ・ディンギルが如何に最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば、兵器としては欠陥品。必要がある限り、何発でも撃ち放てる」

「だが、あれ程のエネルギーだ。いったいどうやって…………」

「気付かないのか? その不可能を可能に変えるものが、この場に存在するという事をッ!」

「なに…………? …………まさかッ!」

 

 

 威力を落とす事無く遥か彼方の月まで届く砲撃を、この短時間でチャージする事を可能にするものは、存在する。

 

 ネフシュタンの鎧と同じく、目立った破損が見当たらない完全聖遺物――――――デュランダルである。

 

 

「尽きる事の無い無限のエネルギーを生み出すデュランダルをエネルギー炉心に取り付ける事によって、カ・ディンギルはエネルギーのチャージ時間をここまで短縮する事に成功したのだッ!」

「だが、お前を倒せばカ・ディンギルを動かす者はいなくなる」

「フフフ…………試してみるがいい。大道克己達の助け無しに、この私に勝てると思っているのならなッ!」

 

 

 響は感情に呑まれて暴走して共闘など不可能で、エターナル達は以前よりも格段に強化されたユートピアドーパントの相手で翼の加勢は出来ない。よって、翼はたった一人で、驚異の身体能力に再生能力を有するネフシュタンの鎧と融合したフィーネと戦わなければならないのだ。

 

 実力差は歴然。援軍も無い。それでも、防人(つばさ)は退くわけにはいかない。退いたら最後、二度目の砲撃によって月は破壊され、フィーネの目的は果たされてしまう。

 

 

「いくらネフシュタンといえど、再生能力を凌駕する攻撃を与え続ければ――――――」

「――――――ウアアッ!」

 

 

 フィーネにT2サイクロンメモリの力を発動した時に発現した二本の刀を構えた翼に、響が襲い掛かってきた。

 

 

「ぐうう…………立花ッ! やめろ、私は…………ッ!」

「ハハハッ! 最早敵味方の区別すら無くなったかッ! カ・ディンギル二射目までの余興に丁度いいッ!」

 

 

 フィーネの視線の先で、翼と響は対峙する。響は既に翼が味方であるとは考えておらず、彼女の存在をフィーネと同様、排除すべき敵にカテゴライズしてしまっている。

 

 

「…………立花。私はカ・ディンギルを止める。だから…………」

「ウウウアッ!」

 

 

 破壊すべき相手を仕留める為、響が地面を蹴り砕いて真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

 それに対し、翼は――――――

 

 

「こんな事は、もうやめてくれ」

 

 

 

 ――――――剣を捨て(・ ・ ・ ・)響の攻撃を(・ ・ ・ ・ ・)受け止めた(・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 

「馬鹿なッ!? 攻撃も避けもせず、受け止めただと…………ッ!?」

 

 

 仲間割れを楽しみにしていたフィーネが、目の前で起こった出来事に驚愕している中、翼は響を抱き締めて囁く。

 

 

「この手は、束ねて繋ぐ力のはずだろ?」

 

 

 響の手を取り、優しく握る。

 

 

「…………立花。奏から継いだ力を、そんな風に使わないでくれ」

「……………………」

 

 

 人を護る為に命を散らした奏から受け継がれたガングニール。それは人を助ける為に振るう力であって、傷つける為のものではない。

 

 それを思い出させるように語りかける翼に、響の意思を感じさせない紅い目からは、大粒の涙が溢れ出ていく。

 

 手にした小刀を響の影に投擲し、『影縫い』で彼女の動きを止めた翼は、フィーネに剣を構える。

 

 

「どこまでも剣というわけか」

「今日に折れて死んでも…………明日に、人として歌う為にッ! 風鳴翼が歌うのは、戦場ばかりでないと知れッ!」

「人の世界が剣を受け入れる事など、ありはしないッ!」

 

 

 一本の鞭を両手の剣で受け流した翼は全身に緑色の風を纏って一気にフィーネとの距離を縮める。フィーネはすぐにもう一本の鞭を振るって翼の連撃を防ぎ、鞭を振るうに充分な距離を取る為に翼を殴り飛ばす。

 

 僅かではあるものの、風の力でスタミナを回復した翼は再びフィーネとの間合いを詰めようとするが、それを呼んでいたフィーネは彼女の剣を籠手で受け止め、鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。開いた口から血の混じった唾を吐き出した翼の体が打ち上げられた瞬間、フィーネの拳が彼女の胸に二回叩き込まれ、地面を跳ねた翼を蹴り飛ばす。

 

 凄まじい攻撃速度の前に防御すら間に合わなかった翼が地面を転がり、T2サイクロンメモリの力が解除される。

 

 

「死ねぇッ!」

「…………ッ!」

 

 

 心臓と首を狙ってきたフィーネの鞭を転がって回避した翼が立ち上がった瞬間、背後から誰かに蹴り飛ばされる。

 

 

「虫けらのように抗うその姿。実に素晴らしく、そして滑稽ですね」

 

 

 フィーネと翼を挟むように立ったユートピアドーパントがパチパチと観客のように拍手する。その背後には、倒れ伏したエターナル達。

 

 

「大道…………ッ! みんな…………ッ!」

「彼らは本当に粘り強く戦いましたよ。ですが残念、私の方が上だったようです。…………さて」

 

 

 理想郷の杖が翼に向けられる。

 

 

「二対一、貴女に勝ち目はありませんよ。それでも抗うのであれば止めはしません。逆境の中で抱く希望ほど、ユートピア(わたし)の力となるでしょうからね」

 

 

 彼がエターナル達から希望を奪わなかったのは、徹底的に痛めつけた彼らからはいつでも希望は奪えるからであるのもそうだが、強敵に挟まれた目の前の少女が、それでも尚強い希望を胸に秘めていると感じたからだ。

 

 まずは翼から希望を奪う。その次は背後で倒れているエターナル達から奪う。それが今のユートピアドーパントの考えだった。

 

 

「この殺気…………防人としてはむしろ心地いいッ!」

 

 

 胸より湧き上がる歌を口ずさんで高くジャンプした翼が、『千ノ落涙』でフィーネとユートピアドーパントを攻撃する。二人はそれぞれの得物で降り注ぐ剣の雨を打ち払っていくと、頭上からその数十倍はあると考えられる巨大な剣が落ちてきた。

 

 

「その程度ッ!」

 

 

 フィーネは鎧のパーツを組み合わせて作り出したバリア――――――『ASGARD』で、ユートピアドーパントは衝撃波を発生させて『天ノ逆鱗』を防ぐ。

 

 『千ノ落涙』の対応に追われていた自分達を『天ノ逆鱗』で仕留めようとでも考えていたのか、それが通用する程、自分達は甘くは無い。

 

 だが、それは翼も理解していた。だからこそ、彼女は――――――

 

 

「なにッ!?」

 

 

 ――――――巨大な剣からカ・ディンギルへと、両手の剣から紅蓮の炎を噴射して飛び立っていた。

 

 

「ふむ、狙いはカ・ディンギルでしたか。我々の事は最初から眼中に無いと。それは少しばかり…………イラつきますね」

(…………ッ!? か、体が…………ッ!)

 

 

 全身にのしかかってくる重圧が、翼を大地に落とそうとしてくる。ユートピアドーパントが彼女の周辺の重力を操作したのだ。凄まじい勢いで速度が削がれていく翼が、それでもと炎を噴射してカ・ディンギルに向かおうとすると、いきなり全身を襲っていた重圧が消え去る。

 

 

「まだ戦うというのですか、仮面ライダー…………ッ!」

「あんなに若い子どもが戦ってるんだ。いつまでも寝ていられるか」

 

 

 背中から微かな火花を散らして振り返ったユートピアドーパントの前に立ったエターナルが、息を切らしながらもエターナルエッジを構える。そして、立ち上がったのは彼だけではなく、彼の部下のドーパント達もフィーネに攻撃を仕掛けていた。

 

 

「チィ…………ッ! 邪魔をするなッ!」

「そう言われるとしたくなるってのが、人の性ってもんよッ! うらああああああッ!」

「翼ちゃん、行ってッ!」

「私達がこいつらを抑えている内にッ!」

「クリスの努力を無駄にするな」

 

 

 地上からの彼らの声援を受け、翼は噴射させている炎の火力を上げてカ・ディンギルへと向かっていく。

 

 

「させるかぁッ!」

 

 

 だが、ドーパント達の奮戦も虚しく、彼らを薙ぎ払ったフィーネは鞭の先端にエネルギー弾を作り出し、翼目掛けて投擲した。

 

 

「避けろ、翼ッ!」

 

 

 ユートピアドーパントを蹴り飛ばしたエターナルが叫ぶ。

 

 

(あと少しで…………ッ!)

 

 

 視界に映らなくとも、下方からフィーネの攻撃が向かってくるのは、それに宿ったフィーネの殺気でありありと感じられる。

 

 だが、回避しようと体を動かす頃には既にエネルギー弾は翼のすぐ傍まで接近しており――――――

 

 

「あぁ…………ッ!」

 

 

 ――――――エネルギー弾が直撃した翼を、爆発で生じた黒煙が包み込んだ。

 

 

 

 

(――――――やはり、私では…………)

 

 

 以前、ネフシュタンの鎧を装備していたクリスに絶唱を使用した際に訪れた海中のような場所で、翼はその身を闇に呑まれかけていた。

 

 奏を失い、片翼となった自分は、クリスの命懸けの行動に報いる為にカ・ディンギルを破壊しようと飛び立った。だが、それは嘲笑されるかのように阻止され、自分はこうして、再びあの無明の闇に呑まれかけている。

 

 

「なに弱気な事言ってんだ」

「あ…………、奏…………?」

 

 

 気付けば、目の前には奏がいた。

 

 

「翼」

 

 

 生前、何度も自分に向けてくれた優しい笑顔を浮かべる奏は、翼に手を差し伸べる。

 

 

「あたしとあんた、両翼揃ったツヴァイウィングは、どこまでも遠くへ飛んでいける」

 

 

 その手を見つめた翼は微笑み、その手を取った。

 

 

 

 

「――――――お…………おおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 意識を取り戻し、再び飛翔する。

 

 

「馬鹿なッ!?」

 

 

 確実に仕留めたと思っていたのだろう。驚愕の声を上げるフィーネの視線の先で飛ぶ翼の前に、一本のメモリが浮かぶ。

 

 大道マリアから受け取った二本のメモリ。一本は『風』の記憶を内包したT2サイクロンメモリ。もう一本は、イニシャルがなにも書かれていないブランクメモリ。そのブランクメモリが今、封じられた記憶の名を明らかにする。

 

 朱色の翼を象った『Z』と、蒼色の翼を象った『W』。そのメモリに封じ込められているのは、人類の天敵に立ち向かった二人の記憶。

 

 片翼となった少女と、死して尚彼女に寄り添った少女。二人が共に過ごした時間は一つ残らず地球(ほし)に記憶され、今、彼女の力となるッ!

 

 『双翼』の記憶を内包する、そのメモリの名は――――――

 

 

 

『――――――ツヴァイウィング!』

 

 

 

 ツヴァイウィングメモリから飛び出した光球が翼の体に取り込まれ、彼女の外見を変化させる。

 

 髪を纏めていたヘッドギアは蒼色の、右耳のヘッドギアは朱色の翼を象ったものに変化し、腰からは朱色と蒼色の翼を象ったマントが伸びる。最後に、開かれた朱色に変色した右目の網膜には『Z』が、蒼色の左目の網膜には『W』の文字が浮かび上がる。

 

 今度こそ翼を撃ち落とそうと『NIRVANA GEDON』を放ったフィーネと、吹き飛ばしたエターナルが距離を詰めてくるまで重力操作で翼の動きを封じようとするユートピアドーパント。全身を襲う重圧と、下方から迫るエネルギー弾に対し、翼は焦りもなにも感じない。

 

 

「そう、両翼揃ったツヴァイウィングなら――――――」

 

 

 胸の中心から溢れ出した炎が、翼を朱と蒼の炎の鳥へと変える。瞬間、彼女を襲っていた重圧は消え、エネルギー弾も灼熱の炎によって焼き尽くされる。

 

 

「――――――どんなものでも、越えてみせるッ!」

 

 

 鳥が鳴き、最古の塔の頂へと向かう。

 

 

「させるかあああああああッ!」

 

 

 カ・ディンギルは破壊されてはならない。これまでとは比にならない程の焦燥感に突き動かされたフィーネの鞭が炎鳥と化した翼に襲い掛かるが、

 

 

「それはこっちのセリフだッ!」

『アイスエイジ・マキシマムドライブ!』

 

 

 『氷河期』の記憶を宿したエターナルエッジの斬撃で空気を凍らせる事によって作り出された氷の壁が、フィーネの鞭を阻んだ。

 

 

「行け、翼ッ!」

 

 

 最後の攻撃を阻まれたフィーネが呆然と見上げる先で、炎鳥はエターナルの叫びに応えるように、一層強く羽ばたく。

 

 

(見ろ、立花。これが私の…………風鳴翼の生き様だッ!)

 

 

 見えた。エネルギーが満たされ、今にも砲撃を行おうとしている、カ・ディンギルの頂。

 

 

「――――――立花あああああああああああッ!!!」

 

 

 奏の意志を継ぐ少女の名を叫んだ翼が、塔の頂に至る。

 

 

「あ…………あああ…………ッ!」

 

 

 所々から眩い光を漏らし、一瞬の間を置いた瞬間――――――

 

 

「お前の野望もここまでだ、フィーネ」

 

 

 ――――――カ・ディンギルが爆発した。

 

 

 

 

「――――――天羽々斬、反応途絶…………」

 

 

 藤尭の声がシェルター内に響く。皆が静まり返る中、弦十郎はモニターに映し出された、修復不可能なまでに破壊されたカ・ディンギルを見る。

 

 

「身命を賭してカ・ディンギルを破壊したか、翼…………。お前の歌、世界に届いたぞ…………世界を護り切ったぞ…………ッ!」

 

 

 翼の決死の行動により、誰もが不可能と考えていたカ・ディンギルの二射目の阻止。だが、その代償として、未来ある若い少女の命が喪われてしまった。

 

 

「…………わかんないよ」

 

 

 弓美が小さく漏らす。

 

 

「わかんないよ。どうして、みんな戦うのッ!? 痛い思いして、怖い思いしてッ! 死ぬ為に戦っているのッ!?」

 

 

 モニターに映る、フィーネとユートピアドーパントを相手に戦うエターナル達を見て、弓美はわけがわからないと言いたげに叫ぶ。いや、その通りなのだろう。

 

 ノイズの脅威こそ知っているものの、あくまで一般人としての生活を送ってきた弓美は、彼らがなぜ戦うのか、理解出来なかったのだ。

 

 

「…………わからないの?」

 

 

 だが、未来は知っている。彼らがなぜ、ああまでして戦うのか。己の命すらも投げ打って、敵と拳を交えるのか。

 

 

「…………わからないの?」

 

 

 再度、問いかける。

 

 わかるはずだ、アニメ好きの彼女なら。このような絶望的状況でも尚、彼らはなぜ戦うのか。なんの為に、その力を振るうのか。

 

 

「うぅぅ…………うわああああああああああッ!」

 

 

 それを理解し、泣き崩れた弓美の声がシェルター内に響き渡った。

 

 

 

 

「――――――ええいッ! どこまでも忌々しいッ!」

 

 

 力任せに振るわれた鞭が大地を穿つ。

 

 

「月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす。惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、狼狽え、そして聖遺物の力を振るう私の元に帰順するはずであったッ! 痛みだけが人の心を繋ぐ絆…………たった一つの真実なのにッ! それを、それをお前がッ! お前達がッ!」

 

 

 激情に駆られたフィーネの鞭がドーパント達を薙ぎ払うと、彼女の背後にユートピアドーパントが立つ。

 

 

「激情に駆られてはいけませんよ、フィーネ。彼女のような事にはならないといえど、感情に任せて行動しては隙を突かれます」

「わかっているッ! だが、この怒りをこいつらにぶつけなければどうにかなってしまいそうだッ!」

 

 

 自分達を包囲する五人を睨みつけ、フィーネはなぜ自分が月の破壊を目指したのか、その理由を口にし始める。

 

 

「ずっと昔、あの御方に仕える巫女であった私は、いつしかあの御方を、創造主を愛するようになっていた。だが、この胸の内を告げる事は出来なかった。その前に私から、人類から言葉が奪われたからだッ! 私は失われた統一言語を取り戻し、あの御方に想いを告げる為に、たった一人で抗ってきたッ!」

 

 

 その為にあらゆるものを利用して、犠牲にしてきた。本当なら戦いたくない相手とも戦った。全てはあの日、自分達を置き去りに去って行った創造主へ、この胸を焦がす想いを届ける為。

 

 

「…………その為に、お前はどれだけの人間を犠牲にした? お前一人の為に、どれだけの人が死んだ?」

「是非を問うだと? 恋心も知らぬお前達がッ!」

「わからないな。だが、お前が間違っている事だけはわかる」

 

 

 エターナルエッジを構えたエターナルと彼の部下達がフィーネ達を睨む。

 

 

「ユートピア共々、地獄へ送ってやる。安心しろ、俺達は死神だ。地獄への道案内は慣れている。迷う事無く、お前達を閻魔の元へ送り届けてやろう」

「悪いですが、地獄に行くのはそちらの方です。私も、まだ死にたくはないですからね。なにせ…………」

 

 

 背中を合わせるように立つフィーネを見て、ユートピアドーパントは気味の悪い笑い声を漏らす。

 

 

「素晴らしいものを、見つけてしまったのでね」

「戯言を。財団Xッ!」

 

 

 フィーネとユートピアドーパントの攻撃を回避し、エターナル達は一斉に彼らに襲い掛かった。

 

 

 

 

「――――――あ、あぁ…………」

 

 

 その頃、響は破壊されたカ・ディンギルを前に崩れ落ちていた。

 

 クリスは月の破壊を、翼はカ・ディンギルの砲撃を阻止して、その命を散らしていった。

 

 

「翼さん、クリスちゃん…………」

 

 

 彼女達に残された響は、ただ絶望に打ちひしがれていた。

 




 ツヴァイウィングメモリ登場ッ! そして、無印編最後の名前募集コーナー開始ですッ! いつも通り、名前募集欄を設けさせてもらいますので、よろしくお願いしますッ!

 そして次回、まさかの展開に…………ッ!?
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