そして、名前募集についての話ですが、すみません、まだ一つ登場させていない形態がありました。伏線張ったのにそれを忘れてしまっていた私を許してください…………。それが登場し次第、名前募集欄を設けさせてもらいますので、皆さんの力を貸してください(土下座)。
シェルター内にいる全員の気持ちを代弁するかのように号泣する弓美の声が室内を満たしていると、シェルターの扉がノックされる。
「司令、周辺区画のシェルターにて、生存者を発見しました」
「そうか、よかった。ご苦労だったな」
開かれた扉の奥から数人の民間人を連れて入ってきた緒川に弦十郎が労いの言葉をかけると、彼が連れてきた民間人の一人がモニターに映る響に気付く。
「あ、カッコいいお姉ちゃんだッ! それにあの時のお姉ちゃん達もいるッ!」
その子は、響が初めてガングニールを纏い、二体のドーパント達と共にノイズから護り抜いた女の子だった。
「ビッキーの事、知ってるの?」
「うん、助けてもらったのッ!」
「…………あの子の、人助け」
彼女の趣味である人助けによって救われた少女は、響の友人達を見て訊ねる。
「ねぇ、あそこにいるお姉ちゃん達、助けられないの?」
「…………助けようと思っても、どうしようもないんです。私達には、なにも出来ないですし…………」
「じゃあ、一緒に応援しよッ! ねぇ、ここから話しかけられないの?」
「あ…………うん、出来ないんだよ…………」
訊ねられた藤尭が目を伏せて答える。だが、それと真逆な答えを返す者がいた。
「…………出来ますよ、応援」
その場にいた全員の視線が、未来に向く。
「電力がまだ生きていれば、スピーカーを通して響達を応援出来るはずですッ!」
「確かに学校の設備が無事なら、リンクしてここから声を送れるかもしれませんッ!」
藤尭が早速スピーカーを作動させる為に必要な電力が存在する場所を探し始めると、創世が未来に声をかける。
「待って、ヒナ」
「…………止めても無駄だよ。私は響達の為に…………」
止められると思ったのか、創世がなにを言おうとしているのかを予想して未来が答えるが、友人はそんな事を微塵も考えていなかった。
「ううん、私も手伝う」
「え…………?」
予想と違う言葉に目を見開いていると、詩織と弓美も創世に続く。
「私もです」
「あたしにも手伝わせてッ! こんな時、大好きなアニメなら友達の為に出来る事をやるんだッ!」
「…………うん、一緒にみんなを助けようッ!」
先程まで絶望に染まっていた空気は一転し、希望に満ちたシェルターの中で、自分達を護る為に戦ってくれている者達を助けようと決意した者達の声が響いた。
「――――――なぜだ?」
眼前の敵に、フィーネが問いかける。
実力差はこちらが上回っている事ぐらい、自分達が傭兵だと言う彼らにはわかり切っているはずだ。だというのに、彼らは何度倒されても立ち上がり、自分達に挑んでくる。その様にはフィーネ達も、呆れを通り越して感心してしまうくらいだ。
「なぜそこまでして戦う? 抗う? お前達に勝ち目など無いというのに」
二人の装者の行動には驚かされたが、所詮はそれまで。彼女達は既にこの世におらず、残された最後の装者の心は折れた。
だが、それでも尚、彼らは立ち上がる。
「なにがお前達を奮い立たせる? なにがお前達を突き動かす?」
「…………正直なところ、俺もわからない。いや、『わからなかった』と言うべきか」
「なに…………?」
周囲を見渡し、エターナルは語る。
「あの時、俺は死んだはずなのに、目が覚めたら知らない街にいて、知らない脅威があって、知らない技術があって…………。行くべき場所に行かないまま、寄り道をするかのように、この街で過ごしてた…………」
普通、自分達が行くべき場所は魑魅魍魎が跋扈する地獄のはずだ。決して、ノイズという脅威はあれど、こんな平和な場所なんかではない。
これは夢かもしれない。死人が夢を見るなどあり得ないだろうが、目が覚めれば、そこは正真正銘の地獄なのかもしれない。だが、エターナルの頭にはそれ以上にあり得ないであろう考えが浮かんでいた。
「ひょっとしたら、これは悪戯なのかもしれないな。俺達に『人の在り方を見つめ直せ』と、気まぐれな神が言っているのかもしれない」
人としての生き方を忘れ、ただ己の身に宿る残虐性のままに人を殺してきた自分達は、人々の希望を一身に受けた者達によって倒された。そのまま地獄に落ちていくしかなかった俺達を、どこかの神様が見つけて、この街に送り出したのかもしれない。
神なんて存在を信じてはいなかったが、カ・ディンギルやフィーネの言う『創造主』とやらの話を聞いている間に、エターナルは自然とそう考えずにはいられなくなったのだ。
「以前の俺達は、人を殺す事を生業にしてきた。だがここでは、真逆な事をしてやる」
それは、あの男達がしてきた事。自分達を含めた脅威から無力な人々を救い、風の街が流した涙を拭ってきた男達がしてきた事。
「私達だって同じよ、克己。あいつらと同じ事をするってのは癪に障るけど、救った人達の顔って、とても素敵なんだもの」
「あれは、以前のワタシ達が与えられなかったものよね。いつからだったかしら、ワタシ達が彼らにあれと真逆の感情を与え始めたのって」
「だが、今の俺達は違う。俺達は俺達なりに、無力な人々を救おう」
「神様がどうとか関係ねぇ。ただ俺達は、俺達のやりたいようにあいつらを救う。それが、俺達が立ち上がる理由だッ!」
歩み出た四人のドーパント達が、フィーネとユートピアドーパントに構える。
「…………ハ、ハハハ、ハハハハハッ!」
全員、自分と同じ考えを持っていたのが意外だったのが可笑しくて、エターナルはつい笑ってしまう。
「最高だ、お前達ッ! 俺が見込んだだけの事はある」
「ワタシ達はいつだって、克己ちゃんの味方よ。あの時、あのまま死ぬしかなかったワタシ達を救ってくれたのは克己ちゃんなんだからねッ!」
「あんたに忠誠を誓う気は無いけど、あの時受けた恩は忘れないわ。返し切れない恩だからね」
「ただ死ぬしかなかった俺達を救ってくれたリーダーには、本当に感謝している」
「俺達はどこまでもついてくぜ、克己ッ!」
彼らの言葉がどうしようもないくらい頼もしくて、エターナルは仮面の奥で不敵な笑みを浮かべる。
「敢えて死神の道を進むか。いいだろう、その魂が燃え尽きるまでついてこいッ!」
「「「「応ッ!」」」」
真ん中に立った死神を中心に、かつて多くの命を奪ってきた悪魔達が歩き出す。彼らから溢れ出る闘気に当てられたフィーネは、言い知れぬ感情を胸に叫ぶ。
「なんなんだ…………ッ!? お前達はいったい…………なんなんだッ!?」
「俺達がなんだって? 俺達は――――――」
両腕を広げ、自分達が何者であるかを叫ぶ。
「――――――今を生きる者達の未来を願い、謳う、亡霊共さッ!」
その時、周囲一帯にとある歌が流れ始めた。
――――――仰ぎ見よ太陽を よろずの愛を学べ
「これは…………」
《私立リディアン音楽院》の講師として生活しているエターナルは、それがなんなのかを瞬時に理解する。
学校ならばどこにだって存在する、それを象徴する歌。
これは、《私立リディアン音楽院》の校歌だ。そして、それを歌っているのは、
「生きているのか…………? 未来達が…………」
「――――――校…………歌…………?」
周囲に響き渡る校歌は、絶望の淵に立っていた響にも届く。
「この声は…………未来…………?」
その歌声の中に、自分の最も大切な人の声が入っている事に気付いた響の目に、希望の光が宿る。その光は、校歌を聴いているうちに次第に強くなり、立ち上がる気力を失っていた両足に力を籠めさせる。
(――――――私達は無事だよ。みんなが帰ってくるのを待っているよッ!)
シェルター内に歌声を響かせ、未来はモニターに映っている、呆然としている響に自分達の無事を伝えるべく、力強く歌う。
(だから、負けないでッ!)
未来の気持ちに応えるように、モニターに映っている響は、ゆっくりと立ち上がり――――――
――――――三本の光の輪に囲まれた。
「――――――チッ! どこから聴こえてくる? この不快な…………歌…………、『歌』…………だとッ!?」
フィーネは思わず、響を見て、驚愕する。
「馬鹿な…………ッ!? なぜ…………ッ!」
完全に心を打ち砕いたはずなのに、その少女は瞳に希望の輝きを灯して、自分達を見ていた。その瞳を見て、エターナル達は互いの顔を見合わせて頷く。
「立て、響ッ! あいつらが、お前を…………お前の人助けを必要としているッ!」
「――――――聞こえる…………みんなの声が…………」
スピーカーを通して響き渡る歌声。それは、彼女達の無事を告げるものであり、彼女を奮い立たせるもの。
恐ろしかっただろう。辛かっただろう。だが、それでも、彼女達は諦めていない。諦めず、自分達を支えてくれている。
「よかった…………。私を支えてくれているみんなは、いつだって傍にいるッ!」
彼女達が諦めていないのに、自分が諦めてどうするッ!
「みんなが歌ってるんだッ! だから、まだ歌える…………ッ!」
崩れ落ちていた両足に力を籠め、ゆっくりと立ち上がっていく。
――――――彼女達が応援してくれているッ! 傍にいてくれているッ!
――――――だから、護るんだッ!
――――――この、希望の歌を胸にッ!!
「まだ…………頑張れる…………ッ! 戦えるッ!」
三本の光の輪が囲んだ響に「信じられん…………」と零すフィーネ。
「まだ戦えるだと…………? なにを支えに立ち上がる…………? なにを握って力と変える…………? この鳴り渡る不快な歌の仕業か?」
「そうだ。この歌のおかげで、響は立ち上がった」
フィーネの視線がエターナルに向く。
「馬鹿なッ! たかが歌だぞッ! 歌如きに、砕かれた心を癒せるはずが無いッ!」
「その歌が、彼女を立ち上がらせたのよ」
ヒートドーパントがそう言うも、フィーネは理解出来ない。
ただの歌が、二度と立ち直れないと思っていた少女を立ち上がらせた。それが到底信じられないフィーネは、響に問いかける。
「そうだ。お前が纏っているもの、それはなんだ? 心は確かに折り砕いたはずッ! なのに、なにを握っている? それは私が作ったものか? お前が纏うそれはいったいなんだッ!? なんなのだ…………ッ!?」
「決まっている。そいつの名は、お前が知っていて、知らないものだ」
三つの光柱が、天を貫く。
――――――一つは彼らの目の前、立花響から。
――――――一つは古塔の頂上、風鳴翼から。
――――――一つは森林、雪音クリスから。
彼女達は大地から、朝日が照らす青空に飛翔する。
白色の部分の比率が増え、オレンジ色の部分が金色に変化した外見に、背中のマフラーの形状をした黄金の翼から羽を散らす響。
水色の比率が増えた外見に、脚部の装甲から青白く輝く二対の翼を広げた翼。
全体的に白色の比率が増えた外見に、腰部装甲から桃色の翼を広げたクリス。
――――――彼女達が纏うのは、自らの歌を、人を救う力に変える鎧。
――――――かつてこの地にいたであろう神々が振るった武器の力を、未来を拓く為に活用する鎧。
――――――その名は、
「――――――シンフォギアァァァァッ!!!」
そして、今の彼女達が纏う鎧の形態は、高レベルのフォニックゲインにより制御されていた機能を全開放する事によって、圧倒的戦闘能力を発揮可能となった限定解除形態。
――――――名を、『
人々の希望を未来へと羽ばたく翼に変えた三人に上空から見下ろされているフィーネは驚愕し、ユートピアドーパントは「ほぅ…………ッ!」と感嘆の声を上げる。
「限定解除…………だとッ!? 馬鹿な、ただの歌がギアの力を最大限に引き出すなどッ!」
「ただの歌なんかじゃないッ! この歌は、みんなの意志ッ! みんなの歌声がくれたギアが、私達に立ち上がる力を与えてくれたッ! 歌は戦う力じゃない…………、命なんだッ!」
「だがッ! 限定解除とはいえ所詮は
ユートピアドーパントから返還されたソロモンの杖を掲げ、上空と地上をノイズの大群で埋め尽くす。
小型ノイズを始め、東京スカイタワーに現れた超巨大ノイズなど、様々な形状、様々な大きさのノイズが、フィーネ達と敵対する者達を囲む。
『またノイズか。いい加減、芸が乏しいんだよッ!』
『念話までも…………。限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か?』
ギアのリミッターが解除された事で念話が可能になった三人に、フィーネも念話で返す。
『世界に尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか?』
『ノイズとはバラルの呪詛で相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮する為に造り上げた自律兵器…………』
『人が、人を殺す為に…………?』
『バビロニアの宝物庫は扉が開け放たれたままでな。そこからまろびいずる十年一度の偶然を私は必然と変え、純粋に力として使役しているだけの事』
フィーネは両腕を広げ、高らかに叫ぶ。
「さぁ、行けッ! 哀れな愚者共を、この世から排除しろッ!」
召喚者の意志に応え、ノイズの大群が動き出す。
「ここらのノイズは俺達に任せろ。お前達は上空と街にいるノイズを頼むッ!」
地上からノイズに囲まれたエターナルの声に、三人が頷く。
「了解ッ! 各自、ノイズを迎え撃つぞッ!」
「はいッ!」
散開した三人が、一斉に襲い掛かってきたノイズの大群を一掃し始めた。
「――――――行くぞ、お前達。奴らに地獄を見せてやるぞ」
「「「「了解ッ!」」」」
リーダーの言葉を合図に、彼らは襲い掛かってきたノイズを迎撃し始める。
過去に生きた
いつの時代でも人は未来を望み、その命をよりよい明日を作る為に捧げてきた。
現世での役目を果たした者達の意志は次の世代へと受け継がれ、その世代を生きた者達の意志もまた、その次の世代に受け継がれていくのだ。
未来は
故に、死者である彼らがやるべき事は、生者である彼女達の歩みを阻む障害を、出来る限り排除していく事のみだ。
『ウェザー・マキシマムドライブ!』
『気象』の記憶を持つメモリをロストドライバーのマキシマムスロットに差し込んだエターナルが左手を開くと、そこから放たれた吹雪や稲妻が前方のノイズの大群を消滅させ、彼を背後から襲おうとしたノイズはヒートドーパントが蹴り砕き、彼らから離れた場所ではトリガードーパントが撃ち漏らしたノイズをメタルドーパントがメタルシャフトで薙ぎ払い、ルナドーパントはT2マスカレイドドーパントを使役してノイズの集団を蹴散らしていく。
「――――――よろしいので? 彼らの邪魔をしなくて」
彼らの闘志がどこまで保つか、それを高みの見物で眺めているフィーネに、ユートピアドーパントが尋ねる。
「限定解除は確かに驚いた。だが、所詮はそれまでの事だ」
「それまでの事、ですか…………」
凄まじい勢いでノイズの数を減らしていく彼らを眺める。
フィーネは慢心しすぎている。上空の三人は限定解除されているシンフォギアを纏っている以上、すぐに周囲のノイズを殲滅するだろう。地上の五人は限定解除形態になっているわけではないが、今のエターナルはほとんどのT2ガイアメモリを所有している為、時間はかかれど、彼がやろうと思えば、一人でもこの大群を殲滅出来るだろう。まだ全てのメモリを手にしていないのが、こちらにとって救いとなっている。
たった二十数年しか生きていない自分がこの考えを思いつくのだ。永い時を生きてきたフィーネがそれを考えないはずが無い。
それをユートピアドーパントが不審に思っていると、ある考えが浮かび上がってくる。
(…………まさか)
「なんだ?」
「…………いえ、なにも」
盗み見ていた事を気付かれ、ユートピアドーパントははぐらかすように彼女から視線を外す。
(この人に限ってそんな事はあり得ないはずですが…………、もしそうであるのなら…………)
――――――なんて、甘いのでしょう。
我知らず、ユートピアドーパントは理想郷の杖を握る力を強めた。
――――――飛行ユニットのようなものに変形したアームドギアから放ったレーザーでノイズを消滅させたクリスに襲い掛かろうとしたノイズを翼が大型化させたアームドギアを振るって薙ぎ払う。二人の間を通って行った響がガントレットから伸びたパワージャッキを叩き付ける事によって発生する衝撃波でノイズを吹き飛ばしていく。
「どんだけ出ようが、今更ノイズッ!」
「この程度の数に敗れる程、我々は甘くないッ!」
周囲のノイズを粗方片づけた装者達が地上にいるフィーネに近付く。その後ろにはエターナル達も立っている。どうやら周辺のノイズは全て片づけたようだ。
身構えるフィーネに、響が言う。
「了子さん、こんな事、もうやめてください」
「…………お前までも、私を『了子』と言うのか?」
突然の言葉に呆気に取られながらも、フィーネはそう答える。
師弟関係だからか。それとも彼女の性分なのか。あの男の弟子は、敵対している自分と今でも手を取り合えると考えている。
「どんな姿になっても、了子さんは了子さんですよ。フィーネだからとか、関係ありません」
「…………私は、お前の日常を壊したのだぞ? 二年前の惨劇だって、私が起こしたものだ。あれさえ無ければ、お前は今も普通の少女として生活していたはずだ。憎くないのか? この私が」
「確かに、あの日、私の運命は狂いました。あれからの苦労は今でも覚えています。…………好きで思い出したくはありませんけどね」
僅かに顔を伏せる。
あの惨劇が原因で、響や彼女の家族は酷い目に遭ってきた。あの日を憎んだ事も、あるにはあった。
「でも、あの日があったから、私は誰かを護る力を手に入れられたし、こうして翼さんやクリスちゃん…………二課のみんなと出会えました。その中にはもちろん、了子さんも入っていますよ」
「…………どこまでも甘いな、お前は」
「甘くて結構です。それが私なんですから」
響が手を差し伸べる。敵意を微塵も感じさせず、ただ『仲良くなりたい』という気持ちだけが籠められた手に、フィーネは呆然とする。
「了子さんがたくさん悪い事をしてきた事ぐらい、話を聞いていればわかります。でも、それは過去の話で、未来はそうじゃない。戻って来てください、了子さん。その力は、私達と比べものにならないくらい、たくさんの人を救えると思います」
ネフシュタンの鎧の力は強大だ。悪の力として振るえば、多くの命を奪い、希望を絶望に塗り替えてしまうだろう。だが、逆に言えば、それは多くの命を救えるという事。その力は、きっと多くの人を救える。それこそ、自分達の比にならないくらいに。
「過去は変わりませんけど、未来はいくらでも変えられます。その力を、誰かを助ける為に使ってみませんか? 一緒に、苦しんでいる誰かを助けましょうッ!」
ピクリと、なにも握っていない左手が動く。だが、許されるだろうか? こんな自分が、彼女の手を取る事を。それ程までに、自分の手は――――――
(――――――あまりにも、血に汚れすぎている…………)
だが、それでもこの少女は、許してくれるのだろう。もしこの手を取ったら、心からの笑顔で、自分を許すのだろう。
(…………あぁ、駄目だ。考えてはいけない。こいつらは敵だ。倒すべき敵のはずなんだ…………)
だというのに、自分の手は勝手に彼女の手を握ろうとしている。
自分に攻撃の意志が全く感じられない事に翼達が驚く中、フィーネの手はゆっくりと、だが着実に響の手を握ろうとした、その時――――――
――――――腹部に、強烈な痛みが走る。
向かい合っていた者達の驚愕の視線が自分の腹部に注がれている事に気付いて、フィーネは自分の体を見下ろす。
――――――フィーネの腹部からは、輝くドリル状のエネルギーを纏った理想郷の杖が突き出ていた。