「了子さんッ!」
叫んだ響の前で、腹部を杖で刺し貫かれたフィーネは背後のユートピアドーパントを睨む。
「お前…………なにを…………ッ!?」
「貴女には失望しましたよ、フィーネ。敵である彼女に感化されるとは、貴女の決意はその程度ですか」
彼女は、自分達の元を去った存在に想いを伝える為だけに永い年月を生きてきた。その覚悟、決意は確固たるものだったはずだ。だが、今となっては、それは脆くなってしまっている。
「ですが、貴女が未来に抱く希望は変わっていませんね。それだけは嬉しい限りです。なにせ…………」
ユートピアドーパントがフィーネの後頭部を鷲掴みにする。
「こうして貴女から、希望を奪えるのですから」
「ぐ…………が…………あああああああああああああああッ!!!」
全身に稲妻が走り、苦悶の叫びを上げるフィーネ。彼女からユートピアドーパントを引き剥がそうとした響達を、ユートピアドーパントはフィーネを盾のように構えて制止させる。
それ以上近づいたらフィーネを殺す、と無言の脅迫にその場の全員が動きを止める。
「貴方方も甘い。普通なら彼女を捨てて私を倒しにかかるでしょうに。彼女は貴方方をずっと騙していたんですよ?」
「ぐ…………あ…………」
抵抗する力を奪われたフィーネが糸の切れた操り人形のように項垂れる。そんなフィーネを見つめ、ユートピアドーパントは溜息を吐く。
「貴女ともあろう方がこの程度なはずが無い。まだ残っているでしょう? 貴女の求める、
「や、やめ…………ぐああああああああああああああああッ!!」
全身を痙攣させて絶叫するフィーネをただ眺めているしかない響達。やがてフィーネの全身を走る稲妻は消え、ユートピアドーパントは満足した様子で彼女を響達の前に投げ捨てる。
「了子さんッ!」
ネフシュタンの鎧が消え去ったフィーネの体が地面に落ちる前に抱えた響がフィーネの顔を見た瞬間、両目が零れ落ちそうな程に目を見開く。なぜなら――――――
――――――フィーネの顔からは、先程まであったはずのパーツが全て失われていたのだから。
「実に甘美なものでしたよ、貴女の希望は。…………フフフ、ハハハハハッ!」
フィーネの希望を奪い尽くしたからか、先程までは段違いの威圧感を身に纏うユートピアドーパント。
「お前…………ッ! 人の希望をなんだと思ってやがるッ!」
利用されていたとはいえ、衣食住を提供してくれていたフィーネには恩義を感じていたクリスが叫ぶ。人にとって、希望とは未来を生きていく為に最も必要なものだ。それを無理矢理奪い取っていくユートピアドーパントを、クリスは許せなかったのだ。
クリスの問いかけに「そうですね…………」と、しばし顎に手を当てて考え込んだユートピアドーパントは、一つの答えを口にした。
「我が理想郷を創造する為の道具、と言ったところでしょうか?」
「な…………ッ!」
ユートピアドーパントの回答に、その場にいた誰もが絶句する。目の前の怪物は、人が未来を生きる糧である希望を、私利私欲の為に利用するものとしか考えていない。
「この世に生きる人々は、誰もが理想郷を求めています。一切の争いが存在しない世界…………実に素晴らしい。永い間、人類という種族が叶える事が出来なかった夢の一つと言っても過言ではないでしょう。…………ですが、誰もが気付いているはずです。
争いの無い世界を求めているというのに、人類は互いを殺し合い、自分達だけが幸せになろうと他者を蹴落とし続ける。そんなものでは、決して彼らが夢見る理想郷には到底たどり着けない。真の理想郷など実現などしないと、誰もが無意識下で理解しているはずだ。
「ですが、私なら出来る。私が全ての希望を統括しましょう。一人一人が未来に抱く希望が違うからこそ、争いは起こるのです。ですが、まとめて一つにしてしまえば、そんな事はもう起こりません。貴方方も、本当は戦いたくないはずです。争いの無い、平和に満ちた世界を求めているはずです」
ユートピアドーパントの左手が響達に差し伸べられる。
「さぁ、その希望を委ねなさい。私が貴方方の全てを統括し、真の理想郷へと導いてみせましょう」
それに対し、響は静かに答える。
「…………確かに、そうすれば、誰も争わないで済みますよね」
「立花…………?」
希望を奪われたフィーネの体を傷つけないように優しく地面に横たわらせ、響はユートピアドーパントに近付いていく。
「未来やみんなだって、危険な目に遭わなくて済む。誰もが喧嘩しないで、笑っている世界。本当に、素晴らしい世界だと思います」
「えぇ、まさしくその通り。では、貴女の希望を、私に委ねなさい。それが貴女の望む理想郷の礎となる」
開かれた左手が、響の顔を掴もうとする。それを見た全員が、響をユートピアドーパントから引き剥がそうとしたその時――――――
「――――――でも、そんなのは、理想郷とは言いませんッ!」
今にも自分の顔面を覆い尽くそうとした左手を払った響の拳が、ユートピアドーパントの顔面に叩き込まれた。限定解除されたギアの出力によって繰り出される不意打ちにも等しい一撃に回避も防御も許されなかったユートピアドーパントは数十メートル先まで殴り飛ばされる。
「貴方の言うように、みんなが同じ気持ちじゃないから争いが起きるのかもしれません。ですがそれでも、平和な世界を目指して頑張っている人達がいますッ!」
誰も彼もが争っているわけではない。中には手を取り合い、共通の敵と戦う者達だっている。そんな彼らの希望さえも奪って統括しようとするユートピアドーパントを、響は認められなかった。
彼の言う『理想郷』とは、全人類の希望を彼が統括した、争いの起こらない世界。しかしそれは、誰もが人としての尊厳の一つである希望を奪われ、生きる気力を失ってしまう『
そんな独裁的な世界は、誰も望まない。
どんな困難があっても、誰もがそれぞれの希望を胸に、未来へ邁進する。それが人間という生き物なのだ。
「…………それは無駄な足掻きですよ。どれだけ足掻こうが、貴方方に理想郷の創造など不可能です。この私が…………ユートピアメモリと引かれ合ったこの私こそが、大衆を真の理想郷に導けるのですッ!」
顔を抑えながら立ち上がったユートピアドーパントが叫ぶ。その手にはソロモンの杖。
「…………ッ!? なにを…………ッ!?」
理想郷の杖を投げ捨て、両手で握ったソロモンの杖を自分の体に突き刺したユートピアドーパントの姿に響達が呆気に取られていると、彼女達が倒し切れなかったノイズが一斉に彼に殺到していき、嫌な予感を感じたエターナルが全員にここから離れようと提案し、全員がノイズに埋め尽くされていくユートピアドーパントから離れていく。
「ノイズに、取り込まれてる…………?」
フィーネを抱えた響が、目の前の光景に思わずそう零すも、エターナルがそれを否定する。
「逆だ。奴がノイズを取り込んでいるんだ。響、フィーネを安全な場所へ」
「はいッ!」
響がフィーネを丁度人一人分隠れられそうな瓦礫の影に隠している間にも、ユートピアドーパントは変化を遂げていく。
「来なさい、デュランダルッ!」
ユートピアドーパントの呼びかけに答えるようにどこからともなく飛んできたデュランダルを、ドロドロに溶けたノイズに包まれているユートピアドーパントが取り込むと、その身を変異させていく。
顔面に取り付けられていた片側が欠けていた仮面が砕け散り、狂気の笑みを浮かべる赤目の素顔が露になり、巨大化した両腕のうち、右手には彼同様巨大化した理想郷の杖が握られており、開かれた左手の上には太陽の如き輝きを放つ光球が浮かんでおり、両足はなにかに縋るように手を伸ばしている人々によって形作られている。そして、腰に巻かれたガイアドライバーの中心には、障壁に護られたデュランダルが取り付けられていた。
「これは、メモリの暴走か…………?」
文字通り巨人と化したユートピアドーパントに、克己は仮面の奥で眉を顰める。
以前、ガイアメモリについて調べていた際に、ガイアメモリの暴走などを起因にしてドーパントが巨大形態に変異するという情報を知ったが、これがその巨大形態というものなのだろう。だが、様子を窺ってみるも、ユートピアドーパントに怪しい動きは見えない。暴走で変身者の意志に関係なく暴れる事も無い。いや、違う。
「暴走したメモリの力を制御しているのか…………ッ!? なんて奴だ…………ッ!」
一本のメモリに納められているとはいえ、それは間違いなく地球が保有する記憶。常人の精神が耐え切れるものではない。だが、地上にいる自分達を高みから見下ろしてくるこの怪物は、メモリの力を完璧に制御している。
「私の創る理想郷に、貴方方は不要です」
「ぐ…………ッ!?」
襲い掛かってきた重圧に思わず膝をつく。重力操作だという事はこれまでの戦いからわかり切っている事だが、その重圧は通常形態の時と比べて恐ろしいぐらいに強化されている。限定解除されたギアを纏っている響達でさえも身動きを取るのが難しいくらいだ。
「消えなさい」
ガイアドライバーのデュランダルが輝くと、それに反応するように左手に浮かぶ光球が強く輝き始める。これからなにが起こるのかはわからないが、それでも、これから繰り出される攻撃がこれまで自分達が受けてきたものとは段違いの威力を誇っている事だけは、光球から感じる膨大なエネルギー量から把握出来た。
「クリス…………ッ!」
「任…………せろ…………ッ!」
トリガードーパントに頷いたクリスが飛行ユニットのようなものに変形したアームドギアから飛ばしたエネルギーリフレクターを展開した瞬間、巨人の光球から超圧縮されたエネルギー光線が放たれた。
全員を覆うように展開されたエネルギーリフレクターが光線を受け止めるも、それを貫通してきた衝撃がエターナル達を襲った。
「ぐ…………うぅ…………ッ! 跳ね返し…………やがれぇッ!!」
重圧と共に襲い来る衝撃に耐え続けるクリスがエネルギーリフレクターを維持する力を強める。主の意志に応えるようにエネルギーリフレクターは自らに襲い来る光線のエネルギーを幾重にも倍増し、巨人に跳ね返した。
「ぬううううぅぅ…………ッ!」
ズシンッ、と地響きを起こして巨人が光線が直撃した胸元を押さえて後ずさるも、もちろんエターナル達も無傷では無く、エネルギーリフレクターを破壊して貫通してきた光線を受けた鎧や体は所々傷がついていた。
だが、彼らがそのままじっとしているのを許す程、巨人も甘くは無く、今度は右手の理想郷の杖を振り下ろしてきた。
すぐに全員が散開したため、誰も杖に圧し潰される事は無く、全員がすぐに反撃を開始する。
「「はああああああッ!」」
翼を広げた響と両足から炎を噴射したヒートドーパントが巨人の頭よりも上まで飛んでいき、そこから急降下キックを繰り出すが、巨人は大した反応を見せずに彼女達を薙ぎ払う。
「このデカブツがぁッ!」
「喰らいやがれッ!」
飛行ユニットに乗ったトリガードーパントが光弾を撃つと同時にクリスがレーザーを放って攻撃し、地上からはルナドーパントに投げられたメタルドーパントがメタルシャフトを叩き付けようとする。だが、巨人は左手の光球を自分に向かってくる光弾とレーザーの数より数本多い数の光線に変えて相殺し、クリスとトリガードーパントを撃墜する。メタルシャフトを叩き付けようとしてきたメタルドーパントは左手で捕まえ、勢いよく地面に投げつけた。
小規模ながらも完成したクレーターの中心で苦痛に悶えているメタルドーパントを踏み潰そうとするが――――――
『バイオレンス・マキシマムドライブ!』
「ぐ…………おぉッ!」
『暴力』の記憶の力を身に纏ったエターナルが巨人の足を受け止めた。
「すまねぇ、克己ッ!」
「早く離れろッ! 翼ッ!」
「承知ッ!」
足を受け止める力を緩めずエターナルが叫び、上空の翼がアームドギアを自分の何倍も巨大化させる。
「はぁッ!」
通常形態よりも威力が格段に上昇している『蒼ノ一閃 滅破』が巨人の顔面に直撃する。黒煙を上げて後ずさる巨人の顔面には切り傷が出来ていたが、それは決して深いものではなかった。
「
歯噛みする翼に「当然です」と巨人は鋭い牙を覗かせる。
「フィーネの言うように、シンフォギアは所詮聖遺物の欠片から作られたものです。限定解除されていたとしても、ノイズとソロモンの杖、デュランダル、そしてフィーネの希望を取り込んだ私を、その程度で倒せるとでも?」
デュランダルを輝かせ、光球を幾十もの光線に変えて飛ばしてくる。上空にいる三人の装者と地上の五人はそれを避けるべく走り出すが、光線は標的を逃さないとばかりに進行方向を変えて追ってくる。
「私の後ろにッ!」
地上に降りた響の真正面から自分達を追う光線が飛んでくるように移動したエターナル達が彼女の頭上を飛び越える。
「はぁッ!」
自分達を襲おうと迫る光線に対し、響は大きく上げた右足で大地を踏みつける。
隆起した地面が天然の壁となって光線を阻み、砕けた壁を通ってきた光線はギアのエネルギーを纏わせた拳や足で打ち払っていく。
そこへ巨人が杖を振り下ろしてきたので、全員はそこから離れて回避する。
「どうしました? 逃げてばかりでは勝てませんよ?」
「キィーッ! 悔しいけどその通りねッ!」
踏み下ろされてくる右足を避けたルナドーパントが地団太を踏む。
「ネフシュタンの鎧が彼女と融合していなければ、そちらもすぐに奪っていたのですが、奪えないのであれば仕方ありませんね。無限のエネルギー炉であるデュランダルを取り込んだだけでもこの力なので、これで充分とも言えますが」
「デュランダル…………? …………はッ!」
翼が隣に滞空するクリスを見ると、自分と同じ事を考えていたのか、クリスは頷く。地上にいるエターナル達も、彼の言葉を聞いて理解し、決めた事だろう。これから自分達が、なにをすべきかを。
ただ一人、響を除いて。
「え? え? な、なんですか?」
クリスと翼の視線を受けて頭にはてなマークを浮かべていた響だが、彼女達の瞳に籠められた意志を感じ取り、拳を握り締める。
「なんだかよくわからないけど、やってみますッ!」
「頼んだッ! 私達が露を払うッ!」
翼が地上にいるエターナルを見る。頷いたエターナルが部下にこれからの行動を伝える。
「よし、行くぞッ!」
上空の翼に頷いたエターナルに頷き返した翼が叫び、全員が一斉に動き始める。
「手加減は無しだッ! 喰らえッ!」
クリスが飛行ユニットから撃ち出したミサイル群を巨人は重力操作で操り、クリスに向かわせてくるが、それらは彼女の前に出た翼の『蒼ノ一閃 滅破』によって悉く破壊され、それでも勢いを落とさない斬撃は巨人の胴体に直撃するも、巨人は大したダメージを受けた様子は無い。それでも翼は攻撃をやめず、アームドギアを手に巨人に攻撃を仕掛け、クリスも重力操作の影響を受けないエネルギーで構成されたレーザーで攻撃する。
「おのれ、ちょこまかと…………ッ!」
彼女達を撃ち落とそうと光線を放つ巨人の足元にはエターナル達が向かっており、彼らにも操られたミサイルが降り注いでいたが、それらは着弾する前にトリガードーパントによって全て撃ち落とされており、彼にミサイルの迎撃を任せて走っていたエターナルはヒートドーパントとルナドーパントに目配せする。
エターナルとメタルドーパントが彼らの前で二体のドーパントが組んだ手に片足を乗せ、一気に押し上げてもらう。
「いくぞ、剛三」
「あぁッ! いくぜッ!」
地上から飛んでくる彼らに気付いた巨人が光球を消滅させた左手を握り締め、殴り飛ばそうとしてくる。それに対し、エターナルは再びT2バイオレンスメモリを取り出し、メタルドーパントは拳を構える。
『バイオレンス・マキシマムドライブ!』
「はああああああッ!」
「おおおりゃぁああああッ!」
迫り来る拳と、エターナルとメタルドーパントの拳が激突する。凄まじい力と力の激突によって周囲に衝撃波が飛び、押し負けた巨人が一歩引いた。その隙を逃す事無く、メタルドーパントはエターナルの腕を掴んで回転し、投げ飛ばした。投げ飛ばされたエターナルの手には、『牙』の記憶を持つメモリ。
『ファング・マキシマムドライブ!』
T2ファングメモリを挿し込んだのは、エターナルエッジ。T2バイオレンスメモリは今もロストドライバーのマキシマムスロットに挿し込まれているままなので、二つの地球の記憶を解放するツインマキシマムの負担が襲うも、それ以上の数のメモリのマキシマムドライブを発動した経験があるエターナルにとって、これは苦でもなんでもない。
「はああああああッ!」
『牙』と『暴力』の記憶の力を宿したエターナルエッジが振るわれるのは、巨人のガイアドライバー。彼が狙っているものに気付いた巨人がすぐに左手で庇おうとするが、間に合わない。
「しまった…………ッ!」
先程のパンチよりも凄まじい威力を誇る超高速の連撃がガイアドライバーに叩き込まれ、数回は耐え抜いていた障壁にも亀裂が走り、遂に砕け散る。砕かれた障壁の破片を散らしながら、護りを失ったデュランダルが落ちていく。
「立花ッ! そいつが切り札だッ!」
「渡すものかぁッ!」
「させるかよッ!」
落ちていくデュランダルを重力操作で引き寄せようとするが、クリスのレーザーによって邪魔されてしまう。
地上では地球の引力で地面に向かっていくデュランダルをトリガードーパントが撃ち飛ばし、響は飛んできたデュランダルの柄を取った。
「ぐ、ウウウ、ウウウウウ…………ッ!」
瞬間、意識が破壊衝動に塗り潰される。響は意識どころか、全身さえも包み込もうとする真っ黒な感情に呑まれないよう抗うが、強烈な破壊衝動は留まる事を知らず、さらなる力で響の意識を捻じ伏せようとしてくる。
(だ、駄目だ…………ッ! 抑え切れない…………ッ!)
想像を絶する力の奔流に響が屈しかけたその時――――――
「――――――正念場だッ! 踏ん張りどころだぞッ!」
シェルターの扉を破壊して地上に出てきた弦十郎の声が、響の鼓膜を震わせた。
「強く自分を意識してくださいッ!」
「昨日までの自分をッ!」
「これからなりたい自分をッ!」
「…………ッ! みんな…………」
緒川、藤尭、友里も弦十郎に続いて、響に声援を送る。
「屈するな、立花。お前が構えた胸の覚悟、私に見せてくれッ!」
破壊衝動に抗う響に、翼とクリスが寄り添う。
「お前を信じ、お前に全部賭けてんだッ! お前が自分を信じなくてどうすんだよッ!」
(私の…………覚悟…………)
「貴女のお節介をッ!」
「あんたの人助けをッ!」
「今日は、私達がッ!」
地上から、学院で苦楽を共にしてきた友達の声が聞こえてくる。
「姦しいッ! 黙りなさいッ!」
巨人が杖を振り下ろしてくる。地上にいる誰もが「まずい」と思ったその時――――――
「…………ッ!? か、体が…………ッ!?」
三人に振り下ろしかけた杖を握る右手の動きが止まり、巨人は、まるで攻撃を受け入れるかのように両腕を広げた。
『させない…………ッ! この子達に、手を出させるものかッ!』
脳内に響き渡る声。突如として聞こえてきたそれが誰のものであるか、二課に所属する者は誰もが瞬時に理解した。
「了子…………サん…………ッ!?」
『勘違いしないでほしいな。私はこの男が気に入らないだけだ。さぁ、早くやれッ! 立花響ッ!』
「…………はイッ!」
「おのれ、私の力となっていながら、私の邪魔をするとはぁ…………ッ!」
身動きが取れない巨人が、それでもと僅かに開いた左手から光線を発射する。しかし、狙いを定められない状態で撃ち出されたため、それはあらぬ方向へと飛んでいき、雲を切り裂くのみだった。
「グ…………ウウウウウウウッ!」
だが、そのエネルギーに反応したのか、響の中で暴れていた破壊衝動が、「巨人を殺せ」と響の意識を乗っ取ろうとし始める。
呑み込まれかける響はしかし、とある人物の叫びによって、完全に自我を取り戻す。
「――――――響いいいいいいいいいッ!!」
それは、彼女にとっての陽だまり。誰よりも大切な親友、未来の叫びだった。
彼女の叫びは奪われかけていた意識を取り戻し、全身を覆う闇を消し飛ばした。
(そうだ…………今の私は、私だけの力じゃないッ!)
「ビッキーッ!」
「響ッ!」
「立花さんッ!」
「…………ッ!」
三人の友人が叫び、未来はただ、響を信じて見上げている。
(この衝動に…………塗り潰されてなるものかッ!!)
完全に響が光を取り戻した瞬間、デュランダルから眩い光が放たれる。天を貫かんとばかりに巨大化した不滅の大剣から放たれるそれは、絶望の未来を切り裂く、希望の輝き。
「その力…………振るわせてなるものかッ!」
彼女達の持つ大剣の力に嫌悪感を抱いた巨人が、自身の力となりながらも自分を妨害してくるフィーネの制止を振り切る。理想郷の杖を消滅させて自由にした右手を握り、エネルギーを一点に集中させていく。
(…………ッ!? 力が…………抜ける…………ッ!)
突然、全身を脱力感が襲ってくる。エターナル達も膝をついており、脱力感に襲われているのは彼らも同じである事が窺い知れる。
「デュランダルは無限のエネルギーを持ちますが、それを振るう者のエネルギーは有限ッ! 貴方方の力、私が戴くッ!」
どうやら、響達を襲った脱力感は巨人に因るものらしく、彼らから力が抜けていくのに比例するように、巨人の右拳に宿るエネルギーはより強大になっていく。
「砕け散れぇッ!!」
凄まじいエネルギーを纏った拳が突き出される。
「はああああああッ!!」
それに対抗すべく、響達はデュランダルを振り下ろす。
巨人の鉄拳と不滅の大剣。二つが激突した際の衝撃波は周囲の地面を捲れ上がらせ、すぐさま弦十郎は未来達に襲い掛かろうとしていた衝撃波を――――――弱体化してはいるが――――――発勁で掻き消した。
「ぐ…………うぅ…………ッ!」
「耐えろ…………立花ッ! ここで我々が敗北すれば、なにもかも終わりだッ!」
「こんなデカブツにィ…………あたし達が負けるかよッ!」
「無駄な足掻きを…………ッ! とっとと諦めなさいッ!」
巨人の拳が光の大剣を押し始める。
全身にかかる負担を無視して、三人は拳を押し返そうとするも、巨人はそれを嘲笑うかのように力を籠める。
「諦めなさいッ! 貴方方に勝ち目など、万に一つもありはしないッ!」
「それでもッ!」
「私はッ!」
「あたし達はッ!」
力を奪われ、押し負けそうになっても、彼女達は諦めない。自分達に力を与えてくれたみんなの為にも――――――
「「「――――――負けるわけには、いかないッ!!!」」」
不屈の闘志と仲間達の希望を胸に彼女達が叫んだ瞬間、エターナルは不思議な力を感じて、その力の根源を探し始める。
(あれは…………ッ!)
そして、見つける。自分達の持つそれとは比べ物にならない程のエネルギーを放つ、その
それが誰に反応しているのか、エターナルはとっくに知っている。
瓦礫に隠されるように落ちていたそれを掴み、エターナルは上空の三人に向かって投げる。厳密には、響に。
「響、受け取れッ! そいつが、
響は、孤独の中で戦い続けてきた少女と、過去の怨嗟に取り憑かれていた少女と、その手を繋いできた。相手が誰であろうと、分け隔てなく、彼女は手を差し伸べてきた。それがたとえ、多くの命を犠牲にしてきた者であろうと。
その在り方は、きっと異質なのだろう。『誰かを救う』という為だけに、自分の事なんて一切考えずに、その手を伸ばし続ける彼女の在り方は、『異常』の一言に尽きる。
だが、それだからこそ、彼女はいつだって、燃え盛る感情のままに、誰かを助け、彼らの脅威を排除してきた。
こんな事は誰にも出来るものではなく、最後の最後まで、『自分達は手を繋げる』と信じてやまない彼女だからこそ、
そのメモリの名は――――――
「力を貸して…………ジョーカーッ!!」
『切り札』の記憶を内包したメモリから飛び出した光球が、響に取り込まれる。
マフラー状の翼や四肢の装甲には紫のラインが走り、腰のスカートは響の昂る感情を炎の如く表すかのような紫のロングスカートに変化し、右目の網膜に『J』の文字が浮かび上がる。
使用者の感情が放つエネルギーによって、性能の上限を超えた力を発揮できる能力を持つT2ジョーカーメモリの力に当てられたのか、翼とクリスの姿も変化していく。
脚部装甲から広げられていた二対の翼は紅蓮の炎の翼となって翼の背中へと移動し、『Z』と『W』の文字が翼の両目に浮かぶ。
蒼色の模様が入った翼を広げ、蒼色の模様が描かれた装甲を纏ったクリスの右目には『T』の文字が浮かぶ。
「行くぞッ! これが最後…………今度こそ決着をつけてやらぁッ!」
「あぁッ!」
「はいッ!」
シンフォギアの限定解除に、ガイアメモリのマキシマムドライブ、そしてデュランダルの無限のエネルギーを前に、巨人の全身から火花が飛び散り始める。
「馬鹿な…………ッ! この姿でさえも、奪い切れないだとッ!?」
この場合のガイアメモリの力は、あくまで補助に過ぎない。三人の姿が変化したのも、それぞれのメモリの力を利用したから。だが、たとえ補助といえども、その記憶を保有しているのは、全ての生命の母体たる地球。
その力の前に、巨人は成す術も無い。
「響き合うみんなの歌声がくれた…………シンフォギアでえええええええッ!!!」
押されかけていた形勢を逆転し、拳を切り裂いた大剣は、そのまま巨人の顔面に近付いてくる。
(馬鹿な…………ッ! この私が…………敗れるだと…………ッ!? 認めない…………ッ! 認めてなるものかぁッ!!)
アギトを開き、咆哮を上げた巨人の顔面に、光の剣が直撃する。
「おのれ…………おのれえええええええええええええええええええええええッ!!!!」
不滅の大剣に両断された巨人が断末魔の叫びを轟かせ、一瞬の間を置き、大爆発を起こした。
『ユートピア! ユート…………ピア……………………ユ…………ア…………』
先程まで巨人が立っていた場所に倒れた順の目の前には、砕け散りながらも、適合者の望みを叶えんとするT3ユートピアメモリが落ちていた。
ガングニール新形態登場&ユートピア撃破ッ! 無印編名前募集は本当に今回で最後ですッ! 忘れてしまっていて申し訳ありませんでした(土下座)。一応書いておきますが、ジョーカー・ガングニールに関しては当然通常形態でも変化可能です。エクスドライブ限定ではありません。
次回は無印編最終回ッ! その次はしないフォギアを投稿する予定です。それが終わったらG編開始でありますッ!