死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 今回も名前応募、ありがとうございますッ! ジョーカー・ガングニールのギア名は、『フェイトシンギュラー・ガングニール』に決定しましたッ! ありがとうございますッ!

 そして今回、遂に無印編最終回ッ!



夜明けを告げる歌

 

「う…………ん…………?」

「む、気が付いたか」

 

 

 巨人が倒された事で奪われた希望が戻り、意識を取り戻したフィーネが瞼を開けると、こちらを覗き込んできている弦十郎と目が合う。

 

 

「あの男は…………?」

「ユートピアドーパントの事か? それならさっき、響君達が倒したよ」

「そう…………。ふふ、せいせいしたわ。私を裏切った報いよ」

「君が彼を止めてくれたおかげだ。ありがとう」

「勘違いしないで。あれは細やかな抵抗よ。私を見くびってもらっては困るから」

 

 

 意識ごと希望を奪われはしたが、フィーネはこれまで数多くの自分の遺伝子を継ぐ者達の意識を乗っ取ってきた存在である。だからこそ、彼女は巨人の精神を乗っ取るまでには至らなくとも、体のコントロールを一時的に奪う事は出来たのだ。

 

 

「それより…………、彼、どうするの?」

 

 

 フィーネの視線が弦十郎から外され、今にも立ち上がろうとする順へ移される。

 

 T3ユートピアメモリは破壊されてしまっているので、もう彼がドーパントに変身する事は出来ないだろう。だが、最後まで油断は出来ない。追い詰められた者ほど、想像もつかない行動に出るものだから。

 

 

(鎧はまだ私と融合している。いざとなったら、これで…………)

 

 

 ユートピアドーパントに奪われたのは希望だけで、ネフシュタンの鎧は奪われていない。彼に貫かれた傷が今では完全に塞がっているのがその証拠だ。

 

 エターナルが彼にトドメを刺そうと、彼の首にエターナルエッジを押し当てる。そのまま彼の喉笛を掻っ切ると、誰もが思ったその時――――――

 

 

「――――――待ってくださいッ!」

 

 

 と、響がエターナルを止めた。

 

 

 

 

 ――――――順の首元にエターナルエッジを押し当てたまま振り返ると、自分に向かって首を振っている響の姿が視界に入った。

 

 

「響、敵味方問わず手を繋ごうとするお前の心意気は立派だ。だが、こいつはやめておけ。こいつは受けた恩を仇で返す男だぞ」

「それでも、話をさせてください」

「…………いいだろう」

 

 

 響の視線に籠められた思いを汲み取り、渋々とエターナルは順を響の前に放り出す。

 

 

「少しでも妙な動きをしてみろ。その瞬間、お前を地獄に叩き落とす」

「えぇ…………わかっていますよ…………。それで、私になんの用ですか?」

 

 

 自分の前に立つ響を見上げる順。いつ彼が逃走や反撃に動いても殺せるようにエターナル達が見張る中、響は口を開く。

 

 

「誰もが争わない世界。辛い事がなにも無い世界。…………本当に、素晴らしい世界だと思います」

 

 

 今もどこかで誰かが辛い目に遭って、生きるのを諦めてしまっているかもしれない。そんな、世界に存在する善悪の比率は、明らかに悪の方が大きいだろう。

 

 だが――――――

 

 

「でも、貴方は間違ってしまった」

 

 

 どんな理由があろうと、人々から希望を奪って管理するやり方は認められない。人が未来を形作る為には、希望が必要不可欠なのだ。

 

 全員が求める未来が同じであり、考えも一緒であるならば、争いが起きないのも当然である。しかし、それではいけない。人はそれぞれの個性を持ち、それぞれの未来を求めるからこそ、良い意味も悪い意味でも人間足り得るのだ。

 

 

「間違いですか。えぇ、貴方方にしてみれば、まさしくその通りなのでしょう。こんなやり方、貴方方が認めるはずが無い」

「でも、やり方を変えればきっと、人と人は繋がり合えると思うんです」

「…………なんですって?」

「喧嘩もすれば争いもする。貴方の求めた理想郷みたいに、統率された世界ではありませんが、そんな世界でも、人は繋がる事が出来ます。今度は、やり方を変えてみましょうよ。そうすれば、きっと――――――」

「フッ…………馬鹿馬鹿しい」

 

 

 響の言葉を、順は鼻で笑って一蹴した。

 

 

「実に愚かな考えです。貴方方がどう足掻こうと、争いは絶えません。訪れるとすれば、ほんの些細な平穏だけ。貴方方が幸せでも、どこかの誰かは苦しみ続ける。貴方方が作れるのは、そんな世界ですよ」

 

 

 『なにも変わらない』。そう断言した順は、遥か彼方の(そら)に位置する、一部分が欠けた月を見上げる。

 

 

「だからこそ…………私はッ!」

 

 

 順が地面に手を当てた瞬間、そこを中心に発生した衝撃波が周りにいた響達を吹き飛ばした。

 

 

「さぁ、落ちてきなさい…………ッ! 愚かな考えを持つ者を、叩き潰すのです…………ッ!」

 

 

 掲げられた手から月の破片へと光が放たれた瞬間、月の破片がゆっくりと大きくなっていく。否、目に見える速度で近付いてきているのだ。その光景に、クリスが目を見開く。

 

 

「なんてデタラメだ…………ッ! 月を引っ張りやがったのかッ!?」

「なんて事を…………ッ!」

「フフフフフ…………、この体に残された巨人形態のエネルギーを使いました。あの速度なら、数十分でここに墜ちてくるでしょうね…………」

 

 

 そう言う順の体は。徐々に塵に変わっていっていた。彼は残された力を解放すると同時に、自らの命を燃やし尽くしたのだ。

 

 

「見物ですね…………。あの脅威に、貴方方がどう対処するのか…………。私は一足先に、地獄で待ってますよ…………フフフ…………ハハハハハハハ…………ッ!」

 

 

 順が高笑いした次の瞬間、その全身は塵となって消滅してしまった。

 

 

「あ…………」

 

 

 先程まで目の前にいた男が塵となって消えた事に思わず響が声を漏らし、塵を掴もうと手を伸ばすが、ヒートドーパントがその手をそっと下ろさせた。

 

 

「これが、あの男の末路。貴女が気にする事じゃないわ。それより、今はあれをどうするかよ」

「…………はい」

 

 

 月の破片を見上げる響の耳に、弦十郎が藤尭に月の破片の軌道の計算を命じる声が聞こえた。

 

 

「…………軌道計算、出ました。直撃は…………避けられません」

 

 

 ものの数分で月の軌道計算を完了した藤尭の言葉に、全員の目に再び絶望が宿る。

 

 

「あんなものがここに落ちたら…………」

「私達、もう…………」

「…………大丈夫」

 

 

 不安げに月の破片を見上げる友達に、落ちてくる月の破片に対する恐怖を抱く事無く、響は歩を進める。

 

 

「私がなんとかする」

「そこは『私』ではなく、『私達』だろ? 立花」

「あたし達を忘れてもらっちゃ困るぜ、響」

 

 

 響の左右に翼とクリスが並び立つ。二人の言葉に一瞬呆けていた響だが、やがてその口元に笑みを浮かべ、自分を心配そうに見つめる未来に振り返る。

 

 

「ちょ~っと行ってくるから。生きるのを、諦めないでッ!」

「響…………」

「待て」

 

 

 今にも飛び立とうとした響達を、弦十郎に肩を貸してもらっているフィーネが呼び止める。

 

 

「お前達は、なぜそこまでして、ここにいる者達を護ろうとする。その力さえあれば、お前達だけでも逃げられるかもしれないのに」

「お前は馬鹿か、フィーネ。あいつらがいるからこそ、あたし達はあれに立ち向かうんだよ」

「どういう事だ?」

 

 

 首を傾げるフィーネに、翼が答える。

 

 

「護るべき者達を見捨て、自分達だけ助かろうなど笑止千万。どんな脅威が相手だろうと、弱きを救うのが防人の務めというもの」

「みんなの歌に助けられたからこそ、私達はあの巨人に勝てたんです。だから、今度は私達がみんなを助ける番ですッ!」

 

 

 ここにいる者達を見捨てる気など毛頭無い彼女達の言葉にしばし唖然とし、フィーネはフッと諦めたように笑顔になる。

 

 

「敵わないわね、貴女達には…………。…………行ってきなさい、装者達」

 

 

 そこで一旦言葉を区切り、フィーネは彼女達に言う。

 

 

 

「――――――胸の歌を、信じなさい」

 

 

 

 それは、絶望的な状況でも諦めず、他者を救おうとする彼女達への、彼女なりの激励。それに三人は頷き、月の破片を見据える。

 

 

「…………行こう、二人共ッ!」

「あぁッ!」

「おうッ!」

 

 

 翼を広げ、三人は飛び立つ。小さくなっていく彼女達の姿を見送るフィーネは、自分達同様響達を見送っているエターナル達を見る。

 

 

「いいの? 彼女達だけ行かせて」

「あれは彼女達がすべき事だ。そこに首を突っ込むのは野暮ってものだろ?」

 

 

 この場にいる誰よりも、人々の希望を体現したのが彼女達だ。故に、彼女達こそが、あの絶望を打ち砕く事が出来る。

 

 ロストドライバーからT2エターナルメモリを抜いて変身を解いた克己は、同じく変身を解いた部下達と一緒に響達を見上げ続けた。

 

 

 

 

「――――――こんな大舞台で歌う事になるとはな。立花には驚かされっぱなしだ」

 

 

 大気圏を突破し、眼前に迫る月の破片を見据える翼が言う。

 

 

「まぁ、一生分の歌を歌うには、丁度いいんじゃねぇのか?」

「違うよ、クリスちゃん」

「あん?」

 

 

 首を傾げるクリスに、響は笑う。

 

 

「ここで終わりなんかじゃない。私達には、まだやる事があるでしょ?」

「…………あぁ、その通りだ」

 

 

 みんな、自分達に託してくれた。それなのに、自分達が死んでどうする。

 

 命は懸ける。だが、死にはしない。

 

 月の破片を砕き、帰る。生きて、帰るのだ。

 

 

 

「――――――不思議だね…………静かな(そら)

 

 

 

 翼を広げ、響が歌う。

 

 

 

「――――――本当の…………剣になれた?」

 

 

 

 翼が、響に手を伸ばす。

 

 

 

「――――――悪くない…………時を貰った」

 

 

 

 クリスが、翼と手を繋いだ響の手を握る。

 

 

『気持ちいいな。こうして、三人で一緒に歌うのは』

『当然だろ? 歌ってのは、みんなを笑顔にする為にあるもんだからな』

『わぉ、クリスちゃんがそんな事言うなんて、少し驚きだよ』

『な、なんだよ。悪いか?』

『いや、悪くない。むしろ、良すぎるくらいだ』

 

 

 三人は、自分達を繋ぐ手を放さないとばかりに強く握り締める。

 

 

『…………いこう。私達の歌で、みんなを護るんだッ!』

『あぁッ!』

『おうッ!』

 

 

 ブースターを点火し、加速する。

 

 

「――――――開放、全快ッ!! いっちゃえ、ハートの全部でえええええええッ!!!」

 

 

 一筋の流星となって、三人は月の破片に向かって飛ぶ。

 

 

『みんながみんなの夢を叶えられないのは、わかっている。だけど、夢を叶える為の未来は、みんなに等しくなきゃいけないんだッ!』

 

 

 希望に満ちた人生を歩む者がいれば、絶望に満ちた人生を歩む者もいる。後者は、生きる事すら億劫になってしまうだろう。だが、それでも、彼らにも夢を叶える機会は用意されていなければならないのだ。

 

 

『命は、尽きて終わりじゃない。尽きた命が遺したものを受け取り、次代に託していく事こそが、人の営み。だからこそ、剣が護る意味があるッ!』

 

 

 かつての相棒、天羽奏が使用していたガングニールは響に受け継がれ、奏が生前抱いていた気持ちも、彼女に受け継がれた。

 

 先達の意志を受け継いだ者が、次の世代にそれを託していく。そういった連鎖こそが、人類が歴史を紡いできた所以なのだ。

 

 

『たとえ声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさないッ! 夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れッ!』

 

 

 言語の壁が人類を隔てても、心のままに接すれば、相手はきっと答えてくれる。

 

 いつか、人が身分、言語の枷に囚われる事無く、繋ぎ繋がれる世界を創る為に、彼女達は歌う。

 

 

 

「――――――これが私達の、絶唱だあああああああッ!!!」

 

 

 邪悪を絶つ巨大な剣が煌めく。

 

 怨恨を殲滅する大型ミサイルが放たれる。

 

 人を繋ぐ拳が振るわれる。

 

 ――――――そして、月の破片は、希望を乗せた三人の絶技の前に、粉々に砕け散った。

 

 

 

 

「――――――あ、あぁ…………ッ!」

 

 

 空を覆い尽くす、蒼い光。それを見上げ、未来は口元に手を当てる。

 

 砕かれた破片か、それとも、それを砕いた者達の命の残滓か。そこを中心に流れ星が空を駆けていく光景に、その場の誰もが見惚れている中、未来は走り出す。

 

 

(響…………ッ! 翼さん…………ッ! クリス…………ッ!)

 

 

 嘘だ。彼女達は死んでなんかいない。あそこで命を落とすのは、絶対に許さない。

 

 彼女達の命で保たれた平穏なんて、自分はいらない。

 

 背後から自分を呼び止める誰かの声すら無視し、未来は瓦礫が転がっている大地に立つ。

 

 

「響いいいいいいいいいいいいッ!!!」

 

 

 哀しみと怒りを乗せて、未来は誰よりも大切な少女の名を、あらん限りに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ぷはぁッ!! 死ぬかと思ったッ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐ近くの瓦礫を吹っ飛ばして、ギアが解除された三人が現れた。

 

 それも、なぜか三人仲良くアフロになって。

 

 

「ひ、響ッ!」

 

 

 まさかここにいるとは思わなかったのか、彼女達が本物なのか確かめる為に駆け寄った未来に、アフロを脱ぎ捨てた響が頭を掻く。

 

 

「いやぁ、凄い凄い。破壊した衝撃でここまでぶっ飛ばされるとは思わなかったよ」

「間一髪でブースターでブレーキをかけられてよかった」

「こいつはなんでか知らねぇけどここにあったから、ちょっとふざけようかと思ってな」

 

 

 投げ捨てられたアフロを見て、してやったりとクリスがニヤニヤする。

 

 

「…………本当に、本当に、本物なんだよね?」

「そうだよ。幽霊なんかじゃない。本物の私達だよ」

 

 

 両目に涙を溜める未来の頭を安心させるように撫でる響に、遂に耐え切れなくなった未来が抱き着いた。

 

 

「よかった…………ッ! 本当によかった…………ッ!」

「…………私も、未来が無事で本当によかった」

「うん、うん…………ッ!」

 

 

 響に抱かれながら号泣する未来から視線を外し、翼とクリスが笑顔で頷き合っていると、弦十郎を始めとした面々が彼女達の元へ駆けつけてくる。

 

 誰もが笑い合う中、その場にいる全員が実感する。

 

 

 ――――――戦いは、終わったのだと。

 

 

 

 

 ――――――それから数日間は怒涛の如く過ぎ去っていった。

 

 ノイズによって破壊された《私立リディアン音楽院》の修復を始め、様々な出来事があったが、響達にとって最も嬉しい出来事がある。

 

 それは、櫻井了子――――――フィーネの加入である。

 

 経緯は、彼女自らが二課に所属する事を志願した事から始まった。

 

 これまで数多くの事件を引き起こしてきた彼女に対して、誰もが必ず思うところはあり、彼女自身も断られるのを承知で志願したのだが、ここはあの風鳴弦十郎がリーダーを務める特異災害対策機動部二課。最後には誰もが快く彼女を受け入れたのだ。

 

 彼女と一緒に二課に所属する事が決まったクリスも、遂にプライバシーが保障されたりまともな生活が送れるようになる事に涙ぐんでいたが、響達が自分の部屋の合鍵を持っていた事に怒っていたが、フィーネと同じ環境で働ける事を嬉しがっていたので、その怒りはすぐに収まった。

 

 そして現在、弦十郎を代表に、二課の職員達は翼の復帰ステージに来ていた。

 

 

「凄いわね…………」

 

 

 大勢の観客を相手に歌う翼の姿をステージ裏で見つめ、金髪を下ろした白衣姿のフィーネは感嘆の一言を漏らす。

 

 

「以前の君は、『痛みこそが人を繋ぐ』と語っていたそうだが、それは間違いだ、了子君。歌が人を繋ぐんだ。あそこにいる観客達のようにな」

 

 

 最前列では響と未来がペンライトを手に発狂している。会場は二年前に多くの命が散った惨劇の舞台となった場所だが、翼に歓声を上げる誰もがみんな、昏い感情を見せていない。それどころか、どこを見ても笑顔で満ち溢れている。もちろん、翼もだ。

 

 

「私の考えは、どこまでも間違っていたのね…………」

「いや、君が『創造主に会いたい』という気持ちは間違ってなどいない。君が間違えたのは、やり方だ」

 

 

 誰かに会いたいという気持ちの為だと言っても、多くの犠牲を重ねるのは罪だ。

 

 

「…………同じ事を、あの子達にも言われたわ。そうね、やり方がいけなかったのね、私は」

 

 

 噛み締めるように呟き、フィーネは弦十郎を見て話題を変える。

 

 

「それはそうと、貴方ってば本当に不可解だわ。自分を殺そうとした相手を仲間に引き入れるなんて。本当に…………おかしな男」

「そうか? 俺としては、単純な男のつもりだがね」

「単純にして不可解、それ以上に難しいものは無いものよ。でも、そんな貴方だからこそ、誰もが惹かれる」

 

 

 あらゆる時代、あらゆる国で命を奪ってきた殺戮者すらも仲間に引き入れるこの男の在り方が、フィーネには理解出来ず、同時に愛おしい。

 

 

「貴方には感謝してるわ。私が知らない事を教えてくれたもの。これで、次の計画を練れるわ」

「な…………ッ! まさか…………ッ!?」

 

 

 目を見開く弦十郎に、フィーネが言う。

 

 

「私がいつ、『あの御方との再会を諦める』と言ったのかしら? それに、私の数千年の想いに、貴方の数年の想いが勝るわけないでしょ? ほんの少しだけ、貴方達の寿命が延びただけ」

 

 

 でも、とフィーネは続ける。

 

 

「しばらくは安心していいわ。あの子達には、私を助けてくれた借りがあるからね。受けた恩を仇で返す程、私は非常識じゃないから」

「本当に懲りないな、お前は…………」

「あの子達から、諦めない事の大切さを教えてもらったからね。それと、諦めが悪いのは貴方も同じでしょ?」

「それとこれとは話が別じゃないか?」

 

 

 そこで、弦十郎は肩に重いものが乗っかる感覚を覚え、そちらへ顔を向ける。

 

 そこには、自分の肩に頭を乗せる、フィーネの姿があった。

 

 

「まぁ、精々私の事をしっかり見張ってる事ね。他の奴に目を向けた瞬間、その命を刈り取ってあげる」

「…………そうだな。しっかりと、見張っている事にするよ」

 

 

 そうして二人は、人々に笑顔を与える翼の歌を、じっと聴き続けるのだった。

 

 

 

 

 ――――――最後の曲が終わり、会場に拍手の音が鳴り響く。

 

 

「ありがとう、みんなッ! 今日は思いっきり歌を歌って、気持ちよかったッ!」

 

 

 マイクを手に感謝の気持ちを伝える翼の声を、観客は黙って聞いている。

 

 

「…………こんな気持ちは久しぶり。忘れていた。でも、思い出した。私は、こんなにも歌が好きだったんだッ!」

 

 

 奏を失い、歌の本当の意味を忘れてしまっていた。ただ、人類の天敵であるノイズを屠る為の手段としか考えていなかった。

 

 しかしその考えは、克己を始めとした者達と過ごしているうちに消えていき、今ではハッキリと思い出せる。

 

 

「私は…………私の歌を聴いてくれるみんなの前で歌うのが、大好きなんだッ!」

 

 

 自分のありのままの気持ちを、翼はハッキリと言葉に変えて、自分を支えてくれる人々に伝えた。

 

 

「もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかって、オファーが来ている。自分がなんの為に歌うのかずっと迷ってたんだけど、今の私は、もっとたくさんの人に、歌を聴いてもらいたいと思っている」

 

 

 太古の昔、一柱の神によって統一言語は砕かれた。統一言語を失った人々は、互いを殺す兵器を造り出し、殺し殺されの歴史を紡いできた。そしてそれは、形を変え、今でも世界各地に存在している。

 

 でも、人々はきっと、繋がれるはずだ。統一言語が無くとも、想いさえあれば、必ず。

 

 

「言葉は通じなくとも、歌で伝えられる事があるならば、世界中の人達に、私の歌を聴いてもらいたいッ! 私の歌も、誰かの助けになると信じて。皆に歌い続けてきた。だけどこれからは、みんなの中に、自分も加えて歌っていきたいッ! だって私は、こんなにも歌が好きなのだからッ! たった一つの我が儘だから、聞いてほしい。許してほしい…………」

 

 

 自分でも、身勝手な願いなのはわかっている。翼が観客達に頭を下げた瞬間――――――

 

 

 

『――――――許すさ。当たり前だろ?』

 

 

 どこからか、亡き相棒の声が聞こえた後、翼の耳に次々と観客達の声が届く。

 

 それは、激励。遂に海外に進出する翼に対する、応援の声だ。

 

 

「…………ありがとうッ!」

 

 

 彼らに支えられている事に感激し、翼は涙を流し、再び頭を下げた。

 

 

 

 

 ――――――ライブが終わり、ステージ裏でスタッフ達から労いの言葉を受け取っている翼を遠目に、克己達は踵を返す。

 

 

「どこに行くつもりだ、君達」

 

 

 フィーネを連れた弦十郎に呼び止められ、克己達は振り返る。

 

 

「俺達がやるべき事はここまでだ。倒すべき敵は倒した。報酬金も受け取った。俺達は次の仕事を探す」

「みんなが幸せな世界に、傭兵(ワタシたち)の居場所は無いわ。ワタシ達が真に輝くのは、銃弾飛び交う戦場だけよ」

 

 

 平和な世界に傭兵は必要ない。不死身の体を活かし、戦地で戦う事で報酬を受け取って生活するのが、NEVERである彼らなのだ。

 

 

「今まで世話になった、弦十郎。機会があれば、また会おう。…………敵としては会いたくないがな」

「待ってくれ」

 

 

 歩を進めようとした彼らを、再び止める。

 

 

「君達が傭兵で在り続けようとするならば、二課(おれたち)が雇おうじゃないか」

「なに?」

「所有者の意志でノイズを召喚する事が可能なソロモンの杖は我々の手元にあるが、それでもノイズは出現する時はする。その規模を、我々が予測する事は出来ない。響君達では対処出来ない数のノイズが現れるかもしれない。だが、君達がいてくれたら心強い」

 

 

 そう言って、弦十郎は克己に手を差し出す。

 

 

「君達の判断に委ねるが、良かったら、君達に我々二課の職員になってほしい。我々には、君達の力が必要だ」

 

 

 差し出された手を見つめた後、克己は仲間達を見る。仲間達は諦めたように笑っており、それを了承と捉えた克己は、フッと笑って弦十郎の手を握る。

 

 

「いいだろう。お前の下で働いてやる」

「随分と上から目線だな。…………二課へようこそ、みんな」

「改めてよろしくね、弦十郎ちゃんッ!」

「よろしくお願いするわ」

「よろしく、ボス」

「よろしくな、ボスッ!」

 

 

 こうして、克己達NEVERは正式に二課の職員として雇用される事となり、そのリーダーである弦十郎と一緒に笑顔になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――路地裏に、一つの影が落ちる。

 

 そこに立っているのは黒いライダースジャケットに白いシャツ、そして黒いパンツを穿いた、黒髪の青年。彼は右耳のインカムに手を当て、無機質な声で通信相手を呼び出す。

 

 

「ガイアメモリ、回収完了。これより帰投する」

『よくやりました。帰りのヘリを手配します。それで帰って来てください』

「了解」

 

 

 通信を切り、男は歩き出す。

 

 懐に、克己達が見つけられなかった最後のT2ガイアメモリ――――――T2ゾーンメモリを入れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――死神に鎮魂歌を・第一章『呪縛解放砲塔カ・ディンギル ―――永遠の刹那を生きる巫女―――』完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――次章『神威表明星艦フロンティア ―――彼方へ翔ける神船―――』

 





 無印編完結ッ! 次回のしないフォギアを投稿した後は、G編開始でありますッ!

 新ライダー、オリジナルガイアメモリも登場しますので、よろしくお願いしますッ!
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