死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 今回はケアンの過去がメインですので、いつもと比べて文字数が少ないです。具体的に言うなら二千文字少ないです。それではどうぞッ!



『進化』の過去

 

 三ヶ月前、まだ改心していなかったフィーネが月破壊を目論んで建造するも、翼の決死の行動によって破壊された塔、《カ・ディンギル》。現在は日本政府によって立入禁止区域に指定されているその場所に、切歌と調は立っていた。

 

 なぜ彼女達がここにいるのかというと、《私立リディアン音楽院》から脱出した二人にナスターシャが伝えた合流地点がこの場所だったからである。

 

 しばらくしない内に光学迷彩を一瞬だけ解いた飛行機が現れ、機内に乗り込んだ二人をナスターシャ達が迎える。

 

 

「二人共、ご無事で何よりです」

「お帰りなさい」

「マリア、ケアン、大丈夫だった?」

「…………えぇ。だけど、私は出ていないわ。ケアンが迎撃してくれたの」

「そうデスか。こいつにお礼を言うのは少し癪デスが…………感謝しとくデス」

「当然の事をしたまでだ。礼は必要ない」

 

 

 少しも照れた様子など見せず、相も変わらず無感情な表情で答えるケアンを見たナスターシャは、「皆さん」と口を開く。

 

 

「今まで秘密にしていた事ですが、話したい事があります。ケアンについての事です」

 

 

 現在、ナスターシャ達の乗っている飛行機はとある聖遺物(・ ・ ・ ・ ・ ・)の力によって完全に隠蔽されている。たとえ、あのフィーネが所属している二課であろうと、自分達の居場所を特定するのは不可能。それは、この場にいる全員が確信している。

 

 ならば、全員が揃っているこの間に、ケアンについて話そうと考えたのだ。

 

 

「…………そういえば、私達…………」

「ケアンについてほとんど知らないデス」

「貴女達三人とケアンは、私が貴方達を連れてF.I.Sから出奔した時が初対面でしたからね。彼の事を知らないのも当然でしょう」

「それを言ったら私だってそうですが?」

「貴方の事は前々から軽く話していましたから、『なにも知らない』には含まれませんよ。それに対し、ケアンの存在はF.I.S内でも機密事項として扱われていました」

「機密事項? なんで、ただの人間がそんな扱いを…………」

 

 

 他国に公表する事の無い聖遺物の情報や、ケアンが人知を超えた力を持っているのであれば理解できるが、なぜ一個人の存在自体を秘密にしているのか。その理由は、これからナスターシャによって語られる。

 

 

「お話ししましょう。ケアン・ディークスの過去を」

 

 

 そうして語られるのは、ケアンを除いた全員を驚愕させるに充分な内容だった。

 

 

 

 

 ――――――ケアン・ディークス。かつてF.I.Sにロボット工学を専門に研究員の一人として所属していた彼を表す言葉は、『文武両道』であった。

 

 24歳という若さで、F.I.Sの中でもトップクラスの知能を持つ祖父ヴィクター・ディークスの助手として類稀なる才能を発揮する他、銃器の扱いにも精通していた。彼の両親は元SWAT隊員であり、ケアンが産まれてから間もなく不幸な事故によって死亡しているが、その才能はケアンにしっかりと受け継がれていたのだ。その戦闘力は生前の両親にも、現役のSWATの精鋭達相手にも多少は劣ってはいるが、研究員という役職には似合わない程の実力を持っているとされていた。

 

 知識は祖父から。身体能力は両親から受け継いだケアンは、自らの才能に驕る事無く、分け隔てなく仲間達に接しており、その性格は『明るい』の一言に尽きた。

 

 物心つく前に両親を喪いはしたが、彼らが与えられなかった愛情はヴィクターによって与えられ、唯一の肉親である祖父に愛情を持って接していたケアンだったが、平和な時間は長続きしなかった。

 

 ある日、ケアンは散歩中にトラックに撥ねられそうになっている子どもを庇い、命を落としたのだ。

 

 息子夫婦にも最愛の孫にも先立たれたヴィクターは、深い哀しみを抱えながらも米国、ひいては米国民の為に聖遺物を用いた研究に没頭した。

 

 だが、年老いて成熟しきっているとはいえ、その精神は哀しみに耐え切れず、彼は次第に過去の幻影に取り憑かれていった。

 

 それきり、ヴィクターは滅多に自分の研究室から出る事は無くなり、唯一彼とまともに会話できたのは、別の分野の科学者でありながらも彼の愛弟子であったナスターシャのみとなっていた。

 

 そんなある日、F.I.Sに転機が訪れる。

 

 

 『終焉』の名を持つ女、フィーネが現れたのである。

 

 

 失われた統一言語の奪還を目的とするフィーネは、とある二つの聖遺物をF.I.Sに提供した。

 

 一つは『神獣鏡(シェンショウジン)』と呼ばれる、鏡に起因する幾つかの特性を備えた、現在は『フィーネ』の有する飛行機の機能として組み込まれている聖遺物の欠片。そしてもう一つが、成長する完全聖遺物『ネフィリム』である。

 

 そしてヴィクターは、ネフィリムの存在に目を付けた。

 

 今はまだ覚醒していないが、フィーネは近い将来必ずネフィリムを目覚めさせる。そしてネフィリムは聖遺物と生物の混合物のような存在。その力を手中に収めるのはフィーネとF.I.S共通の目的であるが、同時に問題もあった。

 

 如何に強力な力を宿していたとしても、その力を制御し切れるかどうかという問題だ。もしそれが出来なかった場合、最悪自分達が喰われかねない。

 

 そこで声を上げたのが、ヴィクターだった。

 

 F.I.Sのロボット工学の権威の提案は、『ネフィリムの細胞組織とロボットの電子回路を同一化させ、ロボットを媒介に命令を送る形でネフィリムを制御する』というものだった。

 

 古代の科学技術によって誕生した完全聖遺物と、現代の科学技術の結晶であるロボットの融合。前代未聞のこの提案に反対する声も多かったが、過去のネフィリムの詳細を記憶しているフィーネがその提案を受け入れ、早速ヴィクターはネフィリムを制御しうるロボット開発に着手した。

 

 もちろん、それは失敗の連続だったが、それでも諦めきれないヴィクターは、五回目の開発の末、遂に完成させたのだ。

 

 

 そうして生まれたのが、今マリア達の前に立つケアン――――――否、『ケアン・ディークス』の外見と名前を得た、一体のアンドロイド(・ ・ ・ ・ ・ ・)である。

 

 

 しかし、完成までこぎ着けたとはいっても、それはあくまで外見だけの話。内部は完全に生前の彼のものではなく、なにも知らない、真っ白なものだった。

 

 当然、ヴィクターは生前のケアンの性格すらも彼に身に着けようとしたが、F.I.Sはそれを許さなかった。

 

 彼らが欲するのは、ネフィリムを完全に制御しうる存在。ネフィリムと同一化させる以上、『性格』などというものは邪魔にしかならないのだ。

 

 『違う形であれ、最愛の孫を蘇らせる』という欲望に取り憑かれていたヴィクターがそれに気づいた頃には、既になにもかもが手遅れであり、ケアン・ディークスの名を冠した機体はネフィリムとの同一化の為に彼の手から離れてしまう事になっていた。

 

 形は違えど、ようやく取り戻した孫を再び奪われる事となったヴィクターは、精神的なショックと度重なる開発による疲労が原因で倒れた。

 

 老いたヴィクターの体にこの二つの障害を乗り越える力はとうに無く、己の寿命も後僅かと悟った頃、ヴィクターは愛弟子ナスターシャにある頼み事をする。

 

 

『ケアンを、幸せにしてほしい。たとえ機械でも、あれはわしの孫なんじゃ…………。ただ、人間らしく生きてほしい』

 

 

 それは、F.I.Sの研究者ヴィクター・ディークスの言葉ではない、一人の人間の祖父ヴィクター・ディークスの願い。過去の哀しみに敗北しながらも、大切な孫を取り戻そうと、その命を燃やした男の悲願。

 

 

『ケアンよ…………どうか――――――』

 

 

 幸せに。

 

 ただ、孫の幸せだけを祈って、ヴィクターはこの世を去った。

 

 ナスターシャを始めとした彼の弟子達は、恩師であるヴィクターの願いを叶える為に奔走したが、たった数十人の力で物事を解決できるほど現実は甘くなく、ケアンとネフィリムの同一化の決定は覆る事は無かった。

 

 そして、それから二年が経ち、調整に調整を重ねたネフィリムとケアンの同一化実験が行われた。

 

 歌に頼らずに完全聖遺物ネフィリムを起動させ、ケアンを使ってその力を完璧に制御する事で成功とされていたその実験結果はしかし、予想だにしない出来事によって大きく変化した。

 

 

 正規のものではない手段で起動させたために起こった、ネフィリムの暴走である。

 

 

 起動したネフィリムは本来の色とはかけ離れた白い体色となって施設を蹂躙せんとしたが、その怪物は、一人の少女によって鎮められる事となる。

 

 

 その少女こそ、他ならぬマリアの妹――――――セレナ・カデンツァヴナ・イヴである。

 

 

 彼女の文字通り命を懸けた行動の末、アルビノ・ネフィリムは基底状態に封じられ、同時にアルビノ・ネフィリムと同一化されていたケアンも電子回路に謎の異常が生じ、その機能を停止した。

 

 実験は失敗。歌以外による起動は危険と判断され、機械を媒体にしたネフィリム起動計画は凍結。電子回路に謎の異常が生じて機能が停止したケアンも、それから現在まで、いつ必要になっても稼働可能であるようにメンテナンスこそ行われはしていたものの、その機能を活用する機会には恵まれなかった。

 

 そして、ナスターシャがマリア達を連れてF.I.Sから出奔しようと決意した時、ナスターシャは施設の奥深くで眠り続けるケアンの元を訪ね、いつ来るかもわからない再稼働の日を待ちわびていたケアンを再稼働(目覚め)させた。

 

 それからはマリア達も知っている通り、ケアンは出奔したナスターシャ達に差し向けられたF.I.Sの刺客を皆殺しにし、『フィーネ』の所有する兵器(どうぐ)として活動する事になったのだ。

 

 

 

 

 ――――――ナスターシャからケアンの過去を語られたメンバー達は、今目の前に立つ存在が本物のケアン・ディークスではなく、その名前と外見を得た偽物であるという驚愕と、これまでなぜ彼から人間性を感じ取れなかったのかが理解できたという感情がごちゃ混ぜになってしまい、口を開けなくなっていた。

 

 

「本来ならもっと早く語るべきものだったのでしょう。それがこんなにも遅くなってしまい、申し訳ありません」

「いいのよ…………マム。こっちこそ、辛い事を思い出させてごめんなさい」

「…………以前、貴女のその優しさを責めましたが、今だけは感謝しましょう。ありがとうございます、マリア」

「…………ケアン」

 

 

 声をかけられて視線を向けてくるケアンに、マリアは静かに問いかける。

 

 

「貴方は、お祖父様の事をどう思ってるの?」

「『祖父』という概念は知識として保有しているが、マムの言う通り、私はケアン・ディークスの名と形を借りているに過ぎないアンドロイド。私という存在を造った事には感謝しているが、それ以上の感想は無い」

「そう…………」

 

 

 ケアンの答えにマリアが目を伏せると、聞き捨てならないセリフが聞こえてくる。

 

 

「まったく、実にくだらない」

 

 

 その場にいる全員の視線が、その言葉を発した張本人――――――ウェルに向けられる。

 

 

「…………もう一度言ってくれるかしら? 今、貴方はなんて言ったの?」

「『くだらない』と言ったんですよ。いいですか? ここにいるケアンはアンドロイドであって、『本物』ではないんですよ? それなのに、彼が本物であるかのように扱うとは」

「なんですって…………ッ!」

「ここにいるケアン・ディークスと、教授が話したケアン・ディークスは完全な別人です。設計の基になった存在の話をしても、意味は無いと思いますがね」

「…………ッ!」

 

 

 思わずウェルに掴みかかろうと手を伸ばすが、それはケアンに手を掴まれて阻止される。

 

 

「ウェルの言う通りだ。私は、この機体の基礎となった男とは違う。彼の言葉に間違いはない」

「それくらい…………考えなくたってわかるわよ。でもね、私は是が非でも家族を取り戻そうとしたヴィクターさんの努力の結晶を、『くだらない』と吐き捨てたこいつが許せないのよッ!」

 

 

 マリアがペンダントを握り締めようとし、ケアンも致し方無しと懐に手を忍ばせるが――――――

 

 

「やめなさいッ!」

 

 

 ナスターシャの怒号によって、マリアは聖詠を口ずさもうとした口を、ケアンはラックドライバーを取り出しかけた手を止める。

 

 

「マリア、貴女の気持ちもわかります。ですが、仲間割れ程醜いものはありません。わかったなら今すぐやめなさい」

 

 

 ナスターシャの言う事にも一理あるので、マリアは大人しくシンフォギアを纏おうとするのをやめ、ケアンは微かに見えていたラックドライバーをしまう。

 

 

「…………で、これからどうするんですか?」

「一度ここから離れます。向こうに我々の居場所がバレていない今なら安全に行動できるはずです」

「待つデスよ、マムッ!」

 

 

 今まで黙っていた切歌が声を上げ、ナスターシャの視線が彼女に向く。

 

 

「あたし達、後少しというところでペンダントを取り逃してるデスよッ! このまま引き下がれないデスッ!」

「駄目です」

「えぇッ!?」

「そんな、どうして…………」

 

 

 キッパリと拒否したナスターシャに首を傾げる切歌と調。

 

 

「この戦いは遊びではありません。貴女達は、あのような大会で本当にギアを奪えるとでも思っていたんですか?」

「う…………」

 

 

 そう言われた二人は、もし自分達が勝利したとしても、あの少女が本当にシンフォギアを渡してくれるわけが無いと、当たり前の事に気付かされる。

 

 黙り込む二人だったが、意外な事にウェルが二人に助け舟を出してきた。

 

 

「まぁまぁ、まだ危険な状況ではないですし、ここは敢えて彼らと戦うのも一つの手ではないかと思いませんか? 計画の障害は早めに取り除いておくべきだと、僕は考えますけどね」

「しかし…………」

「貴方もそう思いますよね? ケアン」

 

 

 ウェルの問いに、「当然だ」とケアンが頷く。

 

 

「計画の妨げになる存在は、必ず殲滅する。それが、今の『私』のすべき事だ」

 

 

 そこにあるのは慈愛も容赦もなく敵対者を排除せんとする、まさしく『機械』と表現するに値する存在。開発者の老人の願いとは真逆の世界に生きる彼を見て、マリアは思わず目を伏せてしまうのだった。

 





ウェル「ウェルと」
ケアン「ケアンの」
ウェル&ケアン「聖遺物解説コーナーッ!」
ウェル「まったく、なんで私達がこんなコーナーを担当する事になったんですかねぇ? どうせなら聖遺物と関わりのある連中にやらせた方が…………」
ケアン「私はネフィリムの同一化を目的に造られたが?」
ウェル「あぁ、そういえばそうでしたね。…………仕方ありませんね。面倒ですが、今回の聖遺物はこちらです」


《神獣鏡》


ケアン「神獣鏡とは古鏡の銅鏡の区分の一つで、神仙界の理想郷を図文化した鏡である。『理想郷』といっても無印編の彼とは特に関係ないぞ。中国では後漢の中頃から三国時代を経て、六朝時代に及ぶ時期に作製されたと考えられている」
ウェル「我々はこの聖遺物をシンフォギアの技術派生として機械的に加工し、現代科学では決して見つかる事の無い超光学ステルス機能を発揮していますが、その真価はシンフォギアとして使用されてこそ発揮されるのですッ! まぁ、現在は装者がいないのでシンフォギアとして使えはしませんがね。どこかにいたりしませんかねぇ? 神獣鏡のギアを纏える少女は」
ケアン「それは自分で見つける事だな、ウェル。それではお前達、次回もよろしく頼む。…………これがG編最後の解説コーナーか。随分と早い段階で終わってしまったな」
ウェル「まったくですね」


 『進化』、『ロボット』。勘の鋭い人は今回の内容でケアンがなにをモチーフにしているかわかると思います。わからない人にヒントを与えるとするなら、主人公が仮面『ライダー』なのにバイクに乗ってない作品に登場する怪人の内の一人です。彼の最期は本当に泣けるシーンでした…………。

 それと、まだ完全に決めたわけではありませんが、実はG編が終了したら、二人で一人の仮面ライダーとのオリジナルストーリーを執筆しようかと考えているんですよね。でも、その後の展開を考えたらGX編が終わってからの方がいいのではないかという気持ちもあるので、結構迷ってるんですよね~。まぁ、どちらのストーリーの後にオリジナルストーリーが始まるのかは、G編終了後に明らかになりますので、楽しみにしておいてくださいッ!
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