「ノイズの発生パターンを検知ッ!」
ノイズの出現を告げるサイレンと報告に、仮説本部司令室の空気が一気に張り詰める。
「出現地点は?」
「位置特定…………ここは…………ッ!?」
藤尭が驚愕の声を上げ、その場所の名を叫ぶ。
「東京番外地、特別指定封鎖区域ですッ!」
「カ・ディンギル
かつて響や克己達がフィーネとユートピアドーパントと死闘を繰り広げた場所の名にノイズが現れた事に、その場にいた誰もが嫌な予感を抱いた。
――――――弦十郎から連絡を受けて克己や響達がカ・ディンギル址地に急行すると、彼らが来るのを待っていたかのように多数のノイズが襲ってくるが、克己はエターナルに、彼の部下達はドーパントに変身し、装者達はシンフォギアを身に纏ってノイズを蹴散らしていく。
だが、それだけで終わるはずも無く、ある程度進んでいくと、ケアンと多数のノイズを従えたウェルと遭遇した。
「ケアンの相手は俺達に任せて、お前達はウェルの確保を」
「了解です。気を付けてください」
ケアンの変身するイクシードは絶えず進化を続け、その戦闘力を増していく怪物だ。彼を相手にするのなら、一人で挑むより五人で挑む方が得策だと考えられる。対してウェルが従えているのはノイズのみ。シンフォギア装者の天敵ネフィリムの姿は確認できないが、今回は連れてきていないのだろうか。
「ケアン、私の事は気にせずに暴れなさい。ノイズだけで彼らを押し切れるとは思えませんが、いざとなれば
「了解」
懐から取り出したラックドライバーを腰に巻きつけ、T3イクシードメモリのスイッチを押す。
『イクシード!』
「変身」
『Exceed Active』
銀色の素体に纏った漆黒の鎧から蒸気を噴出させたイクシードとエターナルが対峙する。
「排撃、開始」
「悪いな。排除されるのは、お前の方だ」
自然体で立つイクシードに、エターナルは余裕を持った様子でサムズダウンしてみせ、部下達と共に駆け出す。響達もウェルが使役するノイズの掃討へ向かう。
エターナルエッジの刺突を受け流したイクシードの回し蹴りを受け止めると同時に足を掴んで投げ飛ばすが、イクシードは地面についた片手のバネで跳ね上がり、今度は着地と同時に地面を蹴り砕いてエターナルとの距離を縮めてこようとする。だが、そこへヒートドーパントが側面から火炎を纏った右足でイクシードを蹴り飛ばし、彼が飛んでいく先で待機していたメタルドーパントがメタルシャフトを叩き付ける。
勢いよく地面に叩き付けられて大きく跳ねたイクシードの体がメタルシャフトで上空に打ち上げられると、トリガードーパントが放った無数の光弾が迫る。
イクシードは空中で体勢を整えて光弾を全て殴り飛ばすも、その体に黄色い両腕が巻き付いたかと思えば再び地面に叩き付けられる。
「いくわよ、克己ちゃんッ! そ~れッ!」
何回かイクシードを地面に叩き付けてから、ルナドーパントはエターナル目掛けてイクシードを投げ飛ばす。
ドーパントの腕力で投げ飛ばされたため、凄まじい勢いで飛んでくるイクシードを殴り飛ばそうと構えたエターナルの拳に蒼炎を纏わせるが、
『ゾーン!』
「…………ッ!?」
T2ゾーンメモリに力を取り込んだイクシードが眼前から消え失せ、蒼炎のアッパーは標的を取り逃してしまう。そして次の瞬間、空気を切る音が聞こえたので反射的に屈むと、エターナルの頭上をイクシードの右足が通り過ぎていった。
ただ屈んで躱しただけでは終わらせず、エターナルはイクシードに足払いをかけようとするが、彼は後方に飛び退いて足払いを回避する。だが、それを読んでいたエターナルは上空にエターナルエッジを投げると同時にバク転でイクシードとの距離を縮めていく。
迫ってくるエターナルを殴り飛ばそうと突き出されたイクシードの拳を跳躍して躱し、彼の背後に着地すると同時に先程投げたエターナルエッジを手に取って連続でイクシードの背中を斬りつける。
「む…………ッ」
「お前の事はフィーネから聞いている。だが、ただ戦うだけじゃつまらないだろう? もっと楽しもうじゃないかッ! ハハハッ!」
「…………『楽しみ』など、私には必要ない」
両腕を広げて笑うエターナルに向かって拳を握り締めて走り出すイクシードに軽く溜息を吐き、
「どこまでも『道具』で在り続けるか。いいだろう。とことんまで付き合ってやるッ!」
エターナルエッジを回転させながら、エターナルもイクシードを迎え撃つべく駆け出した。
「――――――調ちゃんと切歌ちゃんはッ!?」
「答えられませんね。まぁまぁ、そんな顔しないでください。仲間に乱暴するほど、僕らは酷くありませんよ」
「なにを企てているッ!」
刀の切っ先を向ける翼に心外だとばかりにウェルが返す。
「企てる? 人聞きの悪いッ! 我々が望むのは、人類の救済ッ!」
「なんだと?」
世界に宣戦布告したグループからは到底考えられない目的に三人が唖然とする中、ウェルは真上に浮かぶ、一部が欠けた月を指差す。
「月の落下にて損なわれる、無辜の命を可能な限り救い出す事だッ!」
「月のッ!?」
「月の公転軌道は、各国機関が三ヶ月前から計測中ッ! 落下などと結果が出たら、黙ってなど…………」
「黙っているに決まってるじゃないですか。対処法の見つからない極大災厄など、さらなる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由など、幾らでもあるのですよッ!」
「まさか、この真実を知る連中ってのは、自分達だけ助かるような算段を始めているわけじゃ…………」
「だとしたらどうします? 貴女達なら…………」
押し黙る三人に対し、ウェルは自分達が導き出した答えを口にする。
「対する僕達の答えが…………ネフィリムッ!」
彼の叫びが引き金になったかのように、突如として地面を突き破って巨大な『なにか』が姿を現す。
「ぐぁ…………ッ!」
「雪音ッ! …………くッ、気を失ったか…………」
『なにか』が勢いよく飛び出した衝撃で気絶したクリスを翼が抱き抱えた瞬間、ウェルが召喚したダチョウ型ノイズの吐き出した糸によって絡め取られてしまう。
「このようなもので…………」
だが、大人しく拘束される翼ではない。
今の状態でこの粘性の糸から逃れる事は出来ないが、こちらにはそれを可能とする術がある。
「私達を捕らえたつもりかッ!」
『疾風』の力を宿した天羽々斬――――――天羽々斬・翼風刃を纏った翼の体を中心に発生した突風が無数の小さな鎌鼬となって、主とその友人を捕えていた糸を切り裂く。
「ガイアメモリの力を応用した強化形態ですか。ですが、それでこのネフィリムが倒せるとでもッ!」
出現したネフィリムが咆哮し、響と翼に襲い掛かってくる。
「立花ッ! 雪音を護りながら戦うぞッ!」
「はいッ!」
『熱』の記憶を宿したガングニール――――――エルナンディ・ガングニールを纏った響が両手から放った火炎弾をネフィリムの足元に着弾させると、そこを起点に発生した巨大な炎の竜巻がネフィリムを捕らえる。
「ハァッ!」
二本の剣を合体させて完成させた大太刀から飛んだ風の斬撃から炎の竜巻に呑み込まれると、斬撃は竜巻に操られて内部に囚われたネフィリムを切り刻んでいく。
竜巻が消え、拘束を解かれたネフィリムが傷だらけの全身から黒煙を立ち昇らせながらも、目の前の獲物に喰らいつこうと迫ってくる。
「立花、雪音を頼んだぞッ!」
「はいッ!」
響がクリスを抱えてネフィリムから距離を取る時間を稼ぐ為、翼が大太刀を元の双剣に戻し、突風を身に纏ってネフィリムに斬りかかる。
流石のネフィリムも風の補助を受けて加速する翼を捕らえる事は出来ず、振るわれる連撃は次々とその巨体に傷をつけていく。
「なにをしているのですッ! たかが小娘一人も喰えないのですかッ!」
焦りを感じさせる怒号を上げて、ウェルが召喚したノイズを向かわせてくるが、翼はそれをネフィリムの相手をする片手間に斬り伏せていく。
「ええいッ! ならばッ!」
「…………ッ! しまったッ!」
クリスを抱えてここから離れていく響に向けたソロモンの杖から光線が放たれ、彼女達の前に巨人型のノイズが現れる。
響はクリスを抱えているから両手が塞がってしまっている。足を使えば簡単に倒せるだろうが、いきなり目の前になにかが現れると、一瞬だろうと体が竦んでしまうのが人の性である。
その一瞬を突いて、ノイズが二人を圧し潰そうと巨大な腕を振り上げる。
「立花ッ!」
左手に持っていた剣を投げ、風の力で加速させていく。短時間で高速の域にまで至った剣は巨人の頭部に風穴を開け、消滅させる。
「助かりまし…………翼さんッ、危ないッ!」
「…………ッ!? ぐぅッ!?」
しかし、そこへすかさずネフィリムが襲い掛かってくる。咄嗟に右手に持つ剣で防御態勢を取った瞬間、ネフィリムの右前足が叩き付けられ、勢いを殺し切れずに殴り飛ばされる。
地面を数度跳ねた衝撃で脳が揺さぶられ、頭を軽く振って視界を安定させると、先程まで右手にあったはず剣が無い事に気付く。
どこに落としたのかと視線を彷徨わせかけた瞬間、ウェルの感極まった叫びが響き渡る。
「いったあああぁッ! パクついた…………ッ!」
叫ぶウェルの視界には、殴り飛ばされた際に翼が落とした剣をバリバリと、まるで菓子を喰らうかのように貪っているネフィリムの姿が映っていた。
「完全聖遺物『ネフィリム』は、謂わば自立稼働する増殖炉ッ! 他のエネルギー体を暴食し、取り込む事でさらなる出力を可能とする。…………さぁ、始まるぞッ!」
剣を飲み込んだネフィリムの体が一瞬震えたかと思えば赤く輝く始め、徐々に巨大化していく。
「聞こえるか? 覚醒の鼓動ッ! この力が、
「フロンティア…………? フロンティアとはいったいなんだッ!」
「教えるわけが無いでしょうッ! 本当なら貴女の体ごと喰わせるつもりでしたが、剣一本でもこの変化ッ! さらにさらにィッ! ガイアメモリの力も取り込んだ事によって、ネフィリムは新たな進化を遂げるのだッ!」
人の身の丈を優に超える程まで成長したネフィリムが両前足に赤黒い風を纏わせたかと思えば、咆哮と共にそれを振りかぶる。
(…………ッ! あれは、マズイッ!)
両前足が叩き付けられた瞬間、それまで抑制されていた赤風が翼目掛けて一直線に飛んでくる。間一髪で回避に成功した翼だったが、先程まで自分が立っていた地面が数十メートル先まで直線状に削り取られている光景を見て戦慄する。
「なんという破壊力ッ! これがガイアメモリの力ッ! いいぞネフィリムッ! あの女を叩きのめし、喰らいつけッ!」
「く…………ッ! 化け物めッ!」
「翼さんッ!」
風に乗って攻撃を仕掛けようとした翼に、戻ってきた響が声をかける。
「立花か。雪音は?」
「大丈夫です。安全なところに連れて行きました。それより、あれは…………」
「ネフィリムだ。お前がいない間に剣を喰われてしまってな。最悪な事に、サイクロンメモリの力を使用してくる。…………来るぞッ!」
身構える二人の前でネフィリムが両前足を地面につけたと思うと、大きく空気を吸い込み――――――
「ガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!」
大音量の咆哮を轟かせた。
その音量は今まで聞いてきたものとは比べ物にならず、それは最早『音』という領域を逸脱し、あらゆる存在に破滅をもたらす暴虐の『嵐』の域へと到達していた。
その暴虐の嵐を前に、二人は『避けなければ死ぬ』と直感で感じ取り、耳を塞ぎながら今の自分達が出せる最高速度で飛び退く。飛び退いた二人の間を通り過ぎていった爆音の嵐は先程の突風以上の威力を以て大地を削り取り、それを至近距離から聞いていた二人は耳を塞いでいたにも関わらず脳が揺さぶられるような感覚に襲われ、そこへネフィリムが攻撃を仕掛けてくる。
危うく振るわれた前足を避け、二人はネフィリムから離れた場所に着地する。
「立花、私に合わせてくれるか?」
「もちろんッ! …………では、いきますッ!」
翼が胸の内から湧き上がる感情のままに歌い始め、二人が反撃に打って出る。
「ルナアタックの英雄達よッ! その拳で、剣でッ! なにを護るッ!」
聖遺物とガイアメモリの力を取り込んだ怪物を前に気圧される事無く戦う二人は、ウェルから投げかけられる問いに答えず、自分の気持ちに応えてくれた地球の記憶と共に、ネフィリムに攻撃を加えていく。
「そうやって君達はッ! 誰かを護る為の力で、もっと多くの誰かをぶっ殺してみせるわけだッ!」
「…………ッ!」
その叫びが、響のある記憶を呼び覚ます。
自分達が初めて『フィーネ』と交戦した、あのライブ会場。そこで対峙した一人の少女が、敵も味方も繋がり合えると信じて疑わない自分に対して零した、あの言葉。
『それこそが偽善』
その言葉を言われた際の衝撃が蘇り、響の動きが鈍る。そして、それを見逃すネフィリムではない。
剣を喰らう前と比べて倍近い速さで動いたネフィリムの前足が、響に叩き付けられる。すると、前足に渦巻く突風は外敵の存在に反応して凄まじい風の刃となり、前足に触れている響を切り裂いていく。
「立花ああああぁぁぁッ!!」
切り刻まれた全身から鮮血をまき散らしながら殴り飛ばされていく響に叫ぶ翼だが、次の瞬間には彼女の体が黄色い粒子と化して霧散していき、それがなにを意味しているかを理解した翼は、安心したような笑みを浮かべる。
殴り飛ばしたはずの標的が消え、どこに行ったのかとネフィリムが視線を彷徨わせたその時、
「ハアアアアァァァッ!」
いつの間にか懐に潜り込んでいた、『幻想』の力を宿したガングニール――――――ガングニール・ルナクロスを纏った響の拳が叩き込まれ、ネフィリムの体が少し打ち上げられる。
「確かに、私の在り方は『偽善』かもしれない。…………だけど」
響が左手を広げると、ネフィリムの周りに二本の黄金の輪が出現し、左手を閉じればその二本はネフィリムの体を締め付け、行動を阻害する。
「それでも、私は私のままで在り続ける。否定されたって構わない」
体内に宿る記憶の力を、『
「この先、どんな困難が待ってたって、この信条は曲げない。だって、これは…………ッ!」
大きく息を吸い込み、吐き出す。
右拳に溜めたエネルギーは既に臨界点に達しており、小さな地響きが起こると同時に、彼女の足元に転がる無数の小石が浮かび上がる。
「――――――私が
右拳がネフィリムの懐に捻じ込まれる。抑制されていた力が解放され、拳から放たれた紫色の極光は天より墜ちた巨人を呑み込み、天空に浮かぶ雲を貫いた。
光の奔流が周囲に飛ばす凄まじい衝撃波に耐えている翼は、その根源である響の姿に目を丸くする。
響が纏っていたのが、先程のものと違い、紫と黄色のディーラードレスに変わっていたのだ。だが、もう一度目を凝らして見てみると、そこにあったのは通常のガングニールのもので、「気のせいか?」と翼は小さく呟く。
やがて極光はその勢いを弱めていき、最後に微かな線を残して消えていった。
崩れ落ちる響の前にネフィリムの姿は無いが、それも当然だろう。
あれほどの熱量を持った一撃だ。ゼロ距離でそれを受けた以上、如何にネフィリムといえどひとたまりもない。
「ば、馬鹿な…………馬鹿なああああああああああああああッ!!!!」
予想外の事態。予期せぬ展開に驚愕したウェルの絶叫が響き渡った。
「――――――あのネフィリムを一撃で…………。ガイアメモリとは、そこまでの力を引き出させるものなのですか…………ッ!?」
響達と交戦するネフィリムの様子をモニタリングしていたナスターシャが、珍しく動揺を隠さずに呟く。そして、それは彼女と共にモニタリングしていたマリア達も同じだった。
「なんデスか、あれ…………。あんなの、正真正銘の化け物じゃないデスか…………」
「私達、あんなのを相手に勝てるの…………?」
ただでさえ二課にはオリジナルのフィーネがいるのに、それに今見たような超威力の攻撃を繰り出してくる響も加わるとなると、まるで勝てる気がしない。
「…………それでも、私達は戦わなければならない。そうよね? マム」
「…………はい。如何なる障害が立ち塞がろうと、我々は止まるわけには…………ごほっ、ごほっ…………!」
「マムッ!?」
突如咳き込んだナスターシャの手元には、彼女が吐き出したであろう血がついていた。
「マムッ! しっかりしてッ! マムッ!」
マリアがナスターシャの体を揺さぶるが、気を失ってしまったのか反応がない。
「二人共、至急、ドクターの回収をお願いッ! 応急処置は私でもできるけれど、やっぱりドクターに診てもらう必要があるッ!」
「わ、わかったデスッ!」
言われるがままに、二人はウェルを回収すべく飛行機から飛び出していった。