SAKIMORIこと風鳴翼役の水樹奈々さん、遂に結婚ッ! 大変目出度い事ですねッ! 相手は音楽関係のお仕事をされている方らしく、あんな美人さんをお嫁さんに貰えて羨ましい限りですなぁッ! というか水樹さん、あの外見で四十歳だと知った時は本当に驚きました…………。年齢までは知らなかったので、年を取ってるとしても三十代前半だと思っていましたので。
さてさて、前書きはここまでにして、本編の方、どうぞッ!
「それでは、本題に入りましょう」
ウェルの一言と共に、ミーティングルームに設置された机に備え付けられているモニターに、絶え間なく明滅を続ける心臓のようなものが映る映像が表示される。
「これは、ネフィリムの…………」
「苦労して持ち帰った覚醒心臓です。必要量の聖遺物、加えて一部ではありますがガイアメモリの力を餌と与えた事で、本来以上の出力を発揮するようになりました。この心臓と、今は二課に所属しているフィーネが五年前に入手した《
「そしてフロンティアの封印されたポイントも、先だって確認済み」
「そうです。既にデタラメなパーティーの開催準備は整っているのですよッ! 後は僕たちの奏でる協奏曲にて、全人類は踊り狂うだけッ! ハハハハハハハッ!」
「近く、計画を最終段階に移行しましょう。…………ドクター」
「なんです?」
先程まで室内に響かせていた笑い声を止めたウェルに、ナスターシャが質問を投げかける。
「
「あぁ、
「そうですか。…………では、私はそろそろ休ませてもらいます」
ナスターシャが車椅子を操作してミーティングルームから出ていく。彼女が出ていった事を証明するドアの開閉音が聞こえた後、ウェルは「ふん」と小さく鼻を鳴らした。
――――――翌日、二課仮説本部では、弦十郎達を連れたフィーネが医療用ベッドで回復に努めていた響のもとにやってきていた。搬送された時と比べて大分安定していた響の容態に誰もが安堵の表情を浮かべたが、今も響の体でなにが起きているかを理解しているフィーネだけは、素直に喜べないでいた。
「響ちゃん、これから話す内容は、今後の貴女に大きく関わってくるものよ。心して聞きなさい」
「は、はい」
いつになく真剣な表情のフィーネに響が頷くと、フィーネは手元にある資料に目を落とす。
「この前、貴女の体から取れたものを調べてみたところ、あれは貴女の体内にあるガングニールが原因で精製されたものだという事がわかったわ」
「胸のガングニールが?」
「身に纏うシンフォギアとして、エネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内の浸食深度が進んだのよ。適合者を超越した、響ちゃんの爆発的な力の源ね」
訓練などを経てそれぞれのシンフォギアを手に入れた翼やクリスと違い、響は全くの偶然でその身にガングニールを纏う事になった。
シンフォギアとは本来、ペンダントに加工した聖遺物の欠片をエネルギーに変換し、人類の天敵ノイズの炭化攻撃を阻む外装に再構成されて装者の体に装着される。外部からそれを行ってる翼とクリスならば特に問題はないが、内部から行うとなれば話は変わってくる。
人智を超えたアーティファクトのエネルギーを体内で物質に再構成するのだ。なにも起こらないはずがない。
「みんな、これを見てくれるかしら」
フィーネが響のレントゲン写真をこの場にいる全員に見せる。そこに映っていた、
「なんだ、これは……………。人間の体内に、こんな臓器はないぞ。まさか、これも……………」
「そう、ガングニールによるものよ。聖遺物との融合は、響ちゃんの体内に新たな臓器を形成するまでに進行していたの」
「この融合が立花の命に与える影響は……………?」
翼の問いかけに若干言いにくそうにしながらも、言わねばならないとフィーネは答える。
「……………遠からず、死に至るわ」
彼女の答えに全員が息を呑み、響は自分の胸元――――――丁度ガングニールがある場所に手を当てる。
「死ぬ……………私が……………?」
「仮に死を免れたとしても、これ以上融合状態が進行してしまうと、それは最早、人間として生きていると言えるのか……………」
「そんな……………」
「おい、フィーネッ! ネフシュタンの鎧と同化してるお前なら、この馬鹿を助ける方法を知ってるはずだよなッ!?」
響と同じように聖遺物と人体が融合している存在のフィーネならば、なにか解決策を考えてくれているはずだと思ってクリスが詰め寄るも、フィーネは微かに目を伏せた。
「確実に、この子の体内からガングニールのみを除去する方法は、あるにはある。だけど、それを実行するにはある聖遺物の力を利用しようといけないの」
「ある聖遺物? それはいったい……………」
首を傾げる翼を見て、フィーネは顔に暗い影を落として答える。
「《
「なんだと……………」
「そんな……………」
フィーネの回答に、全員が抱いていた希望が翳る。
聖遺物に浸食され、その身を人間ではない『なにか』に作り替えられていく響。彼女を救う為に必要な《
これらを統合すれば、現状響を救う手立ては無い事くらい、誰もが理解できてしまう。
「じゃあ、この状況は、テメェが作ったようなもんじゃねぇかッ!」
激昂した剛三がフィーネに非難の言葉を投げかけるが、「よせ」と克己に止められる。
「フィーネを非難しても、《
「け、けどよ……………」
なにか言い返そうとするも、克己の言う事は事実だ。どれだけ目の前に立つ女性を非難しても、目的の聖遺物は手に入らない。喉元まで込み上げてきていた言葉を剛三が飲み込むと、今まで黙って話を聞いていた響が、いかにもわざとらしい笑い声を漏らした。
「あ、あはは~……………。つまり、胸のガングニールを活性化させる度に融合してしまうから、今後はなるべくギアを纏わないようにしろと。あは、あはは……………」
「いい加減にしろッ!」
だが、そんな響に怒りを露わにしたのは、翼だった。
「『なるべく』だと? 寝言を口にするなッ! 『今後一切の戦闘行為を禁止する』と言っているのだッ!」
「翼さん…………」
「このままでは死ぬんだぞ、立花ッ!?」
「…………ッ!」
両目に涙を溜めて叫ぶ翼の表情にハッとさせられると同時、京水が二人の体を離す。
「はいはいそこまで、翼ちゃんも熱くなり過ぎよ。この子だって、理解してるからああいう事を言ったのよ。『私は元気だ』って、ワタシ達を気遣ってね」
「…………わかっています。でも、私は…………」
そこで言葉を区切った翼は、そのままメディカルルームから出ていってしまう。それに対しては誰も苦言を漏らさず、弦十郎が話を変えるべく口を開く。
「医療班だって無能じゃない。了子君を筆頭に対策を進めている最中だ」
「師匠…………」
「治療法だってすぐに見つかる。そのほんの僅かな時間、ゆっくりしていてもバチなど当たるものか。だから、今は休め」
「わかり、ました…………」
「はい、それじゃあもう一度響ちゃんの体を検査するから、みんなさっさと出てって頂戴」
パンパンと手を叩いたフィーネの言葉に従い、彼女と響を除いたメンバー達がぞろぞろとメディカルルームから出ていく。
「不安にならなくていいわよ。私が絶対に助けてあげる」
「…………ありがとうございます、了子さん」
若干曇った表情でいる響の頭を撫でてから、フィーネは医療スタッフと共に響の検査を始めるのだった。
「――――――楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いとめんどくさい労働デスッ!」
購入した食材やら飲料水などが詰まりに詰まったレジ袋を手にスーパーを後にした切歌がブーブーと文句を言うも、「仕方ないよ」と調に宥められる。
「過剰投与したLiNKERの副作用を抜き切るまでは、おさんどん担当だもの」
そう答える調の顔色は優れない。ここしばらく激務が続いたのだ。まだ十四歳――――――世間でいうところの中学二年生あたりの少年少女の部類に入る未成熟な体に、阻止されたとはいえ無理な絶唱を行おうとした負荷はあまりに重い。それは隣に立つ切歌にも言えるが、この様子からして、調が全快するのは切歌より時間がかかりそうだ。
「ケアン、調の荷物を持ってあげるデスよッ!」
それを見かねた切歌が、先程から絶えず周囲を警戒しているケアンに調から取り上げたレジ袋を突き出す。突き出されたレジ袋を訝しげに見つめ、ケアンは「なぜだ?」と口を開く。
「私はお前達の護衛を任されたのだ。そんなものを持っていては、いざという時に対応できん」
ケアンが二人の買い物に付き合っているのは、万が一という事があれば彼女達を救うようにと、ナスターシャに二人の護衛を頼まれたからである。
わざわざ民間人が多くいるこの市街地で自分達を襲ってくる勢力などいないだろうが、相手が民間人を巻き込む事に躊躇しない連中なら話は変わってくる。
以前、隠れ家として利用していた倉庫にやって来た米国からの刺客達も、排撃後やって来た子ども達とばったり出くわせば、恐らく証拠隠滅の為撃ち殺していたであろう。この短期間でまた襲ってくるとは考えられないが、その『万が一』が起きた時に対処するのが、今回ケアンに与えられた
その命令を実行する際、両手にレジ袋を持っていては堪らない。最悪投げつければ変身までの時間は稼げるが、そうしてしまうと先刻消費した金銭が無駄になってしまうし、メンバー達もより長い時間を空腹に苛まれてしまう。
そういった理由で切歌からの申し出を断ったケアンだが、それで引き下がる切歌ではない。
「ロボットのケアンにはわからないかもしれませんが、こういうのは男がする事デスよ。それともなんデスか? ケアンはこんな重いものを、副作用が抜け切っていないアタシ達に持たせ続けるつもりデスか?」
「……………ならば、一番重いものを渡せ。襲われた時、それを相手に叩き付ける」
「食べ物を粗末にしちゃ駄目」
「言うだけ無駄デスよ。こいつに食べ物の素晴らしさは一生理解できないんデスから」
調と切歌から彼女達が思う、一番重いレジ袋を受け取ったケアンが彼女達の護衛を続けながらナスターシャ達の待つ場所に向かう途中、調が建造中の建物の近くで腹ごしらえをしようと言い出した。
「嫌な事たくさんあるけど、こんなに自由があるなんて施設にいた頃は想像できなかったデスよ」
「うん……………そうだね」
F.I.Sに在籍していた頃のフィーネが道半ば倒れたとしてもタイムロスを極力無くして現世に戻ってくる為の保険として用意された子ども達の内に入る調と切歌、そしてマリアは、幼い頃からずっとF.I.Sが所有する施設内で過ごしてきた。当時の彼女達の世界とは施設だけであり、外の世界に思いを馳せる事はあれど、外に出る事は終ぞ叶わなかった。だが、自分達は今、こうして施設の外で食事をしている。
誰に聞いても一般的と答えるであろうこの状況は、彼女達にとって夢見ていたシチュエーションであったのだ。
「ケアンはどう思うデスか? こうして外の世界に触れてみて」
「……………? なぜ、そこで私に振る?」
「だって、マムに連れ出されるまで、ケアンもアタシ達と同じくずっと施設内にいたんデスよね? まぁ、アンドロイドにこういう事聞いても、答えは大体わかっちゃうんデスけどね」
どうせ「特になにも」と、いつもと変わらない無表情で答えるのだろうと高を括っていた切歌の耳に届いたのは――――――
「……………まぁ、悪くはない」
という、少し
その答え方は想像もしていなかった二人は思わず呆気に取られてしまい、食事を中断した二人に気づいたケアンは「どうした」と、先程の声色が嘘だったのではないかと思ってしまいそうな、いつもの無機質な声で訊ねてくる。
「早く食べ終えろ。いつ作業員がやって来るかわからない」
「りょ、了解デス。調、さっさと食べ終わるデスよ。……………調?」
親友からの返事が無い事を不審に思った切歌が調の顔を覗き込むと、今にも倒れてしまいそうな表情の調と目が合った。
「調ッ!? ずっとそんな調子だったデスかッ!?」
「大丈夫……………ここで休んだから……………」
そういって立ち上がった調だが、
「調ッ!」
衝撃を受けて一斉に倒れ始める鉄棒から調を護ろうと、切歌が覆い被さろうとする。だが、その直前に誰かに手を引っ張られて投げ出され、尻餅をついてしまう。
「調ッ! 調ッ!」
尻餅をついた痛みさえ忘れ、大切な親友の名を叫ぶ切歌の前に現れたのは――――――
「護衛対象は護り抜く。それがマムからの
気を失った調を横抱きに抱えたした、ケアンの姿。
調の体に傷が無いのを見るに、ケアンが倒れてきた鉄棒から彼女を護ってくれたのだろう。
常人ならば運が悪ければ大怪我を負っていたであろう衝撃にも無傷で耐え切るあたり、やはり彼は人ではないのだろう。だが、それでも切歌は、その身を賭して調を護ってくれたケアンに感謝していた。
「ありがとうデス、ケアン……………」
「私は
「それでも、感謝しきれないデスよ。なにかお礼の品を差し上げたいところデスが、今は調をドクターのもとに」
「当然だ」
あのいけ好かない男に調の検査をさせるのは正直御免被りたいところだが、自分達の中で最も人体に関する知識を持っているのはウェルだけだ。生化学者の彼でなければ、今の調がどのような状態なのかわからない。
「切歌、先程、お前は私に『なにかお礼の品を差し上げたい』と言ったな?」
調を抱えた状態でも全く速度を落とさず、それどころか切歌と足並みを揃えて走ってすらいるケアンが、切歌に視線を向けずにそう訊ねてくる。
「アタシの友人を護ってくれた恩返しデスよ。アタシがあげられるものなら、なんでもあげるデス」
そこまで言ってハッとなった切歌は、慌てて先の言葉を訂正する。
「や、やっぱり違うデスッ! 流石にイガリマはあげられないデスよッ!」
「元よりイガリマを求める気は無い。それはお前が振るうべき力だ。私が欲しいのは、物ではないのだ」
「……………? どういう事デスか?」
調の問いに一瞬黙ってから、ケアンは自分が求めるものを口にする。
「――――――私は、心を知りたい。アンドロイドの私が、人の心を理解できるとは考えにくいが、それでも知りたいのだ」
以前、偶然自分達の隠れ場所に来てしまった子ども達を口封じしようとした時、マリアは見ず知らずの子ども達を護ろうとした。切歌も、自分の命を顧みずに親友を護ろうとした。
あまりにも複雑で、不可解で、不明瞭。いっそ、答えなど無いと言われた方がマシとも思えてくるようなこの疑問だが、だからこそ、自分はこの疑問を解消したい。
「教えてくれ、
死者の身を借り受けて生み出された当機の役目は、壊れるまで人類の道具で在り続ける事。この役割に不満など無い。だが、それでも知りたいのだ。他の動物達は持ちえない、上位者である神が人類にのみ所有する事を許した『心』。
『進化』の記憶を内包するイクシードメモリを手に絶えず進化を続ける自分には、その『心』がなんであるかという答えを求めざるを得ないのだ。
「……………そのくらいでしたら、いくらでも教えてやるデスよ」
勉学はあまり得意ではない部類だが、心を教えるなら大丈夫だ。人として産まれた以上、心は常に、自分と共に在ったのだから。
「感謝する、切歌」
無機質に、しかしどこか嬉しそうに返したケアンは、切歌と共にナスターシャ達の待つ場所へと向かっていった。