死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 並行世界の大人セレナと子どもマリアのイベント大変良き。特にこちらの世界のマリアと並行世界のセレナの共闘がカッコいいの一言です。アルビノ・ネフィリム事件でセレナが死んでなかったら、きっとああなってたんでしょうかね。

 そしてまたコラボイベントですな。今度はロストディケイドとコラボらしいです。これまでコラボしてきた作品は聞いた事あったり見た事あったりしたものなんですが、ロストディケイドは知らない作品ですので、ちょっと楽しみです。

 では、本編開始です。


Dの策略/死霊の世界より

 

「新型ノイズに破壊された天羽々斬とイチイバルです。コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……………」

「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が損なわれている状態です」

「という事は、セレナのギアと同じ……………?」

 

 

 マリアが妹の形見として持つシンフォギアも、今の天羽々斬とイチイバルと同じ状態なため、それを使用する事は叶わない。ネフィリムとの決戦において彼女が本来ならば起動しないはずのそれを使えたのは、家族と仲間の想いを受け止めたが故に起きた奇跡なのだ。

 

 

「もちろん、直るんだよな?」

「私を誰だと思ってるの? シンフォギアの生みの親を舐めないでもらいたいわね」

「流石櫻井理論の提唱者……………。心強いにも程があります」

「だが、すぐに修理できるわけではない。それなりに時間がかかるだろう。その間動けるのは……………」

「私だけ、ですよね」

「そんな事ないデスよッ!」

「私達だって――――――」

「駄目だ」

 

 

 切歌と調が反論するが、弦十郎は彼女達の出撃を許可しない。彼の言葉はこの場にいるほとんどの者達の気持ちを代弁したものであり、弦十郎の言葉を否定する者は誰一人現れない。

 

 

「LiNKERで適合係数の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか……………」

「まだ君達に合わせて調整したLiNKERが無い以上、無理を強いる事はできないよ」

「……………どこまでも私達は、役に立たないお子様なのね」

「……………メディカルチェックの結果が思った以上によくないのは知っているデスよ。それでも……………」

「うんうん、わかるよ。二人の気持ち」

 

 

 暗い表情を浮かべる二人の肩に、亜樹子がポンと手を乗せる。

 

 

「私も、竜君が戦いに行く時は、いつもその後姿を見ているだけだもん。なにか助けになる事はないか。自分も一緒に戦えないか。そんな事、四六時中考えてる。それだけで何事も解決したら苦労しないんだけど、現実ってば非情だよね」

 

 

 何度、戦地へ向かう彼を見送った事か。無傷で帰ってくる事もあれば、傷だらけになって帰ってくる事もある。自分にもなにか力があれば、彼の痛みを少しは和らげる事ができるかもしれない。そんな事を考え続けても、現実は変わらず、彼は事件とあらばすぐに戦士となって現場へ赴く。戦う力を持たない自分に出来る事は、彼の無事を祈る事だけだ。

 

 

「でもね? そんな私でも、竜君の助けになってるのがわかったの。本当に嬉しかった。とんでもないぶきっちょさんだけど、どこまでもみんなの事を大切に想ってる竜君の助けになってるのが、堪らなく嬉しかった……………。今の二人はまだ戦えないけど、いつか響ちゃん達と一緒に戦う時が来る。それまでは、ここでみんなが無事に帰ってくるのを待ってようよ」

「亜樹子さん……………」

「ま、そういうこった」

「こんな事で仲間を失うのは、二度とごめんだからな。その気持ちだけで充分だ」

 

 

 亜樹子の言葉に賛成の意を示したクリスと翼が続くが、調と切歌はまだ少し納得のいっていない様子だった。そんな二人の姿に「しょうがない奴らだな」とでも言いたげな表情の翔太郎だったが、ふと隣に立つ竜の顔を見てニヤッとする。

 

 

「おいおい、照井君どうした~? 顔真っ赤だ――――――うぉわッ!?」

「……………俺に質問するな……………」

「こ、この野郎ッ! 冗談で言っただけだろッ!? 危うく当たるとこだったじゃねぇかッ!」

 

 

 茹蛸のように顔を真っ赤にした竜をからかったところを顔面にストレートを喰らいかけた翔太郎がバクバクする心臓を押さえて叫ぶが、竜は知らんとでも言いたげに腕を組んで澄まし顔をしている。

 

 

「ふっふ~ん♪ 照れ屋さんだなぁ竜君は♪ どや? ここらで一発ちゅーしちゃう?」

「うえぇッ!? ここでッ!?」

「ちゅーデスとッ!?」

「大胆……………」

「そ、そういう事は家でやれってのッ!」

 

 

 亜樹子のセリフに響と切歌と調が黄色い声を上げて両手で顔を覆うが、指と指の隙間からチラチラと竜と亜樹子の様子を窺っているが、クリスは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまっている。

 

 

「そういえば、二人はどういった関係なのですか? 恋仲のように思えますが、苗字が……………」

「私、向こうの世界じゃ探偵事務所やっててね。お父さんから継いだ事務所が通り名なんで、旧姓名乗ってるの。戸籍上は照井亜樹子で~すッ! あと、別に律義にならなくていいから、ため口でいいよ」

「なるほど、夫婦(めおと)の間柄だったというわけね。それなら、そのラブラブっぷりにも納得がいくわ。でも、どうして『所長』呼びなのかしら? 奥さんなんだから、名前で呼ぶべきじゃないの?」

「所長は、所長だ……………」

 

 

 少し恥ずかしそうに竜が言うと、「以前の事を蒸し返す事になるが」とフィリップが口を挟む。

 

 

「僕達が亜樹ちゃんの事を名前で呼ぶのはどうだろう?」

「亜樹子」

「はい」

「あ~き~こ」

「は~いッ!」

「人の妻を気安く呼ぶなッッ!!」

 

 

 翔太郎がふざけて亜樹子を呼び続けると、竜はいつものクールフェイスなど忘れて顔面を崩壊させた。そんな彼に一同から笑い声が漏れるが、弦十郎が話題を切り替えるべく咳払いをすると、全員が真剣な表情に戻る。

 

 

「翔太郎君達の紹介が終わったところで、もう一人紹介する者がいる。エルフナイン君だ」

 

 

 新たに司令室に入ってきたのは、ローブ一着の下にはパンツのみしか身につけていない人物だ。

 

 

なんて破廉恥な……………

しッ! 言ってやるなっての

 

 

 傍から見れば痴女としか受け止められない恰好に誰もが最初に思う事を竜が呟くも、翔太郎に小突かれる。

 

 エルフナインと最初に出会ったのはクリスで、S.O.N.Gに保護された時に露出を隠すべく服を着せようとしたらしいが、本人がそれを断ったらしい。曰く、『脱走デビューに相応しい一張羅』らしいが、聞いても碌でもない事くらい容易に想像できたので聞かないでおいた。

 

 

「ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました」

 

 

 皆の視線を受けながら、エルフナインはポツリポツリと脱走の経緯を説明し始めた。

 

 

「ある時、その装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止する為に逃げ出してきたのです」

「世界をバラバラにとは、穏やかじゃないな……………」

「それを可能にするのが、錬金術です。ノイズのレシピを基に作られたアルカ・ノイズを見ればわかるように、シンフォギアを始めとする万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが、建造途中の巨大装置『チフォージュ・シャトー』になります」

「チフォージュ・シャトー? なんだそりゃ?」

「歴史に名高き聖女、ジャンヌ・ダルクの部下だったジル・ド・レが根城としていた城の名だよ。聖女の死を経て黒魔術に手を出したジル・ド・レは、そこで大量の子どもを惨殺したとされている」

「うへぇ、なんて場所の名前つけてんだそいつ……………」

「装置の建造に携わっていたという事は、君もまた錬金術師なのか?」

「はい。ですが、キャロルのように総ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的の為に作られたに過ぎません」

「作られた?」

 

 

 聞き捨てられない言葉に反応した響に、エルフナインが頷く。

 

 

「装置の建造に必要な最低限の錬金知識をインストールされただけなのです」

「インストール……………。エルフナインちゃん、もしかして、君は人間じゃないのかい?」

「……………はい、その通りです」

 

 

 エルフナインの外見、セリフを基に立てた仮説を証明する為のフィリップの問いかけに、エルフナインは素直に答えた。

 

 自らをヒトではないと認めたエルフナインに、驚愕の視線が注がれる。

 

 

「僕なりの考察だが、君はそのキャロルという人物によって生み出された存在。インストールという単語からロボットかとも考えたが、君の体には間違いなく血が流れている。では、限りなくヒトに近いが、ヒトではない存在と考えるべきだ。そこまでいけば、答えは自ずと導き出される。君は、ホムンクルスなんだね?」

 

 

 僅かなセリフだけで自分の正体にたどり着いたフィリップに、エルフナインは感嘆の感情が込められた視線をフィリップに向け、頷いた。

 

 

「ホムンクルス?」

「錬金術によって作り出された人工生命体の事さ。フラスコの中でしか生きていけない、という話を聞いた事があるが、君という実物からして、それは違ったものらしいね。正直、興味深くてゾクゾクするよ」

「おい、フィリップ。そういうマッドサイエンティストみたいな言い方はよしてくれよ」

「む、そうだった。機嫌を損ねてしまったかい? 謝ろう」

「い、いえ、大丈夫ですよッ! 人は誰しも、色々なものを知りたがるものだと理解していますからッ!」

「話を続けてくれるか?」

 

 

 腕を組んで話を聞いていた克己に催促され、エルフナインは説明を再開する。

 

 

「先程も言いましたが、ボクがインストールされたのはあくまでシャトー建造に最低限必要な錬金知識だけなので、計画の詳細までありません。ですが、世界解剖の装置チフォージュ・シャトーが完成間近だという事はわかりますッ! お願いです、力を貸してくださいッ! その為にボクは、ドヴェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのですッ!」

「ドヴェルグ=ダインの遺産?」

 

 

 響が首を傾げると、エルフナインは保護された時から肌身離さず持っていたアタッシュケースを開け、そこに納められていた箱から、なにかの欠片のようなものを取り出す。

 

 

「アルカ・ノイズに……………、錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物――――――魔剣ダインスレイフの欠片です」

「ダインスレイフ……………なるほどね」

 

 

 エルフナインの持つ聖遺物の欠片が自分達にどのような利益をもたらすのかを、フィーネは瞬時に理解したのだった。

 

 

 

 

 ――――――翌日、響は未来を始めた友人達と共に帰路についていた。新たな敵の出現や翔太郎達といった異世界の協力者など、先日は色々あったが、響達には学生という身分がある。弦十郎達大人の仕事がS.O.N.Gの運営であるのなら、響達学生の仕事は勉学に励む事だ。

 

 しかし、エルフナインの話を聞いてから、響は授業中も彼女の事で頭がいっぱいだった。

 

 

(ホムンクルス……………性別はないって、エルフナインちゃんの体ってどうなってるのかな?)

 

 

 フィリップによって正体を看破されたエルフナインは素直に自分が人外のものであると認め、さらに自分には性別というものが存在しないとも告げたのだ。それだけでも怪しさ満載なのだが、その後に『自分は怪しい者ではない』と自分から言ってしまったので、尚の事怪しく思われてしまった。尤も、それだけで寄る辺の無い彼女を追い出すほどS.O.N.Gも鬼畜ではない。彼女は変わらず本部で保護されている。

 

 

「私的には、ついてるとかついてないとかは、あんまり関係ないと思うんだけど……………」

「え、えぇえええッ!?」

 

 

 性別について悩んでいる矢先に未来がそのような事を言い出したので、思わずあげた叫び声が周囲に響き渡った。

 

 

「ビッキー、なにをそんなに驚いてるの?」

「だ、だって、なにがどこについてるのかなんて、そんな……………」

「ついてるついてない、確率の話です。今日の授業の」

「ま~たぼんやりしてたんでしょ?」

「あ、あははは、そうだったよね……………」

 

 

 響も年頃の高校生だ。そういう事に関する興味はそれなりにある。しかし、この場において自分一人だけが友人達と違う事を考えているとはバレたくなかったので、咄嗟に作り笑いを浮かべる。

 

 

「……………この頃、ずっとそんな感じ」

「……………ごめん、色々あってさ」

 

 

 不機嫌な表情の未来に謝るが、未来は許してくれない。すると、二人の間に流れる微妙な雰囲気に感づいた弓美が若干焦った様子で話題を切り替えてきた。

 

 

「そ、そういえば聞いたッ!? 克己先生の噂ッ!」

「え? 噂? 克己先生の?」

 

 

 表側の立場として弦十郎からリディアンの体育教師という役職を与えられた克己だが、彼にまつわる噂があるとは知らなかった。しかし、それもそのはずだそうで、弓美が言うにはその噂は数日前から広まってきたものだそうだ。

 

 

「その噂とはズバリッ! 『克己先生には彼女がいる』ッ!」

「え、えぇッ!?」

 

 

 思いもしなかった噂の内容に驚愕する。

 

 学校内での克己の評価は、運動部に所属している生徒達を除いた場合、『良くも悪くもない』といったものだ。生徒が起こした問題は自分が解決できる範囲であれば解決に乗り出すし、相談を受けた場合は真面目に受けてくれる。が、それだけだ。これといって他の教師と違ったところは見受けられず、強いて挙げるとすれば運動部員からはいい印象を持たれているという点だ。

 

 学生には秘密になっているが、克己は傭兵としての経験がある。NEVER部隊のリーダーという事もあって、どこをどう動かせば体に負荷をかけずに行動できるのかを指導するのはお手の物だ。

 

 こういっては何だが、響はそういった色恋に関する噂は彼には似合わないと思っていたが、まさかそのような噂が広まっていたとは。

 

 

「最近の克己先生ってさ、自分が担当する仕事が終わり次第、すぐ帰ってるじゃん? いやまぁ、仕事が終われば帰るのは普通なんだけどさ、その時の勢いが半端じゃないんだよね」

「半端じゃない?」

「そ。なんでも、『今すぐに帰らなきゃッ!』って言ってるみたいに凄い勢いで帰ってるらしいよ? その勢いたるや、まるで風みたいだって。陸上部の部長でもまるで追いつけないぐらいの速度だったらしいよ」

「……………もしかして」

「ビッキー、もしかして知ってるの?」

「そうなんですかッ!? あの人の彼女さんって、いったいどんな方なんですか?」

「いや、彼女じゃないと思うんだけど……………。どっちかと言うと――――――」

「――――――ね、ねぇ……………あれ……………」

 

 

 答えようとした刹那、震えた声を上げた弓美が、同じく震えた指を向ける。

 

 

「なに――――――……………ッ!?」

 

 

 血色を失い、倒れ伏す人間達。その中心で一人、生気をまるで感じられぬ者が一人。

 

 

「聖杯に想いは満たされて……………、生贄の少女が現れる」

 

 

 あの夜。キャロルやアルケウスドーパントと共に現れたオートスコアラー、ガリィが性根の悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「――――――それにしても、こうしてまたお前と会えるとは思わなかった」

「うん、私も……………。私が気付いてた頃には、もう事件は解決されてたから……………」

 

 

 響達がガリィと遭遇する少し前。潜水艦の内部にある談話室では克己とミーナが会話していた。

 

 他の四人は各々の仕事があるためこの場にはいないが、全員既にミーナとの会話は済ませており、克己も当然話していたのだが、やはり死んだと思っていた女性が目の前にいるという事実は、彼をしても喜ばざるを得なかったのだ。

 

 

「生き残ったのは、お前だけか? 他の連中も……………」

「……………」

「……………そうか」

 

 

 克己達が風都を襲う前に、とある組織から救い出した超能力者達。ミーナが生きているのなら、他にも生き延びている者がいるのではないか、と思ったが、首を振るミーナを見て、その期待は落胆へと変わってしまった。

 

 

「でも、みんな感謝してると思う。あの場所に居続けても、満足な未来なんてなかった。克己達が、みんなの希望になってくれたから」

「俺達が希望、ね。ハッ、死神に希望を抱くなんてな」

 

 

 どこか自嘲気味に言う克己だったが、ミーナはそれをすぐに否定した。

 

 

「死神なんかじゃない。克己達は、私達にとって紛れもない英雄だったよ。風都の誰もが、貴方達をテロリストだと思ってるけど、私だけは違う。この命は、貴方達に救われた命だから……………」

 

 

 自分の胸元に手を当てて微笑むミーナ。その姿を見て、克己は一瞬、夢でも見ているかのような感覚に陥った。

 

 

「……………だから、私はあいつらが許せなかった。あいつらは克己達の事を、最悪のテロリストだとしか思ってなかったから」

「左達の事か?」

「あの人達は、貴方達がただの悪人じゃないって理解してくれた。だからもう許してる。私が許せないのは、ラメンターの事」

 

 

 なんと、彼らはWとアクセルに対抗する最強戦力として克己達を蘇らせようとしていたらしい。それまで出現させてきた再生怪人のように、完全な殺戮兵器として使役するつもりだったようで、その為に彼らについての記憶を最も持っているミーナに接触してきたのだと言う。

 

 しかし、その計画は失敗。デスドーパントの力を用いても、なぜか彼らの前にNEVER部隊は姿を現さず、ミーナを救出すべくやって来たW達と戦闘になったようだ。

 

 蘇生の間際に何らかの事故のようなものがあり、その場で蘇るはずだった克己達はW達のいる世界ではなく、シンフォギアやノイズといったものが存在するこちらの世界に飛ばされてきた――――――。これはフィリップが立てた仮説である。

 

 

「フィリップが言うには、克己達が自分達と戦った時と比べて性格が丸いのは、私の記憶を参考に蘇らせた影響かもしれないんだって。私の記憶にあるみんなは、まだ死神になる前のみんなだったから」

 

 

 克己達が真の意味で死神の集団へと変貌したのは、とある男の卑劣な罠によってミーナを除いた者達が殺害された事が切っ掛けだった。

 

 あの時こそ、死神の一団の始まり。克己達は『人は皆、悪魔である』という考えに行きついてしまい、あらゆる命を狩り取る邪悪な存在となってしまった。

 

 故に、そうなる前の彼らの記憶を持っていたミーナを根源に蘇った克己達には、翔太郎達と出会った時には失われていた、『誰かを救いたい』という善性があったのだ。

 

 ミーナの知っているNEVER部隊は文字通り『死神』のような存在だと考えていたラメンターの落ち度が別の世界では良い方向に転がっていた事に、ミーナはS.O.N.G.の職員達から克己達の活躍について聞かされた時に気付いたのだ。

 

 

「またみんなに会えて、嬉しかった。これで、あの時言えなかったお礼を言える」

「ミーナ……………」

「克己、本当に――――――」

 

 

 その瞬間、潜水艦内に敵の出現を告げるサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

 

「――――――キャロルちゃんの仲間……………だよね?」

「そして、貴女の戦うべき敵……………」

「違うよッ! 私は人助けがしたいんだよッ! 戦いたくなんかないッ!」

「……………チッ!」

 

 

 まるで戦意を感じられない返事に嫌気が差したガリィが舌打ちと同時に無数のジェムを放り投げる。

 

 無造作に地面に跳ねたジェムは落下の衝撃で砕け、アルカ・ノイズが姿を現す。

 

 

「そんな……………ッ!?」

「ノ、ノイズッ!?」

 

 

 人類(じぶんたち)の天敵の出現に、戦う力を持たない未来達の顔に恐怖の色が浮かぶ。

 

 

「貴女みたいに面倒くさいのを戦わせる方法は、よ~く知ってるの」

「こいつ、性格悪ッ!」

「あたしらの状況もよくないってッ!」

「このままじゃ……………」

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる」

 

 

 創造主のキャロルをして『性根の悪い』と言わしめるほどの性格の悪さを持つガリィの戦術は『卑劣』の一言に尽きる。響がガングニールを纏い、戦いの歌を奏でるように仕向けてきたのだ。

 

 今すぐにでもシンフォギアを装着しなければ友人達に危機が及ぶ。この場においてアルカ・ノイズを倒せるのは、響だけだ。

 

 しかし――――――

 

 

「げほッ、げほ……………ッ!」

「響……………?」

 

 

 聖詠を唱えようとして噎せ込んだ響に、未来の怪訝な視線が向けられる。

 

 

「いい加減、観念しなよ」

 

 

 聖唱を口にしない響に苛立ちを含ませた声でガリィが急かす。しかし、そこで出た響の答えは、彼女にとっても意外なものだった。

 

 

「ガングニールが……………応えてくれないんだ( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )ッ!」

 

 

 その言葉に思わずピタリと動きを留めたガリィは、歌を歌えない状況の響をどうすべきかと考え始める。

 

 

(ギアを纏えないこいつと戦ったところで意味は無い……………。ここは試しに、仲良しこよしを粉と()いてみるべきか……………)

 

 

 アルカ・ノイズを出せば、如何に戦う事を拒んでいる響といえどシンフォギアを纏うはずと踏んでいたが、聖詠が浮かばないとは想定外だった。これでは、ミカを動かす為の『想い出』の採取以外の目的が果たせない。

 

 是が非でも引きずり出すべきか、それとも目的は果たせそうにないと見て撤退するか、と悩んでいると――――――

 

 

「あ~、まだるっこしいなッ!」

「……………?」

 

 

 痺れを切らしたように寺島が前に踏み出し、お嬢様とは思えないような口調でまくし立て始めた。

 

 

「あんたと立花がどんな関係か知らんけど、だらだらやんのなら、あたしら巻き込まないでくれる?」

「……………お前、こいつの仲間じゃないのか?」

「冗談ッ! たまたま帰り道が同じだけ。ほら、道を開けなよ」

「……………」

 

 

 ガリィはじっと寺島を見つめていたが、やがて顔を歪めてアルカ・ノイズに道を開けさせた。

 

 その瞬間、寺島が友人達に叫ぶ。

 

 

「今ですッ!」

「ビッキー、行くよッ!」

 

 

 寺島が走り出し、安藤に連れられて響達も走り出した。

 

 咄嗟の行動にガリィの顔に一瞬だが驚愕の表情が浮かび、その間にも響達はアルカ・ノイズの間を駆け抜けていく。

 

 

「あんたって変なところで度胸あるわよねッ!」

「去年の学祭もテンション違ったしッ!」

「嘘、さっきのはお芝居ッ!?」

「たまには私達がビッキーを助けたっていいじゃないッ!」

「我ながらナイスな作戦でしたッ!」

 

 

 寺島の決死の行動によって、徐々にガリィとアルカ・ノイズとの距離が空いていく。

 

 ……………が、忘れてはならない。

 

 

「――――――と、見せた希望をここでバッサリ摘み取るのよねッ!」

 

 

 ガリィ(こいつ)は、性根が腐っている。

 

 寺島の言葉がハッタリだという事は瞬時に理解していた。それを指摘せず、敢えて道を開けたのは、彼女達に『逃げられる』という希望を与え、後にそれが儚いものだと理解させ、心を折り砕く為。

 

 希望を持ち上げれば持ち上げるほど、叩き落した時の絶望は計り知れない。誰もが諦めかけたその時こそ、立花響は戦いの旋律を奏でる。

 

 

「上げて落とせば、いい加減戦うムードにもなるんじゃないかしら?」

 

 

 アルカ・ノイズを引き連れ、ガリィが足元を凍らせてスケートの要領で響達を追ってくる。

 

 

「こんな追いかけっこ、アニメじゃないんだから~ッ!」

「……………ッ! うわッ!?」

 

 

 アルカ・ノイズの一体が伸ばした触手が響の靴を掠め、分解する。分解されたのは靴のみだったので足まで分解される事はなかったが、それでも靴が分解された事に驚いた響はバランスを崩してしまい、その手から装着できなかったガングニールのペンダントが飛び出してしまう。

 

 

「ペンダントが……………ッ!」

「はあああああああッ!」

 

 

 宙に舞うペンダントを茫然と見つめるしかできなかった響の視界に、一つの影が走る。

 

 そうしてガングニールのペンダントを手に取ったのは、マリアだ。

 

 

「――――――Granzizel bilfen gungnir zizzl

 

 

 その身に纏うは、裂槍。仲間と心を繋ぎ、手を握り合う響の撃槍と違い、あらゆる悪を貫く、無双の一振り。

 

 

「黒い……………ガングニール……………」

「これなら……………戦えるッ!」

 

 

 漆黒のアームドギアを右手に、マリアはガリィとアルカ・ノイズを迎え撃った。

 

 

 

 

「――――――ガングニールでエンゲージッ!」

 

 

 ガリィとアルカ・ノイズの出現に気付いたS.O.N.G.の司令室に緊迫した空気が満ちる。誰もが真剣な面持ちでそれぞれの成すべき事を果たすべく行動しており、漆黒のガングニールを装備したマリアのサポートに徹する。

 

 

「マリア君ッ! 発光する攻撃部位こそが解剖部位だッ! 気を付けて立ち回れッ!」

「……………ッ! 新たなエネルギー反応を検知ッ!」

 

 

 しかし、状況は絶えず変化し続ける。

 

 新たな脅威が、迫りつつあった――――――

 

 

 

 

「――――――想定外に次ぐ想定外。捨て置いたポンコツが、意外なくらいにやってくれるなんて……………」

「私が、貴女を倒してあげるッ!」

 

 

 瞬く間にアルカ・ノイズを殲滅してみせたマリアに邪悪な笑みを浮かべるガリィに、マリアが裂槍を手に迫る。一気に突き出された穂先をガリィが氷の刃を以て迎撃しようとした刹那――――――

 

 

「申し訳ありませんが、彼女との戦いはお預けにさせてもらいます」

 

 

 ガキンッ!と、甲高い金属音が鳴り響き、槍を弾かれたマリアが後退する。

 

 そこに立つのは、ボロボロのローブに身を包んだ骸骨。死者の世界からやって来た、生者の魂を狩り取る存在。

 

 

「……………お前。マスターからはなにも聞かされてないですよ?」

 

 

 楽しみを奪われたガリィが苛立ち混じりにデスドーパントを睨みつけると、彼はマリアの槍を弾いた鎌を立て、自分がここに来た理由を口にする。

 

 

「まだ彼女達は呪われた歌( ・ ・ ・ ・ ・ )を奏でる準備が整っていないご様子。ですが、準備が整った際、いつでもそれを奏でられるようにするように仕組ませる事はできますので、その為に参上したわけです。貴女が彼女と戦うのは、それからでもよろしいでしょう」

「……………チッ!」

 

 

 嫌々ながらも舌打ちしてから後を任せるようにガリィが下がると、デスドーパントは彼女に感謝の言葉を述べ、マリアを見つめる。

 

 

「あの夜以来ですね、マリア・カデンツァヴナ・イヴ様。ガリィ様とのお時間をお邪魔して申し訳ございません」

「丁度いいわ。ここで貴方も倒せば、少しはみんなが戦いやすくなれるわ」

「これはこれは……………。無理を押し通してガングニールを纏っていながら、私に勝利しようとは。その気概には感服せざるを得ません。ですが、まず貴女が戦うべき相手は、私でもガリィ様でもありません」

 

 

 左手に青い人魂のようなものを出現させたデスドーパントにマリアが警戒するが、その人魂が彼女に放たれる事は無く、彼女の少し前の地面に着弾した。

 

 着弾した人魂はやがて人一人分の大きさまで燃え上がり、いったいなにが起こるのか、とマリアは警戒しながら槍を構えた、その瞬間だった。

 

 

 

 

「――――――Seilien coffin airget-lamh tron(望まぬ力と寂しい笑顔)

 

 

 

 

 蒼炎の向こうから聞こえたのは、妖しくも美しい歌声。響き渡るそれは――――――聖詠( ・ ・ )

 

 

「そんな……………まさか……………ッ!」

 

 

 それを聞いたマリアの顔が青ざめる。

 

 

 ――――――その歌が意味するものを、彼女は知っている。

 

 

 ――――――その歌を口ずさむ者を、彼女は知っている。

 

 

 ――――――それは、いつだって忘れる事はなく、いつだって自分を支えてくれた、ある少女の歌声。

 

 

「貴女の敵は、貴女が最も愛する者……………。もうお判りでしょう? 貴女の前に立つ者が、いったい誰なのか( ・ ・ ・ ・ )を」

 

 

 炎が吹き飛び、その奥に佇む人物の姿が露わになる。

 

 ネフィリムとの決戦において、マリアが奇跡を起こして装着した、白銀のシンフォギア。しかし、彼女( ・ ・ )が纏うそれは所々に禍々しい紋様が刻まれており、希望をもたらすはずの輝きが、絶望を振り撒く闇へと反転してしまったかのようだ。

 

 闇へ堕ちた黒銀のシンフォギア。それを纏う少女の名は――――――

 

 

 

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!

 

 

 

 ――――――セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

 




 
 前書きでセレナとマリアの共闘がいいと言っておきながら敵として登場させるこの所業ッ! まさにドSッ! 次回の望まぬ姉妹の戦いを楽しみにしておくがいいッ! フハハハハハハハハッ!
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