死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 XDUの方のイベントで、スサノオに未来を殺されたであろうグレ響のその後が出てきましたが、見てるだけでも辛いの一言です。しかも驚いたことに、スサノオを探して飛んだ並行世界でノイズに襲われていた人達を、『この歌で未来を救えなかったのに、あの人達は助けられるの?』って考えが浮かんで見捨てましたからね。あの立花響が、救える力を持ちながら見捨てたんですよ? これはだいぶ追い詰められてますね。まぁ、その後すぐに後悔してたんですが。

 原神楽ちぃ(最後に全く関係ない一言)。



蘇るG/Project IGNITE

 

 街の近郊に存在する墓地。その一つの前に、マリア、調、切歌の三人が並び立つ。

 

 

「ごめんね、マム……………。遅くなっちゃった……………」

 

 

 墓石に刻まれた名前を見てポツリと呟く。

 

 そこで眠る者の名は、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。マリア達レセプターチルドレンにとっては、母親と言っても過言ではない存在。フロンティア事変の折、世界中の人間のフォニックゲインを一点集中させ、自らの命と引き換えに月の落下を食い止めた偉大なる英雄の名だ。

 

 

「マムの大好きな日本の味、お醤油デスッ!」

「私は反対したんだけど、常識人の切ちゃんがどうしてもって……………。今はいないけど、ケアンもきっと許してくれると思う」

 

 

 切歌が墓前にお供え物として醤油が入ったボトルを置く。お供え物として醤油を選ぶセンスはどうか、と思うが、この際ツッコまないでおく。

 

 ちなみに、もしこの場にケアンがいた場合、お供え物はもう少し一般的なものとなっていた。

 

 

「マムと一緒に帰ってきたフロンティアの一部や、月遺跡に関するデータは各国機関が調査してる最中だって」

「みんなで一緒に研究して、みんなの為に役立てようとしてるデス」

「ゆっくりだけど、ちょっとずつ、世界は変わろうとしているみたい」

 

 

 以前までは互いが互いを牽制し合い、好機とあらば異端技術を独占しようと考えていた各国が、少しずつではあるが手を取り合うようになってきた。

 

 遥か古代の神々によって統一言語を取り上げられてしまった人類が、呪詛の解放無しに繋がろうとしているのだ。

 

 周りの環境に大きな変化はなくとも、世界は着実に変化し続けている。しかし――――――

 

 

(私だけは、まるで変わってない)

 

 

 ネフィリムと対決したアガートラームも、先日纏ったガングニールも、どちらも他人から借りた力。窮地を潜り抜けてきたのはいつも、自分のものではない誰かの力。

 

 

「私も変わりたい……………。本当の意味で、強くなりたい」

 

 

 肉体面だけではない。精神面でも強くならなければ、これから先の戦いを生き抜けない。敵陣営には妹のセレナまで加わってしまっている。デスドーパントに操られているとはいえ、実の妹に家族殺しをさせるわけにはいかない。

 

 デスドーパントを倒し、彼の呪縛から妹を解き放つ。そんな決意が、マリアの中で固まっていた。

 

 

「それはマリアだけじゃないよ」

「アタシ達だって同じデス……………」

 

 

 調と切歌も、マリアと同じ気持ちだ。もう二度とその顔を見るはずの無かった人物が、敵に操られた状態で登場したのだ。セレナ自身、彼らの尖兵として活動するのは本意ではないはず。

 

 救わねばならない。あの時、自分達を護ってくれた借りは、彼女を救い出す事で返してあげたい。

 

 だが、昔から頼りにしていたナスターシャからの返答はない。彼女は既にこの世の者ではないのだ。もちろん、三人はそれを理解しているし、どこかから彼女の叱り声が飛んでくる事も期待していない。

 

 

「……………大丈夫よ、マム。答えは自分で探すわ」

「ここはマムが遺してくれた世界デス」

「答えは全部あるはずだもの」

 

 

 ナスターシャから託された世界。その平和を護る決意を胸に、三人は小さく微笑みながら言うのだった。

 

 

「……………ッ! マリアッ!」

 

 

 その時、三人の通信機に着信が入る。S.O.N.G.からのものだ。

 

 そうして知らされたのは、アルカ・ノイズが出現したというものだった。

 

 

 

 

「――――――はぁ、はぁ、はぁ……………ッ!」

「逃げないで歌ってほしいゾッ!」

 

 

 雨の中を走る響と未来を、多数のアルカ・ノイズを従えた赤髪の少女――――――ミカ・ジャウカーンが追う。キャロルに仕えるオートスコアラーの中で最もパワーに特化した機体である彼女は、主からの指示を受けて響のシンフォギアを破壊すべく現れたのだ。

 

 

「それとも、歌いやすいところに誘っているのか? おおッ! それならそうと言ってほしいゾッ!」

「未来、こっちッ!」

 

 

 未来を連れて建設途中の建物の中に入り、階段を上って逃げようとするが、アルカ・ノイズの一撃が階段を分解し、響は落下してしまう。

 

 

「響ッ!」

「うッ……………、未来……………」

「いい加減戦ってくれないと、キミの大切なもの、解剖しちゃうゾ?」

「……………ッ!?」

 

 

 二人に追いついたミカが上階にいる未来に狙いを定める。

 

 

「友達バラバラでも戦わなければ、この街の人間を……………、犬も猫もみんな解剖だゾッ!」

「そんな事……………ッ!」

 

 

 無辜の命を散らせるわけにはいかない、と立ち上がった響だったが、彼女とアルカ・ノイズに対抗する為の聖詠を歌おうとすると、喉元でなにかに塞がれてしまっているのか、響の口からそれが発せられる事はない。

 

 

「ん……………? 本気にしてもらえないなら……………」

 

 

 ニヤリとしたミカの手が上げられ、待機しているアルカ・ノイズに指示を送ろうとする。その時、未来の声が響いた。

 

 

「響ッ!」

「未来……………?」

「響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよッ! 伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって、私は知ってるッ! 私だから知ってるッ! だって私は、響と戦って、救われたんだよッ!」

 

 

 自分がウェルの策略によって神獣鏡(シェンショウジン)を纏い、ドーパントに変身した時も、響は『切り札』の力を宿したその手で救ってくれた。彼女が救ってくれたから、今の自分はここにいる。歪んだ形で暴走した自分を、彼女の真っ直ぐな想いが助けてくれたのだ。

 

 

「私だけじゃないッ! 響の歌に救われて、響の手で明日に繋がっている人、たくさんいるよッ! だから怖がらないでッ!」

 

 

 抵抗する術を持たない人々がノイズに襲われた時は、いつだってその手で救い続けてきた。迫り来る災厄をその拳で穿ち、ただ殺されるしかなかった者達を、死の深淵から引き揚げ続けた。

 

 その手は紛れもなく、誰かを救う為の手。その手には、多くの命を救う力がある。

 

 

「バイナラァァァッ!」

 

 

 ミカが遂にアルカ・ノイズ達に指示を出し、アルカ・ノイズ達の攻撃が未来の足場を崩し、重力に引かれて落ちていく彼女にアルカ・ノイズ達が殺到していく。

 

 

「……………ッ!」

 

 

 その時、響の心にかけられていた枷が砕け散った。

 

 自らの歌が他人を傷つけてしまうかもしれない。自分の拳が誰かの幸福を握りつぶしてしまうかもしれない。彼女の内側に満ちていた不安は、彼女の親友の言葉によって打ち払われた。

 

 ――――――覚悟は決まった。撃槍は再び、彼女の手に。

 

 今こそ、復活の時――――――ッ!

 

 

「――――――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失へのカウントダウン)

 

 

 迷いの鎖を断ち切り、その身に撃槍が蘇る。

 

 全身から迸る輝きの軌跡を残してジャンプした響は、今にも分解されそうになっていた未来を優しく抱きかかえ、アルカ・ノイズ達の攻撃から彼女を護った。

 

 

「あ……………」

 

 

 閉じていた瞼を開いた未来と、彼女を見つめる響の目が合う。

 

 その瞳には確たる覚悟の炎が燃え盛っていた。

 

 

「……………ごめん。私、この力と責任から逃げ出してた。だけどもう、迷わないッ! だから、聴いてッ! 私の歌をッ!」

 

 

 拳を握り締め、ミカ率いるアルカ・ノイズの集団と対峙する響の背中は、今まで以上に頼もしく感じる。

 

 

「私の大好きな響の歌を、みんなの為に歌ってッ!」

「もちろんッ!」

「とうとうやる気になったなッ! それでこそ潰し甲斐があるゾッ!」

 

 

 ようやくガングニールを装備した響に嬉々とした表情でミカがアルカ・ノイズ達を突撃させる。

 

 

「――――――一点突破の決意の右手」

 

 

 ガングニールを、自らの覚悟はどれほどのものかを示す姿――――――フェイトシンギュラー・ガングニールへと変化させ、意志の輝きを証明する歌を奏で、響はそれを迎え撃つ。

 

 

 

 

「――――――響ちゃん、アルカ・ノイズを次々と撃破していますッ!」

「ようやく調子を取り戻してくれたか」

「どうしようもねぇ馬鹿だな」

 

 

 撃槍という名に恥じぬ苛烈な攻撃でアルカ・ノイズを殲滅していく響の姿をモニターで見守る弦十郎達の口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「ですが、相手は戦闘特化したオートスコアラーのミカです」

「それがどうした。相手が戦闘特化だとしても、立花が(おく)れを取るなどあり得ない」

 

 

 単純な火力で押し負けていようと、響にはあらゆる逆境を乗り越える意地がある。それに、今の響は覚悟を取り戻した状態なのだ。たとえミカであろうと、今の彼女は負けないだろう。

 

 

「……………あぁ、わかった。今、響ちゃんが戦っている。僕達も行こう」

「お、フィリップ君達も出番? ほれ、準備はバッチリだからッ!」

 

 

 フィリップが今の時代には似合わない大きめのガラケーをしまい、それを見た亜樹子が彼を受け止める構えを取る。

 

 

「いつもありがとうね、亜樹ちゃん」

 

 

 見れば、いつの間に装着したのか、フィリップの腰にはダブルドライバーがあり、フィリップは懐から取り出したガイアメモリのスイッチを押した。

 

 

 

 

「――――――いいゾいいゾッ!」

 

 

 凄まじい勢いでアルカ・ノイズを全滅させた響に嬉しそうな声を上げたミカが迫ってくる。

 

 

「未来、行ってくるッ!」

「待っている」

 

 

 未来に背を押されるようにダッシュした響は、両掌から作り出したカーボンロッドを構えるミカに、己の覚悟に呼応して威力を増すフェイトシンギュラーの力を宿した右手を握り締め、一気に突き出す。

 

 

「とりゃあああああッ!」

「な……………ッ!? うわぁッ!?」

 

 

 強力な覚悟の力を体現する姿で繰り出された一撃はかなりの強度を誇るカーボンロッドを容易く打ち砕き、ミカを大きく吹き飛ばした。

 

 

「こいつ……………ッ! 圧し折り甲斐があるゾッ!」

 

 

 ただのガングニールとは比べ物にならない威力に驚愕するも、その狂喜は消えない。

 

 風を切り裂きながら飛んできた響の攻撃を凌ぎ、カウンターで新たに生成したカーボンロッドを横薙ぎに振るい、響が弾き飛ばされる。すかさず、ミカが片手から無数のカーボンロッドを射出し、それらは一気に響のギアを破壊すべく殺到するが、突如として飛んできた無数の光弾によって撃ち落されてしまった。

 

 

「そこまでだぜ、ドールガール」

「翔太郎さんッ! フィリップさんッ!」

 

 

 見れば、建物の入り口には銃型の武器――――――トリガーマグナムを構えたWが立っていた。

 

 『幻想』の右半身に、『狙撃手』の左半身を持つ形態――――――仮面ライダーW・ルナトリガーだ。

 

 

『僕達がサポートする。君は存分に戦いたまえ』

「はいッ!」

 

 

 拳を握り直した響がミカに攻撃を仕掛け、その背後からWがトリガーマグナムから光弾を撃ち出す。

 

 放たれた光弾は通常であればあり得ない軌道を描きながら、味方の響に掠りもせずにミカを攪乱させ、さらには反撃として飛んできたカーボンロッドも容易く撃ち落していく。

 

 

「ハァ――――――ッ!」

「ぐはぁ……………ッ!?」

 

 

 Wの援護もあって隙が生じたミカの胴体に、響の拳が叩き込まれた。小細工など無しに繰り出される、一点突破を得意とする響によって、ミカの体が鉄骨などが積まれた場所に殴り飛ばされる。

 

 

「これで決まりだッ!」

 

 

 Wがスロットから引き抜いたトリガーメモリをトリガーマグナムに挿し込む。

 

 

トリガー・マキシマムドライブ!

 

 

 トリガーマグナムの銃口に眩い輝きが集まり、響が突撃すると同時にWは引き金を引く。

 

 

「『トリガーフルバースト!』」

「これで、終わりッ!」

 

 

 まず最初にトリガーマグナムから同時発射された無数の破壊光弾がミカに大ダメージを与え、直後に響の渾身の一撃で撃破――――――それが、Wと響のタッグ攻撃によって導き出される結果だ。

 

 ――――――が、それは『結果』であり、『過程』ではないのだ。

 

 導き出される結果がわかっていても、そこに行きつく為の過程が確立できていなければ、到達するべき終着点は永遠に訪れない。

 

 その例が今、彼らの目の前で起こった。

 

 

「あ、え……………ッ!?」

 

 

 破壊光弾が直撃したミカが、地面に落とした水風船のように弾け飛び、響の拳は標的を捉えられずに大量の水に穴を開けた。

 

 

「残念。それは水に映った幻( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

 

 

 この場にいるのは、Wと響、そしてミカだけではない。

 

 本当なら主と共に自分達を率いるはずだった男の件でキャロルをおちょくった結果、彼女から課せられてしまった命令を渋々ながらも承諾したガリィもいたのだ。

 

 水や氷を操るガリィにとって、水を使って誰かの偽物を作り上げる事など造作もない。

 

 

「あははははッ!」

 

 

 そして、彼女によって作り出された好機(チャンス)を、ミカが見逃すはずがない。

 

 響の真下。そこに仰向けになっていたミカの掌からカーボンロッドが生成され、がら空きとなった響の胸元――――――そこにあるペンダントを破壊すべく射出されかけているのが見えた。

 

 拳を振り抜いた影響で回避はおろか、防御さえ不可能な響は、ただそれを見つめているだけで――――――

 

 

 

「――――――そうはさせねぇッ!」

 

 

 

 その瞬間、Wが文字通り右腕を伸ばした。際限などないとばかりに伸びた右腕は奥の柱に巻き付き、すぐに縮小。凄まじい勢いでWが響とミカの間に割り込んだ直後、カーボンロッドが勢いよく撃ち出された。

 

 

「ぐああああああああああああッ!」

 

 

 割り込んだ事もあって、彼我の距離は全く存在しない。そんな状態で発射されたカーボンロッドは、仕留めるべき(えもの)の代わりに、予期せぬW(えもの)を穿ったのだ。

 

 背後にいた響共々打ち上げられたWは、胸部に走る激痛を堪えながらも、その両目はしっかりと、驚愕しているミカとガリィの両名を捉えていた。

 

 

「来い、スタッグッ!」

 

 

 Wの呼びかけに応じ、どこからともなくやって来たスタッグフォンがトリガーマグナムにセットされ、再びトリガーメモリを装填し直してマキシマムドライブを発動する。

 

 

「『トリガースタッグバースト!』」

 

 

 ミカとガリィの間に向けられた銃口から二本のビームが放たれ、それに気づいたミカはカーボンロッドを、ガリィは氷の壁を用いて防御するが、高出力のエネルギーであるビームを凌ぎ切る事は叶わず、爆発。二機の視界を黒煙で遮った。

 

 

『響ちゃん。翔太郎と未来ちゃんを連れて逃げるんだ。彼女達はこの程度じゃ止まらないッ!』

「は、はいッ!」

 

 

 Wと未来を抱え、響は建物内から出ていく。その直後に黒煙を払ってミカとガリィが現れるが、響達がもういない事に気付くと、悔し気に拳を握り締めるのだった。

 

 

 

 

 ――――――建設現場から大分離れた場所まで逃げた響は、両脇に抱えていたWと未来を下ろす。

 

 

「大丈夫ですか?」

「へへ……………、子どもを護るのが、仮面ライダーの使命だからな……………」

 

 

 ゼロ距離から受けたカーボンロッドのダメージが相当大きかったのか、Wの変身が解除され、翔太郎の体が前のめりに倒れる。

 

 

「翔太郎さん……………? 翔太郎さんッ!」

 

 

 気を失うその瞬間まで、翔太郎の鼓膜には自分の名を叫び続ける少女の声が響き続けていた。

 

 

 

 

「――――――シンフォギアを完全に破壊できるに余りある威力の攻撃をゼロ距離から受けたのよ。こうなるのも無理は無いわ。というより、肋骨の一本も折れていないのがおかしいくらいだわ。けど、無理はしないように」

「助かるぜ、了子さん……………」

 

 

 メディカルルームで病衣に身を包んだ翔太郎がベッドに横になると、自分をここまで連れてきてくれた響に視線を向ける。

 

 

「そんな顔すんなって。あれは俺が自ら進んでした事だし、お前が責任を感じる必要はねぇよ」

「でも……………」

「響」

「……………うん。ありがとうございます、翔太郎さん」

「あぁ。……………さ、早く行きな。大丈夫。俺は少しの間戦えなくなるだけだ。俺の他にも照井やフィリップがいる。それに、NEVER(あいつら)もな」

 

 

 かつては恐るべき強敵として立ちはだかった彼らだが、今は同じ敵を打倒すべく結託した者同士。彼らが力になってくれるなら、心強い事この上ない。

 

 頷いた響達がメディカルルームを出ていくと、彼女達と入れ替わるようにフィリップが入ってくる。

 

 

「また無茶をしたね。翔太郎」

「文句でも言いに来たのか? フィリップ」

「実に君らしい行動だと思ったまでだ。まぁ、もう少し自分の体を大事にしてほしい、とは思うがね」

「なんだよ。やっぱり文句じゃねぇか。……………なぁ、フィリップ」

「なにかな?」

「こんな状況だけどよ。嬉しいって感じてる俺がいるんだ」

 

 

 椅子に腰を下ろし、パラパラとシンフォギアシステムやノイズについての資料を捲っていたフィリップが顔を上げる。

 

 

「大道克己の事かい?」

「流石、フィリップ。お見通しってわけか」

「以前の君が言ったように、運命さえ違えば、彼は僕らと共に、風都を護る仮面ライダーになっていたかもしれない。こちらの世界に飛ばされるまで、それはあくまでif(もしも)の話だったが、それは今、ほぼ現実のものとなった」

 

 

 場所は違うけどね、と笑うフィリップに確かに、と笑いながら返す翔太郎。

 

 

「ミーナの記憶から再現された彼らだが、彼らは決して虚像ではなく、本物。僕らと戦った記憶こそあるようだけど、精神はあの時ほど残忍ではないはずだよ。少なくとも、用済みだからと仲間を手にかける事にはならないはずだ」

 

 

 あの時の克己は、自分に利益をもたらさないのであれば仲間であろうと容赦しない悪魔だった。今まで自分達が戦ってきた相手の中でも、『最強』にして『最凶』であると言っても過言ではないだろう。少なくとも彼らは、あの時の彼以上の悪を見た事が無かった。

 

 

「そういえば、大道克己は君に色々話を聞きたがっているそうだよ。中々踏み出せていないようだが……………」

「やっぱ調子狂うな。あいつが体育教師をやってるのもそうだが、俺と話そうともしているなんてな。あいつ、俺とどんな話をしたがってるんだろうな?」

「僕はなんとなく理解できるね。彼が君に訊きたがってる事は」

「あん? もったいぶってないで教えてくれよ」

半熟の卵(ハーフボイルド)なりに考えてみなよ、翔太郎」

「あ、おい、待てよッ! フィリップッ!」

 

 

 翔太郎が呼び止めようと声をかけるが、フィリップはひらひらと手を振ってメディカルルームから出ていってしまった。

 

 

「なんだよ、あいつ……………」

 

 

 取り残された翔太郎は、克己が自分になにを聞きたがっているのかと、むむむ……………と考え始めるのだった。

 

 

 

 

 ――――――司令室。そこにやって来たフィリップを見て、第一に弦十郎が口を開く。

 

 

「翔太郎君の様子は?」

「彼は誰に対しても裏表なく接する性格だよ。僕以外に虚勢を張ったりなんかしないさ」

「そうか」

 

 

 答えを聞いた弦十郎の声は少し嬉しそうだ。翔太郎が周りに気を遣わせまいと虚勢を張っているかもしれないと思っていたのだが、どうやらそれは余計なお世話だったようだ。

 

 

「俺もこの後、彼にお礼を言いに行くとしよう。彼が庇っていなければ、今頃あそこで寝ていたのは響君だったはずだし、ギアも破壊されていたはずからな」

「翔太郎さんの頑張りを無駄にしない為にも、頑張らなきゃッ!」

「その通りだ。私達とて、このまま燻っていられるものかッ!」

「あたしらならやれる。だから、『Project IGNITE』を進めてくれッ!」

「……………よろしいですか、弦十郎さん」

 

 

 エルフナインの問いかけに、弦十郎は重々しく頷く。

 

 

「あぁ。これより、『Project IGNITE』を開始するッ!」

 

 

 

 

「――――――のわあぁぁぁぁぁッ!?」

「パパッ!?」

 

 

 時は遡り、数百年前のとある町。そこの一角に建てられた家のリビングで、大きな爆発が起きた。

 

 何事か、とリビングに跳んできた少女――――――キャロルが見たのは、黒焦げになった父親――――――イザーク・マールス・ディーンハイムだった。

 

 

「……………鍋が爆発したぞ?」

「ぷ……………あはははは。もう、料理なのにどうして爆発させられるの?」

 

 

 ただの料理のはずなのに、なぜ爆発するのか、とおかしくて笑うキャロルに、イザークは鍋に満たされた料理を見る。

 

 

「だがきっと、味は……………味は……………、う、美味いか?」

 

 

 差し出された料理を口に含むと、キャロルの顔が苦虫を嚙み潰したようなものになる。

 

 

「……………苦いし臭いし美味しくないし。0点としか言いようが無いし」

「はぁ。料理も錬金術も、レシピ通りにすれば間違いないはずなんだけどなぁ。どうしてママみたいにできないのか……………」

「明日は私が作る。その方が絶対に美味しいに決まってるッ!」

「コツでもあるのか?」

 

 

 自信満々に言ってのける娘に問いかけるも、キャロルは悪戯っ子のような笑みを浮かべて答えない。

 

 

「ん……………内緒。秘密はパパが解き明かして。錬金術師なんでしょ?」

「ははははは。この命題は難題だ」

「問題が解けるまで、私がずっとパパのご飯を作ってあげる。えへへ。……………ねぇ、パパ」

「ん? なんだい、キャロル」

「その、ね? また、あの本を読んでもらいたいなって……………」

 

 

 もじもじし始めたキャロルが口にした『本』という単語から導き出されるものは、イザークにはすぐに理解できた。

 

 この家には自分が修得してきた錬金術に関する書物も含めて、大量の書物が存在するが、娘が言う『本』は、錬金術というカテゴリーには属さないものだ。

 

 

「もちろん。他ならないキャロルの頼みだからね」

「本当ッ!? ありがとう、パパッ! 絶対に読んでねッ! 悪いドラゴンからお姫様を救う、騎士様のお話ッ!」

 

 

 それは、今は亡きキャロルの母親が、寝物語としてキャロルに聞かせていた御伽噺。

 

 女の子であれば誰もが憧れるような、そんな絵物語。

 

 

 ――――――運命の出会いまで、残り■日。

 

 

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