fgo×モンハン小説のお気に入り登録者が増えて嬉しい……………嬉しい……………。二作品執筆は少しキツイですが、まだ余裕があるので頑張れます。それでは開始ですッ!
「パパ、どこまで行くの?」
清々しい青空の下、キャロルはイザークに訊ねる。既に家を出発して大分時間が経っている。遠出をするという事は予め聞かされ、それに相応しい身支度もしていたが、まさかここまで遠い場所に来るとは思わなかった。
「この先で採れるアルニムという薬草には、高い薬効があるらしい。その成分を調べて流行病を治す薬を作るんだ。……………見てごらん」
「……………? うわぁ……………ッ!」
イザークの視線を追った先にあるのは、広大な湖だ。人工物など一つもなく、まさに自然そのものを象徴するような光景を前に、キャロルは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「パパはね、世界の全てを知りたいんだ。人と人がわかり合う為には、とても大切な事なんだよ。さぁ――――――……………ッ!?」
行こう、と言いかけたその時、イザークの聴覚は異様な音を拾った。
それは、山を登っていると稀に聞きつける、獣の呻き声のようなものだった。
「パパ……………ッ!」
「キャロル、パパから離れないように」
怯え始めたキャロルの手を強く握り、イザークは注意深く周囲を見渡すが、呻き声のようなものをあげた存在はまるで見つからない。
森の中であれば、いつどこから襲ってくるか気が気でならないが、今自分達がいるのは大きく開けた場所だ。こちらを狙っている動物がいるのなら、その姿が見えないはずが無い。
だというのに、呻き声はさらに大きくなっていく。しかしそのおかげで、その根源がどこにいるかの大まかな方角は摑めた。
「……………? あれは……………」
その方角を視線を向けると、まず最初に低木が見えた。そして次に見えたのは、そこから僅かに伸びている、二本の足だったのだ。
「……………まさか、ね?」
それを見た瞬間、イザークは先程まで神経を張り詰めさせていた自分が馬鹿らしく思えて苦笑した。
「パパ?」
「大丈夫だよ、キャロル。ここに獣はいない。さっきの音の正体は、
「え……………?」
そこでキャロルも低木の下にいる人物に気付き、恐る恐る低木の下を覗き込む。
「あ……………?」
「あっ」
黄緑色の瞳と目が合い、キャロルはびっくりしてイザークの背後に隠れる。イザークはそんな愛娘が少しおかしくて小さく笑った後、キャロルと同じように低木の下にいる人物を見る。
不思議な格好だ。全身にぴっちりと張り付いていると考えられる服装の青年の目には、微かな警戒心が宿っている。
「大丈夫かい? だいぶやつれてるけど……………」
安心させるように優しい声で訊ねると、イザークに敵意はないと感じ取ったのか、青年の瞳から警戒心が薄れていき、掠れるような声で答えた。
「……………飯」
「飯? ……………うん、少し待ってて」
背負っていたリュックから、昼食用に作っておいたサンドイッチを差し出すと、青年はひったくるようにそれを奪い、ガツガツと食べ始めた。
「パパ、よかったの?」
「う~ん……………。でも、こんな人見過ごせないよ。この様子を見るに、お腹が空いてたみたいだね」
「お腹が空くと、あそこまで鳴るものなの……………?」
「たぶん、長い間なにも食べてなかったんだと思う」
イザークとキャロルがそんな会話をしているうちに、青年はサンドイッチを食べ終え、低木から出てきた。
「ここしばらくなにも食べてなかったんだ。本当にありがとな。そして、すまねぇ」
「いやいや、僕が決めてあげたんだから、謝る必要は無いよ。僕はイザーク・マールス・ディーンハイム。こちらは娘のキャロルだ。君の名前は?」
「エン――――――いや、俺は……………」
なにかを言いかけて途中で止めた青年は、一瞬だけ考えるような素振りを見せた後、こう口にした。
「エルリン。エルリン・ラインハルトだ」
これが
「――――――パパ、エルリン……………」
遥か昔の記憶を呼び起こしていたキャロルは、そっと瞼をこじ開ける。しかし、そこにはあの頃の光景は広がっていない。何度も目にしてきた、忌城の一室だ。
「……………始めようか。想い出を力と換えて――――――万象黙示録の完成の為に」
託された命題。『世界』という名の謎を解き明かす為、孤独な姫は拳を握り締めた。
「――――――挨拶など無用 剣舞う懺悔の時間 地獄の奥底で 閻魔殿にひれ伏せ」
ギアを翼風刃に変化させた翼が、胸の内より湧き上がる歌を口ずさんで駆けだし、暴風の剣を以てアルカ・ノイズの大群を消滅させる。
「――――――一つ目は撃つ 二つ目も撃つ 三つ四つ めんどくせぇ……………キズナ」
対するクリスもギアをアズゥティラールに変え、二丁の蒼白のマグナムで次々とアルカ・ノイズをハチの巣に変えていく。
「――――――なめるでないッ!」
「――――――なめんじゃねぇッ!」
「うおおおおおおおおおおッッ!!」
翼とクリスが切り拓いた道を稲妻のように突っ切ってきた響が、フェイトシンギュラーの拳でミカとガリィに攻撃を仕掛ける。
「うわぁッ!?」
「なにぃッ!?」
咄嗟にミカの前に躍り出たガリィが氷の壁で攻撃を阻もうとするも、今の響の拳の前では飴細工も同然。簡単に突き破られ、二人まとめて殴り飛ばされてしまった。
『アームファング!』
「ハァ――――――ッ!」
「シィ――――――ッ!」
そこから離れた場所では、Wとエターナルがラメンターのドーパント達と交戦している。
「ぬぅ……………ッ!」
「ガ……………ッ!」
Wの右腕に出現したアームセイバーがデスドーパントを、エターナルのエターナルエッジがファイタードーパントを切り裂いて火花を飛び散らせ、斬りつけられた二人が僅かに後退する。
「ハァ……………ハァ……………ッ!」
『クールダウンしろよ、相棒。久々にファングの荒さに呑まれかかってるぞ』
ファングジョーカーは高い機動力と戦闘力を誇るが、あまりにも強力なファングメモリを使用している為、本体のフィリップが暴走してしまう危険性がある。とあるドーパントとの戦いにおいてその危険性は抑えられているが、それでも気を抜けば『牙』の記憶に呑まれかねない。
「君と一つになっていれば大丈夫だ、翔太郎。
「自信がないのか? 随分と弱くなったな」
『へッ! んなわけあるかよッ!』
デスドーパントの人魂とファイタードーパントの銃弾を回避したWはファングメモリのレバーを二回押す。
『ショルダーファング!』
肩に出現したショルダーセイバーを手にするや否や投擲。風を切り裂いて飛んでくる白刃を二体のドーパントが弾き飛ばすが、そこへすかさずエターナルが飛び込んでくる。
『ユニコーン・マキシマムドライブ!』
「うぉらぁッ!」
ドリル状のエネルギーを纏ったエターナルの拳が叩きつけられたドーパント達が吹き飛ばされる。彼らが飛んでいく先には、響によって殴り飛ばされたミカとガリィの姿がある。
「翼さん、クリスちゃんッ!」
「承知ッ!」
「言われるまでもねぇッ!」
翼は周囲に吹き始めた突風を剣に纏わせ、クリスはマグナムを合体させたバスターライフルを構える。
『翠ノ疾閃』
『TRAITOR's ROAR』
地を抉り取る暴虐の嵐と、全てを貫く蒼紅のレーザーがオートスコアラーとドーパント達に直撃し、彼らの姿を爆発で生じた黒煙が覆い隠す。
「ふん、ちょせぇッ!」
「……………いや、待てッ!」
黒煙の奥からなにかが輝いたのを見逃さなかった翼が注視する先、徐々に黒煙が晴れていく。
そこにいたのは、黄金の障壁を以て翼とクリスの技を防ぎ切ったキャロルと、自らの靄を盾状にして攻撃を受け止めたアルケウスドーパントの姿があった。
「間一髪。助かりましたよ、マスター」
「面目ないゾ」
「いや、手ずから凌いでよくわかった。オレの出番だ。全てに優先されるのは計画の遂行。ここはオレに任せてお前達は戻れ」
「お前達も下がれ。ここからは俺が出る」
「わかったゾッ!」
「……………ご武運を」
オートスコアラーとドーパント達がテレポートジェムを砕いて姿を消すと、防御態勢を解いたキャロルとアルケウスドーパントが並び立ち、仮面ライダーと装者達に向かってくる。
「ラスボス共のお出ましとはな」
「だが、決着を望むのはこちらも同じ事ッ!」
「ガイアメモリに強化されたギアを纏って調子に乗るのもいい加減にしろ。この身一つでお前らを相手にするくらい、造作も無い事……………」
「では、俺は仮面ライダー共の相手をしよう。怪人は正義の味方と戦う定めにある」
「……………貴様はとっととやられてしまえ」
『なぁ、フィリップ。いくら敵のボスとはいえ、子どもとやり合うのは気が引けるんだが……………』
悪態を吐いて向かってくるキャロルを見たWから翔太郎の声が漏れる。それはこの場において、克己を除いた全員が思っているだろう。しかし、それを聞きつけたキャロルはムッとして口を開いた。
「……………なるほど。ナリを理由に本気が出せなかったなどと、言い訳されるわけにもいかないな。……………ならば、刮目せよッ!」
キャロルが左手を翳すと空中になんらかの術式が浮かび上がり、そこから一台のハープを取り出し、美しい音色を奏で始めた。
「――――――まさか、あれは……………ッ!」
キャロルが取り出したハープを見たフィーネが息を呑んだ瞬間、司令室にサイレンが鳴り響く。緊急事態を告げるものとは違うものだ。
「アウフヴァッヘンッ!? ……………いえ、違います。ですが、非常に近いエネルギーパターンですッ!」
「まさか、聖遺物の起動ッ!?」
「ダウルダブラのファウストローブ……………ッ!」
驚愕するマリアの隣にいたエルフナインが、モニターに映し出されているキャロルの持つ『それ』を見て、緊迫した様子で『それ』の名を口にした。
――――――ファウストローブ。それは、聖遺物の欠片より変換されたエネルギーを、錬金技術の粋によってプロテクターの形状として錬成させたものである。聖遺物の力を活性化させて使用者の身に纏わせるという意味ではシンフォギアと非常に近しい存在だが、シンフォギアとの明確な違いは、戦術起動の際に『歌』を必要としない点だ。
シンフォギアが聖遺物と科学の融合で生まれたものなら、ファウストローブは聖遺物と錬金術の融合。似ているようで似ていない存在なのである。
ダウルダブラとはケルト神話の主神、ダグザが用いたとされる竪琴の名称。この竪琴は演奏者なしでも巧みに奏でられ、天候を操る能力すら有していたという伝説を持つものだ。
「これくらいあれば不足はなかろう?」
そう言って仮面ライダーと装者達に見せつけるように大きく育った自分の胸を触ったキャロルの姿は、先程までの子どもの姿ではなく、成人した美しい女性のものへと変貌している。
「大きくなったところでッ!」
「張り合うのは望むところだッ!」
三人の装者がキャロルに挑む傍ら、アルケウスドーパントは何度か首の骨を鳴らしながらWとエターナルに近づいていく。
「風都を護る仮面ライダーの一人、W。最恐の傭兵部隊NEVERのリーダー、エターナル。お前達は我々の計画の大きな障害だ。ここで潰す」
「悪いけど、そう簡単にやられるわけにはいかないね。君の思い通りにさせるわけにはいかない」
「ここで倒れるのはお前だ。さぁ――――――地獄を楽しみなッ!」
構えを取ったWとエターナルに、アルケウスドーパントが襲い掛かる。
暗黒の軌跡を残しながら振るわれた凶爪を躱したエターナルの攻撃を受け流したアルケウスドーパントにWの拳が迫るが、それを掴んで受け止めたアルケウスドーパントはそのままWをエターナルに放り投げた。
さらに靄状の爪を巨大化させ、鎌と見紛う鋭利なものと化したそれを二人に振るってくる。
「合わせろッ!」
「あぁッ!」
『おうよッ!』
『ファング・マキシマムドライブ!』
『アームファング!』
蒼白の牙状のオーラを纏ったエターナルエッジとアームセイバーが煌めき、迫り来る凶爪を弾く。アルケウスドーパントの体が僅かに仰け反り、そこへエターナルはエターナルエッジを投擲する。
アルケウスドーパントの体から火花を飛び散らせたエターナルエッジはブーメランのように主の右手へ戻り、エターナルはマキシマムスロットからT2ファングメモリを引き抜いた後、新たなT2ガイアメモリを挿し込み、Wはレバーを二回押す。
『バイオレンス・マキシマムドライブ!』
『ショルダーファング!』
「ぬおおおおおおお……………ッ!?」
強化されたエターナルの拳と、ショルダーセイバーを伸ばしたWのショルダータックルが炸裂し、アルケウスドーパントが大きく後退するが――――――
「ぐぅ……………ッ! 舐めるなあああああああッッ!!」
「……………ッ!? ぐわぁッ!?」
「く……………ッ!?」
全身から放出された暗黒の波動に堪らず吹き飛ばされたエターナルとWが顔を上げた瞬間、一気に距離を縮めてきたアルケウスドーパントに殴り飛ばされた。
『なんつーパンチだ……………ッ! こりゃ、これまで戦った中でも一番強ぇぞッ!』
「あの身のこなしから、恐らく憑依している人物の身体能力が高いんだろう。……………大道克己、彼を抑え込む事はできるかい?」
「不可能ではない。だが、簡単にそうさせてはくれないだろう……………なッ!」
横薙ぎに振るわれた巨大な靄爪を伏せて回避し、素早い動きで接近するエターナルをアルケウスドーパントが迎え撃つ。
――――――キャロルの指から伸びた弦が地面を容易く切り裂きながら三人に迫る。飛び退いて回避した響が翼と共にキャロルに走り出すと同時、クリスがマグナムから光弾を乱射する。
迫り来る光弾を黄金の障壁で防ぐキャロルに響と翼が挟み撃ちする形で攻撃を仕掛けるが、これもキャロルが新たに張った障壁に防がれてしまう。
「温いな、装者共ッ!」
「うわぁッ!?」
「く……………ッ!」
障壁に押し飛ばされた二人に向かってキャロルが術式を展開。今度は燃え盛る炎のような赤色の術式で、間髪入れずに灼熱の業火がそこから放たれた。
咄嗟に炎を回避した二人だが、自分達を逃した炎が直撃した施設が大爆発を起こしたのを見て、その威力に戦慄する。
「な……………ッ!?」
「この威力……………まるで絶唱ッ!?」
「舐めるなよ、オレの力はこんなものじゃないッ!」
今度は竜巻を発生させてきたキャロルに、翼が翼風刃の竜巻で迎え撃つ。両者の暴風がぶつかり合い、互いを食い尽くさんと暴れているのを見て、キャロルは「ほぅ?」と小さく笑った。
「オレと互角か。だが、それは所詮ガイアメモリの力あってこそ。そんなのじゃ、オレは止められないッ!」
「ぐ、あぁ……………ッ!」
「翼さんッ!」
「先輩ッ!」
二つの竜巻が爆散し、その風圧に吹き飛ばされた翼を響とクリスが受け止めるが、そんな三人に今度は激流が襲い掛かってきた。
「「「ぐあああああああッ!?」」」
激流に押し流された三人が地面に倒れ伏すのを見て、キャロルは愉快そうに笑う。
彼女がここまでの実力を発揮できるのは、彼女が過去に得た記憶――――――『想い出』を力に変換錬成させているからである。出撃前の彼女の言葉は、言葉の綾などではない、真実のみを表していたのだ。
しかし代償として、力と換えた『想い出』は文字通り焼却され、キャロルは都度記憶を失っていく定めにある。先程も力を使った影響で、なにかの記憶が消えたが、そんなのは数百年の時を生き、常人では保有し切れない量の『想い出』を備えているキャロルにとってはなんの問題でもないのだ。
「大丈夫か、立花、雪音……………」
「な、なんとか……………」
「全く勝てるビジョンが思いつかねぇが、『アレ』を試すには丁度いい相手だ……………。付き合ってくれるよな?」
「もちろんッ!」
「雪音一人で行かせるものか」
立ち上がり、頷き合った三人を見て、キャロルは余裕そのものな態度のままだ。
「フ、玉を隠しているなら見せてみろ。オレは、お前らの全ての希望をブチ砕いてやる」
「言ったな? なら、たまげるんじゃねぇぞッ!」
「二人共、いくよッ!」
そして三人は、それぞれの胸にあるマイクユニットを握り締め、叫ぶ。
「「「――――――イグナイトモジュール、抜剣ッ!」」」
放り投げたマイクユニットの形状が変化し、鋭い針となる。その針には微かに赤黒い稲妻のようなものが纏っており、まるで血に飢えた獣のような雰囲気を感じさせる。三人の少女達はその針を受け止める覚悟を決めて針を見上げた瞬間、それに応えるかのように飛んできた針が胸に突き刺さった。
「ぐ、うぅ……………ッ!」
「が、アァ……………ッ!」
「ア、アァ……………アアアアアアア……………ッ!」
心臓が一際大きく鼓動したかと思えば、心の奥底からドス黒い邪悪な意思が溢れ出してくる。その意思は可視化できるほどの邪悪なエネルギーとなって三人の体を包み込み、そのまま彼女達を破壊の使徒へと変貌させようとしてくる。
(
(クソ……………ッ! 気を抜けば一瞬で深淵に真っ逆さまだ……………ッ!)
今にも視界に入るもの全てを破壊し尽くしたい、という途轍もない破壊衝動に身を駆られるが、彼女達は必死にそれを抑え込み、その暴虐の力をものにしようと足掻き続ける。
イグナイトモジュールのコアとなる聖遺物の名は、ダインスレイフ。北欧神話の英雄ヘグニが所有していた、一度抜けば他者を斬り殺すまで鞘に収まらない殺戮の魔剣。その呪いは誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こすものである。
しかし、その力の源が自らの心であるのなら、理論上それを従える事が可能だ。人の心と英知がダインスレイフに引き起こされる破壊衝動を捻じ伏せる事ができれば、シンフォギアはさらなる領域に足を踏み入れられるのだ。
その力を用いれば、大量の『想い出』を保有しているキャロルの錬金術にさえも打ち勝てるかもしれない。
(不覚……………ここまで、なのか……………ッ!?)
(ちっくしょう……………ッ! 心が、闇の底に……………ッ!)
だが、それは濁流のように押し寄せる破壊衝動に打ち勝った時のみ得られるものであり、現在の翼とクリスは、その破壊衝動に打ち勝てずに深い闇の底へ落ちかけていた――――――その時だった。
「諦めちゃ駄目ッ!」
「「……………ッ!?」」
苦し紛れに叫んだ響の手が、二人の手を強く握り締めたのだ。翼とクリスとは違い、過去に暴走した経験がある響の体は、その身を呑み込まんとする破壊衝動への耐性を無意識に備えていたのだろう。そのお陰で、響は他の二人よりも理性を保てていたのだ。
「邪悪な心に負けないでッ! 忘れないで……………ッ! 私達が、なんの為に戦っているのかをッ!」
その言葉にハッと気付かされる。なぜ自分達は、この力を手に戦場へ臨むのか。なぜ自分達は、この力で数多くの敵を打ち倒してきたのか。
それは全て、今ある日常を護る為。超常の脅威から無辜の人々を護る為、自分達はこの力を手に取ったのだ。
「天羽々斬……………。私に、天を衝く力を……………ッ!」
「イチイバル……………ッ! あたしに、奴に突き立てる牙を……………ッ!」
「応えて、ガングニール……………ッ! 私に、みんなを護る為の力を……………ッ!」
かつて、フィーネが口にした言葉を思い出す。迫り来る月を押し返す際、彼女は『胸の歌を信じなさい』と言った。
ならば、信じよう。胸の歌を、シンフォギアを――――――ッ!
「……………フッ、この馬鹿に乗せられたみたいで恰好つかないが……………」
「あぁ、お陰で自分を取り戻せたッ!」
三人は自らに力を貸してくれたシンフォギアに祈りを込めながら、破壊衝動に耐え続ける。
「――――――呪いなど切り裂けッ!」
「撃ち抜くんデスッ!」
「恐れずに砕けば、きっと……………ッ!」
司令室でマリア達が叫ぶ。
「負けないで、響ちゃん、翼ちゃん、クリスちゃんッ!」
「負けるなんて許さないわよ。胸の歌を信じなさいッ!」
祈るように両拳を握った亜樹子が叫び、彼女達の意志の力を信じているフィーネが叫んだ。
(響……………ッ!)
そして未来もまた、大切な親友は心の闇に呑まれないと信じ、祈り続ける。
(――――――未来が教えてくれたんだ。力の意味を背負う覚悟をッ!)
響の歌は誰かを傷つける歌じゃない、と。伸ばしたこの手は、誰かを傷つける手ではない、と。そう信じてくれた彼女の為にも――――――
(だから、この衝動に塗り潰されて――――――)
胸の歌を強く信じ、自分達の意志を表明するかの如く叫ぶ。
「「「なるものかあああああああああああああああああッッッ!!!」」」
三人の咆哮が轟いた瞬間、それぞれの戦装束が変化を始める。
ガイアメモリの強化形態が解け、一度通常のギアに戻る。すると、三人の胸に刺さったマイクユニットを中心に暗黒の華が咲き、それを中心に彼女達の見た目を邪悪なものへと染め上げていく。
ギアのデザインは黒を基調としたものに変わり、全体的に刺々しいイメージに変化。禍々しくも、自らの闇を完全に制御した姿。
これこそが『Project IGNITE』の到達点――――――イグナイトモジュールである。
「ほぅ? まさか一度目で成功するとは。では、その力がどれほどのものか、見せてもらおうではないか」
三人がぶっつけ本番で成功するとは期待していなかったのか、少し意外そうに呟いたキャロルはジェムを砕いてアルカ・ノイズを出現させる。
「たかがアルカ・ノイズッ!」
「性懲りもなく雑魚を呼び出しやがってッ!」
「蹴散らすぞッ!」
襲い来るアルカ・ノイズの大群を、黒き戦姫達が迎え撃つ――――――