死神に鎮魂歌を   作:seven74

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Hの苦難/向き合う勇気

 

「改めて自己紹介を。私はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。そちらにいるマリア・カデンツァヴナ・イヴの妹で、アガートラームの装者です」

 

 

 翌日、S.O.N.G.本部に招かれたセレナは、弦十郎を始めたメンバー達に自己紹介をしていた。

 

 数年前のアルビノ・ネフィリムの暴走事件。施設にいる家族を護る為にアガートラームのシンフォギアを身に纏い、自分の命さえ勘定に入れた絶唱で、純白の怪物を鎮めた少女。彼女はその際に間違いなく死亡したが、デスドーパントの能力によって蘇り、今こうして彼らの前にいる。

 

 

「以前、僕が地球(ほし)の本棚を使ってデスドーパントの能力を調べた時、彼は『蘇らせた対象に呪詛を刻み込み、意のままに操る』というものがあった。呪詛――――――つまりは呪い。一般的な方法ではこの呪いは絶対に解けないものだったが、マリアが使ったのは呪いの魔剣(ダインスレイフ)の力を応用したイグナイトモジュール。恐らくデスドーパントの呪詛にダインスレイフの呪いが打ち勝ち、こうしてセレナ・カデンツァヴナ・イヴに自我を取り戻させたのだろう」

「つまり、もうセレナは……………」

「僕らを襲う事はないだろう。彼女がそうしようと思わない限りはね」

「そんなッ! しませんよ。そんな事」

「うぅ……………ッ! 嬉しいデスよッ! またこうしてセレナと会えるなんてッ!」

「きゃあッ!? も、もう、暁さんッ! いきなりすぎですよッ!」

 

 

 いきなり切歌に抱き着かれて驚いたセレナだが、満更でもなさそうな顔をしている。彼女自身、もう会えないと思っていた少女達と再会できたのは嬉しかったようだ。

 

 

「よかったな。マリア」

「えぇ……………。本当によかった……………」

「ん? 待ってください。セレナちゃんがこうして自我? を取り戻せたのなら……………。ひょっとしたら、奏さんも……………」

「……………ッ!」

 

 

 響の言葉に、翼の目の色が変わる。

 

 

「フィリップ君、その辺については……………」

「こうして目の前に前例がある以上、確率は高いといってもいいだろう」

「……………ッ! そうか……………。そうか……………ッ!」

 

 

 フィリップに告げられた情報に、翼は堪らず笑顔になる。

 

 マリア達と同じように、自分もまた喪った存在を取り戻す事が出来るかもしれないという可能性が見えたのだから、当然とも言えるだろう。

 

 

「セレナ君。君さえよければ、その力を我々に貸してほしい。今回の敵は強大だ。嫌ならば断わってくれても構わないが、どうだろうか?」

 

 

 源十郎の問いかけに、セレナは少し考え込み、それから口を開いた。

 

 

「……………私、戦います。誰かを傷つけるのは嫌ですが、私が戦わなくてマリア姉さん達が苦しむのなら、私は戦います」

「セレナ……………」

 

 

 自分を見つめてくる姉を見て、セレナはニコッと笑った。

 

 

「協力、感謝する。君が過ごす部屋は現在準備中だ。それまで、マリア君達と話しているといい」

「ありがとうございます」

 

 

 そうして、セレナはマリア達との数年越しの歓談を始める。

 

 この後、セレナの要望に沿って彼女は調と切歌が通っているリディアンへの転入が決定され、これを聞かされた二人は大喜びするのだった。

 

 

 

 

 

「――――――まぁまぁ、といったところかな」

 

 

 翌日。図書館から出てきたフィリップは少し晴れやかな気持ちで呟いた。

 

 シンフォギアやノイズといった、自分達の世界には存在しない技術や存在がある異世界に飛ばされるという、通常では考えられない出来事に見舞われたが、フィリップはこれを良い機会だと捉えていた。

 

 なにせ、別世界である。自分達の世界にはない本があるだろうし、もしかしたらこちら側とは違う、歴史の変化があるのではないか、と思い、この図書館に訪れたのである。

 

 結果、自分達の世界とこちらの世界との違いはほとんどなかった事がわかった。けれど、違いもある。

 

 科学技術の発達もそうだが、歴史や神話について調べてみると、興味を抱いたものがあった。

 

 

「僕らの世界と異なり、こちらの世界ではエンキとエンリルが協力関係にあったとはね。案外、調べてみるものだ」

 

 

 エンキとエンリル。それはメソポタミア神話に登場する神々の兄弟の名である。詳細は省くが、フィリップ達の世界では、彼らは人類の未来を決める為に争ったという伝説が残されているが、こちらの世界では彼らが手を取り合い、人類を支配していたと語られていたのだ。

 

 そして興味深い事に、兄弟の片割れ、弟のエンリルが今も生きている( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )可能性があるのだ。

 

 メソポタミア文明が滅びた後に興った文明が新たに作り上げた数多くの伝説や伝記において、彼と思しき存在が記載されていたのだ。流石に名前こそ異なるが、微かに記されていた外見の特徴を照らし合わせてみると、そのキャラクター達の正体がエンリルである可能性が出てきたのだ。

 

 伝説において、エンリルは青空のような蒼い髪の毛を生やし、一部の髪は空に浮かぶ雲のような白色らしい。

 

 だが、今の時代、神の存在を信じる者は宗教云々を無しに考えればほとんどいない。このエンリルについてだって、『もしかしたらいるかもね』程度の話だ。本気にするつもりはない。

 

 

「了子さんに話してみるか? 神について調べているそうだし、いい情報になればいいが……………ん?」

「へいき、へっちゃら……………へいき、へっちゃら……………へいき、へっちゃら……………ッ!」

「響ちゃん……………?」

 

 

 ぶつぶつと『へいき、へっちゃら』と呟きながら走ってきている少女に気付き、声をかける。

 

 

「へいき、へっちゃ……………あ、フィリップさん……………。……………すみません」

「待ちたまえ」

 

 

 頭を下げて走り去っていこうとする響の腕を掴む。振り向いた響の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。

 

 

「なにかあったのかい? 僕でよければ話を聞こう」

「……………はい」

 

 

 小さく答え、響はフィリップに連れられて図書館に入り、その片隅に置いてある椅子に腰かけた。

 

 涙も引っ込み、ある程度心の整理がついた響が言うに、彼女の父――――――立花洸は二年前のツヴァイウィングのライブ事件を生き残った響に謂われのないイジメが行われていた時、立花家の中で唯一その環境に耐え切れなかった男だそうだ。それまでは良識あるいい父親だったらしいが、事件が起こってからはなにもかも変わってしまい、今となっては自己中心性極まりない男となってしまったらしい。

 

 

「私、逃げずに立ち向かおうって決心したのに……………。結局、駄目でした……………」

「…………響ちゃん自身は、どう思ってるんだい?」

「え?」

「君の父親は自己中心的な人物になってしまったが、それでも君は、彼とやり直したいと思っているかい?」

 

 

 男性のものにしては若干細く見える手を組んで見つめてくるフィリップに、響は少し俯きながらも答えを返す。

 

 

「……………やり直したい。やり直したいですよ……………。でも、どうすればいいのか、わからなくて……………」

「ふむ……………」

 

 

 少し考え込む素振りを見せて、フィリップは口を開く。

 

 

「君には申し訳ないけど、僕は君が羨ましいよ」

「え?」

「自己中心的とはいえ、君の父親はまだ生きている。僕の父親はもういないからね。やり直す方法を模索する君が、正直言って羨ましい」

「フィリップさんは、お父さんを……………?」

「聞いてくれるかい? 僕の父の話を」

 

 

 コクリと頷いた響に、フィリップはぽつぽつと語り始める。

 

 園崎琉兵衛。フィリップの父親にして、彼が翔太郎や竜と共に壊滅させた犯罪組織『ミュージアム』の総帥。『全人類を地球が存在し続ける限り滅びる事のない種族に進化させる』という目的を果たす為ならば、あらゆる犠牲を厭わない冷徹非情な人物。『恐怖』の記憶を司る最強のドーパント――――――テラードーパントでもあった彼は、その圧倒的な能力でミュージアムの頂点に君臨した。

 

 だが、彼は根からの悪人ではなかった。

 

 彼が人類の強制進化を望んだのは、『もう大切なものを失いたくない』という恐怖心からだった。かつてこの地球上に存在し、そして絶滅した恐竜や数多の古代生物と同じように滅亡に向かっていく人類を――――――己が愛する家族を『死』から救い出す為に、犯罪に手を染めてしまった、哀しき男だったのだ。

 

 結局、彼の悲願とも言える野望は二人の仮面ライダーの活躍によって打ち砕かされたが、フィリップは生前の彼と和解する事は遂に叶わなかった。

 

 だが、話はそれで終わらない。

 

 フィリップがとある出来事によってこの世から消滅してしまった際、一本のメモリの中に広がる世界『ガイアスペース』で家族達と共に彼の前に現れ、和解する事が出来た。

 

 最後の最後に、恐怖に苛まれ続けた男は、息子とわかり合う事が出来たのだ。

 

 

「僕が和解できたのは、彼が死んだ後だったけど、それは本当に奇跡のようなものだった。こんな事はもう二度と起こらないだろう。生前の彼とたくさん会話したかったし、家族と一緒に、その最期を看取りたかった……………。僕らは普通の家族になれなかったんだよ。でも、君はまだ、普通の家族に戻れる可能性がある。君の家族には、僕らのようになってほしくない」

 

 

 幸せであるべき家族の絆が壊れていくのを見ているだけしか出来なかった自分みたいな人間をこれ以上出したくない。そんなフィリップの気持ちが、響にはありありと感じられた。

 

 

「響ちゃん。君の父親は確かに一度は君達を見捨てたが、彼はきっと、本気で君達とやり直したいと考えてると思う。もしまた会う事があれば、ありのままの君の感情を伝えてみたらどうだい? 彼はきっと、君の気持ちに応えてくれるはずだ」

「フィリップさん……………。……………はいッ!」

 

 

 響が頷いた瞬間、二人がポケットに入れていた通信端末が震える。

 

 周りの人達の迷惑にならないように外に出てから通信を開いた二人に告げられたのは、アルカ・ノイズの出現だった。

 

 

 

 

「――――――ふんふ~ん♪」

 

 

 翌日、本部で簡単な訓練を終わらせた調と切歌が街中を歩いていた。

 

 

「ご機嫌だね、切ちゃん」

「当然デスよ。さっきのシミュレーターの計測数値なら、イグナイトモジュールを使えるかもしれないデス。それに、もう会えないと思ってたセレナとも会えたし、これほど嬉しい事の連続はないデスッ!」

「そうだけど、油断しちゃ駄目だよ? 生半可な気持ちで挑んだら、私達も暴走しちゃうかもしれないし」

 

 

 自分に対する自信や、呪いの力を使う覚悟が足りていないと、マリアのように魔剣に呑まれて暴走してしまう可能性がある。マリアも自分のようにはなってほしくないだろうし、自分達も彼女と同じ轍を踏むつもりはない。

 

 

「わかってるデス。自分に自信を持って、真っ直ぐに魔剣の呪いに打ち勝つデスよッ! およ?」

「む? 暁と月読か。訓練は終わったらしいな」

「二人共、お疲れ様ッ!」

「照井さん、鳴海さん」

 

 

 夫婦で買い物でもしていたのか、買い物袋を両手に持っていた竜とその隣を歩く亜樹子と出くわす。異世界から来た二人からすればこちらの世界の町並みは興味深いものらしく、時々視線を彷徨わせて色んな場所を見ている。

 

 

「やっぱり、気になりますか?」

「もちろん。こちら側の世界は俺達の世界より発展しているからな。気にならないはずがない」

「弦十郎さんには感謝しないとね。じゃないと私達、こうしてお買い物デートもできなかったんだもの」

「お熱い二人デスね~」

「そりゃあ夫婦ですから。ね~竜君♪」

「あまりくっつかないでくれ、所長……………。……………そ、そうだ。お前達、喉渇いてないか? 特別になにか奢ってやるが」

 

 

 腕を絡めて迫ってくる妻に若干頬を染めた竜は、明らかに話題を変えようとして話を振ってくる。調はともかく、切歌はもうちょっと弄りたかったようだが、その話を受けると「それなら……………」と近くの自動販売機を見る。その後、調はリンゴジュース、切歌はオレンジジュースを買ってもらった。

 

 

「ありがとうございます、照井さん」

「なに。お前達はその歳で人類を護っているんだろう? 刑事として、その敬意に報いなければな」

「そういえば照井さん、刑事さんだった」

「という事は、これまでいっぱい悪者を捕まえてきたデスか?」

「あぁ。ガイアメモリ犯罪を取り締まっている。左達の助力を得る事もあるが、彼らのお陰で、俺達の街『風都』でのガイアメモリ犯罪は全て解決されている。……………ラメンターの事件以外は、な」

「みんな、大丈夫かな? 竜君達がいないんじゃ、ドーパントと戦えないよ……………」

「あぁ。一刻も早くこの事件を片付け、『風都』に戻らねばな」

「アタシ達も協力するデスよッ!」

「うん。なるべく早く、この事件を解決しよう」

「……………助かる」

 

 

 拳を握って言う二人に竜が微笑んだ瞬間、彼らの通信端末からアラームが鳴り響いた。

 

 

『アルカ・ノイズの反応を検知したッ! 場所は地下68メートル、共同溝内であると思われるッ!』

「きょーどーこー?」

「なんデス? それは」

「電線を始めたエネルギー経路を埋設した地下溝の事だ。行き方は?」

『すぐ近くにエントランスがある。今、ナビに送信した。我々も現場に向かって航行中だ。既に響君とフィリップ君を向かわせている』

『照井さん、調と切歌をお願いッ!』

『我々も到着次第加勢するッ!』

「わかった。所長はシェルターに。お前達、行くぞッ!」

「うんッ!」

「了解」

「了解デスッ!」

 

 

 通信を切り、竜はアクセルドライバーを腰に巻き、調と切歌はペンダントを握る。

 

 

アクセル!

「変……………身ッ!」

アクセル!

「――――――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)

「――――――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)

 

 

 アクセルに変身した竜と、それぞれのシンフォギアを纏った二人の少女がアルカ・ノイズが現れた地下溝のエントランスに到着すると、その奥から何度か甲高い音が聞こえてきた。既に響達が戦っているようだ。

 

 地下溝に入ると、彼らの到着を予期していたのか、大量のアルカ・ノイズが襲い掛かってきた。

 

 

「邪魔だッ!」

「調ッ!」

「うんッ!」

 

 

 アクセルがバイクフォームを解除すると同時にジャンプした切歌は鎌を投げ、調はヘッドギアから丸鋸を射出する。瞬く間にアルカ・ノイズが炭化して消えていき、二人が討ち漏らしたアルカ・ノイズもアクセルがどこからともなく取り出したエンジンブレードで斬り捨てていく。

 

 

「待ってたぜぇ? アクセルッ!」

「……………ッ! 貴様は、黒芭燈迩ッ!」

 

 

 アルカ・ノイズの大群の奥にいる男に気付き、アクセルはエンジンブレードを構える。

 

 

「『風都』から目を付けてたんだ。今日も遊ぼうじゃないかッ! ハッハァッ!」

 

 

 愉快に笑いながら、燈迩はポケットからT2ファイターメモリを取り出す。

 

 

ファイター!

 

 

 T2ファイターメモリを喉元に挿し、燈迩は『戦闘機』の記憶を象徴する怪人へと変貌する。

 

 

「出たデスねッ! ディセプティコンッ!」

「誰ガディセプティコンダッ! 喰ラエッ!」

 

 

 機関銃に変化した右掌から無数の弾丸が発射されるが、三人は横に飛び退いてそれを回避する。

 

 

「オオオオオオオオオッ!」

「ハッ! 温イナ、仮面ライダーッ!」

 

 

 振り下ろされたエンジンブレードを剣に変形させた左腕で受け止め、鍔迫り合いに派生する。

 

 

「こいつは俺が抑えるッ! お前達は先に行けッ!」

「はいデスッ!」

「どうか無事でッ!」

「行カセルカ――――――」

「どこを見ているッ!」

「……………ッ! チッ!」

 

 

 調と切歌を撃ち抜こうと銃口を向けかけたところをアクセルに斬られ、ファイタードーパントの体から火花が飛び散る。

 

 

「お前の相手は、俺だッ!」

「……………ハッ! イイゼ、ヤッテヤルヨッ!」

 

 

 振るわれた二本の刃が交わり、散った火花が地下溝を一瞬明るく照らした。

 

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