死神に鎮魂歌を   作:seven74

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Tの苦悶/夢の途中

 

「大丈夫か?」

「…………あぁ」

 

 

 S.O.N.G.保有の車から外を眺めている翼に声をかけた克己に帰ってきたのは、どこか強張った返事だった。

 

 現在、彼らは緒川と共に、翼や弦十郎の実家である風鳴邸に向かっている。

 

 これまでの調査の結果、キャロル陣営の狙いはこの地域一帯に存在する電力の供給地点と、レイラインのコントロールを担っている場所である事を突き止めたS.O.N.G.は、最後の要石が設置されている風鳴邸に装者達を派遣する事を決定した。そこに向かうメンバーに最初に立候補したのが翼だった。

 

 

「緊張しているのか?」

「当然だ。十年顔を合わせていない親族と会うのだぞ? 緊張しないはずがない」

 

 

 以前、克己と話し合った時から、いつかこの時が来るのでは、と思っていた。しかし、いざその時となると、やはり緊張してしまう。

 

 

「翼ちゃん、緊張してたらいつもの自分は出せないわ。まずは深呼吸よ。深呼吸」

「長年会ってなかった父親に会うんでしょう? こいつの言う通りよ」

「ありがとう、羽原、泉」

 

 

 風鳴邸に向かうのは、翼と克己と緒川だけではない。京水とレイカも加わっている。彼らに礼を言い、翼は克己に視線を動かす。

 

 

「大道、私は上手くやれるだろうか?」

「俺に訊かれても困る。それは、お前しかわからない事だ。翼」

「…………そう、だな」

「そろそろ到着します」

「わかった。行くぞ」

「あぁ」

 

 

 そうして扉を開け、克己達は緒川に連れられて石造りの階段を上っていく。

 

 

「…………?」

 

 

 その時、緒川はなにかの気配を感じて振り返る。しかし、彼の視線の先にある車にはこれといった怪しいところは見受けられず、気のせいだと割り切り、そのまま階段に足をかけるのだった。

 

 

 

 

 ――――――引き金が引かれ、銃口から弾丸が発射される。しかし撃ち出された弾丸は跳び回るレイアを捉えられずに彼方へと飛んでいき、舌打ち混じりにクリスは『闘士』の記憶を発動。接近と共にガントンファーによる殴打を打ち込もうとするが、それすらもレイアに受け流され、その勢いを殺さぬまま投げ飛ばされた。

 

 

「この…………ッ! な…………ッ!?」

 

 

 立ち上がったクリスがガントンファーから弾丸を放とうとした瞬間、いつの間に距離を縮められたのか、レイアのトンファーがクリスの顔面まで迫っており――――――

 

 ピーッという音と共にクリスの前で制止、そのまま霧のように消え去った。

 

 

「…………」

 

 

 先程まで戦っていたレイアは、これまでの戦闘データから形作られた偽物。いずれ来る彼女との対決に備え、シミュレーションルームで対策を行っていたのだが、まるで攻撃が当たる気になれなかった。

 

 

「クリス。焦っているのか?」

「…………賢」

 

 

 モニタールームから彼女の様子を観察していた賢がシミュレーションルームに入ってくる。

 

 現在、彼らは風鳴邸に向かった翼達とは別行動を取り、キャロル陣営が風鳴邸以外に狙っているであろう場所に向かっていた。

 

 行き先は『深淵の竜宮』――――――異端技術に関連した危険物や未解析品を封印した絶対禁区であり、秘匿レベルの高さからS.O.N.G.にも詳細な情報が伏せられている拠点中の拠点。そこに保管されているものは、そのほとんどが人の手に余る代物であり、現在の人類が扱えるものなど数える程度しかない。

 

 そしてそこは、かつて二課であったS.O.N.G.を苦しめた仮面ライダーと、彼を兵器として活用しようとした男が収容されている場所でもある。

 

 

「焦りは集中力を散らせる。それは遠距離戦を得意とする我々には致命的だ。なにがあった?」

「…………なぁ、賢。これまでのあたしってさ、一人で踏み出せてたか?」

「? それは…………」

 

 

 もちろんだろう、と言いかけて口を止める。思えば彼女は、自分について思い詰めている時、決まって誰かの助けを受けて立ち上がっていた。賢としてはそれでもいいのではないかと思ってはいるが、いつまでもそれではいけない、と考える自分がいるのもまた事実だ。

 

 

「あたしはあの二人の先輩だってのに、こんなんでいいのかって思っちまうんだ。あの二人はさ、自分達だけで踏み出せただろ? なのに、あたしは…………」

「…………」

 

 

 背景も消え、元の簡素な一室に戻ったシミュレーションルームの片隅に腰を下ろし、「はぁ…………」と重い溜息を吐いて顔を手で覆う。

 

 

「後輩の方が先に行って、自分は自立する事も出来ずにいるなんてよ。これじゃあ、先輩失格かもな…………」

「それでも、いいじゃないか」

「なんでだよ。あたしはあいつらの誇れる先輩になりたいってのに…………」

「先輩というものは、焦ってなるものではない。あるがままの自分でいればいい。そうしていれば、いずれ彼女達の光になっているだろう。…………いや、もう既に…………」

「…………?」

「…………なに。こちらの話だ」

 

 

 そう言って、賢はクリスに背を向けて出入り口に歩を進める。

 

 

「お前の行動方針を決める事はできない。これからどうするかは、お前自身が決める事だ。クリス」

 

 

 扉のスライド音が聞こえる。どうやら先程の言葉を置き土産に賢はシミュレーションルームを出て行ったのだろう。

 

 

「あるがままの自分、か…………」

 

 

 ポツリと零れた呟きは、誰に聞かれる事もなく消えていった。

 

 

 

 

「――――――ここが翼の実家か。それで、あれが…………」

 

 

 門を潜った克己は、その先に広がる歴史を感じさせる外観など目もくれずに視線を彷徨わせ、一つの物体を見る。

 

 要石。要所要所に存在するレイラインのコントロールを行っている楔だ。

 

 その時、風鳴邸から数人の男達が出てくる。黒服のSP達に護られながら出てきたのは、壮年の男性。その姿を見た翼が微かに息を呑んだ様子から、あれが翼の父親かと推測する。

 

 

「ご苦労だったな、慎次」

「恐れ入ります」

 

 

 開口一番にまず緒川に労いの言葉をかけた男――――――風鳴八紘は、次に克己に視線を向ける。

 

 

「それに、大道克己だったな。二課時代の頃からの君の活躍は聞いている。もちろん、羽原レイカ、泉京水、君達の事もな」

「あぁ」

「こんな渋いイケメンにそんな事言われるなんて、感激だわッ!」

「あんたは黙ってなさい」

 

 

 軽く返した克己の後ろで京水がくねくねと体を捩らせるが、即座にレイカに蹴られる。そんな光景を視界の片隅に置き、八紘は緒川に口を開く。

 

 

「アーネンエルベの神秘学部門より、アルカ・ノイズに関する報告書も届いている。後で開示させよう。では、務めを始めたまえ」

「お、お父様ッ!」

 

 

 そのまま屋敷の中に戻ろうとした八紘の背中に、翼の声が投げかけられる。振り向いた八紘の目は、実の娘に対して向けるようなものではなかった。

 

 

「…………沙汰もなく、申し訳ありませんでした」

「お前がいなくとも、風鳴の家に揺らぎはない」

「あ…………」

「務めを果たし次第、戦場に戻るがいいだろう」

 

 

 冷たく突き放すように言い残し、そのまま屋敷へ足を進めて、

 

 

「――――――なにやっとんじゃ己はぁッッ!!」

「「「「「…………ッ!?」」」」」

 

 

 S.O.N.G.のメンバーの間を通り抜けていったスリッパが、勢いよく八紘の後頭部に命中した。

 

 

「あ、な、鳴海ッ!?」

 

 

 振り向いた翼の視界に、僅かに肩を上下させて八紘を睨む亜樹子の姿が映った。なぜここに彼女が、と誰もが思う中、ゆっくりと振り向いた八紘が亜樹子を睨みつける。

 

 

「…………誰だ。お前は」

「も、申し訳ありませんッ! すぐに――――――」

「私は鳴海亜樹子ッ! 鳴海探偵事務所の所長ッ! そこのあんたッ! 翼ちゃんのお父さんなんでしょッ!? なんで実の娘に対してそんな態度が取れるのよッ!」

 

 

 般若の如き形相で怒気を纏った状態で八紘に掴みかかろうとするが、すぐさま動いた克己が彼女の前に立ち塞がる。

 

 

「退いてよッ! 私、そいつをもっかい叩かなきゃ気が済まないッ!」

「なにをやってるんだ、お前は。相手はこの国の権力者だぞ。それを相手をスリッパを投げつける奴があるか」

 

 

 八紘の足元に転がるスリッパを見る。そこには金文字で『このアホンダラ』と書かれていた。本当になにをしているのか、この女は。

 

 

「鳴海亜樹子…………。そうか、お前が異世界からこちらに飛ばされてきた人間か」

「私の質問に答えなさいよッ! このドアホッ!」

「ドアホ…………。言ってくれるじゃないか。だが、お前にそう言われるほど、私は馬鹿ではない」

「家族に関してはそれ以外思いつかないわッ! あんたみたいな奴が翼ちゃんの父親なんて…………ッ!」

「…………なに?」

 

 

 亜樹子の一言に、ピクリと八紘の眉が動く。

 

 

「お前に、お前になにがわかるッ! 異邦者のお前にッ! 私の気持ちがわかるものかッ!」

「わからないよッ! まだ子どもだった翼ちゃんを実家から追い出すなんて、なに考えてんだって思うよッ!」

「小娘が…………ッ! 私が、私がなにを思って翼をここから追い出したのか、わかるはずもないッ! 私はただ、翼に――――――」

「…………ッ!? 誰だッ!」

 

 

 その時、何者かの気配を感じ取った克己が片足に装着していたホルスターから取り出した拳銃を発砲。銃口から撃ち出された弾丸は、しかし鋭い切れ味を誇る刀身を前に両断された。

 

 

「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに。いえ、もう既に邪魔されていたわね」

「オートスコアラー…………ファラ・スユーフかッ!」

 

 

 彼らの前に突如現れたのは、残る二機のオートスコアラーの片方、ファラだった。

 

 

「要石の破壊に来たか」

「当然。――――――ダンスマカブル」

 

 

 フランス語で『死の舞踏』を意味する言葉を口にし、ファラはジェムから多数のアルカ・ノイズを出現させる。

 

 

「死の舞踏か。俺が出るに相応しい名前じゃないか」

「緒川さん、お父様達をッ!」

「はいッ!」

 

 

 ロストドライバーが腰に巻かれ、ペンダントが握り締められる。

 

 

エターナル!

「変身」

エターナル!

「――――――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

 

 漆黒の外套をはためかせ、エターナルはエターナルエッジを構える。

 

 

「アルカ・ノイズは任せろ。お前は奴を倒せ」

「あぁッ!」

「ふふふ、返り討ちにして差し上げますわ」

 

 

 八紘達に向かっていたアルカ・ノイズをエターナルが消滅させている間に、翼はファラに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

「――――――先程、風鳴邸にてオートスコアラーの一機、ファラ・スユーフが出現したという報せが入った」

 

 

 各自それぞれのやり方で時間を潰していた面々が司令室に集まった事を確認した弦十郎から告げられた情報に、一同は『遂に動いたか』とばかりに気を引き締める。

 

 

「現在、克己君と翼が交戦している模様だ。現場にはなぜか亜樹子君もいたのだが、恐らく我々の目を掻い潜って彼らの後を追ったのだろう。今は緒川君に任せて安全な場所に避難させているから安心してくれ」

「やっぱり追ってやがったのか…………」

 

 

 呆れたように溜息を吐く翔太郎。克己達が風鳴邸に向かった時からなぜか亜樹子の姿が見当たらず、どこに消えたのかと心配していたのだが、まさか彼らについていってたとは。彼女の行動力を失念していた。自分達がまだミュージアムと争っていた頃、単独で園崎家にメイドとして乗り込んだ時の事を思い出して、もう少し強めに監視しておくべきだったと反省する。

 

 とにかく、緒川に任せているのなら安心だろう。弦十郎が最も信頼を置いている者の一人である彼なら、無事に亜樹子を護り通してくれるだろう。

 

 

「それと、我々が向かっている深淵の竜宮にも侵入者が現れた。藤尭」

「はい」

 

 

 キーボードが操作され、モニターに深淵の竜宮の内部を撮影している監視カメラの映像が映し出される。そこにはレイアと黒芭に前後を挟まれる形で通路を歩くキャロルの姿が映っていた。

 

 

「キャロル・マールスディーン・ハイム? なぜ彼女が…………」

「恐らく、あれはフィリップさん達が戦ったものとは違う体です。キャロルは完璧以上に完成されたホムンクルスの肉体に、自身の記憶を転写、複製して数百年の時を生きてきましたから」

「疑似的な不死というわけね。まるで私のリインカーネイションみたいじゃない」

「奴らの策に乗るのは小癪だが、見過ごすわけにもいくまい。過剰戦闘力になってしまうが、リーダー格である彼女を倒す絶好のチャンスだ。頼んだぞ、お前達」

 

 

 今この場には五名の装者に加え、不死身の傭兵である剛三と賢、そして二人の仮面ライダーがいる。この戦力ならば申し分ないだろう。

 

 弦十郎の言葉に、その誰もが頷くのだった。

 

 

 

 

「――――――よろしかったのですか、マスター」

 

 

 一方その頃。深淵の竜宮では、周囲の観察を怠らずにレイアがキャロルに声をかけていた。

 

 

「なにがだ?」

「団長の事です。聖遺物の回収であれば、我々に任せていただければよろしかったですのに…………」

「仕方ないだろう。エルリンの申し出だ。私も極力拒みたくない」

 

 

 目覚めて早々外の世界に出るわけにはいかないらしく、エルリンが最初に取り組んだのは情報収集だった。自分が眠りに就いてからどれほどの時間が経過しているのか、また人類の文明はどのように発展したのかを調べたいのだそうだ。それなら自分が教えても良かったのだが、長らく結社に引き籠もっていた自分にその役目が務まるのかと言われると、務まらないと言う他ない。

 

 

「それに、相手は仮面ライダーやドーパントだ。もしあいつが傷でも負ったらどうする。私はもう、あいつが傷つくところを見たくない…………」

「…………甘々ですね、マスター。もしこの場にガリィがいたら、間違いなくからかわれていましたよ」

「だ、誰が甘々だッ!」

「おいおい、その話は帰ってからしてくれよ。今はすべき事があるだろ?」

 

 

 黒芭に諫められて、その通りだなとキャロルは気を引き締め直す。この先にあるとある聖遺物が手に入れば、計画達成に近づくのだ。

 

 世界の解剖まで、あと数歩。

 

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