ファラを蹴り飛ばした翼が、両手持ちしていた剣を放り投げると、剣は瞬く間に巨大化していき、巨大な大剣へと変貌する。
『天ノ逆鱗』
空を切り裂いて落下してくる巨剣が今にもファラを圧し潰そうとした瞬間――――――
「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッッ!!」
「な……ッ!?」
頭上から落ちてきた黒い影に襲われた翼が叩き落され、同時に巨剣もファラによって砕かれてしまった。
落下した衝撃で巻き上がった砂ぼこりから脱出した翼は、その奥に佇む漆黒の戦姫に歯噛みする。
「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッッ!!」
咆哮を上げて槍を叩きつけてくる奏を蹴り飛ばすと、今度は背後からファラが襲い掛かってくる。咄嗟に翼は脚部アーマーから取り出した剣で迎撃するが、それは忽ち錆びついていき、最後には砕け散ってしまった。
「私の剣は、あらゆる剣を打ち砕く
「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッッ!!」
「ぐは……ッ!」
無防備となった翼に、奏が容赦ない一撃を叩き込む。並々ならぬ威力を前に、何本も木を圧し折りながら翼の体が吹く飛ばされ、ようやく落下した翼は、全身に走る激痛に顔を歪める。そんな彼女に追い打ちをかけるように、ファラが剣を振るって三つの緑色の竜巻を向かわせてきた。それを見た翼は新たに剣を取り出して迎撃しようとするが、間に合わない。
「翼ッ!」
しかし、竜巻に呑み込まれかけた刹那に駆けつけたエターナルによって、翼は間一髪助けられた。
「翼、大丈夫か?」
「……助かった。アルカ・ノイズは?」
「もう全滅させた」
「仮面ライダーですか。では、余興もここまで。閉幕とさせていただきましょう」
ファラがエターナルと翼に唸り声を上げて威嚇している奏を一瞥すると、雄叫びと共に奏が跳躍。右手に持った槍を投擲すると、それが大量に複製され、エターナル達に襲い掛かる。
『BLACK STARDUST∞FOTON』
怒涛の勢いで降り注ぐ槍の雨を睨み上げ、エターナルはT2アイスエイジメモリを取り出す。
『アイスエイジ・マキシマムドライブ!』
手を掲げたエターナルの前方に、巨大な氷の壁が形成される。瞬時に作り上げられた障壁に次々と槍が衝突し、その度に決して無視できない衝撃がエターナルに襲い掛かってくる。その威力に僅かに眉を顰めるエターナルだが、この程度ならば防げる、と確信していた。
だからこそ――――――
「――――――
「なに……ッ!?」
その闇牙の一撃が振るわれるとは、思わなかった。
振り下ろされた闇の魔爪は、これまでの衝撃で綻びが出ていた氷壁を、奥にいたエターナルごと切り裂いた。
「ぐあああああッ!」
「大道ッ!」
切り裂かれた箇所から火花を散らしたエターナルが膝をつき、翼が叫ぶ。仮面の奥で苦痛に顔を顰めた克己は、先程の言葉を口にしたであろうファラを見る。正確には、彼女が持っているソードブレイカーを。
ソードブレイカーの刀身には、以前倒したはずのドーパントの半身を構成していた、黒い靄がまとわりついていた。
「その靄は、アルケウスの……」
「邪魔はさせない。そこの要石は破壊させてもらおう」
いつものような丁寧な口調ではなくなったファラを見て、エターナルは確信する。
ガイアメモリは本来、仮面ライダーのマキシマムドライブかそれと同等の攻撃を受ければ大抵は使用者の体内から排出される。翔太郎達が使うガイアメモリは試作品のT1であるので、その完成形であるT2ガイアメモリの内の一本に当てはまるアルケウスメモリが破壊できないのはわかるが、あの時はT2ガイアメモリを使う自分もマキシマムドライブを発動したのだ。本当ならば、あそこで排出され、砕け散ってもいいはず。しかし後にフィリップが調査した結果、砕かれているはずのT2アルケウスメモリは発見されなかった。しかし、アルケウスドーパントを撃破した直後、メモリが排出されていなかったとしたら。誰かの体に移動していたとしたら。
あの時、アルケウスドーパントに変身していた青年に触れた者は、一人しかいない。そんな事が可能なのか、と疑問に思うが、他者の体に憑依するという特性上、不可能と断ずる事などできはしない。
つまり、今自分達の目の前にいる彼女は――――――
「貴様……
既に、あの男によって意識を殺されている。
「体を失っても尚生き足掻くか。関心と通り越して呆れるな」
「呆れてもらっても結構。俺が未だに
暗黒のオーラを纏ったソードブレイカーを手に飛びかかってきたファラ――――――津神真一の攻撃を受け止める。しかし、勢いをつけていた分、威力は真一の方が上で、エターナルが押し負けた。
「亡霊め……ッ! ここで討つッ!」
「貴様にも邪魔はさせないぞ、風鳴翼ッ!」
態勢を立て直して自分に向かってくる翼に気付くと、真一はパチンッと指を鳴らす。すると、それに反応したかのように奏が動き出し、真横から翼に攻撃を仕掛けた。
「ぐッ、奏……ッ!」
「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッ!」
獰猛な野獣のような咆哮を轟かせ、奏は理性など微塵も感じさせない連撃を叩き込む。反撃される事を度外視した攻撃がもたらす威力を前に翼が飛び退こうとするが、それで開きかけた距離を一瞬で縮めた奏の刺突が炸裂した。
「ぐは……ッ!」
「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッ!」
突き飛ばされた翼に、奏は大上段に構えた槍を勢いよく振り下ろす。
『BLACK POWER∞SHINE』
「ぐああああああああッッ!!」
高出力のエネルギーの斬撃を受けた翼が吹き飛ばされるが、斬撃はそれで終わらず、彼女の背後にあった要石を破壊してしまった。
「しまった……ッ!」
「どうやら、この戦いは俺達の勝ちのようだ。だが、まだだ。まだ足りない」
真一の視線が翼に向く。先の一撃の当たり所が悪かったのか、武装が解除された彼女は気を失っているようだ。
「そいつに伝えておけ。目が覚めた時、お前の歌を聴かせてもらうとな」
バックステップでエターナルから距離を取り、奏の傍に降り立った真一は懐から取り出したテレポートジェムを砕き、姿を消したのだった。
――――――場所は変わって、深淵の竜宮。キャロル達より少し遅れて到着したS.O.N.G.の面々が通路を走っていると、彼らに与えられた通信機に弦十郎からの連絡が入る。その内容は、風鳴邸での要石の防衛に失敗した事。そして、ファラ・スユーフに津神真一が憑依していたというものだ。
『やはり、彼はまだ倒れていなかったというわけか』
「しぶてぇ野郎だな。あん? って事は、つまり……」
『津神真一の本当の肉体は、既に失われていると考えていいだろう。今の彼は魂だけの存在。アルケウスのメモリの中に自分の魂を保存しているんだろう。彼を倒すには……』
「今度こそ、メモリブレイクする他ないって事か」
どれだけ強力なドーパントであっても、ガイアメモリを破壊してしまえば変身できない。
「でもそれって、人殺しデスよね……? アタシ、殺人なんてしたくないデスよ……」
切歌がポツリと零した言葉に、誰もが暗い表情をする。顔を仮面で覆っているWやアクセルでさえ、そんな表情を浮かべているのが気配で分かった。
「……それでもな、やらなきゃいけないんだよ」
しかし、そんな彼らに、剛三――――――メタルドーパントが告げる。
「これ以上奴を野放しにしたら、被害者はもっと増えるし、万象黙示録の完成も着実に進行しちまう。それなら、やるしかねぇんだよ」
『これまでの君達の戦いの話は聞かせてもらっている。誰一人殺さずに、よくここまでやれたと思う。僕らも君達みたいに、誰一人殺さずに事件を解決したい。けれどね、世界を護る為には、時には誰かの命を奪う事だって必要だという事も理解している』
「しかし、『倒して終わり』では駄目だ。『奪った命に責任を持つ』事が、彼らに対する贖罪になる。それさえ忘れてしまった奴は、最早人間ではない」
それは、『悪魔』だ――――――と、アクセルがかつて憎んだ宿敵を思い返しながら言った。
井坂深紅郎。シルバーの上位メモリであるウェザーメモリを使い、己が欲望を満たす試す為だけに多くの命を奪ったマッドサイエンティスト。あの男もまた、それに当てはまる存在だった。
「たとえ相手がどのような存在であろうと、倒さねばならぬ相手であれば倒す。そして、相手の願いを踏み躙った責任を背負って、前に進み続けるんだ。俺達は、そうして戦ってきた」
「照井さん……」
「……それでも、お前達が戦いたくないのなら、それでもいい。お前達はまだ若い。ここから先は、俺達に任せて――――――」
「なに言ってんだよ」
アクセルの言葉を、クリスが遮る。イチイバルを纏って廊下を駆ける彼女は、真っ直ぐ前を見据えながら続ける。
「命を奪う事は、確かにしたくねぇけどさ。あたし達が止めなきゃ、誰があいつらを止められるってんだ。……やってやるぞ、あたしは。無力な連中を護る為に、あたしはこのイチイバルを身に纏ってんだからな」
聖遺物の欠片を用いて形作られた、超常の存在への対抗手段。それを手に取る以上、戦いの輪廻に巻き込まれるのは百も承知。いずれは、この手で誰かの命を奪う日が来るかもしれない。そんな日なんて、一生来なくていいという考えは変わらないが、本当に倒さなくちゃいけない相手が現れたら、その時は、この引き金を引こう。
「……アタシも、やるデスよ。人殺しなんて御免被るデスけど、それでもやらなくちゃいけない時は、戦うデスよ」
「……私も、切ちゃんと同じ。マリアは?」
「貴女達がやるのなら、私だってッ!」
「マリア姉さん、私も同じですッ!」
『……本当に強いね、君達は』
「装者を舐めないでもらいたいデスッ!」
決意が漲っている瞳をしている装者達に、仮面ライダーとドーパント達は感心し、同時に少し心が苦しめられた。
『お話の最中申し訳ないけど、キャロルが狙う聖遺物の目星がついたわ』
その時、本部に残ったフィーネからの通信が入り、全員が彼女からの情報に耳を傾ける。
フィーネが言うに、深淵の竜宮に侵入したキャロルの狙いは、ヤントラ・サルヴァスパなるものらしい。現存する完全聖遺物の一つであるそれは、あらゆる機械の起動・制御を可能とする情報集積体らしく、キャロルはこれを手に入れる事で、ワールド・デストラクターであるチフォージュ・シャトーを完成させるつもりらしい。
『既にキャロル達はヤントラ・サルヴァスパの管理区画へ侵入しているわ。こちらも対抗手段は用意しているけど、貴方達も急ぎなさい』
「対抗手段? フィーネ、それは……」
その正体に心当たりがあるのか、問いかけたマリアに、フィーネはふっと微笑みながら返す。
『えぇ、ようやく上から許可を貰えてね。
――――――ファイタードーパントに変身した黒芭が右腕をブレードに変形させて扉を斬りつける。保管しているものの特質故に頑丈な作りであり、多少時間はかかってしまったが、超威力のエネルギー砲で撃ってしまっては中にあるヤントラ・サルヴァスパごと破壊してしまいそうなので、これで良しとする。
切り裂かれた扉が轟音を轟かせながら崩れていき、明確な破壊行為を察知した警報装置が甲高いサイレンを鳴らし始める。脳をがんがんと震わせる音量に顔を顰めながらもキャロルは扉だったものの上を歩き、簡素な室内に保管されていた板のようなものを手に取る。それこそが今回の獲物、ヤントラ・サルヴァスパである。
「目的のものは手に入れた。撤収するぞ」
そう言って、部屋から出た直後――――――
「……ッ! マスターッ!」
「……ッ!?」
咄嗟に動いたレイアが一枚のコインを放ち、キャロルに向けられて放たれた銃弾を弾き、続けて無数のコインを同時に撃ち出し、襲撃者を排除しようと試みる。
しかし、襲撃者は、それを軽く体を動かすだけで難なく回避し、改めて拳銃の引き金を引く。今度はファイタードーパントの機銃も加わり、常人ならばまず視認する事すら不可能な速度で、弾丸とコインの雨が襲撃者に襲い掛かるが、あろう事か襲撃者はそれさえも回避し、時には発砲した弾丸で襲い来る弾丸やコインを弾き、軌道を逸らす事で他の弾丸やコインに直撃させ、自分の身を護らせたりしたのである。
「ナンダ……アイツッ!?」
「気を付けろ。奴も……仮面ライダーだッ!」
とても人間業とは思えぬ動きを見せた襲撃者に身構えるレイアとファイタードーパントに、キャロルが叫ぶ。
彼らの目の前で、その男は懐から取り出したベルト――――――克己の頼みを受けてフィーネが複製したロストドライバーを腰に巻き、取り出したT3ガイアメモリのスイッチを押す。
『イクシード!』
『進化』の記憶を宿すメモリをバックルに挿し込み、待機音声が流れ始める。男は右手を胸元に押し当て、なにかに対して祈るように瞼を閉じ、カッと見開く。
「変身」
『イクシード!』
胸元に当てていた右腕を振り払うと、彼の足元から発生した突風が、彼の体を銀色の素体で覆い尽くしていく。それが完了すると、今度はその上に漆黒の外装が出現し、それが完全に装着されると、そこから大量の蒸気が噴出された。
「貴様は……ッ!」
その姿に、キャロルが歯噛みする。
まさか、その戦士を再誕させる道具を、S.O.N.G.が開発していたとは。よりにもよってこの状況で、現状最も厄介な存在が現れるとはッ!
「自由な世界を築く為、私はこの力を振るおう」
男の名は、ケアン・ディークス。またの名を――――――
「さぁ――――――
仮面ライダーイクシード――――――ッ!
仮面ライダーイクシード復活ですッ! そして次回、遂に彼女が……ッ!?
ケアンが使っていた拳銃は護身用としてフィーネから送られました。深淵の竜宮に到着した際、フィーネがちゃちゃっとやりました。監禁されてるキャラクターの部屋に自動的に食料とかが送られてくるやつあるじゃないですか。そんな感じでケアンの下に届きました。