死神に鎮魂歌を   作:seven74

71 / 77
D登場/狂気の英雄

 

『ごめんくださ~いッ!』

『邪魔するぜ』

 

 

 自分のものではない視界、そこに映る少し太った女性が自分( ・ ・ )の声に振り向き、パァッと表情を明るくする。

 

 

『おぉ、キャロルちゃんにエルリンッ! 今日も来てくれたんだね。それで? 今日はなにが欲しいんだい?』

『えっと、これとこれ、一つずつください』

『あいよぉ』

 

 

 自分――――――キャロルが女性から果物を受け取り、代金を置く。その値段がちゃんと適当なものか確認した後、「毎度ありッ!」と言って女性はキャロル達を見送る。キャロルは両手に持っていた果物を傍らに歩く青年――――――エルリンが背負っている袋に入れ、次の店に向かう。

 

 

『んで? 次はどこに行くんだ?』

『次はトレバーさんのところ。借りてた本の貸出期間を延長してもらいに行くの』

『て事はあの本か。好きだねぇ、お前も』

『もちろんッ! エルリンはかっこいいって思わないの? 傷だらけになってもお姫様を助けようとする騎士様の事』

『思うに決まってんだろ? 今思い出しても、あいつはカッコよかった。俺なんか屁でもねぇぐらいにな』

『ふふっ、なにそれ。まるでその戦いを見てたみたいに』

『……あ、あ~。うん、まぁ、あれだよ。読んでて引き込まれたんだ。それであの騎士を身近に感じたのさ』

 

 

 そんな事を話しながら、出かけた目的を果たしていく。買うものを全て買い終え、帰路についた頃。

 

 

『エルリンはさ、色んなところを旅してたんだよね?』

『ん? おぉ、そうだな。それが?』

『この街の外って、どんな世界が広がってるの? 私はさ、街の外に行った事がないから』

 

 

 彼女達がいたのは数百年前だ。交通機関などまるでないし、山道を行くのなら今以上に動物に襲われないように用心しなければならないし、ひょっとしたら山賊に襲われてしまう可能性だってある。父親のイザークは錬金術に精通しているし、エルリンは武術に長けているが、だからといって子どものキャロルを護り通せるわけではない。必然的に、キャロルはこの街から出られない。不満があるというわけではないが、好奇心旺盛な年頃の彼女としては、この街の外にはどんな世界が広がっているのか、気になって仕方ないのだろう。

 

 

『……それなら、いつか出てみるか? 外の世界に』

『え?』

『今は無理だけどよ。お前が大人になったら、イザークと一緒に旅に出るか?』

 

 

 その言葉に、キャロルは嬉しくなった。自分はまだ子どもだけれど、大人になるまではあっという間だ。大人になったら、父と、エルリンと、旅に出れる。その未来を想像し、キャロルは笑った。

 

 

『うんッ! 絶対に行こうねッ! パパとエルリンと一緒に、世界を知りたいッ!』

 

 

 その顔は見れなくても、エルフナインは確信していた。その時彼女は、太陽のような笑顔をしていた、と……。

 

 

(……キャロル)

 

 

 瞳を開け、己が創造主の名を心中で零す。

 

 既に遠いものとなってしまった記憶から、彼女の想いが痛いほど伝わってきた。そして感じてしまった。彼女があの青年に抱く、燃えるような恋心を。

 

 

(やっぱり、貴女は……)

 

 

 チフォージュシャトーから脱出した時、ダインスレイフの欠片と共に持ち出したものを脳裏に浮かべる。

 

 キャロルはきっと、愛する男の為に用意したあれを他人に使われたくないが故に、自分に託したのだろう。それが後に、自分を苦しめるかもしれないと理解しておきながらも。彼の気持ちを理解しているからこそ、彼女は苦渋の決断を下したのかもしれない。

 

 ……いや、今はそれを考えている場合ではない。

 

 司令室を見渡す。誰もが真剣な表情をし、新たに入ってきた情報を深淵の竜宮に侵入した装者達に伝えている。

 

 

「エルフナインちゃん? 大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

 

 

 心配気に見つめてくる響に笑って返し、エルフナインはモニターを注視する。そこには、今まで深淵の竜宮に隔離されていた仮面ライダーが、ファイタードーパントとレイアを相手に奮戦している映像が映し出されていた。

 

 

 

 

 ――――――空を切り裂いて迫る剣の刀身に手を押し当てる。軌道が逸らされた剣の持ち主であるファイタードーパントの態勢が崩れると、押し当てた勢いを殺さずに彼の腕を掴み、引き寄せる。瞬間、イクシードを狙ってレイアが弾いたコインの雨がファイタードーパントに殺到し、その鋼鉄の体に直撃する。

 

 衝撃に力が抜けたファイタードーパントの体をレイア目掛けて投げ飛ばす。しかし、ファイタードーパントは空中で自身を戦闘機形態に変形させ、反撃とばかりに機銃を発射してくる。それを走って避けながら、イクシードは変身前に持っていた拳銃をファイタードーパントに投げつける。すぐさま機銃から発射された弾丸が拳銃を木端微塵にするが、彼が拳銃に意識を向けた隙をついてイクシードは壁を蹴り、頭上からファイタードーパントに飛び蹴りを喰らわせようとする。が、しかし、それをコインを連結させて作ったトンファーを装備したレイアが迎え撃った。

 

 右足とトンファーが火花を散らし、攻撃を防がれたイクシードは左足も使ってレイアから離れ、彼らより少し離れたところに着地する。そこへファイタードーパントとレイアが同時に攻撃を仕掛けるが、それはイクシードの背後から飛んできた攻撃によって阻まれた。

 

 

「ケアンッ!」

 

 

 駆けつけたWとアクセル、そしてS.O.N.G.の装者達がイクシードを護るように立ち、キャロル達と対峙する。

 

 

「あいつは……」

『仮面ライダーイクシード。『進化』のガイアメモリ、イクシードメモリを使って変身する仮面ライダーよ』

「こちらの世界で誕生した仮面ライダー、というわけか」

「……? お前達は?」

「俺は左翔太郎。二人で一人の仮面ライダー、Wだ。こっちの緑色の方がフィリップ。それで、この赤いのが……」

「照井竜。仮面ライダーアクセルだ」

「お前達がフィーネの言っていた、異世界の仮面ライダーか。私はケアン・ディークス。仮面ライダーイクシードだ」

「チッ、S.O.N.G.にも追いつかれたか……ッ! こうなったら――――――」

「逃がすかよッ!」

 

 

 この状況はあまりにも分が悪すぎると判断したキャロルがすぐにテレポートジェムを砕いて逃げようとするが、クリスのクロスボウから放たれた矢が地面に落ちかけたテレポートジェムを撃ち抜き、続けて放った一射は彼女が持っていたヤントラ・サルヴァスパを的確に撃ち抜いた。

 

 

「な……ッ! おのれ、よくもッ! ぐ……ッ!?」

 

 

 チフォージュシャトー完成に必要なヤントラ・サルヴァスパを破壊された怒りで反撃しようとするが、キャロルは突然頭を抱えて呻き始める。新たな躯体への負荷を度外視した強制的な記憶のインストールに、以前の戦いで自決した記憶による拒絶反応である。それがキャロルに致命的な隙を生じさせてしまい、そこへクリスがミサイルを撃ち込んだ。

 

 

「大当たりデスッ!」

「……ッ! 待ってッ!」

 

 

 爆音が響き渡り、ミサイルがキャロルに直撃したと確信した切歌に反し、黒煙の奥から現れたのは、大型の鎌を振り終えた状態で立つ怪人だった。

 

 

「……助かった」

「貴女に倒れてもらうわけにはいきません。万象黙示録の完成は、我々の理想を果たす為に必要な条件ですからね。あぁ、それと、面白い情報が入りましたので、『彼』を連れてきました」

「彼……?」

「んっんっん~? これはまた久しい顔ぶれが揃ってますねぇ?」

「な……ッ!? 貴方は……ッ!」

 

 

 誰を連れてきたのか、と思った時、ゆったりとした動きで背後から誰かが歩いてきた。その男の姿を見たマリア達の表情が驚愕に染まる。

 

 

「げぇッ! ドグサレドクターッ! なんでここにいるデスかッ!?」

「誰がドグサレドクターだッ! 英雄と呼べッ! それがこの僕――――――ドクター・ウェルに相応しい名称だッ!」

 

 

 唾を吐き散らして叫ぶ男――――――ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは人間のものとは思えない左腕で自分を指差した。

 

 

「……誰だ? こいつは」

「なんでも、ネフィリムと呼ばれる聖遺物の細胞を自身に移植した人間だとか。フロンティア事変……私達には与り知らぬ出来事ですが、それが解決された後、彼は『人』ではなく『物』として政府に扱われ、この場所に隔離されていたそうですよ」

「周りにいるのは馬鹿ばっか……。誰も僕の価値を理解しようとしないッ! ですが、このドーパントが助けてくれたおかげでなんとかなりましたよ。彼に僕の事を話した奴には感謝しますね」

「こいつの事をお前に教えたのは誰だ?」

「名前まではわかりませんでしたが、自分が協力者だという事は明かしていました。『統制局長』、と言えばわかるようですが……」

「……あいつか」

 

 

 脳裏に自分達が所属する結社のトップを思い浮かべ、小さく溜息を吐く。だが、彼がこの男を紹介した以上、ヤントラ・サルヴァスパに代わるなにかをこの男が持っている可能性がある。となると、この男を見捨てるわけにはいかない。

 

 

「黒芭、ファラ。ここは一時撤退するぞ。ウェル、と言ったか。お前もついてこい」

「英雄である僕が指図を受けるなんて御免被りますが、いいでしょう。この状況では多勢に無勢ですからね」

「では、ここは彼らに任せるとしましょう」

 

 

 言うが早いか、デスドーパントがファラとファイタードーパントと共にアルカ・ノイズを召喚する。さらに、デスドーパントが片手の指先に出現させた三つの人魂を放つと、それは徐々に人型に変わっていき、怪人の姿を取った。

 

 

「さぁ、行きなさい」

「「「オオオオオオオオオオッ!」」」

 

 

 再生怪人としてデスドーパントに召喚されたドーパント――――――アノマロカリスドーパント、コックローチドーパント、エナジードーパントがアルカ・ノイズの大群と組んでW達に襲い掛かる。

 

 

「きゃあッ!? ゴ、ゴキブリッ!?」

「気持ち悪い……」

「人間大のゴキブリ怪人なんて御免被りますデスよッ!」

 

 

 生理的に受け付けられない生物の記憶を体現した怪人に堪らず悲鳴を上げたセレナ、調、切歌がコックローチドーパントに攻撃を仕掛けるが、コックローチドーパントは如何にもゴキブリらしい素早さでそれを躱し、三人に接近する。

 

 

「「「ぎゃあああああああッッ!!」」」

「この子達に近づくんじゃないわよッ!」

 

 

 戦闘中だというにも関わらず抱き合って今にも泣きだしそうな三人にコックローチドーパントが飛びかかった瞬間、彼女達の前に出たマリアが短剣で切り裂いた。そこへアノマロカリスドーパントが口元から弾丸に変えた歯を発射してくるが、メタルドーパントがその鋼鉄の体でマリアを護った。

 

 

「ハハッ! 甘ぇなぁッ!」

 

 

 メタルシャフトを振りかぶったメタルドーパントによってアノマロカリスドーパントがアルカ・ノイズごと薙ぎ払われる。

 

 しかし、彼らがそうしている間にキャロル達は壁に穴を開け、そこから逃げてしまった。

 

 

「クソッ! あいつら逃げやがったぞッ!」

「左、フィリップ。ここは任せるぞ」

『頼んだよ、照井竜』

 

 

 エナジードーパントのレールガンから発射される加速超電導弾を躱して殴り飛ばしたWに頷き、アクセルがその穴に入る。

 

 

「私も行こう。マリア」

「えぇッ! 調、切歌ッ! セレナを頼んだわよッ!」

「合点承知デスッ!」

「任せて」

「賢ッ! クリスを連れていけッ! ここは俺達に任せろッ!」

「頼む」

「やられんじゃねぇぞッ!」

 

 

 アルカ・ノイズと三体のドーパントの相手をW達に任せ、イクシードを筆頭にマリア達は次々とキャロル達を追い始めた。

 

 

 

 

「――――――万象黙示録……世界の解剖、か」

 

 

 その頃、キャロルの自室。彼女が計画完遂に乗り出した影響で長らく主が帰らない部屋に叶と共に入ったエルリンは、綺麗に整えられた資料から、キャロルがなにを目論んでいるのかを知った。叶に「ここから連れ出してほしい」と頼まれたが、まずはこの数百年の時をキャロルがどのように過ごしてきたかを知る為に、この部屋に訪れたのである。

 

 外観はわからないが、内部構造からして大型のものだと察したのでこの部屋を見つけるまでは時間がかかるかと思われたので、案外早く見つかってよかった。

 

 

「変わっちまったな、キャロルの奴……」

 

 

 そう呟くエルリンの瞳には、数百年の時を経て変わり果ててしまったキャロルに対する憐憫があった。常人では決して生きられぬ年月を生きたが故に摩耗した彼女を、最後の騎士は憂いだ。

 

 そして、エルリンはついに決心したのだ。

 

 

「叶、お前の申し出、受けさせてもらうぜ。これは、俺が対処しなくちゃならねぇ事みたいだ」

「……うん……。わかった……」

「でも、いいのか? 俺もそうだが、お前がいなくなれば、俺に取り憑いていた奴や、その仲間達はお前を血眼になって探すはずだ。とんでもない迷惑をかける事になるが、それでもいいのか?」

「……いいの。……これが……私が思う……正しい事……」

「……わかった」

 

 

 幽鬼のようにコクリと頷いた叶に頷き返し、「頼む」と一言。

 

 叶が空中に手を翳すと、そこを中心に空間が捻じれ、ブラックホールが如き穴が出現する。当然だが、ブラックホールそのものではない。しかし光を逃さぬその漆黒の色は、エルリンにあの死の穴を連想させた。

 

 足を踏み出す。小さな少女と共に踏み出した一歩は漆黒の穴の中に消え、そのまま二人は空間の捻じれへと身を投じるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。