先週は投稿できず、申し訳ありませんでした。それではどうぞッ!
「う、うぅ……」
小さく呻いて起き上がると、まず最初に見慣れた木造の部屋が目に入り、「……そうか」と呟く。
記憶は奏の攻撃を受けたところで途切れている。きっと、あの後気を失ってしまったのだろう。となると、決着はどうなったのだろうか。あの時は確か克己が駆けつけてくれたはずだが、彼が二人を撃退したのだろうか……。
「あ、目が覚めたんだね」
「……鳴海」
「無理しないようにね。重傷じゃなかったみたいだけど、怪我人なんだからね。なにか飲み物いる?」
「水を頼む。……戦いは?」
「向こう側から撤退したみたいだよ。歌を聴きたいのに、それを歌うはずの翼ちゃんがいなきゃ意味が無いからって」
「私の歌を? なぜ……」
「う~ん、私にはわからないなぁ。フィリップ君ならなにかわかるかもしれないけど」
むむむ、と唸る素振りを見せるも、やはりわからないと亜樹子が肩を竦めた直後、襖を開けてレイカが入ってくる。
「あら、起きたのね。……うん、様子を見るに、しばらく戦えるようじゃなくてよかったわ」
「羽原か。大道は?」
「克己はほとんど無傷よ。エターナルの装甲に護られていたからね。今八紘さんと話をしているけど、あんたも聞く?」
「ちょっと。翼ちゃんは怪我人なんだよ? そんな彼女に……」
「大丈夫だ、鳴海。この程度の傷、大したものではない」
そう言って立ち上がり、レイカと連れ立って八紘の自室へ赴く。
「ッ! 翼さんッ!」
「翼ちゃんッ!」
「目が覚めたか、翼」
「心配をかけたな。……それは?」
「アーネンエルベから送られてきた、キャロルらが使役しているアルカ・ノイズの材料をまとめた資料だ」
一通り読み終えたファイルを軽く叩いて克己が答えた。
アーネンエルベ。それはシンフォギアの開発に関わりの深い独国政府の研究機構である。此度の戦いにおいてキャロル達が繰り出してきた新たな脅威――アルカ・ノイズを前にS.O.N.G.が彼らの助けを求めたところ、アルカ・ノイズの体を構成する物質の名が判明した。
どうやら、アルカ・ノイズから放たれている赤い粒子の正体は、万能の溶媒であるアルカヘストによって分解還元された物質の根源要素、プリママテリアというものらしい。
錬金術とは、分解と解析、そこからの構成によって成り立つ異端技術の理論体系とされているが、そうなると、世界の解剖を目論むキャロルは、世界を分解した後になにを創造しようとしているのだろうか……。
「……翼」
誰もがキャロルの真意について考えていたその時、八紘がポツリと娘に声をかけた。
「は、はい」
「傷の具合はどうだ?」
「……? 痛みは殺せますが……」
「ならばここを発ち、然るべき施設にて――」
「ガルルルルル……ッ!」
「獣かお前は」
八紘がなにを言おうとしているのか理解した瞬間に唸り声をあげた亜樹子の頭を克己が叩く。風鳴邸に来て早々八紘にスリッパを投げつけるという所業を行った彼女だが、これ以上彼に危害を加えない事を条件に釈放してもらった。彼女の言葉に、八紘自身思うところがあったのだろうか。
「……些細な傷でも、ふとした時に大きな痛手に変わる事もある。少しでも嫌な予感がした時は、無理せずに休むがいい」
「え? あ、はい……」
厳しい言葉を浴びせられるのではないか、と内心冷や冷やしていた翼は、その優しい言葉に思わず驚いてしまった。なんとなく、八紘の耳が赤く見えるのは気のせいだろうか。
「……ですが、今日だけ、せめて今日だけは、戦わせてください。一度失ってしまった光を、私はもう一度取り戻せるのかもしれないのです。どうか、この通り」
あの惨劇で、絶唱を歌って朽ち果てた一番の戦友。再びこの世に現れた彼女と言葉を交わす為にと頭を下げた翼を見つめ、「……そうか」と八紘は呟く。
「では、彼女達が襲撃するまでの間、可能な限り体力を回復させておけ。取り戻したいのなら、是が非でも取り戻せ。負ける事は許さん」
「……ッ! ありがとうございます、お父様ッ!」
そんな事を言ったとしても「くだらない」と吐き捨てられるのではないか、と恐れていた翼は、彼の言葉に深々と頭を下げるのだった。
「翼さん。克己さん達には既に報告しましたが、クリスさん達がオートスコアラーの一機、レイアとラメンターのドーパントを撃破したそうです。残るオートスコアラーは残り一機です」
「そうかッ! 雪音達め、やってくれたな」
自分の後輩達が戦果を挙げてきた事を喜ばしく思う翼。しかし、次に緒川から伝えられた情報は、そんな彼女を驚愕させるものだった。
ラメンターのメンバーの一人、ファイタードーパントこと黒芭燈迩が、克己達と同じNEVERだったという情報だ。克己達と同様、死を超越した戦士だった彼ならば、これまで仮面ライダーや装者達を苦しめてきたのも頷けるが……。
「大道は、なにか思ったりするのか? その……黒芭燈迩について」
「可笑しい事を聞くな、お前は。相手が
「……大分ドライなんだな、君は」
「
「でも……大道達は人の心を残しているだろう? それなら、お前達も……」
「……ハッ、言ってくれるじゃないか、翼」
その笑いは、人道より堕ちた者達でさえも信じる翼への驚きか、それとも呆れか。口元を歪めて小さく息を吐くように笑った克己の手が翼の頭に乗せられる。
氷のような冷たさに一瞬身を竦めた翼だが、その冷たさの奥に、確かな温かさを感じ取り、どこか嬉しそうに微笑んで、彼に撫でられるのだった。
時間にしてみればほんの数秒に満たない時間だったが、それだけでも満足した翼は八紘達に一礼して退室する。
「よかったね、翼ちゃん。ちゃんとお父さんと会話できたんじゃんッ!」
「……ありがとう、鳴海。そして、すまなかった」
沈みかけている夕日が照らす廊下を歩く亜樹子に、翼は謝礼の言葉を述べる。
「本当なら、これは私自身で解決すべき問題だった。それなのに、客人である貴女に手伝わせてしまった。少し、自分が情けなく思えてしまう」
「いいのよ。あたしも、貴方達の関係を見て思うところがあったからね」
「……? それは……」
どういう事か、と訊ねようとした時、歩を止めた亜樹子が夕日を眺めて口を開く。
「あたしのお父さんはさ、もういないの」
「ッ! それって……」
「うん。死んじゃったの。翔太郎君とフィリップ君を庇ってね」
そこから、亜樹子は亡き父親の話をし始めた。
鳴海壮吉――かつては仮面ライダースカルとして風都を護っていた探偵。如何なる事態にも冷静に対処し、自らの感情を押し殺してでも為すべき事を為した、ハードボイルドの体現者。そして彼は、人一倍に周りの人々を、風都を愛した人情家でもあった。
最初こそ、亜樹子は当時の自分を捨てて風都で戦い、散った彼を恨んでいた。しかしその感情は、とある事件によって彼の真実を知った事で消えた。
父親は自身を裏切った相棒だった男が変身したドーパントによって、最愛の人物に接触すると爆発する小型の爆弾を体内に埋め込まれてしまっていたのだ。それが原因で彼は最愛の娘である亜樹子に再会する事ができず、そのまま風都で命を落としてしまった。
結局、自分は最後まで彼に「ありがとう」と言えず、死に別れてしまった。それを亜樹子はとても悔しく思っていたのだが、同時に彼を誇らしく思ってもいる。
父親は探偵として、そして仮面ライダーとして、多くの人々の悩みを解決し、風都の平和を守り続けていた、一人の英雄であったのだと。
「私はもう、お父さんと話せないけど、翼ちゃんは違うでしょ? 今もお父さんは生きている。生きている限り、色んな話が出来る。翼ちゃんには、私みたいな思いはしてほしくないから……」
だから、仲直りしてね? と言い終え、亜樹子は近くにあった襖を開けて、固まった。
「な、なに……これ……」
酷い有り様だった。ぬいぐるみや衣服の類が滅茶苦茶に乱雑しており、その光景を見た亜樹子は、これが翼に敵意を持つ何者かの襲撃によるものだと判断し、すぐに克己達を呼びに行こうとしたが、それを翼が止める。
「鳴海……これはな、私の不徳なんだ」
「だからって、ねぇ? えぇ? 緒川さんからこの事は聞いてたけど、まさかここまでなんて……」
「うぅ……ッ! なんとも情けない……ッ!」
「ほら、泣いてないで片付けよう。あぁもう、下着までこんなところに放っておいて……あれ?」
脱ぎ捨てられていた下着を手に取った亜樹子が違和感を感じたその時、突如として轟音が風鳴邸に轟いた。
「ぎょええええッ!? ななな、なにッ!?」
「鳴海ッ! 緒川さん達のところへ行けッ! 私が見に行くッ!」
「う、うんッ! 気を付けてねッ!」
亜樹子の叫びを背に受けて屋敷から飛び出すと、森から大量のアルカ・ノイズが溢れ出していた。
「これは……ッ!?」
「ファラ……津神真一が出現させたものだろう。この数は俺達総出で当たる必要がある。是が非でも、お前だけと戦いたいらしい」
「克己ッ!」
既にヒートドーパントに変身していたレイカが上空から降り立つ。
「今回のアルカ・ノイズは大量の大量よ。このまま放置してたら、街にも溢れ出すわ」
「わかった。京水は?」
「もう戦ってる。あんたも手伝ってくれる?」
「元からそのつもりだ。……翼、アルカ・ノイズは俺達が片付ける。オートスコアラーと旧友の相手をさせる事になるが、いけるか?」
オートスコアラーですら装者単独で撃破するのは困難だというのに、今の
「……あぁ、任せろッ!」
しかし、戦力差などなにするものぞ。次は負けないとばかりに頷いた翼に、克己は不敵な笑みを以て返した。
「活路は俺達が切り拓こう。お前は、お前の為すべき事を為せッ!」
『エターナル!』
その身に漆黒の外套を纏って疾走したエターナルが自分達を襲おうとしたアルカ・ノイズを蹴散らしながら、T2ユニコーンメモリをマキシマムスロットに挿入する。
『ユニコーン・マキシマムドライブ!』
突き出された拳から放たれた竜巻状のエネルギー波が前方のアルカ・ノイズをまとめて消し飛ばし、一本の道を作り出した。
「行ってこい、翼ッ!」
「助かったッ!」
エネルギー波に抉られた地面を駆け抜けていくと拓けた場所に出る。その中心に、月光を浴びて佇む二人の姿があった。
「ファラ、いや、津神真一ッ!」
「待っていたぞ、風鳴翼。さぁ、貴様の歌を聴かせてもらおうかッ!」
「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッッ!!」
最早、自身がファラではないと豪語するように
「――
振り下ろされたアームドギアを、天羽々斬を構えた翼が受け止める。
「奏……これまでは失敗してきたが、今度こそこの剣で、その呪いを断ち切ってみせるッ!」
「ならば、この
飛びかかってきた
「く……ッ!」
「お前がそれを剣を認識し続ける限り、この哲学兵装はその概念を凌辱し続ける。さて、いつまで耐え切れるかな?」
まだ憑依される前の頃を彷彿とさせる軽やかな動きで攻撃を仕掛けてくる
『千ノ落涙』
月光を受けて銀色の輝きを放つ刃雨が降り注ぐが、それを前にした奏は右手の槍を投擲する。槍が奏の手から離れた瞬間、大量に分裂して刃雨を迎え撃つ。
『BLACK STARDUST∞FOTON』
空中で激突した剣と槍が小規模な爆発を起こし、着地した翼は新たな剣を手に
「駄目か……ッ!」
「所詮は鈍らだったか。フ――ッ!」
「うわあああぁぁッ!」
反撃にと振るわれた大剣から放たれた突風に吹き飛ばされ、翼の体が地面に叩き付けられた。
「ぐ……ッ! いったい、どうすれば……」
どれだけ刃を振るっても、それを翼が『剣』と認識し続ける限り、
ゆっくりとにじり寄ってくる
「――翼ッ!」
聞き慣れた声に、パァンッという銃声が続く。
「な……お、お父様ッ!? 緒川さんも、どうしてここにッ!?」
翼の視線の先には、緒川を連れた八紘の姿があり、その眼光は確かな怒りを以て
「馬鹿な……。アルカ・ノイズに埋め尽くされた森を抜けてきただと? いったいどうやって……」
「僕のお陰ですよ。僕は反対したのですが、彼にどうしてもと頼まれましたのでね」
「緒川さん……」
「翼」
スッと細められた瞳が、
なにを言われるのかと不安になる翼に対し、カッと目を見開いて八紘が叫ぶ。
「歌え――歌うんだ、翼ッ!」
「……ッ!? お父、様……?」
「私個人の意思で、お前を傷つけてしまった事は許してくれなくてもいいッ! だが、今ここで、私は叫ぼうッ! 翼……私は、お前の歌が好きだッ!」
「ッ!!」
信じられない言葉が彼から飛び出し、驚愕に息を呑む翼。しかし、それでも彼女の心は、確かに父の叫び――『愛』を感じ取っていた。
「歌うんだ、翼。私の娘よ……。その歌で、お前の願いを叶えろッ!」
「言わせておけば……ッ! 貴様は黙っていろッ!」
「な、にッ!?」
突如として上空から落ちてきた剣が斬撃を迎え撃ち、続けて落ちてきた剣が
「この人を傷つけるな……。この人は私の父だ。私の家族だ」
切り裂かれた箇所を押さえて翼を見やる
「……お父様」
足元から立ち昇る風に蒼髪を揺らしながら、八紘に声をかける。
「私の歌を好きと仰ってくれて、ありがとうございます。ならば聴いてください、貴方の娘の――この風鳴翼の歌をッ!」
マイクユニットを掴み、叫ぶ。
「イグナイトモジュール――抜剣ッ!」
放り投げたマイクユニットが胸に突き刺さり、彼女の全身を黒いオーラが包み込む。
「いざ、尋常に――」
オーラが弾け飛ぶ。そこから現れた翼は、これまで誰も見た事がなかった武装に身を包んでいた。
禍々しい漆黒の外装とはかけ離れた、漆黒の着物。完全燃焼を意味する蒼い炎のような装飾を施された袖に通された手が、地面に突き立つ剣を握る。
その指に触れられた剣は瞬く間にその刀身を黒曜石の如く黒く染め上げ、冷徹な殺人鬼の双眸のように冷ややかな輝きを以て所有者の手に納まった。
「――勝負ッ!」
これこそ、天羽々斬・ガイアイグナイト。
漆黒の剣聖が、月夜に舞う――。
天羽々斬のガイアイグナイト登場ですッ! 次回は反撃回ッ!