死神に鎮魂歌を   作:seven74

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 大変長らくお待たせいたしました。実に一ヶ月ぶりの更新でございます。

 別の作品を執筆していたり、イラストの練習をしていたり、大学の授業が忙しかったりと、色々な事情が重なって更新できずにいました。本当に申し訳ございませんでした。

 また、これからもこの状況が続くと思いますので、更新は本格的に不定期になると思います。誠に勝手ではございますが、どうかよろしくお願いします。


黒剣士T/暗黒の疾風

 

「―――邪鬼の遠吠えの残音が月下に呻き狂う」

 

 

 黒刀を手に駆け出した翼を、ファラ(津神)と奏が迎え撃つ。

 

 奏の攻撃を受け流し、真っ直ぐに突っ込んできた翼が黒刀を振るうが、首元まで迫りかけたそれはすんでで大剣に阻まれ、哲学の牙によって打ち砕かれる。

 

 

「―――今宵の我が牙の切れ味に同情する」

 

 

 指を巧みに動かす事で跳ねるように動いた大剣が翼を脳天から両断せんとするが、翼は軽く体を逸らす事で回避。ファラ(津神)を蹴って距離を取ると同時に地面に突き立つ別の黒刀を掴み取った瞬間、彼女の背後に立つ奏が槍の穂先から光線を発射した。

 

 

「翼ッ!」

 

 

 思わず八紘が叫ぶ。

 

 完全な不意打ち。先にファラ(津神)を仕留める事を考えているのか、翼が背後から迫る光線に気付いているようには見えない。

 

 しかし、彼らの叫びは翼―――否、彼女が身に纏う天羽々斬に届いていた。

 

 

「―――其方の戒名に記す字をどう掘るか? 明示せよ」

 

 

 彼女の周囲に突き立っていた黒刀が独りでに浮遊し、四角を描くようにそれぞれの切っ先を合わせると、そこを中心に発生したエネルギーバリアが光線を阻んだ。

 

 

「グル―――ッ!?」

 

 

 完全な不意打ちであったはずなのに、それを阻まれて怯んだ奏に振り向いた翼が片手を振り下ろすと、突如上空に出現した剣型のエネルギー弾が殺到。奏の全身に着弾し、その体が大きく吹き飛ばされる。

 

 

「通常のイグナイトとは違う能力か。面白い。その歌、もう少しばかり聴かせてもらおうか」

 

 

 新たに大剣を取り出し、二刀流となったファラ(津神)が緑色の竜巻を放ってくる。

 

 

「―――断末魔の辞世の句は 嗚呼 是非もなし」

 

 

 巻き込まれたら間違いなく全身に深手を負うであろう二つの竜巻に対し、翼は柄を強く握り締めると同時に大きく踏み込む。

 

 肺に溜めた空気を全て吐き出す勢いで振り下ろされた黒刀から発生した絶風が竜巻を呑み込み、竜巻以上の風力を以て破壊。そのままファラ(津神)を袈裟斬りにした。

 

 

「ぐうぅッ!? おのれ……ッ!」

 

 

 火花を散らしながらも突っ込んできたファラ(津神)の斬撃が迫る。空を切り裂き、緑色の軌跡を描いて喉元に喰らいつこうとする刀身を翼が黒刀で弾くも、T2アルケウスメモリの力で強化された一撃は黒刀を粉々に破壊してしまった。

 

 続けて繰り出される斬撃。今度は地面を切り裂いて接近するそれをバク転で躱し、距離を取る間に追撃されぬように剣のエネルギー弾を射出する。ファラ(津神)はエネルギー弾を斬り裂きながら翼を追うが、今度は地面に突き立っていた無数の剣が浮かび上がり、左右から彼女()を撃ち落そうとしてきた。

 

 舌打ち混じりに体を回転させて繰り出した攻撃で左右の剣を粉砕するが、そちらに気を取られている一瞬の隙を突いて、翼は着地と同時に新たな黒刀を二本取って駆け出す。

 

 

「―――所詮はケモノと変わらぬのか? 錆に折れゆくのか?」

「オ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!」

 

 

 ファラ(津神)に突進する翼の前に奏が立ちはだかる。

 

 剛槍を手に襲い掛かってくる奏と、双剣を交差させてそれを防ぐ翼。鍔迫り合いに派生した二人の間には絶え間なく火花が飛び散り、双方の激情を表しているかのようだ。

 

 

(奏……)

「オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!」

 

 

 翼の視界を埋め尽くす、狂気に呑まれた奏の双眸。見る者を皆委縮させてしまうような、理性の欠片も感じさせない凶悪な眼光に射抜かれながらも、翼はしっかりとその目を見つめ返す。

 

 

(待ってて、奏。今すぐに、貴女をその呪縛から救ってみせるッ!)

 

 

 もう二度と会えないと思っていた相手に、こうして巡り合えた事に感謝する。我ながら、未だに彼女から卒業できてない事が恥ずかしく思えてくるが、今の自分がいるのは、彼女のお陰でもある。そんな、かつての自分にとっての光になってくれた彼女が闇に堕ちたのなら、それを救うのは、この風鳴翼を除いて他にいない。

 

 鍔迫り合いを征したのは―――翼だ。

 

 押し切られた奏の両手から槍が離れて、甲高い音を立てて落下する音が聞こえる。

 

 双剣が紅蓮の炎を纏う。地獄の業火を思わせる灼熱の刃が、友を蝕む呪いへと牙を剥く。

 

 

絶刀双撃・羅生門

 

 

 紅蓮の双撃を受けた奏の体が吹き飛ばされ、二度、三度地面を跳ねた後に武装が解除される。峰内だったが、それでも威力はガイアメモリとイグナイトモジュールの力を完全に融合させたもの。骨や内臓を破壊しない程度に力を抜いて攻撃したが、倒れている奏が心配だ。

 

 だが、今はそれについて考えている場合ではない。

 

 

「フ―――ッ!」

 

 

 背後から斬りかかってくるファラ(津神)から、身を翻して距離を取る。

 

 両手に剣殺しの大剣を携えるファラ(津神)が放った竜巻を躱し、右手の黒刀を投擲する。シンフォギアによって強化された腕力で投げられた黒刀は、弾丸に勝るとも劣らない速度で標的を貫こうとする。ファラ(津神)はそれを右手の大剣で弾くと同時に剣殺し(ソードブレイカー)の能力で破壊してしまおうとするが―――

 

 

「……ッ!? なんだと……?」

 

 

 振るわれた斬撃は、黒刀を防ぐ事には成功した。しかし、破壊されない( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

 

 剣殺し(ソードブレイカー)の能力は間違いなく発動しているはずなのに、いったいどうして―――そう疑問を抱いた時には、既に翼はファラ(津神)に肉薄しており、左手に残った黒刀で斬りつけてきた。

 

 噴き上がる炎。凄まじい熱気と共に繰り出された斬撃は寸分違わずにファラ(津神)の胴体を捉え、緑色のドレスの奥にある躯体に深い傷を刻み付けた。

 

 

「く―――オォッ!」

 

 

 数歩後退りながらも、ファラ(津神)の瞳に戦意は消えていない。傷から絶え間なく弾ける火花を無視し、再び斬りかかってくる。

 

 それを防ぐ翼。上段より振り下ろされた双撃を受け止めた黒刀は、凶刃から主を護り抜いて砕け散った。しかし、翼が手を振るえば地に突き立っていた別の黒刀が彼女の手に収まり、反撃の一撃を加えた。

 

 辛うじて右手の大剣で防ぎ、剣殺し(ソードブレイカー)の能力を発動するも、やはり黒刀が壊れるまでの間隔が長くなっている。まるで、耐性を獲得しているかのように( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

 

 砕かれた矢先に新たな黒刀を手に斬りかかる翼。それをファラ(津神)が捌き、破壊する度に、黒刀は徐々に剣殺し(ソードブレイカー)への耐性を獲得すると同時により頑丈になり、その威力を増していく。

 

 夢とは、幾度の挫折と再起を経て叶えるもの。何度となくあらゆる障害によって願望を阻まれ、打ちのめされながらも、誰もが夢に向かって羽ばたき続ける。

 

 今の翼の戦い方は、まさにそれを象徴しているかのようだった。

 

 

「ハァ―――ッ!」

 

 

 そして、遂に横薙ぎに振るわれた黒刀が、二本の剣殺し(ソードブレイカー)を粉砕したのだった。

 

 

 

「馬鹿な……。哲学の牙を砕いただとッ!?」

「貴様は、私を剣と呼ぶのか?」

 

 

 根本から打ち砕かれた剣殺し(ソードブレイカー)に僅かに目を見開くファラ(津神)に、翼が問う。

 

 

「剣? 否。私の名は風鳴翼。夢に羽ばたく、大いなる翼。貴様の哲学に、(わたし)は折れぬと心得よ」

 

 

 翼の足元から、突風と共に桃色の花びらが舞い上がる。それを目にした八紘が思わず口を開く。

 

 

「これは、桜……?」

 

 

 今の季節には咲くはずのない桜の花びらが舞い散る光景。その中心に佇む翼が軽く手を広げると、地面に突き立っていた全ての黒刀が砕け、炎の渦となって彼女の手元に集う。

 

 炎の渦が消えた頃、翼の手には、彼女の身長を上回るリーチを誇る一本の野太刀が握られていた。

 

 

「燃え上がれ―――黒疾風」

 

 

 血肉を寄越せ、魂を寄越せと叫ぶようにギラギラと月光を反射する漆黒の太刀の柄を両手でしっかりと握り締め、ゆっくりと腰を落とす。

 

 

「―――さらばだ、現世に留まりし魂よ。今、楽土へ送ってやる」

 

 

 武器を砕かれたファラ(津神)が、その身からアルケウスの力を象徴する黒い靄を噴き上げる。しかし、彼女()が攻撃を繰り出すよりも、翼の方が数段早い。

 

 

闇神刀・黒疾風

 

 

 振るわれた刀身から飛び出した紅蓮の焔を纏った絶風がファラ(津神)を斬り裂き、大爆発が起きる。

 

 しかし、翼は武装を解除しない。この黒煙の奥にいるであろう彼女()は実にしぶとい存在だ。この一撃を受けても尚、自分に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。 

 

 

「……見事」

 

 

 晴れた黒煙の先。今にも崩壊してしまいそうなほど、全身に亀裂が走ったファラ(津神)が姿を現す。翼は注意深く彼女()の様子を窺うが、最早今の彼女()に戦う力は残されていないように見える。

 

 

「貴様のその生き様、敬意に値する。―――だが、俺はここで倒れるわけにはいかない」

「―――ッ! 待てッ!」

 

 

 テレポートジェムを取り出すファラ(津神)を逃がすまいと剣型のエネルギー弾を撃ち出すが、時すでに遅し。ファラ(津神)はエネルギー弾が直撃する寸前でテレポートジェムを砕き、眩い輝きと共に消えてしまった。

 

 追跡は不可能だと判断して悔し気に拳を握り締めるが、今はもう彼女()を追うよりも―――

 

 

「奏……」

 

 

 技を受けて武装解除されたかつての戦友にして親友を抱き上げる。軽く揺すってやると、僅かに呻き声を上げながら奏が目を覚ます。

 

 

「つ、翼……?」

「……っ、奏……奏ぇッ!」

「おわッ!? お、おい……翼……」

 

 

 強く抱き締められ、地面に押し倒されるような態勢になってしまった奏は翼に離れるよう促そうとしたが、涙ながらに自分の名前を繰り返し口にする戦友の姿にふっと微笑んだかと思うと、泣きじゃくる子どもをあやす母親のように、優しく翼の頭を撫で始めるのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『よくやったぞ、翼。オートスコアラーを撃破し、奏君も救出してくれたとはッ!』

「ありがとうございます、叔父様」

 

 

 モニターに映る弦十郎に、頬に湿布を貼った翼がにこやかに笑う。

 

 現在、彼女達は風鳴邸よりS.O.N.G本部へと連絡を取っている。奏も弦十郎達と話をしたがっていたが、デスドーパントの呪縛から解かれたばかりだからなのか、まだ十全に動けるというわけではなく、今は別室で休んでいる。

 

 

『克己君達もありがとう。君たちがいなければ、きっと街にも被害が出ていた事だろう。本当に感謝する』

「俺達はやるべき事をしたまでだ。報酬さえ忘れてくれなければ、それでいい」

「森を焼かないように気を付けたんだから、ちゃんと用意しなさいよ」

「まったくその通りねッ!」

 

 

 ファラ(津神)が召喚したアルカ・ノイズの掃討に当たっていた克己達は口々に報酬の事を弦十郎に言うが、弦十郎は『当然だろ』と笑顔で答えた。しかし、その後方にいる翔太郎達はそれとは真逆だった。

 

 

『所長、無茶をしてくれたな』

「うっ、ごめんなさい……。翼ちゃんのお父さんの話を聞いてから、居ても立っても居られなくて……」

 

 

 映像越しとはいえ、夫を始めた仮面ライダー達の鋭い視線に射抜かれた亜樹子が縮こまる。

 

 

『八紘兄貴もだ。緒川がいたとはいえ、アルカ・ノイズがひしめく森に入るのは止してくれ。流石に心臓に悪い』

「む……、すまない。翼の事が気になったものでな……」

『……兄貴、変わったな』

「な、なんの事だ?」

『はははっ』

「おいっ、なぜそこで笑うッ! 弦ッ!」

 

 

 声を上げて笑う(弦十郎)に、(八紘)が拳を振り上げて怒る。しかし、本気で怒っているわけではないらしく、少しした後に拳を下ろしたかと思えば、ふっと小さく淡い笑みを浮かべた。

 

 しかし、この空気のまま話が終わる事はなく、フィリップが皆を現実に引き戻すべく口を開く。

 

 

『翼ちゃん。話を変えて申し訳ないが、訊きたい事がある。君が相手取ったオートスコアラー、ファラ・スユーフ―――津神真一の事だが、彼はその場で倒れず、撤退したんだよね?』

「はい。今にも倒れてしまいそうなくらい、満身創痍でしたが……」

『……まずいな。それは、本当にまずい』

『? どういう事ですか、フィリップさん?』

『今の彼は魂だけの存在だ。根本まで繋がっているであろうT2アルケウスメモリを破壊しない限り不死身の彼が、取り憑いたオートスコアラーの躯体が深手を負ったとしたら、次に起こすだろう行動は……』

「……まさか」

 

 

 T2アルケウスメモリの能力を思い出した克己が目を細める。

 

 彼とフィリップが感じた不穏な予感。それは、こことは別の場所で現実になろうとしていた―――

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「なぜ戻ってきた。ファラ」

 

 

 チフォージュ・シャトー王室。シンフォギア装者によって撃破されたオートスコアラーの墓標であるかのように天井から三色の天幕が見下ろす中、キャロルは眼下で膝をつく人形の騎士を睨む。

 

 

「貴様の目的は、()のシンフォギア装者と戦い、その呪いの旋律を手に入れる事。死ぬまでが貴様の役目だというのに、よくもおめおめと戻ってこれたな」

「……申し訳ございません、マスター」

 

 

 頭を下げたまま、謝罪の言葉を上げるファラ。その身に宿る精神が、既に彼女のものでない事を、主たるキャロルは気付いているのだろうか。

 

 

「まあ、いい。お前の機能が停止するまでの時間は長くない。早くて今日中には、お前は死ぬだろう。後はオレに任せろ。シンフォギアシステムも、ライダーシステムもとうに解析し終えた。苦戦はするだろうが、なに、オレの敵ではない」

 

 

 己の手を握ったり開いたりしながら、「あぁ、そうだ」とキャロルはわざとらしく口を開く。

 

 

「一つ、お前に言い忘れていた事があった」

「……? それはどのようなもので?」

 

 

 表情に変化こそ表さないが、キャロルの言葉を一言一句聞き逃さないと意識を集中させるファラに、キャロルは淡々と告げる。

 

 

「エルリンと津神叶が消えた」

「……ッ!?」

 

 

 脳が揺さぶられる感覚を覚えて、ファラが顔を上げる。瞬間、「しまった」と気付くも、後の祭り。

 

 

「やはりか。貴様、オレの騎士を殺したな」

 

 

 目の前にいる存在の正体に確信を持ったキャロルが拳を握り締める。眉を顰めて皺を作った彼女の双眸には、明確な憤怒の炎が燃え盛っている。

 

 

「エルリンだけで飽き足らず、よくもそいつもオレから奪ってくれたな。津神真一ィッ!」

 

 

 愛する男の体を奪われた事、そして己を護る人形騎士の意識を喰らった事に対する憤慨を隠さずに立ち上がったキャロルが手を翳し、瞬時に魔法陣を構築。放たれた爆炎と暴風がファラ(津神)の身を襲い、廊下まで吹き飛ばした。

 

 

「ガ、ハ―――ッ!」

 

 

 翼から受けたダメージがほとんど回復していない状態で受けたニ撃はファラ(津神)に絶大なダメージを与え、パラパラと欠片が溢れる壁から床に落ちた彼女()は、堪らずその場で呻き声を上げる。

 

 

「思えば、オレの計画が狂ったのは貴様らが来てからだった」

 

 

 その外見からは想像もつかぬ覇気を漂わせ、キャロルが王室から出てくる。

 

 

「異世界からの転移者。あの男なら興味を持ったかもしれないが、オレは最初から貴様らに興味は無かった。だがッ!」

 

 

 指揮者のように腕を振るうと、今度は魔法陣から激流が放射され、ファラ(津神)を押し流した。

 

 

「貴様はッ! オレの最愛の騎士(エルリン)を奪ったッ! 貴様があんな事をしなければ、万象黙示録は既に果たされていたというのにッ!」

 

 

 パヴァリア光明結社と財団Xの髄を結集して開発されたライダーシステム。あれさえあれば、オートスコアラー全機が役目を果たした後に、邪魔者となるシンフォギア装者も仮面ライダーも全滅させる事ができたはずだ。

 

 なのに、いざ計画始動の時にラメンターが現れた。そして、こことは異なる並行世界からやって来た彼らのリーダー……津神真一は、あろう事か最強の騎士エルリンの肉体を奪ってしまった。

 

 数百年の時を費やして整えた準備が、こいつらの出現で全て滅茶苦茶になってしまったのだ。これを許せる者など、誰一人としてこの世にはいないだろう。

 

 

「だが、エルリンはもうここにはいない。お前という荷が降りた以上、あいつは自由だ。オレの敵になるのも……あいつの選択だと言うのなら……」

 

 

 ここから離れたという事はつまりそういう事なのだろう、と理解すれど、キャロルの声は弱々しい。愛する男が敵になる。覚悟はしていたが、やはり堪えるものがある。

 

 

「貴様はここで殺す。貴様の執念は見上げたものだが、それもここまでだ。ファラも、貴様なんぞに己の躯体を使われる事は到底我慢できんだろうよ」

 

 

 これ以上は見過ごせない、とばかりにキャロルは己が持ち得る最強の攻撃手段を以て津神真一を殺そうと決意し、空中に手を翳す。

 

 魔法陣から出現させた巨大なハープを奏で、ダウルダブラのファウストローブを纏おうとした、その時―――

 

 

「―――シアン」

「―――ッ!?」

 

 

 ファラ(津神)の声が嫌に響き渡った途端、ハープを取ろうと伸ばした左腕の肘から先の感覚が消えた。

 

 なにが起きた、と恐る恐る自身の左腕を見て、キャロルは驚愕に目を見開いた。

 

 

「あ―――あああああッ!?」

 

 

 肘から先がなくなった己の左腕を見た瞬間、キャロルの脳が遅れて肉体が傷つけられた事に気づき、その痛みを全身に伝え始める。

 

 切断面から血を撒き散らして苦悶の叫びを上げるキャロルだが、背後から回された腕が彼女の首を捉えた。

 

 

「よくやった、シアン」

「恐縮です」

「ぐ……うぅッ! シアン……ゴールディス……ッ!」

 

 

 いつの間に現れたのか、己を捕らえて離さない死神を睨み上げるも、シアン・ゴールディス―――デスドーパントはまるで意に介していない。

 

 

「この体にもう用はない。万象黙示録完成の為の呪いの旋律は、今回の戦いでようやく揃った」

 

 

 立ち上がったファラ(津神)が、全身から少量の火花を散らしながら歩み寄ってくる。

 

 

「次はお前だ。キャロル・マールス・ディーンハイム。お前の肉体を手に入れ、我が願望を叶える」

 

 

 全身から黒い瘴気を立ち昇らせ、ファラ(津神)がキャロルの顔を掴む。

 

 デスドーパントの拘束から逃れ、ファラ(津神)に反撃しようとしていた意志が徐々に弱まっていき、自分が深い奈落の底へと落ちていく感覚に襲われる。

 

 

(オレが、壊れる……。消える……無くなる……ッ! 嫌だ、消えたくない……ッ! 消えたくない……ッ!)

 

 

 

「エル……リン……」

 

 

 振り向きざまに不敵な笑みを浮かべる愛する男の姿が脳裏に浮かんだ瞬間、キャロルの意識は途絶えた。

 

 

 

 

「具合はどうですか?」

「あぁ、悪くない。女の体に入るのは初めてだが、いずれ慣れるだろう。心は未だ砕けていないが、それも時間の問題だ。いずれ、アルケウスの力に屈する」

「酷な事を為さる。……して、次はどうしますか?」

「我が妹を取り戻す。エルリン・ラインハルトを殺し、忌々しき仮面ライダーを殺し、そしてシンフォギア装者を殺す。叶と、このチフォージュシャトーさえあれば、俺達の願いは果たされる。エルリンと叶の捜索、頼まれてくれるか?」

「もちろん。貴方様のご指示であれば、如何様にも……」

「あと一歩だ……。あと一歩で、あらゆる命は平等になる。邪魔はさせないぞ、仮面ライダー共め」

 

 

 

 

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