お久しぶりです、seven774です。
また二年以上間隔を空けてしまい、申し訳ございませんッ! 少しずつ書き進めてはいたのですが、まさかまたこれ程に時間をかけてしまうとは思いませんでした……。
次こそは、次こそは必ず来年の内に投稿したいと思いますッ!
それでは本編、どうぞッ!
「この世とあの世をひっくり返す……だとッ!?」
エルリンの口から飛び出た言葉に思わずといったように、弦十郎が驚愕の声を漏らした。
キャロル・マールスディーン・ハイム、及び彼女に付き従うオートスコアラー達の目的が万象黙示録の完成……即ち世界の解剖だという事はわかっていたものの、津神真一が率いるラメンターの目的は依然として不明だった。
その目的が遂に明かされたが、まさかそのような目的だとは思っておらず、絶句する他なかったのだ。
「左。お前達は奴らの目的を知らなかったのか?」
「……あぁ。あいつらは最後まで、自分達の目的を明かさなかった。あの街での決戦の舞台だった風都タワーでさえも、奴らは目的について口にせずに戦いを挑んできたからな」
克己からの質問に対し、左は首を横に振る。
当時の記憶を思い返しても、彼らは自らの目的を明かさなかった。強いてそれらしい事といえば、「ようやく願いが叶う」といった、なにかしらの計画の成就を匂わせる程度のもの。当時の自分達も彼らの目的を問い質したが、その時は「お前達に話す事などない」と一蹴されてしまっていた。
それもあるのだろう、エルリンの口から彼らの目的を聞かされた翔太郎達もまた、ただ険しい表情をするしかなかった。
「……でも、どうやってその、あの世とこの世を入れ替えるんですか? たとえば、デスの力を使ったりして……?」
おずおずと手を挙げて質問したのは響だ。
お世辞にも賢いとは言い難い彼女だが、大雑把ながらもラメンターの目的は理解できていた。しかし、具体的にどうやってそれを果たすのかというのはどうしてもわからなかったのだ。
無理矢理に繋げて考えるとしたら、最初に思い浮かぶのはラメンターの構成員であるシアン・ゴールディスが変身するデス・ドーパントの能力だ。セレナ・カデンツァヴナ・イヴと天羽奏の復活を可能とする彼ならば、それを可能とするのではないかと思ったのだが、「それは不可能だ」とフィリップが否定した。
「如何に地球の記憶を内包したガイアメモリといえど、そこまで出来るものは存在しない。それは最早神の領域だ。魔法の小箱といえど、万能ではないからね」
「そうですか……」
「そう落ち込まなくてもいい。敵の情報を把握し、お前なりに考察できているんだ。ただ周囲に任せきりにするよりは遥かにいい」
真顔で否定されてしまった事で少しだけ落ち込んでしまった響だが、その変化に気付いた竜がすぐにフォローに入る。
フォローに入ってくれた竜に響が感謝の気持ちを抱くが、「それは……」と叶が口を開いたのを見てすぐに意識を切り替えた。
「私の力……ゲートメモリの力を……使うの……」
「ゲートメモリ……ガイアメモリね? その能力について教えてくれるかしら。良ければ現物も見せてほしいのだけれど、ある?」
「うん……よい、しょ……」
「はッ!? お、おいッ!?」
マリアに優しく促されるまま、自身の纏うゴシックドレスのボタンを外し始めた叶に思わず周囲がどよめく。
目にも止まらぬ速さで亜樹子に目を塞がれた竜を除いた男性陣は咄嗟に目を逸らし、女性陣は素早い動きで叶の壁となり、その一枚となったクリスが叫ぶ。
「なにしてんだッ!? いきなりそんなところおっぴろげて……あ?」
「これは……生体コネクタ?」
曝け出された胸元。丁度心臓の真上に位置する場所に刻まれたそれは、克己を除いたNEVERがドーパントに変身する際に出現する生体コネクタと酷似したものだった。
しかし、クリス達はそれがこれまで見てきたものとは全くの別物であると一目で気付いた。
「なんで、
切歌の言う通り、その生体コネクタは光っていたのだ。
だが、ただ単純に光を放っているのではない。数秒程の間隔を空けて明滅を繰り返しているそれに触れながら、叶は説明を続ける。
「ゲートメモリは、この中……。能力は……『扉』を通じて、あらゆるものを繋ぐ……。今の私は……これで体を動かしているの……」
「体を動かす……? っ、まさか……」
ボタンを付け直した叶に、翼がハッと目を見開く。
以前、フィリップから叶や津神真一らについての説明を受けた時、彼女は既に故人であるという情報があった。あまりにも自然な動きで話す彼女からはそのような気配はなかったが、先程の明滅する生体コネクタと言葉から察するに、やはり……。
「……そう、だよ。私は……もう死んでいる……。今はあの世から、この体を……動かしてるの……。でも、この体も……作られたもの……。元の体は、もうなかったから……シアンが蘇らせた……」
「そんな……」
その声はいったい誰が挙げたものだったか、それを知る者は誰一人いない。この場にいる誰もが、そんな声を漏らしてもおかしくない衝撃を受けていたのだから。
そして、叶とエルリンは静かに語り始める。ゲートメモリに秘められた能力。ラメンターの掲げる、ゲートメモリを用いた恐ろしい計画の全貌を。
―――ゲートメモリ。正確に言えば、T2ゲートメモリの能力は、先程叶が言ったように『扉』を通じてあらゆるものを繋げるもの。それは物体や空間はもちろん、場合によっては時空さえも繋げてしまう能力だ。
本来ならば繋がるはずのない場所でさえ『扉』で繋げてしまう事が可能なそのメモリを使い、叶はあの世から、シアンがメモリの力で用意した自分の亡骸を操っていた。
左翔太郎や大道克己らのように、仮面ライダーに変身する為のドライバーを使用しない限り、メモリの使用者は総じてドーパントに変身するものだが、彼女の場合は特殊な事例なため、ドーパントには変身しなかったようだ。だが、問題はそこにはない。
そう。この能力を応用すれば、ラメンターの目的―――世界の生死の逆転を果たせるのだ。
あの世とこの世を繋げるゲートメモリの力を使い、世界そのものの生死を繋ぎ、
キャロルの目的は世界の解剖だ。如何に強固なものであろうと、形あるものをバラバラにすれば、それは酷く曖昧なものとなるだろう。そこにゲートメモリの能力を使い、解剖された世界を死者達の現世として再構成し、代わりに生者達の世界を冥府として成立させる―――これが叶と、彼女と共にチフォージュ・シャトーから逃れてきたエルリンが告げた計画の全貌だった。
「始めから、津神真一はキャロル・マールス・ディーンハイムの計画を奪うつもりだったのか。だが、これは非常にまずいぞ……」
「風鳴。確かお前は、最後のオートスコアラーに勝利していたな」
「は、はい。あのオートスコアラー……ファラは津神真一に憑依されていましたが―――……ッ!!」
まさか、といった表情で翼達が目を見開くが、響だけはまだよくわからなかったのか、首を傾げる。
「え、え? ど、どういう事ですか……?」
「オートスコアラーはファラ・スユーフを除いて全て破壊されている。そして、残されていた彼女も風鳴翼との勝負で敗北し、チフォージュ・シャトーへと撤退した。当然、そこにはキャロル・マールス・ディーンハイムがいる。彼にとっては、これ以上ない憑依先だろう。なにせ、計画を奪うついでに、自分達の計画の最終的な障害となる彼女を無力化出来るのだからね」
映像越しで確認したが、四騎いるオートスコアラーの最後の一騎であるファラ・スユーフはラメンターのリーダーの津神真一に憑依されていた。ガイアメモリとイグナイトモジュールを掛け合わせた翼の新たな姿による一撃を受けて撤退したが、その損傷具合はかなりのものだった。それを含めれば、チフォージュ・シャトーに帰還後に機能を停止していてもおかしくないだろう。
そして、壊れゆく
現在、チフォージュ・シャトーにいる意識を持つ存在は、ラメンターのメンバーを除けばキャロルしかいないだろう。もしかすると、今頃津神はキャロルの肉体に……。
「津神真一は過去にも様々な人間に憑依してきたが、その際に対象の記憶も読み取る事が出来るようだ。僕らの世界でも、彼は著名な研究者や専門家を狙って憑依し、その知識を活用して暗躍していたからね。彼女の記憶を基に行動を起こしてもおかしくない」
「それに、ウェル博士も奴らの手の内よ。仮にこの子も向こうの手に落ちれば、その瞬間起動されてもおかしくないわ」
「そんな……ッ!」
オートスコアラーが全て破壊されたという事は、呪われた旋律は全て敵の手中に収まってしまったという事。さらに、彼らの下には『深淵の竜宮』に囚われていたドクター・ウェルがいる。あらゆる聖遺物に干渉できるネフィリムの腕を持つ彼ならば、破壊されたヤントラ・サルヴァスパの代役が可能だ。つまり、ラメンターの計画達成に必要なピースは、今この場にいる津神叶を除いて全て揃ってしまっている。
もしも彼女が奪還されてしまえば、その時点でこちらの敗北。世界は瞬く間に、死者の世界へと作り変えられてしまうだろう。
そして、さらなる問題がもう一つある。
「ま、待ってほしいデス……。確かキャロルって、エルフナインの視界を覗き見出来るはずデスよね……? となると、この場所の事も全部バレてるんじゃ……」
そう、キャロルはかつて、エルフナインの視界を通して『深淵の竜宮』でこちらの動きを確認していたのだ。そんな彼女の肉体を奪ったとなれば、真一にそれが出来ない道理など存在しない。
不安げに零した切歌だが、「いや、それは心配ないだろう」と弦十郎が安心させるように答えた。
「確かにその力は問題だが、ここは屋内だ。具体的にどこにいるかまではわからないだろう。バレるにしても、時間がかかるはずだ。今この瞬間にも襲撃されていないのが、その証拠だ」
「その通りね。足りないピースの場所を知っていながら仕掛けてこないなんて、絶対あり得ないもの」
弦十郎の言葉にミーナが賛同すれば、不安と緊張に包まれていた空気が一気に緩まる。
確かに彼らの言う通り、津神叶という存在の居場所を知っているならば、彼らがここを襲撃しないはずがないのだ。それがないという事は、彼らはまだ彼女の居場所を掴んでいないのだ。
これならば一先ずは安心……かと思われたが、その緩んだ空気は再び緊迫としたものになってしまう。
「確かにここなら……兄様も、わからない……。でも……そうなれば兄様は……手当たり次第に、探し始める……。どれだけの、時間をかけても……どれだけの、人を殺しても……」
「……ッ!! そんな……」
「く……っ、自分達が暴虐の限りを尽くせば、我々が出てくると確信しているからか……ッ!」
叶の居場所がわからないのならば、街の破壊という手段に出る。そうすれば、それを止める為にS.O.N.G.は動かざるを得ず、結果として今叶がいるこの潜水艦も浮上せざるを得なくなる。後は破壊の阻止に向かってきた者達の来た道を辿っていけば、叶の下に辿り着くというわけだ。仮にその前に潜水艦を移動させたとしても、大まかな予測をつけた彼らはその全域を隈なく捜索し、潜水艦を見つけ出してしまうだろう。強力な錬金術を行使するキャロルの肉体を使えば、その程度の作業など容易く済んでしまえるはずなのだから。
どうすれば、叶の居場所を知られないままで彼らの計画を阻止できるのか。誰もがそう考えていると、再び叶が口を開いた。
「だから、私が……兄様を呼ぶ……。そうすれば、兄様達も……私だけを、狙ってくる……。その時に、兄様達を……倒して」
「それはつまり、君自身が囮になる事かい? 僕らに、彼らを打倒するチャンスを与える為に?」
「それだけじゃ、ない……。これ以上、兄様達に……人殺しを……してほしく、ない……から……」
「……そうか」
自分の胸に小さな拳を押し当ててフィリップからの問いに答えた叶に、克己は小さく呟く。
自分達NEVERとは似て非なる、死人の彼女。その瞳はまさしく命の光を失った、氷のように冷たいものだったが……その奥には確かに、『兄達を止めたい』という強い意志の炎が宿っていた。
その意志の炎を灯す瞳を持つ彼女を、克己はまるで眩しいものを見るかのように目を細めて、口端を吊り上げた。
「ボス、こいつの言う通りにしてやろう。そうすれば手っ取り早く事を済ませられる」
「大道ッ! テメェ、この子を囮にするつもりかッ!? 他にもっといい案が―――」
「だったら言ってみろよ、半人前の探偵。こいつを囮にする以外で、余計な被害を出さずに連中を叩く作戦があるならな」
「それは……」
咄嗟に克己の胸倉を掴んだ翔太郎だったが、真っ向から克己に睨み返され押し黙ってしまう。その視線は克己から自分の相棒であるフィリップへと移るが、翔太郎の思いとは裏腹に、彼は首を横に振るのだった。
「翔太郎……残念だけど、これに限っては彼が正しい。被害を最小限に抑え、かつラメンターを叩きたいのなら、彼の言う通り津神叶を囮にするのが一番効率的だ」
悔しい話だが、どのような方法を模索しても、『津神叶を囮にする』以上に良い方法は思い付かなかった。向こう側の目的が彼女であり、彼女が手に入りそうになければ罪のない人々が危険に晒されてしまうのなら、その目的である彼女を前線に出すしかないのだ。そうすれば被害者の数はぐっと下がるし、街への被害も軽いものになるのだから。
しかし。
「―――だが、
それで諦める程、探偵の片割れは愚かではなかった。
「安心してくれたまえ、翔太郎。それにみんなも。彼女を前線に出さずに、街や人々を傷付けさせずに彼らを誘い出す方法がある。―――叶ちゃん、エルフナイン、それとフィーネさん」
「なに……?」
「は、はいッ!」
「なにかしら?」
「向こうが痺れを切らす前に準備を終わらせたい。手伝ってもらえるかい?」
準備の為に手を借りたい叶は除外するとして。
元々、チフォージュ・シャトーの建造に関わっていたエルフナインは、その際に機械類の調整方法を一通り熟知している。フィーネは言わずもがなだ。叶の居場所を掴めないラメンターが行動に出る前に万全の構えを取る為にも、フィリップは彼女らに協力を要請した。そして、彼女らの答えは当然、一つしかない。
「……わかった……」
「もちろんですッ! 頑張りますッ!」
「当然よ。任せてちょうだい。部屋は私の研究室を使いましょう。あそこなら必要な機材は一通り揃っているわ」
「フィリップ君、その準備とやらには、どれくらい時間がかかる?」
「安心してほしい。彼女達の力を借りれば、二日程で完了するはずさ。それを用いた作戦については追って連絡する。なにか足りないところや気になる点があれば聞いてくれて構わないよ」
「わかった。では、早速始めてくれッ!」
弦十郎の言葉に頷き、フィリップは二人を連れて足早に司令室を飛び出していく。
三人の背が自動ドアに遮られるのを見届けた弦十郎は、次に視線を残された者達に向ける。
「聞いたな、お前達。作戦は追って通達する。それまでは可能な限り、各々で英気を養ってくれッ!」
弦十郎からの指示に、この場に残った者達全員が頷くのだった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、チフォージュ・シャトー王室にて。
かつてはこの城の主を護る
「それで? あの窮屈な
男女の片割れ―――ドクター・ウェルが傍らに立つ少女に問いかける。
「お前のその腕の力を借りたい。ネフィリムの腕、だったか? あらゆる聖遺物を操れると聞いたが」
「えぇ、まさしくその通り。その言い方から察するに、この腕でこれを動かせばいいのですか?」
少女……キャロルから視線を外したウェルは、自分達の眼前にある装置を見やる。
今彼らの前にあるものは、このチフォージュ・シャトーの起動装置だ。ネフィリムの腕の力の是非を確かめようとしている口調から、彼女の目的はこの装置の起動かと思い訊ねてみれば、「あぁ」と短く肯定の言葉が返ってきた。
(なんでしょうか、この違和感……。以前の彼女とはどこかが違う……)
『深淵の竜宮』で出会った時と比べて異質な雰囲気を纏うようになった彼女に言い知れぬ違和感を覚えていると、「どうした」とキャロルが顔を向けてきた。
上から見下ろすとすっぽりと彼女の頭部を隠してしまうとんがり帽子の奥から覗き込む瞳と目が合った瞬間、ウェルは片眉を吊り上げる。
「貴女……いったい……」
「貴様が気にする必要はない。今重要なのか、貴様のその腕でこの城が起動するのかどうかだ」
「……ふんっ。問題ありませんよ。この腕はあらゆる聖遺物に干渉し、そして支配するッ! このようにねッ!」
言うが早いか、ウェルがネフィリムの腕を装置に差し込む。
自身の腕が正確にこの忌城のシステムに触れたと感じたウェルが瞳を閉じて意識を集中させると、差し込まれた箇所から仄かな白い光が放たれ始める。
そのまま十数秒程の時間が経過すると、城全域から重々しい音が響き始めた。城が起動を始めた音だ。
「どうです? 問題なく起動できたでしょう? なんなら、このまま世界の壁を突き破り、あちら側に出ますか?」
「いや。今回はあくまで、お前の腕の性能を確かめるだけだ。事を起こすのはあの子を取り戻した後だ。貴様はそれまで休んでいろ。余計な事はしてくれるなよ」
今回の目的は果たせたと、キャロルが踵を返して歩き出す。そのまま王室から出る為に扉に手をかけた、その時。
「一つ、聞かせてもらっても?」
背後から声をかけられ、振り返る。
装置から引き抜いた腕の調子を確かめているウェルが、横目でキャロルを見つめている。その視線からは、明らかになにかを探るような気配を感じられた。
「なんだ」
「貴方の目的ですよ。これほどの機能を備えた城を用意し、呪われた旋律とやらを蒐集し、その果てになにを目指すのです?」
「……貴様が知る必要はない」
「ありますよ。物騒な機能が盛り沢山の城ですが、使い方さえ間違わなければ最強の武器になる。そう、この僕のような
ピクリ、と。ウェルが『英雄』という言葉を発した瞬間、キャロルの眉が動いた。
「英雄、だと……?」
「そうだともッ! 善悪を超越した英雄ッ! それこそが、この城を統べるに相応しいッ! だから教えてくださいよ。貴方がこの城を使って、なにをしようとしているのかを」
大袈裟な動きでこの城の価値を語ったウェルが、その手をキャロルへと向ける。『さぁ、早く語ってみせろ』と言わんばかりの目線に、キャロルは「はぁ」と小さく息を吐き出す。
一度閉じた瞼を開く。先程まであったはずの光が消え、無明の闇に包まれた瞳が露わになった。
その変化にウェルが小さく息を呑む中、
「……
「…………なんですって?」
目を見開き硬直するウェルから視線を逸らし、
「人は己が欲望の為ならば、他者を平気で使い潰す。それが家族でさえ、例外ではない……」
思い起こされるのはかつての記憶。まだこの身に宿る魂が本来の肉体にあった頃の、忌々しい記憶。
財団Xという組織に所属していた両親に、仲間達や妹と共に実験台にされ続けた、あの地獄の日々。
絶え間ない苦痛。終わらない悪夢。何度「やめてくれ」と叫んでも、彼らは決してその手を止める事はしなかった。ただひたすらに、悪魔の実験を続けた。
それでも、彼は信じていた。いつかこの地獄が終わり、安らかな光の中で生きられる日が来る事を。
人知れず影の中で、悪と戦う正義のヒーロー―――仮面ライダーが、必ず自分達を助けに来てくれると。
だが、そんな日は終ぞ訪れなかった。
助けを求めても英雄は現れず、それでも生きていてほしいと思っていた唯一の希望が潰えた時。後に魂の怪人となる男は、世界に絶望した。
「ドクター・ウェル。俺は、命ある全てが憎い。生きているもの全てが許せない」
―――真の平等な世界とは、なんだと思う?
問いかける
「あらゆる要素を差別なく同列に扱い、スタートラインを揃え、全員で同じ方角を目指して進める世界ですかね。ま、そんな世界はあり得ませんが」
「そうだ。そんな世界は存在し得ない。同じスタート地点に立てる人間などいない。他者との差別は必ず発生する」
貧しいスラムで生まれた子どもと、豊かな家庭に生まれた子どもは同じか。ある宗教の下に育った人間と、違う宗教の下で育った人間は全く同じ考えを持っているか。
否。断じて否。一人一人違う思考回路を持ち、異なる環境で生まれ育ったのなら、その時点で『平等』とは言えない。個々人を構成する要素が違うのだから、同じスタートラインになんて立てるわけがない。
世界に平等はない。平等がなければ、人々は欲望に突き動かされ、無垢なる魂を傷つける。平気で他者を食い物にし、人を殺す。
それならば―――
「だったら―――全てに
だから、全て殺す。壊し尽くす。欲望に塗れた生者の世界を、永遠の静寂に満ちた死者の世界に塗り替える。
そうすれば、誰も争わなくなる。誰も、欲望に操れる事もなくなる。メモリの力でこちら側と繋がってしまった妹も、誰かの悲劇に涙を流す事なく安らかに眠れる。そんな世界を作った時こそ、津神真一という存在は終われるのだ。
しかし。
「なんて、なんて……下らないッ!」
それに対しウェルは、真っ向からそう叫んだ。
「……なんだと?」
「妹が安心してスヤスヤ眠れるように、世界を殺すぅ? ふざけるんじゃぁないッ! だったらその時、貴方も死ねば良かったんですよッ! 世界に絶望したのなら、その妹のいるあの世に行けば良かったんですよッ! 生きてる僕らを、お前らの下らない願いに巻き込むんじゃあないッ!!」
「貴様……ッ!」
「ハンッ! 目的を聞いておいて正解でしたよ。貴女なんかにこの装置は使わせられません。この城は、この英雄ドクター・ウェルの力の象徴として使わせてもらいますよッ!」
ウェルの手が起動装置へと伸びる。この城には世界の壁を突き破り、外部の世界へと進出する機能が備えられている。それを使って邪魔者である
―――だが。
「うぎゃあッ!?」
胴体に凄まじい衝撃が走り、ウェルの体が吹き飛ばされる。
勢いよく背中を地面に叩きつけられた衝撃に噎せ込みながら起き上がるが、その瞬間頭部を巨大な掌に掴まれた。
「お前なんかにはやらせるか……ッ! この城は、俺達の目的を果たす為に必要なものだ……ッ!」
蠢く漆黒の靄によって形成された腕を縮め、藻掻くウェルの体を自身に近づける
「消え失せろ、夢に溺れた
頭部を握った腕を大きく振りかぶり、投げる。凄まじい膂力によって放り投げられたウェルが、断末魔を上げながら王室の外縁部から遥か下へと落ちていく。彼の存在を示す白衣が見えなくなるまでそれを見下ろし続けていた
(奴は充分に役立った。後は俺が動かせばいい。足りないのは……)
あの男―――エルリンと共にこの城を去っていった、この世界において最も大切な妹。彼女さえ取り戻せば、目的を果たせる。
であれば、と
「ぐ、ぎ……ッ!?」
ズキン、と。突如脳を直接鷲掴みにされたような不快な激痛が頭部に走り、思わずそこを抑えて蹲る。
「ガ、ァ……アアァアァッッ!!?」
何度も何度も、休む間もなく襲い掛かってくる激痛に、堪らずその場でのたうち回る。
(ま、マズイ……ッ! アルケウスメモリの、能力が……ッ!!)
「ご主人様ッッ!!」
扉が勢いよく押し開かれ、主の悲鳴を聞きつけたシアンが駆け寄ってくる。
駆け寄ったシアンが
鞭のようにしなり迫らってくる靄を咄嗟に回避したシアンは、絶えず絶叫を上げて苦しむ
『デス!』
「ご主人様、失礼ッ!」
T2デスメモリを挿し込んでドーパントとなったシアンが、自身に迫る靄を鎌で斬り裂きながら接近し、
殺してしまわない程度に力を抜いての一撃は的確に
「はぁ……、なんとか止められましたか……」
気絶した
(ですが、このままではご主人様が消えてしまうのも時間の問題ですね……。なんとかしなければ……)
ドーパントへの変身を解いたシアンは、自らの腕の中で気を失っている主を見やる。
先程の様子は、明らかに尋常なものではなかった。自分もメモリを使わなければ、下手をすると殺されてしまっていたのではないかと思う程に。
(叶様……。あの方をお連れすれば、この方も救われる。……いよいよ、その時が来たかもしれませんね)
シアンの目つきが変わる。それは壊れながらも理想の為に邁進する主に従い続けた者として、今こそその忠義を示す時なのだと確信した、男の目つきだった―――。
前書きでも記載しましたが、次回は必ず来年の内に投稿したいと思っておりますので、気長に待ってもらえると嬉しいです……ッ!
それでは、また次回ッ!