Phantasy Star Froger's   作:Father Bear

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⑮ 味覚の価値観

ノア・ダンフォートとフェレーナ・ダンフォートと別れた俺とシルヴァは"4階"の廊下をひたすら無言進んでいた。

 

異常なまでに遠く感じるこの廊下は、アーリお嬢の心の傷の深さでも物語っているのだろうか。そんな詩人じみた言葉が出るくらいこの廊下は長かった。

 

 

「ねぇ……セツナ?」

 

 

20分は歩いたろうか。そんな中俺たちの静寂を打ち破ったのはシルヴァだった。

 

 

「なんだ……」

 

 

「アーリちゃんをさ…倒したあと……どうするつもり?」

 

 

倒したあと……か。別に後のことなど考えていない。今起きている事に頭を整理することで精一杯だ。

 

 

「さぁな?」

 

 

「"さぁな"って……生活とかどうすんのさ。アタシら一応ココに居候なんだよ?それに…その…"主"さまをこの手にかけちゃう訳だからさ……」

 

 

「その時に、考えればいい俺たちに残された任務はこの館を守ることただ1つ。それを遂行するのみ」

 

 

そうだ………それでいい………

 

 

「じゃあさ……罪悪感、とかは?無い訳じゃないでしょ?」

 

 

「………その通り、無い訳じゃない。だがやらなければ、やられるのは俺たちだけでは終わらない。今やらなければならない」

 

 

「…それもそっか。いいよ、付き合うよ。あ、一緒の部屋はヤだかんね?あとパソコンとゲーム機も」

 

 

「それこそあとでいいだろう………ッ!?シルヴァ、避けろォッ!!!」

 

 

「うぇっ!?…ってあっぶない!!!!」

 

 

それは一瞬だった。果てしなく続く廊下の遥か前方から何かが飛んできた。丸っぽい何かに見えたが、一体なんだ。

 

 

「コレは…生首、か?」

 

 

歩く俺たち二人に飛んできたモノ。それは“人間の生首”だった。髪の長さから察するに女の頭だろうか。

 

生首にゾンビ化した形跡は無く、目を見開かせた状態で…つまり生きたまま頭を切り飛ばされたことになる。肌ツヤから見るにさっき殺されたのだろう。切り口も綺麗だ。

 

 

しかしこの生首、不自然なことがある。血が一滴も垂れていないのだ。頭に血液が残ってなかったのか。それもおかしい。ならばこの肌ツヤに説明がつかない。

 

 

「えぇぇぇぇ!!うちにそんな乱暴な警備システムはついてないよぉ!!そんな生首飛ばしてご歓迎とか!!!」

 

 

先ほど殺されたとすれば血を完全に抜かれたというのはおかしい。血液を完全に抜くのは時間がかかる。

 

 

「待て、だとしたら誰の首だ?」

 

 

「えぇ…?んー…け、警備員とかメイドとかの首…じゃない?」

 

 

だとしても違和感がある…それを具体的なモノとして挙げろというのは難しいが、何かを感じる。

 

 

その時だった。

 

 

『繧サ繝?リ??シ√◎繧後↓繧キ繝ォ繝エ繧。??シ???£縺ヲ縺?∞縺医▲??シ?シ?シ』

 

 

声…といえるのだろうか。それとも獣の鳴き声か。そんな音が廊下の奥から響いた。

 

 

「なっ、何今のっ!!!」

 

 

「構えろシルヴァ!!奥から何か来るぞ!!」

 

 

廊下の奥から只者ではない気配がする。なんだ、なんだのだこれは。だが、グロテスクな気配の中に、どこか“いつも”感じている気配がする。

 

ミシッ、ミシッと。床から音が伝わってくる。それは俺たちに恐怖を植え付けるのに充分な材料だった。

 

そして、その“恐怖”が廊下の奥に掛かった闇から姿を現す。

 

 

「ッ!!こ、コレは!!」

 

 

「せ、セツナ…アレって…!!!」

 

 

忘れる訳がない。どれだけ形が変わろうとも。どれだけ臭いを変えようとも。アレは…

 

 

『騾?£縺ヲ窶ヲ??シ?シ』

 

 

左腕を異様に肥大化させた、アーリお嬢が。そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノア…私たち、どうしよっか」

 

 

「とりあえず、ここから出る。この階段からアイツらは上がってきた。なら、この階段を下れば一階に出て玄関から堂々と出る」

 

 

私はこの時少し、ノアに失望してしまった。

 

 

「そ、そうじゃないよ!アーリちゃんはどうするの?」

 

 

「…さっきも言った。私にはもう何も関係ない。アイツは私らをハメて餌にしようとしたんだ。つまりアイツは、人間じゃなかった。アーリは…私のことを餌としてしか思っていなかった」

 

 

「そんなことない!アーリちゃんはノアのこと、そんなこと思ってないよ!だって、もしそうだとすれば…ノアはもう食べられてるよ」

 

 

「うるさい…うるさいうるさいうるさい…!!!」

 

 

ノアが激しく首を横に振る。

 

 

「今日だってきっと…久しぶりに会ったノアと、話がしたくって…」

 

 

「黙れ!!!!」

 

 

背を向けたまま、ノアは私に叫んだ。その顔は怒りや悲しみに呑まれ、瞳は涙で濡れていた。ノアだって無慈悲にそんなことを言いたい訳ではないだろう。何が起こっているか分からず、自らの頭の中でアーリのことを“そう”思うことでしか自分を制御できないのだ。

 

 

「私だってわかってる…アイツはムカつく奴だけど、こんなことするなんて思えない…だけど現実は?アイツは、私たちを襲ってきた。アイツは…変わった」

 

 

「そんな…!!!」

 

 

ダメだ。ノアは意固地になっているようだ。昔からそうだ。自分に都合が悪くなったり訳が分からなくなったらノアは意固地になって閉じこもる。

 

 

「私たちにはアーリは殺せない。…そう、殺せない」

 

 

「ノア…」

 

 

「行くよ、レーナ」

 

 

私は、静かに階段を降りていくノアを放っておくことが出来ず。私は一緒に降りることにした。

 

 

「…あれ?」

 

 

その時、私の目に不思議なものが映った。砂嵐というかノイズというか、視界に妙なものが挟まった。

 

 

「あれ…おかしいな。貧血…な訳でもないし…」

 

 

ダメだ、ふらつく。上手く立てないし歩けない。何で…いき、な…r

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…?」

 

 

気が付くと、私は外にいた。その風景は、以前私とノアが住んでいたマンションの下にあった“商店街”と同じだった。もう日が落ち、いつもは賑やかな商店街は真っ暗であった。

 

…が、一か所だけ。灯りを点けている店があった。普段モデルの仕事をして、帰り道によく通る道であるが故に。その一連の光景は私にとって異様な光景だった。

 

 

「うぅ…今日は厄日だよぉ……と、とりあえずそこのお店に入っろっかな…って、そういえばノアは…?」

 

 

さっきまで一緒にいたはずのノアの姿がない。目の前にいたのに。

 

 

 

 

その時だった。商店街の中で唯一灯りが点いていた店のドアが開いた。まるで『こっちに来い』とでも言っているかのように。

 

 

「は、入って…みよっと……」

 

 

正直、めちゃくちゃ怖かった。

 

私は恐る恐る、お店のドアをくぐり店内を覗く。そこには…

 

 

「いらっしゃいませ、お客様。ご自由な席へ」

 

 

客が一人も入ってないが、雰囲気は何だか一歩大人になれた様な気がする“バー”だった。そしてそこのカウンターには、灰色の髪色で髭。そしてメガネをした高身長の男性が立っていた。察するにこのバーのマスターだろうか。

 

 

「え、いやあの…私、友達とはぐれちゃって…それに私、まだ未成年です」

 

 

「構わない。どれ、その友達とやらが来るまで休憩でもしていったらどうだ?未成年でも構わん。ジュースを奢ろう」

 

 

「えっ…あっ…はい…」

 

 

私は上手く言葉を返すことができないまま、カウンターへと腰を下ろした。というか入店したときの挨拶と全然口調が違う。接客モード、ということなのだろうか。

 

 

「それにしても、うちにお前のような若いやつが来たのは久しぶりだ。前は反抗期の真っ只中なクソガキが酒を求めて入ってきたが、お前の様な酒に真面目そうなやつが入ってくることはないからな」

 

 

「は、はぁ…」

 

渋い見た目に寄らず、少しおしゃべりなマスターのようだ。沈黙は苦手なので、こうやって一方的に話しかけてくれるだけでもだいぶ助かる。

 

 

「まぁそんな昔話はいい。お前、名前は何だ」

 

 

「フェレーナ…フェレーナ・ネクォール、です」

 

 

「そうか、フェレーナ…か。…そうか、いい名前だ。お前の両親はさぞかしお前のことを愛していたのだろう」

 

 

「はは…そうです…ね」

 

 

分からない。私にはもう両親はいない。幼いころの記憶は無くなっていて、今は親の名前も顔も声も。分からない。分かっているのは“いた”という事実だけ。

 

 

「…さてフェレーナ、コレを受け取れ」

 

 

「…あ、さっき言ってたジュース、ですか?あ、コレ。オレンジジュース…?」

 

 

「いいや、少し違う。それはミカンのジュースだ」

 

 

「ミカン…ですか?それ確か…冬に地球へ行った時にいっぱい食べたような…」

 

 

「良かったな。まぁそのミカンのジュースだ。お前のために作った」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

嗅いでみると、確か甘い風味が鼻の奥に届いた。とてもいい匂いだ。

 

 

「飲んでみるといい」

 

 

「じ、じゃあ…頂きます。んくっ…んっ、んっ…」

 

 

美味しい。この世のものとは思えないほど美味しいジュースだ。思わず『もう一杯ください』と言ってしまうところだった。そして思わず一気飲みしてしまった。勿体無い。

 

 

「美味しい…!!!」

 

 

思わずのテンションが上がってしまった。

 

 

「ふっ…そうか。なら良かった」

 

 

マスターが軽くドヤ顔を決めている。このドヤ顔はもう許してしまう。私の顔もきっと、幸せに満ちた顔になっているだろうから。

 

 

「もう一杯、あるぞ」

 

 

何だと。

 

 

「い、いいんですか…??」

 

 

「構わん。言ったろう、コレはお前のために作ったと」

 

 

「じゃあ…うへへ…頂きまぁす…」

 

 

今度は一気に飲み干すのではなく、ゆっくり…ゆっくり口の中に幸せを注ぎ込んでいく。ダメだ、クセになってしまいそうだ。ちょっとずつ口に運んでいく度、口角が上がっていく気がする。私の顔は半分とろけていた。

 

 

「そんな顔をされると、作った甲斐があるというものだ」

 

 

「…ハッ!?す、すみません!はしたない真似を…」

 

 

「構わない。だが強いて言うなら、そんな顔は心から許した奴にしか見せない事を推奨する」

 

 

「う、うぐぅ…」

 

 

ぐぅの音も出ない。

 

 

「だが、ジュースだけでは少し寂しいだろう。これも奢りだ、食え」

 

 

カウンターテーブルに置かれたのは長方形の皿だった。その皿の上には、“何かの肉が串に刺されてそれが焼かれたモノ”が置かれていた。

 

 

「あの…マスターさん。コレは…???」

 

 

「“ヤキトリ”だ。美味いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

大変美味でした。

 

 




ミカンの花言葉「愛らしさ」

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