Phantasy Star Froger's 作:Father Bear
しばらくしてのことだった。
「それで?お前はどうするんだ?」
いつの間にか馴染みの商店街にいた私は、一店だけ灯りが点いていたバーに転がり込みジュースとヤキトリをご馳走になっていた。
店の内装は如何にも“バー”というふうであり、クラシカルで大人な雰囲気だ。自分も成人したら改めてこういう店に入り、お酒を嗜んでみたいものだ。
「どうする…ですか?」
「お前は、友達を救おうとしていたんだろう?」
「友達を…助ける…???」
友達…?誰の事だろう。ノア、は家族だし。
「あの…すみません、心当たりが…」
「ふむ……そうか。……ボソッ(まだ早かったか。我ながら多少強引だったようだ)」
でも何故か、マスターさんの言った“友達を助ける”という発言。どこか無視できない内容に思えるのは何故だろう。
……そもそも、今思い返せば何で私は商店街に?この商店街は、前のダーカー襲撃事件でアークスシップごと無くなってしまったハズだ。それに私は、その後アーリに招待されて……
“アーリ”?誰だ、なんで今自然とその言葉が出たのだろう。
「アー……リ」
「…そうだ。それがお前の救うべき対象」
アーリという名を口に出してからというもの、何か頭の中がかき乱される。そして時間が経つ度、映像の様な物が頭の中に再生される。
ここは…お屋敷だろうか。とても高そうな家具や家の構造から見てそれが現代貴族だというのは分かった。そうだ思い出した…私はアーリの招待を受けて彼女の家へノアと一緒に行ったんだった。
なら何故今私はここにいる?余計にそれが疑問となった。それともさっきの映像はたまたま見た夢みたいなものなのだろうか。それにしては身体が“実感”として覚えているのは何故だろう。
「救うべき…そうだった、確か…」
そうだ…お屋敷に入ったあと…アーリは何故かゾンビ映画のゾンビみたいになって、それで…どうしたんだったか。脳内に再生される映像も、そこまでは流してくれなかった。
そして、そこまで思い出したと思うと突如として、“あの苦痛”が蘇ってくる。
「なっ…っつぁぁぁぁぁぁあ“ぁぁああ”あ“ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ”ああ“ああ”ぁぁあぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁああぁぁッッッ!!!!!!」
私は激痛のあまり、座っていた椅子から転げ落ちる。
なんだ、なんなのだこの痛みは…目が、目が焼け落ちてしまいそうだ。
「そうだ、お前はこの痛みに耐えなければならない。この痛みに耐えて、初めてお前はこの世界に生きている意味を満たす」
何を…言っているのだろう…まるで、この痛みが私に“必須”なものとして取り上げられているかのような口振りだ。
「“それ”はお前に選択と行動の権利を与えてくれるだろう。友を守り世界を照らし、自分も守れる“ちから”だ。だがしかし、その力の行使は時にお前の身を滅ぼすトリガーにもなりうる。それにお前の“器”はまだ未完成だ。今回の騒動を解決するくらいのリミッターは外してやるが、まず間違いなく。お前の身体は耐えられるが耐えられない。“ちから”に振り回されるだろう。だがこうするしかない。お前の手が届く範囲のモノを救うには、この方法しかない」
な…なんだ……私の内側から……何かが出てくる……
イヤ……イヤだ……苦しい…痛い………耐えられ……ない
「許せ、フェレーナ…………制限の一部をマスター権限で一時的に解除。“器”にA‐17からD‐4までのプログラムを挿入。…挿入後の再起動カウントダウンは無視だ、即刻起動シーケンスに入る」
その瞬間だった。マスターが意味の分からないことを口にした途端、急に身体から力が抜けていくのを感じた。そしてまるでぽっかりと空いた身体の中に何かが入ってくるのを感じた。
「うっ……!!!イヤぁぁぁぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁああぁぁ……!!!!!!」
今度は目だけじゃない。身体まで熱い。内側から熱せられる、熱い何かが私を犯していく。
「エラーコード002…なるほど、欠如した部分が先ほど挿入したプログラムに混ざっていたか。ならば欠如した部分をAA‐1からAA‐4までで代入。結果…成功」
マスターは何か言っているようだが、激痛のせいで上手く聞き取れない。
私は痛みにこらえるため床で頭を抱えながら転がり回った。
「まぁ致し方あるまい。例えるならば、ギリギリまで中身を詰め込んだ箱のようだ。中身は外に出たくて反発しているが、それをフェレーナというフタで押しつぶしているのだ」
そして私は転がった拍子に、壁にかけてあった縦長の鏡まで転がってしまった。そこで私は、驚くべき事態に直面する。
「う…そ…!?」
瞳の、私の場合本来藤色であるべき場所が“白く”なっていた。
「どう…なってぇえっ…!!」
「大丈夫だ、それは初期症状に過ぎない。後遺症になるかもしれんが、気にすることはない」
身体の中で欠けたピースが埋まっていくような、そんな感覚が私の身体を駆け巡る。まるで本来がそうであったように。
「完成率は…98%。もう少しか。これが100%になれば、意識は回復する。つまり外に戻れる」
「そ…と…??」
「そうだ、外だ。お前が過ごしていた“世界”」
“世界”………そうだ、私は………!!!!!!!
「さぁ行ってこい。“どんなことも、いつか終わりが来る”さ」
「その………台詞………」
「“そこに道が無いのならば、切り拓け”。フェレーナ」
その言葉を聞いた瞬間、私の意識は白い光と共にそこで消えた。
※
「ん…………」
目を覚ますと、私はバーではなくあのお屋敷にいた。階段の上が最後の記憶になっていた私にとって、今いる場所は不自然だった。私は、客間のソファーの上に寝かされていた。
毛布らしきものが掛けられているが、これは何だろうか。
「これ……ノアの上着…?でも何で??」
その時だった。
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
ノアだ、ノアの声だった。
「ノア…?ッ…ノアァ!!」
私がソファーから身を下ろしドアを開け外に出ようとすると、ドアが“飛んできたノアごと”吹っ飛ばされて、私を巻き込みつつ部屋に引き戻された。
「きゃぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁ!?!?!?!?」
「チッ…あの女…って、レーナ。起きてたんだ。おはよ」
「いや“おはよ”じゃないよ!!今ドアに潰されて死ぬとこだったんだけどぉ!!」
「はいはい、そーいうの後でいいから。とりあえず…そっから逃げてレーナ」
ノアを吹っ飛ばした張本人であろうアーリが、狭い部屋の中へ入ってくる。
依然としてあの肥大化した左腕は健在であり、相変わらず何を言っているのか分からない。
「アーリちゃん…!!」
『繝輔ぉ繝ャ繝シ繝翫&繧馴??£縺ヲ縺?シ?シ?シ?シ?シ?シ』
肥大化した左腕を振りかざし、何度も何度も私に向かって殴りかかってくる。
私は避けようと思い、後ろに向かって飛んでいると、ついに壁に追い詰められてしまった。
「ヤバい…!!」
「フェレーナ!!!」
目の前にアーリの左腕が飛んでくる。コレは………ダメだ。完全に避けられない。真っ正面から貰ってしまう。あの拳の威力だ、当たればまず上半身は吹っ飛ぶだろう。
(あ…ヤバい…私これ死んだ…)
拳が私の鼻先5cmに迫った。
そこから、私の記憶はない。
しかし、目を閉じてしばらくしても痛みは来なかった。
不自然に思った私は、恐る恐る目を開ける。すると、どうだろうか。私の目の前は真っ白い何かで視界いっぱいが支配されていた。恐らく天井だろう。…となると、私は今寝ているのだろうか。
それに、身体が思うように動かない。全く動かないわけではないが、まるで何かに抑えられているかのように動きが鈍い。
「う…あ……」
私は困惑し、助けを呼ぶために声を出してみようとすると…声が、声が出ない。少し前に長時間カラオケにいたことはあったが、こんなに声が出なかったなんてことはなかった。
少しして、私は口周りに何か着けられていることに気付いた。これは…マスクだろうか。ずいぶんと大きなサイズのマスクだ。とても重くて着け心地は最悪だ。なんのためにこんなものが?
私はそれが邪魔だと思い、思い切って口元から外してみることにした。すると…
「……⁉ガッ…ハ……ッ…」
マスクのようなものを外した瞬間、呼吸が出来なくなった。私は身体に酸素を送り込むために必死に息をしたが、何故か上手く呼吸することができなかった。
「フェレーナさんっ!?何をして…大丈夫ですか!?」
見回りに来た看護婦が、呼吸困難に陥っている私を見て青ざめていた。なんだ、それほど私に命の危機が押し迫っていたのだろうか?
看護婦は私のそばに寄るや否や、素早く私にマスクを着けてくれた。
それにしてもこの看護婦。私のマスクに劣る劣らず、凄い重装備だ。背中には武器も見える。
「初めて起きたと思ったら全く…勝手にマスク外したらダメですからね!?」
「ハァッ…ハァッ……ご、ごめんなさい…っていうか、初めて起きた…?一体何を言って…」
こればかりは素直に謝る他なかった。
「そうですね、いきなり起きたらこんなことになってるんですもの。混乱するのも仕方ないわ。いいでしょう、私に話せる範囲で説明します」
すると看護婦はベッドの横にある小さな椅子に腰掛け、一息ついて私にこう説明した。
「約1か月前、あなたは“崩壊”したラスレニア邸のガレキの中から、気絶した状態で発見されました。奇跡的に外傷や内傷などはありませんでした……が、あなたは一時的にとは言え、“ダーカーと完全に一体化”と言っていいほど浸食されていたんです。なので規定に従い、最低一か月間のコールドスリープを経て、この厳重隔離棟にて二週間、あなたは一度も目を覚ますことなく眠っていました。
……質問ですが、あなたは気を失う前の記憶はありますか?」
「……え?」
私は、耳を疑った。とんでもない話が連続して脳内でパニックを起こしている。
「え…………え…………???」
言葉が出てこない。何か話さなければ、私は私に押し潰されてしまう。
「覚えて…ないです…」
嘘だ。覚えている。私は変異したアーリの拳を受ける直前で意識を失ったのだ。そう言おうと思ったが、見たままそのままを言って誰が信じてくれようか。大まか、寝ている間に見た夢と思われるだろう。
「そう…わかったわ。じゃあ、あなたは何であんな所にいたのかしら…?」
「…分かりません」
本当に私は…………どうなったのだろうか。真相は、私も知ることはなかった。