Phantasy Star Froger's   作:Father Bear

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⑱ イタズラボックス

 

「目が覚めたらしいな、フェレーナ。おめでとう」

 

 

 

「んっ…… ここって…あの時のバー? …アレ?私、なんで…」

 

 

 

さっきまで病室で寝転がっていたハズだったのだが、気が付けば“あの時”にお世話になったバーではないか。しかも既にカウンター席に座っている。

 

外も相変わらず暗いようで、店の灯りはともかく街灯までもが灯されていなかった。

 

 

 

「混乱するのも無理はないだろう。とりあえず、コレでも飲んで落ち着け」

 

 

 

そう言って差し出されたのは、あの時のオレンジジュースだった。鮮やかなオレンジ色がグラスの反射のせいで余計に綺麗に見える。

 

机から私の鼻までそれなりに離れているハズなのだが、柑橘類特有の匂いが私の飲欲を増長させる。

 

 

だがしかし

 

 

 

「…結構です。ハッキリと覚えていないのでなんとも言えませんけど、以前マスターさんから何かイヤな事をされた様な気がして…」

 

 

 

「ほう、案外覚えているものだな。だが安心してほしい。今回はその様なことはしないと約束しよう」

 

 

 

「“今回は”ってことは、したんですね…   でもまぁ、そういうことなら、このジュースいただきますね」

 

 

 

そう言って私はマスターから渡されたオレンジジュースを手に取り口に運ぶ。前回ここに来た時の記憶が曖昧ではあるが、この味はハッキリと覚えている。

 

酸っぱさと甘さの調和が素晴らしい一品だ。

 

 

 

「さて。今回俺がお前をここに呼んだのはお前にジュースを馳走するためではない。 …お前、覚えているか?病室で目を覚ます前のことだ」

 

 

 

そう言われ、グラスをカウンターに置き思考を巡らせる。私が目を覚ます前の記憶……

 

 

 

「えぇっと…ノアと軽い喧嘩をしてそのまま気を失ってそれで…どうなったんだっけ……??」

 

 

 

私が覚えている記憶はここまでだ。ということは、私はあそこで気を失ったまま目を覚まさず、病院まで搬送されたということだろうか。

 

私は分かりやすく、頭を横に傾ける。

 

 

 

「その様子を見て察しが付いた。記憶の欠損…なるほど。これも副作用の1つと見た」

 

 

 

「へ? 副作用…?」

 

 

 

すると、マスターはカウンターの奥から客側の方に出てきて私の横に座る。その顔は何故だか真剣そのものに見える。

 

 

 

「お前は、解離性同一性障害という病気を知っているか?簡単に言えば、“1つ”の肉体に“複数”の魂が宿る、という精神の病気だ」

 

 

 

唐突に医者の様な事を言い出した。でもその病気は知っている。以前に夕食時にやっていたテレビ番組で見たことがあった。

 

自分とは違うもう1つの心との対話に20年を掛けた心優しき男性のお話だったろうか。対話を行う中で和解し、“自分と友達になる”という感動のラストには心打たれた。

 

……って、今はそんな事を思い出してる場合ではないか。

 

 

 

「はい、症状なら聞いたことありますけど…それが何か?」

 

 

 

「独り立ちした“精神”はやがては“カタチ”を持ち、それが後に“真の自分”だと信じ生き続ける。そして最後に、“この世に祝福されず、正しい産まれ方”をしなかった者は世界から排除されるべき“異物”だと認識され排除される」

 

 

 

「え……?な、何の話ですか?」

 

 

 

また唐突に何を言い出すのだろうか。話が急に飛躍し過ぎではないだろうか。

 

 

 

「“世界”は上手くできている。どう足掻こうとも“種”としての運命には逆らえない」

 

 

 

その時だ。視界がゆっくりと、白い何かに覆われて行くのに気付いた。私は驚きの余り椅子から転げ落ちてしまった。

 

 

 

「なっ……コレぇっ……何がぁ……!!!」

 

 

 

「……そろそろ、時間のようだ。また会おう、フェレーナ」

 

 

 

「あ……待って!!“ベスター”!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベスター?

 

 

 

 

 

 

無意識にマスターへと投げたその名前は、どこか懐かしい響きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、フェレーナが目を覚まして5時間が経過しようとしていたとある日暮れのこと。不思議な夢を見た昼寝から起きたその時、何者かの声が私の耳を通過する。

 

 

 

「それで43番の患者さんが大変なんですよ~ …隙あらばセクハラしようとしてくるしずっとワガママ言ってくるしで…」

 

 

 

「あぁ、あのおっさんかぁ。もう90超えてる死に損ないなんだからいっそのこと私達でとっちめてやらない?ほら、献血液に高濃度の塩酸でも混ぜて…」

 

 

 

「先輩ソレだめっす。色んな意味でOUTっす」

 

 

 

女性の声が2つ。恐らくあの武装した看護婦たちの雑談だろう。

 

テレビも新聞も届かず、外の情報がシャットアウトされたこの病室では看護婦からの情報が唯一の情報源っぽそうなので、聞き逃さないようにしなければ。

 

 

…………それにしても、おっかない話だなぁ

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ先輩、今朝のニュース見ました?」

 

 

 

「見た見た。新たなダークファルスが誕生した、っていうレギアスさんの放送でしょ?船が2隻も沈められたとか」

 

 

 

………………は? 今、何と言った?

 

 

 

「怖いですねぇ…こっちの船には来なければいいけど…そういえば、そのダークファルスの名前って何でしたっけ。ほら、【巨躯】とか【敗者】そういうやつです」

 

 

 

「確か…【天使】(エンジェルズ)だったっけ? 皮肉な名前よねぇ?」

 

 

 

【天使】。先輩看護師の言った様に、随分と皮肉な名前だと思う。天は私達オラクル船団を見放したとでもいうのだろうか。

 

……しばらく、モデル活動ほったらかしでアークスとして活動することになりそうだ。

 

というか私元々はモデルがメインで活動していたハズなのだが、最近はアークスとしてでしか活動していない様な気がする。マネージャーさんからの連絡もないし、そもそも事務所からの連絡もない。船が沈没したせいで倒産でもしたのだろうか。今となっては何も分からない。

 

 

 

「はぁ……最近何か、変なことばっかり起こるなぁ~」

 

 

 

少し憂鬱な気分になり、布団を少し深く被ろうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

「お~~~~~~っほっほっほ!!!! フェレーナさん、お邪魔しますわよ!!!!」

 

 

 

「うわぁぁぁあっ!?!?!? あ、アーリちゃん!?」

 

 

 

勢いよく病室の扉が開かれそこに表れたのは、生きる屍の様な姿へと変貌を遂げたハズの“アーリ”が元気そうな様子で腕を腰にやり、仁王立ちをしていた。

 

しかし、服は以前の様な豪華な服ではなく、私が着てる物と同じしっかりと入院患者用の服へと着替えさせられていた。何というか…凄く似合っていない。

 

 

 

「えぇ、アーリですわよ! 目を覚まされたと小耳に挟んだので、急いで私の病室から飛び出してきましたの。元気そうで、何よりですわ」

 

 

 

「…わ、わざわざありがとう、アーリちゃん。そっちこそ、初対面の時みたいに元気いっぱいだね」

 

 

 

しかし何故だろう。肥大化していた左腕はすっかり元に戻っており、見た限りだとすっかり健康体といった感じだ。

 

…一体、彼女に何があったというのだろう。

 

 

 

「そして…フェレーナさん。この場をお借りして1つ、申し上げなければならない事がありますの」

 

 

 

そして、アーリは私の隣からベッドの足元の方に移動し、こう言った。

 

 

 

「この度は、危ないところを助けて頂き…………誠にありがとうございました。セツナとシルヴァから、“フェレーナという女性が助けた”とお聞きしまして、こうしてここに参上仕りました。加えて同時に、私の部下たちも助けて下さったそうですわね。改めて、感謝いたしますわ」

 

 

 

そう言い終えると、アーリは私に向かって深々と頭を下げた。“人の命を救った”という行動に感謝されるのは、人生で2回目になるだろうか。単純に悪い気はしない。

 

だがそれと同時に、私の中では気持ち悪さが増幅しつつあった。

 

記憶の無い人救いに感謝されたところで、どうしたらいいか分からない。

 

しかし、あの後セツナとシルヴァは無事だったようだ。“あの廊下”で別れたっきりで記憶には無いが、どうやら無くした記憶の中の私が助けた様だった。良かった良かった。

 

…………というか待て。今の今まで自分のことしか考えていなかったが、ノアはどこに行った?倒壊した同じ建物の中にいたのならば、私のそばから発見されているはず。彼女は今どうしているのだろう。

 

 

私に残された、唯一の家族は。今、どこにいるのだろう。

 

 

 

「…………あの、フェレーナさん?どうかなさいましたの?物凄くポケーッとした顔をしていらっしゃいましたが…」

 

 

 

今私はそんな顔になっていたのか。恥ずかしい恥ずかしい。

 

そして私は気を取り直し、アーリにその時の記憶について打ち明けてみることにした。

 

 

 

「え、えーっとね…アーリちゃん。その……ゴメンね。私、あのお屋敷にいたのは覚えてるんだけど、途中からの記憶がなくって… セツナさんとシルヴァさん、それにアーリちゃんを助けた記憶が無いの。だからさっきその、ポケーッとしちゃってたみたいで…」

 

 

 

「あら、あらあらあらあら。そうなのですの?それは困りましたわね… 私も、お教えしたく思うのですが。実は私も記憶がないのです。最後に記憶があるのは、自室で一休みを入れていた時。もうあれから何日が経ったのでしょうか。気付けば私も、この病院の屋根を見つめていましたわ」

 

 

 

どうやら、アーリも同じような境遇にあったらしい。これではお互いの身に何があったか分からないままだ。

 

 

 

…待てよ?先ほどアーリは何と言った?“セツナとシルヴァから聞いた”と言ったろうか。ということは、少なくとも私とアーリに何があったか知っている人間は2人いるということになる。あの2人に聞けば、何か分かるかもしれない。

 

 

 

「じゃあ、アーリちゃん。セツナさんとシルヴァさんに何があったか聞いてみようよ。何か分かるかも! この病院にいるのかな?」

 

 

 

「いいえ。あの二人なら軽症でしたので、先に退院なされました」

 

 

 

「あぁ…そっかぁ… なら仕方ないかぁ」

 

 

 

「しかしフェレーナさんご心配なさらず。私こう見えて、部下全員とメル友ですのよ!連絡をとって約束をとることくらいお茶の子さいさい、ですわ!!!」

 

 

 

アーリはそう言うと、速足で廊下の方へと向かう。

 

 

 

「少々お待ちになってくださいます?さっそくセツナに電話してきますので!日程が決まり次第また参上致します!それでは!

 

お~~~~~~~~っほっほっほ!!!!!!!!」

 

 

 

如何にもお嬢様らしい高笑いを決めた後、アーリは廊下へと姿を消した。

 

 

 

「ふぅ……何か分かるといいケド…」

 

 

 

何か嵐が去った様な気がし、私は独り言を言って布団を深く被ろうとした。その時だった。

 

 

 

 

むにゅ

 

 

 

 

え?

 

 

私しか入っていないハズの布団の中から、明らかに人肌のような感触が伝わってきた。バカな、ありえない。私が起きてベッドから転げ落ちた時には何も…いや、誰もいなかった。入ったとして私が昼寝をしている時だろうか。だがしかし、私にはこうやって接近されるほどの理由に身に覚えが無かった。完全に不審者だ。変態だ。

 

今叫べば、あの武装した看護婦たちが駆けつけてきてくれるだろう。

 

しかし、万が一にも私の勘違いの可能性もある。人肌に触り心地が似た何かしらの機材だってもしかしたら…そう思い、私は布団をベッドから落として、その正体を見極めようとした。

 

 

…………が、それは出来なかった。

 

単純に、恐怖で行動力が失われてしまいビビッていた。それはもうマジでビビッていた。だってそうだろう。寝ている間に誰かが布団の中に潜り込んでいるのだ。怖いに決まっている。

 

 

 

(あぁ~~~~~………!!! 怖い怖い怖い怖い………!!!)

 

 

 

私は声を上げる勇気も無くし、ついに動けなくなった。

 

 

 

(覚悟を…決めるしか…!!!)

 

 

 

ゆっくりと布団を端っこから持ち上げていく。本当なら一気に持ち上げたかったが、体勢的にも少しキツかったのでこうするしかなかった。

 

 

 

そして、恐る恐る布団を持ち上げ、私が見たものは…………

 

 

 

「………………………………」

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

予想通り、人だった。人だったのだが…私はこの“人”を見た瞬間、思わず絶句してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“私”?」

 

 

 

布団の中には、推定4才くらいの“私”そっくりの女の子がいた。

 

 

 

 

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