Phantasy Star Froger's   作:Father Bear

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⑲ ノア・ダンフォート

~ノアの記憶~

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは今から8年前の出来事だった。私、ノア・ダンフォートは11才になり、“妹”のフェレーナ・ネクォール…当時の苗字はダンフォートだったろうか。そんな妹が9才になった年のことだ。

 

その日の朝も私はいつも通り、小学校に行く前に母からの見送りを頂戴していた。

 

 

 

「じゃあ、行ってくるね。おかあさん」

 

 

 

しかし、その日は少し違った。

 

 

 

「えぇ、行ってらっしゃい。ノア、レーナ。楽しんで行ってらっしゃい」

 

 

 

「うん、わかってるよ。…ほら、レーナ。わたしにだきついてるままじゃダメだよ。お母さんに手ぇ振って?」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

そう言って、私に抱きつき涙目になったフェレーナが玄関から笑顔で見送る母に小さく手を振って返事をする。

 

何を隠そう。今日はフェレーナの初登校日なのである。入学式は残念ながら当日に熱を出して欠席してしまったので、学校へは歩いていない。というか、フェレーナが敷地の外に出て歩くところを、私は見たことがないかもしれない。姉として、妹のそういうところが見られるのは、少し嬉しく思う。

 

そして彼女は今、不安でいっぱいなのだろう。彼女は元々ダンフォート家の人間ではない。養子だ。だから元は“外から来た”ハズなのだが、彼女は異様にこの屋敷の外へ出る気を見せなかった。恐らく外の世界にトラウマでもあるのだろう。

 

彼女は当時、定期的に検査を受けなければならない身体だった。なので病院に行こうとしたら全力で拒否られるので、毎回毎回病院から医者を呼び出して診てもらっている。

 

 

しかし、そんな彼女もこのオラクル船団の法律には逆らえない。男女問わず満9才を超えれば、小中学校に必ず席を置き、教育を受ける義務が発生してしまう。

 

フェレーナは今年で9才。つまりそういうことである。

 

 

 

「ほら、レーナ。行くよ?ちゃんと歩ける?」

 

 

 

「…………うん」

 

 

 

そのように当人は肯定するが、全く説得力がない。今だって痛いくらいにお腹を抱きしめている。おまけに物凄く歩き辛い。脚を上げて歩けない。

 

もう家を出てから20分は経過しただろうか。

 

フェレーナが駄々をこねる事を予想し、母と私で協力していつも家を出る1時間前にフェレーナを連れ出したが、このままではそんなことお構いなしに遅刻しそうである。

 

まだ皆勤賞は諦めてられない。絶対に間に合わせてみせる。そう意気込んだ時だった。

 

 

私はそこで初めて、“因縁の相手”に出会うことになる。

 

 

 

 

「なにをしていますの?あなたがた」

 

 

 

 

その出会いを、私はいずれ後悔することになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

                   ※

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れる黒塗りのリムジンの中で共に揺れる私と腕にしがみついて離れないフェレーナ。

 

通学途中でフェレーナがぐずって遅刻しそうな所を見かねて、学校まで送って貰えるそうだ。こちらとしては願ったりかなったりな状況だ。

 

しかし、今この場で一番偉いであろう人物に若干の不安感はある。

 

 

 

「えっとその…ありがとうございます。お名前はわからないけど助かりました」

 

 

 

「ふふっ♪“しゅくじょ”たる者、このていどできて余裕ですわ!!おほほ!!!」

 

 

 

おほほ、と高笑いする目の前の少女は何とも嬉しそうな顔をしている。ちなみにまだ名前も知らない。それと同時にこの少女も私たちの名前も知らない。一体何のメリットがあって私たちを学校へと送るのだろうか。

 

…それかもしくは、敵対貴族か何かだろうか。ダンフォート家は小さいながらも、父の献身によって数多くのプロジェクトを大成功へと導いた天才起業家だ。その力量ゆえに周りから疎まれることも少なくなく、今までポストに入った嫌がらせの手紙の数は計り知れない。一回パンクしたことがある。

 

 

 

「ねぇ、あなたの名前は何?」

 

 

 

「わたくしですの?わたくしの名前は、“ラスレニア・アーリ”ですわ!!誇り高きラスレニア家の長女にして、次期頭領ですの!!!」

 

 

 

「“ラスレニア”・アーリ…」

 

 

 

ラスレニア家。父から聞いたことがある。確かに昔から伝統のある警備会社「リーブン」を代表とした大手各企業を経営する名門中の名門、だったか。

 

そして、私たちダンフォート家とは敵対する貴族なのだとか。

 

お互い知らないながらも、まさかそんな貴族のご令嬢に助けて貰えるとは。

 

……というか、彼女は知っているのだろうか。私が敵対貴族の令嬢であることを…………いや、知る由もないか。さっきそこで会ったばかりだし、自己紹介だってまだだ。ということは、下手に名乗るのはマズイか。だがしかし、名前の話題をこちらから出してしまった以上、あちらから名前を問われるのは避けられない。どうしたものか。

 

 

 

「では、あなたがたのお名前を聞かせていただきましょうか?何というお名前ですの?」

 

 

 

「あっ…えっとぉ…」

 

 

 

さすがに敵対貴族に堂々と名乗り出るのは自殺行為だろうか…と、頭を悩ませていたその時だった。まさかの方向からの助け舟に思わず驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フェレーナ」

 

 

 

 

 

 

腕にずっとくっついてだんまりを決め込んでいたフェレーナが、車に乗って初めて口を開いた。

 

 

 

「フェレーナ……」

 

 

 

「あら、おりこうな子ですこと。えらいですわね♪」

 

 

いやいや

 

 

「…アーリちゃんと、そんなに変わんないような…」

 

 

 

「なっ! “おとな”のレディーに向かってそん…に“ゃ!? う~…ベロ噛んじゃったぁ…」

 

 

 

「やっぱり…」

 

 

 

見た目は私より下っぽい…というかもしかしたらフェレーナより下の可能性があるくらいに幼く見える。

 

だがしかし、フェレーナが“名前しか名乗らなかった”のは非常に大きい。上手くやればこの状況を切り抜けられるだろう。

 

 

 

「ごっほん…では、あなたの名前は何と言うのです?」

 

 

 

私は、半分“嘘”で半分“本当”の名前を口に出した。

 

 

 

「ノア、ノア・“ネクォール”」

 

 

 

それは、フェレーナに着けられていた本来の苗字だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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