Phantasy Star Froger's 作:Father Bear
シェルター内の主電源は生きていた。ここは元々隔離されるのも前提として作られている。なので照明もつくし、温度調整も可能……だったのだが。
何故だかすぐに消えてしまった。コンクリートの亀裂からすっぽり出て剥き出し状態だったのだ。どこかに損傷があってもおかしくはない。
「暗いね……」
「うん……グスンッ……くらい……ねっ……」
隣の少年は両親が殺された悲しみに包まれたままであった。見た目5歳くらいの子供があんな残酷な光景を目にしたのだ。無理もない。
「その…お母さんとお父さん、残念だったね…」
「……ッ!しんでない!!おかあさんとおとうさんは……ねてるだけだもん!!!!きっと、いつもみたいに『おはよう』っていってくれるんだもん!!!!」
「あっ……ご、ごめんねっ。そんなつもりじゃなかったんだ……」
心無い事を言ってしまったと、後で思う。…こんな時、何て言えばいいかわからない。こんな事は初めてだった。
「…大丈夫?寒く、ない?」
気温自動調整システムが停止してからしばらく経つ。ちゃんと上着を着ている私でさえ少し寒気を感じる程、下がりきっていた。
「さむいよ……」
「じゃあその…はい、コレ。私の上着。貸してあげるから、しっかり暖まってね」
「いいの?おねえちゃん、さむくないの?」
白い吐息を吐き出しながら立ち上がり、私は自信たっぷりに少年の前に回り込んでこう言った
「お姉ちゃんはね、アークスなの。だからこんなのなんてへっちゃらよ!!それにね、外には仲間もい~~~っぱいいるの。大丈夫、きっと助かるよ」
嘘だ。仲間はノア1人しかいない。助けも来るかどうかだって怪しい。少年の心を落ち着かせるには、こうするしかなかった。もう、私の手には負えない事態なのだ。
「……ホント??」
「う、うん!!もちろん!!お姉ちゃん達に任せて!!」
※
「さて…どうしよっかな……」
任せて、とは言ったものの果たしてどうしたモノか。
この屈強そうなドアはコンクリートの亀裂から出た衝撃でなのか、内部パーツが変形してうんともスンとも言わなくなってしまっている。
(機械なんてテンで分からない……どうしよう……)
こんな時、冷静な同居人ノアならどうしたろうか。いつだって彼女の冷静な判断には何一つ間違いがなかった。こんな時になって気付く。私はいつも何かに依存して生きていた。自覚するタイミングが最悪だった。
そんな事を思いながらよくわからない機械を弄っていると突然、私のポケットが破れ、中から予備のモノメイトが4つ程出てきた。
「うわぁぁ………ポケット破けちゃった……また買い直しかな………………って、ん?待って……"予備"???」
予備。そうだ、こういう施設にはメインシステムから切り離された時に使う予備バッテリーがあるハズだ。私はそう思い、狭いシェルター内をくまなく探した。
「おねえちゃん…なにしてるの?」
「ん~?えっとね…食べ物を探してるの!ほら、お腹空いたでしょ??何か食べなきゃ」
テキトーに誤魔化し、必死に探した。もしかしたら、その可能性を殺さない為に。すると回路基盤の中に、見覚えのある物を見つけた。
(あっ………あったぁ~~!!!!予備バッテリー!!)
だけれど、このタイプは………。アークス士官学校で工学についてもある程度学んではいたが苦手科目だったので軽視していたのだが、まさかこんな所で役に立つとは。
どういうタイプなのか?これは……
「中型直流式バッテリーⅣ型………!」
またの名を、"フォトン袋"。
※
「フェレーナ!!こっちの相手は私がする!!アンタはその子連れて早くあのシェルターに!!!!!!」
久しぶりに声を張り上げて叫んだと思う。でも、あの子達を守る為なら何だってやってみせる。それが例え深手を負う事になったとしても。
『ギギィッ………??』
ダーカーがこっちを向いた。さて、どうする。私の体力や装備だって限界寸前。普通なら撤退するだろうが、今の状況でそれは有り得ない。やるしかない。
腰を落とし、"ファントム流"の構えでカタナを握る。
それ以外、有り得ない。
「やぁぁぁぁぁあっっ!!!!!」
ファントム特有の高速移動は使えない。ダーカーまでの距離はおよそ4m。近い、今までの技が使えればの話ではあるが。
「………ッ!遠いッ……!」
よくよく考えれば、あれだけのスピードで動けていた今までがどうかしていた。慣れという物が怖いものだ、とは経験で知っていたのだが…。油断した。
『ギシャァァァァァァァァアアアアァァァ!!!!!!』
ダーカーの爪が勢いよく、横から私に迫ってくる。これは余裕で回路…
「出来ない……ッつぁぁぁあっ!!!」
またしても、クセでギリギリまで引き付け敵の攻撃を亡霊の如くすり抜けて回避するファントムステップを行おうとしたのだが。意識しているハズなのに、本能のままに身体が動いてしまう。
「…!! ノア!!!」
先ほどの少年を連れて走りながら、こちらを心配そうに呼び掛けるフェレーナの声が聞こえた。
「構うな!!!いいから行って!!!!」
私は、負けない。
「アンタらなんかに、絶対負けないッ!!!!!!」
私は高らかにカタナを掲げ、勝利を誓った。
※
「これはこうで……えぇっと……ここはどうするんだっけ…」
「おねえちゃん…さむいよ……はやくおかあさんとおとうさんにあいたいよぅ……」
「大丈夫っ……!大丈夫だから!!お姉ちゃんに任せて!!必ず助けてあげる!!」
外で戦っているノアはどうなったろうか。このシェルターに入ってからというもの、外の音はまるで聞こえない。時々微弱な振動の様なモノを感じ取れるが、これがノアの生きている証明だと思いたい。
ノアとお揃いのブレスレットから写し出される画面を見た。気温-15度、酸素濃度危険域。非常に危険な状態であるのは言うまでもないだろう。金属で出来た壁や床は結露し、びちょびちょになっていた。
「……!!できた!"分解"!!!」
中型直流式バッテリーⅣ型。このバッテリーの特徴といえば何よりその見た目のインパクトである。
通常のバッテリーは四角い箱の様な見た目をしているのに対しコレは濃縮されたフォトン粒子を直径約20cmの袋の中に封じ込める事で強力な電気をウンタラ、という話を昔聞いた事がある。
私はそんなコレを何に使うか…私はソレを……
「うんしょ………っと!!!」
袋を破き、狭いシェルター内にぶちまけた。余程濃縮されていたのか。視認出来る程キラキラした粒子が二人の視界を舞う。
「わぁっ……キレイ………」
「よし………これなら……!」
私は心の中で、静かに"テクニックを唱えた"。
フォイエ、と。
シュボッ………
「やった……!!使えた!!テクニック!!」
成功した。中途半端に解除された行動制限で本当に良かったと思う。全制限がかかっていた状態なら、この手は使えなかった。
この超濃縮フォトンがぶちまけられた超密閉空間でならアレが使えると思った。
アークス士官学校で最初に行った身体テスト。濃縮フォトン粒子が舞う密閉された室内でテクニック等を無の心で発動し、フォトン適正を量る、あのテスト。
「これで…たすかるの?おねえちゃん…?」
「うん!助かるよ!!絶対!!!」
しかし、現実という物はそう甘くは行かない物だ。
発動したテクニックが炎属性なのがいけなかった。室内のスプリンクラーがフォイエの高熱に反応し、雨を降らせたのだった。それにより炎が消されてしまう。
「あっ……!!!」
だが何よりマズイのは、この雨が目に見えるサイズに浮遊しているフォトン粒子を"地面に叩き落としている事"だった。
(そ、そんな……せっかく、生き延びれるチャンスを掴んだと思ったのに……!!)
「え……え?おねえちゃん、このあめはなーに?」
混乱が隠せない少年に、私はこう言った。
大丈夫、と。
(どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……!!!)
気温がドンドン下がっていく。酸素がドンドン供給されなくなっていく。中に入れば安全だと鷹をくくっていた私の判断ミスだ…。
その時だ。
ガァァァァァアアンッ!!!ガァァァァァアアンッ!!!!!!
「「!?!?」」
外から何か硬いモノが、このシェルターを叩いている事がわかる。最初はノアだと思ったが、音のサイズ的にその考えが間違っている事にはすぐ気が付いた。
「………まさか……ノア………ッ」
なんという事だろうか。"ヤツ"がここまで来ているという事はそれしか考えられない。
「~~~~ッッ」
堪えきれない胸の衝動に、思わず膝から崩れ落ちそうになる。
この少年だけでなく、私まで失ってしまうと言うの。
ガァァァンッ!!ガァァァンッ!!ガァァァァァアアンッ!!!!!!
ダーカーが扉をたたく音がドンドン大きくなる。このままでは扉をこじ開けられ、私と少年、二人とも食われてしまうだろう。
「お"っ!!!!!お"ねぇちゃぁぁぁぁぁぁぁああ"ぁぁぁあん!!!!!!!!!」
「わかってる……!!怖いよね……!怖いよね……!!」
私は扉に背を向け、少年を抱き締めて必死に悪意から守ろうとした。
ガギィィィィィィイインッッ!!!!!!
だがその願いが叶う事は、無かった。
【ロック、解除します】
プシュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッッッッ……………
シェルター内部に新鮮な空気が取り込まれる音がする。そして、その扉の向こうには……
『ギシャァァァァァァァァアアアアァァァ!!!!!!』
一匹の小型ダーカーがいた。あぁ、私は死ぬんだなと覚悟を決めたその時だった。
ふわぁっ、と"キラキラ"と光る砂の様なモノが宙を舞っているのに気付いた。
「………!!!コレは……!!」
そう、先ほど雨に叩き落とされ、床にこびりついた"濃縮フォトン粒子"だ。
一気にシェルター内に空気が吸い込まれ、その空気圧で床の粒子が浮上。結果宙を舞う様な形になった。
「ねぇ、ボク。いい事教えてあげる」
私は少年を離し、入り口で勝ち誇るダーカーに睨みを利かせながら喋り続ける。
少年は「あぶない!!!」と大声で言う訳でもなく、ただ私の話に耳を傾けていた。
二人の間に、奇妙な静寂が生まれる。
「この世のどんな出来事だって、どんなちっぽけな命だって……」
ダーカーは爪を私に突き立てようとする。
「いつかは………!!!」
掌に精一杯の力を込める。今まで出した事のない、全力を。
『ギシャァァァァァァァァアアアアァァァ!!!!!!』
「終わるって事!!!!!!!!!」
ラ
・
グ
ラ
ン
ツ
拳を一気に上に突き出し、一本の光の槍を精製。
断末魔を上げる暇もなく、目の前のダーカーは消し飛んだ。
「この世に、終わりの無いモノなんて、無い」
異常な程膨れ上がった、ラ・グランツの槍によって。
「レーナ!?アンタそれ…!?」
「ノア……!!生きて……!!」
「馬鹿!それどころじゃないわ。アンタがやった今の攻撃のせいで、隔離窓が破壊されて空気がドンドン外に漏れてるわ。なんとかしないと私達…」
ノアが生きていた。それだけでも十分過ぎるくらい嬉しかったのだが、どうやら少しやり過ぎてしまった様だ。自分でも思わずビックリしている。
「大丈夫、何の為のコレだと思ってるの?」
私はノアに、先ほどまで私達の首を絞めていたシェルターを指差す
「あぁ………そういう事ね……」
そして、私とノアのブレスレットに着信が入る。……お待ちかね、一番艦フェオからの行動制限解除コードの受理を知らせるモノだった。
「「………………………」」
その後私達は、壊されたドアを閉め、最小出力のナ・バータで補強。そのまま宇宙空間に放り出され、周囲を哨戒していたキャンプシップに救助された。
※
後から聞いた話ではあるが、その後七番艦ギョーフは再起不能と上層部が判断し、そのまま宇宙をさ迷うスペースデブリとして廃棄する事が決定した。
私達は救助されたあの後、意識を緩ませ過ぎて気絶してしまったらしい。
何はともあれ一件落着、である。
コツ………コツ……………
だが、ギョーフ沈没の裏に巨大な陰謀がある事を
ニタァァ……
この時の私は、知る由もない。